IS学園での物語   作:トッポの人

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乱ちゃんは一つ下なのか、二つ下なのか


第41話

 さて、やって来てしまいましたタッグトーナメント。アリーナは熱気に包まれておりますってか。

 

『春人! 私、アニメのポケモンみたいな鳴き声考えたよ!』

 

 えