IS学園での物語   作:トッポの人

4 / 70
R・H改めトッポの人(R・H)です。

(皆さんの感想が)私の迷いの霧を……晴らしてくれたのだよ。(マクギリス感)


第4話

「く、訓練機ですか?」

「……はい」

 

 休み時間に職員室へ行くと山田先生にビクビクされながら聞き返された。

 今にも泣きそうなその表情は、まるで俺が山田先生に何か悪い事をしているのかと錯覚させる。

 

 いや、まじで話し掛けただけなんだよ。何もしてないし、何もする気はない。

 ただせっかくIS学園に来たんだ。一日でも早くISに乗らなければ損だろう。一週間後のクラス代表決定戦もあるしね。

 

「その、す、すみません。訓練機ですが、一週間は貸し出し出来なくて……」

「……何故ですか?」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 早い者勝ちなんです!」

 

 俺の問い掛けに必死に謝りながら答えた山田先生。その様子に他の先生がジト目で見始める。大声でそんな事言われればそうもなるだろう。

 

 先生、やめてください。死んでしまいます。

 

 さて、山田先生が言った早い者勝ちという言葉。言われてみればそうだ。

 ISは数に限りがある上、この学園にいるのはIS目的で入学しているんだから皆が皆触ろうとする。更には上級生もいるから競争倍率は非常に高い。

 

「で、でも櫻井くんには訓練機がずっと貸し出される予定ですので」

「……一週間後に、ですよね?」

「そうですぅ……」

 

 俺がそう言うと涙目でしょんぼりとした。声も最後の方は本当に力なく項垂れるようで。

 

 うん、詰みましたね。元から勝ち目なかったけど、こてんぱんにやられるフラグが立ちました。

 さて、どうしたものか。俺としては負けた方がいいのだが、織斑にやる事はやると言った手前、あっさり引き下がる訳にもいかない。

 

「……代表決定戦までに何かする事ってありますか?」

「えっ? えっと……やっぱり仕組みを理解する事ですね。それとイメージトレーニングもいいです、よ……?」

 

 突然でもないが、質問すると自信無さげに答えてくれる。やはり最後の方が力なく、弱々しい。

 だが怖がりながらも、一生懸命俺に教えようとしてくれるこの人はいい先生だ。自信がないのは多分まだ若いから経験がないだけで。あと俺の目付きが悪いだけ。くそが。

 

「……分からない事があったら聞きに来ます」

「は、はいぃぃぃ……」

 

 でもやっぱりその怖がるのやめてほしい。その術は俺に効く。だからやめてほしい。大事な事だから二回言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず山田先生に言われた通り、まずは入学前に貰っていた教本と睨めっこしていたのだが……。

 

 ふと辺りを見渡せば日は暮れ、夕焼けが目に刺さる時間帯となっていた。簡単に言ってしまえば放課後である。

 当然、そんな時間だから周りには誰もいるはずがなく。俺は一人、教室で佇んでいた。

 

「くぅー……くぅー……ぅんん」

 

 訂正。どうやら俺一人じゃなかった。拡げていた教本を閉じれば俺の机に突っ伏して寝ている布仏の姿。

 春とはいえまだこのまま寝るには寒いのだろう、身体を震えさせている。

 

「……起きろ」

「んー……もう少しー……」

「……はぁ」

 

 声を掛けても、揺さぶっても返事するだけで起きようとしない。仕方ないのでまた制服の上着を脱ぐと、そっと布仏の両肩に掛けた。

 

「にへへ……くぅー……」

 

 すると僅かに身動ぎした後、また穏やかな寝息が聞こえてくる。もう寒くはないようだ。

 しかし、おかげで布仏が起きるまで待たなくてはならなくなった。

 

「……はぁ」

 

 もう一度溜め息を吐くと、乱暴に席に座って空を見る。

 目に映る黄昏時の空もいいが、もう見るだけでは物足りない。飛べると分かったのだから早く飛びたいが、それも一週間はお預け。

 

「……早く飛びたいな」

 

 自然とそう呟いていた。

 俺と俺の翼だけの空。そんな夢の舞台が目の前にあるのにまだ立つ事は許されない。凄くもどかしかった。

 

「あっ。よ、良かった、まだいたんですね!」

「……山田先生?」

 

 空に焦がれていると慌ただしく山田先生がやって来る。どうやら俺を探していたらしい。

 

 それと違うな……間違っているぞ。まだいたんじゃない。気付いたらこんな時間になっていただけだ。本当だったらもう帰っているのです。帰宅部エースの実力、侮らない方がいい。

 

「あの、これ……寮の鍵です」

 

 恐る恐る差し出して来たのは寮の鍵との事。鍵には番号が書いてあり、そこに対応する鍵なのだろう。

 

「……一週間は自宅から通うと聞いていましたが」

「そ、そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです」

「……そうですか」

 

 事情……か。彼と彼女の事情なのか。彼女いないけど。まぁよく分からんが、大体分かった。今日から寮暮らしになったと。

 しかし、問題もある。

 

「……どちらにせよ、一度帰宅しないと荷物が――――」

「荷物なら私が手配しておいた。まぁ生活必需品だけだがな。着替えと携帯の充電器があれば充分だろう」

 

 ――――何故俺がそれだけあれば生きていけると分かったし。的確すぎて草を禁じ得ない。

 さすが世界最強といったところか。僅か一日でそこまで見抜くとは恐るべき観察力。

 

 それから寮の説明を簡単に受けて、織斑先生が持ってきてくれたスポーツバッグを手に寮へ行こうとしたところで布仏の存在を思い出した。

 

「……もう行くぞ」

「んー……」

 

 ここで俺がいなくなれば本当に寝たままになるだろう布仏をどうにかしなくてはならない。

 どうにか起きた布仏は未だ眠たい目を擦り、必死に起きようとしている。

 やがて諦めたのか、両手を拡げて気だるげな声でこう言ったのだった。

 

「はるるん、おんぶしてぇ……」

「……自分で歩け」

「うぅ、やだー」

「……はぁ。ほら」

「わーい、ありがとー!」

 

 あれ、実はこいつもう眠くないんじゃね?

 

 布仏からの元気な返事に疑惑が浮かび上がるも、それももう遅い。既に布仏は元気に俺の背中に乗っかったのだから。

 でも――――

 

「……やっぱり降りろ」

「えぇー、やだー」

 

 俺が降りろと言うとあからさまに不満たっぷりな様子。しゃがんだままだが一向に首に回した腕を離さない辺り、降りる気はないらしい。

 

 こ、こいつ、着痩せするタイプだったのか。ていうか女の子おんぶするんだから当然そうなるよな。くそ、俺は馬鹿だ。

 

 ならばとせめて早く行って早く終わらせようと立ち上がった俺に新たな注文が届いた。

 

「おおー、これがはるるんの景色なんだね。ね、ね、ゆっくり行こー?」

「…………分かった」

「……んー? まぁいっか」

 

 どうやらおんぶして見える景色が楽しかったらしく、ゆっくり行こうとお願いしてくる。

 了承の返事をすると何か気になる事でもあったのか僅かの間だけ首を傾げた。

 

「楽ちん楽ちんっ」

「……そうか」

 

 ゆっくりと寮への道を歩いていると随分と上機嫌そうだ。俺が抱えている足もパタパタと動かして無邪気な子供のようにしている。実際の年齢よりも幼く見せていた。

 

「ありがとうね、はるるん」

「……ん」

「また明日ね」

「……ああ」

「ほ、本音、大丈夫なの!?」

「何がー?」

 

 周りから白い目で見られるも何とか布仏の部屋まで送り届ける。同居していた女子からやはり恐れられていたが、終わったのだからもういい。もうこんな事にはならないだろう。

 

 自分の荷物を担ぎ直して割り振られた部屋に向かう途中。

 

「あっ」

「……ん?」

 

 今度はオルコットに見つかってしまった。

 俺に用があるのか、何処かばつの悪そうな様子でこちらを伺っている。

 こっちも見つかってしまったとの通り、あまりこの展開は宜しくない。昼以降、こうして会うのがこれが初になるからだ。

 

 やべぇ。昼前に怒鳴ってから一度も会話してなかった。き、気まずい。

 だって来るって言ってたじゃん。後で来るって言ってたじゃん。多分怒鳴ったから怖くて来られなかったんだろうけど。

 

「あの……お昼前の事なんですが――――」

「……怒鳴ってしまってすまなかった」

「っ!?」

 

 オルコットが口を開いて何か言う前に謝っておく。先手必勝というやつだ。あれは本当にやり過ぎたっていうのもあるしね。

 

「そんな、謝るのはわたくしの方で……!」

 

 俺が謝るとやたら驚いた表情でオルコットが食い付いてくる。胸に手を当て、あれは自分が悪かったのだと。謝る必要なんてないのだと。

 

 俺はそれに一人感激していた。

 なんて素直で良い子なんだ。あの状況では俺の居眠りを報告しようとしたオルコットがどう見ても正しいというのに。

 それにしても怒鳴った影響か、俺が正しいと思っているようだ。そんな事ないぞ、落ち着け。

 

「……オルコットは悪くない」

「ですが……」

「……何も言ってないんだ。それでいいだろう」

「――――」

 

 ダメだ。何かギアスにでも掛かってんじゃないのかってくらい曲げねぇ。俺は絶対遵守のギアスを持っていたのか。雑だがとにかく話を切り上げよう。

 

 俺の言葉に目を見開いて唖然とする彼女は口元に手を当ててやんわりと微笑む。

 とても休み時間に眉間に皺を寄せて色々言ってきたのと同じ人物とは思えない、穏やかなものだった。

 

「――――あなたは不思議な方ですのね」

「……そうか?」

「ええ、とっても」

 

 待ってくれ。今の会話の何処に不思議属性があったんだ。もう定着しているからなのか。どうしてこうなった。クランク二尉、ボードウィン特務三佐、私を導いてください。

 

「……もう、いいか?」

「あっ、すみません。足止めしてしまって」

「……いや、構わない」

 

 もう後戻りなんて出来ないのだと知り、ショックを受けた俺は足早にこの場を去ろうとする。

 と、そこで一つ言い忘れていた事があったのを思い出した。これはどうしても今言わなくてはならない。

 振り返った俺はまだそこにいるオルコットへ。

 

「……言わないでくれてありがとう」

「っ!」

 

 感謝の言葉を送った。

 

「待ってください!」

「……ん?」

「何故、何故あの時止めてくださったのですか……?」

 

 すると何故だろうか、先程は立ち去るのを止めようとしなかったのに今度は止めに掛かるオルコット。更には何故止めたのかとも。

 

 ぅん? いや、居眠りしてたのを報告しようとしてたからなんだけど。

 何だ、何かが違う気がするがまぁいい。

 

「……言っていたら雰囲気が悪くなるだろう」

「あっ――――」

 

 もし言われてたら確実にもっと恐れられていたからね。もっとも、もう既に手遅れなところまで来てるけど。何でやねん。

 

 何も言わなくなったので今度こそ去っていく俺の背後からぽつりと呟くようにして聞こえてきた。

 

「本当に、不思議な方……」

 

 だから今の会話の何処に不思議属性があったんだよ。誰か俺に教えてくれ。

 

 オルコットとの会話も終えて漸く自分の部屋に辿り着いたのだが、周りからの視線が痛い。

 多分俺が何処の部屋に行くのかを見ているのだろう。そこに近付かなければいいという事だ。触らぬ神になんとやらである。

 

 寮の部屋は二人部屋だ。山田先生が説明の時にそう言っていた。だから俺の相手は織斑なのだろう。

 しかし、途中で会ったが織斑はどうも箒と同じ部屋らしい。つまりはここは俺の一人部屋である。やったぜ。

 

「……?」

 

 俺がドアノブに手を掛けた瞬間、扉が一人でに開いてきた。何という画期的な自動扉なんだ。

 

「わっ……!」

 

 そんな訳もなく、開けた先には少女がいた。

 水色の髪の眼鏡を掛けた、内気そうな少女は俺の顔を見るなり小さく声を上げて驚く。

 

 まぁ俺だからね。仕方ないね。

 

「……君もこの部屋なのか?」

「う、うん……」

 

 やばい、凄く馬鹿な事を聞いたぞ。この部屋から出てきたのにあなたの部屋ですかって。違っていたらやばいだろ。

 落ち着け。何で俺の部屋の相方が女子なんだ。どう考えてもおかしいだろ。このご時世で訴えられたら確実に負ける。

 

「その、部屋に入ったら……?」

「……いいのか?」

 

 俺の問い掛けに頷いて答える少女。やはり若干怯えているがこれまでに出会った女子と比べると大分大人しい。

 

 何だ、天使か。天使と相部屋とか罪深いな。

 アクセス、我が(sin)。何も起きないけど。

 

 さて、ふざけてないで部屋に入るとしよう。

 この少女が几帳面だからなのか、パッと見てもどちらのベッドを使っているのかよく分からない。

 

「……どっちのベッドを使っているんだ?」

「奥の方……」

「……そうか」

 

 じゃあ手前の方を使わせてもらうとしよう。

 手前のベッドに荷物を置くととりあえず中身を確認していく。

 

 ……うん。本当に着替えと携帯の充電器だけだな。着替えも一週間分しかないし、休みの日に取りに行かなくては。

 

 荷物の確認もそこそこに俺は運動用のジャージを手に浴室へ。天使の前で着替えるとか出来ないよ。

 

「……少し、走ってくる」

「うん……」

 

 短く告げると、同居人も短く答えてくれた。気のせいでなければ俺と同じ孤高の匂いが同居人からするような。気のせいだろう。

 

 グラウンドに出るとしっかり準備体操をしてから走り出す。とりあえずいつもの二〇㎞を走る事に。

 

「……ふむ」

 

 走ってて思う。女子と相部屋はまずいだろ。常識的に考えて。相手俺だぞ。

 たしか織斑先生が寮長だったはずだ。そうと決まれば全力で走ってノルマを終わらせますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメだった。織斑先生の恐怖を乗り越えて話し掛けたけど、ダメだった。少なくとも一ヶ月はこのままらしい。

 くそ、天使になんて可哀想な事をしやがる。主に俺が可哀想な事させてるんだけどね。

 

「……これでいいか?」

「これでいい……」

「……分かった」

 

 部屋にあったパソコンを使って共同部屋のルール表を作ったので、天使こと更識に確認してもらう。

 だが、せっかく作った表も一瞬だけしか見てくれなかった。それどころではないようだ。

 

 さっきから何かの作業を行っているが、それが上手くいってないっぽい。イライラしているのはそれのせいなんだろう。

 さて、どうしたものか。今までルールを作る上で多少なり会話があったが、今はもう静かなものだ。正直な話、静かすぎて辛い。

 

 という訳でこの状況を打開すべく、脳内俺会議をしよう。

 目を閉じれば白い長テーブルに数人の俺が座っている映像が。恐ろしい。

 答えが出るのに時間は掛からなかった。立ち上がると早速準備を始める。

 

「……ん」

「えっ……? 紅茶……?」

 

 そう、更識が言った通り、俺が差し出したのは温かい紅茶。立ち上る湯気と紅茶の良い香りが口元へ誘う。

 更識の分を手渡すと未だ不思議そうに見上げてきた。そのままベッドに座るまで俺を目で追い掛けて。座ると同時に俺の口が開いた。

 

「……少しは休め」

「ありがとう……」

 

 ちなみに何で紅茶なのかというと、脳内会議したら上座に座るオールバックの俺がこう言ったのだ。

 

「同居人だ。まずは紅茶でも淹れようか」

 

 ……うん。何か藍染様みたいなのがいただけなんだけどね。しかもこれインスタントだし。味の保証は出来ない。

 少しでも更識の気休めになればいいんだが。

 

 俺の心配を他所に更識が両手で持ったティーカップに口をつける。口から離すと気のせいか、目元が少し柔らかくなった。

 

「美味しい……」

「……そうか」

 

 天使からのまさかの美味しい発言。インスタントって侮れないんだなって思いました。

 

 そこまで見届けると俺はイヤホンをセットして殻に籠る準備。山田先生に言われたイメージトレーニングをするのだ。曲はテンション上がるやつでいこう。

 

「ぅん……?」

 

 目を閉じれば今度は広大な青い空が映る。そこにはラファール・リヴァイヴを纏った俺が空中に浮かんでいる。

 俺と俺の翼だけの空だ。この最高の舞台を――――

 

「何してるの……?」

 

 突然肩を叩かれたと思いきや、更識との顔がこれでもかというくらいに近い。

 多分伝わらないが、どぎまぎしながらも答える事に。

 

「……イメージトレーニングだ」

「イメージトレーニング……ISの……?」

「……そうだ」

「そう……」

 

 答えると興味をなくしたのか、また謎の作業を始める更識。俺もまたイヤホンを付け直して再び空のイメージをする。

 

 それにしても向こうから話し掛けてきたのなんて初めてではないだろうか。これも紅茶の効果なのか。藍染様ってすげー。




とりあえず今後の投稿予定でも。

基本的に週一程度にする予定です。
休み明けの平日、時間は朝7時です。

何かしらでつれぇわってなったら後書きにでも遅れそうな雰囲気を出しますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。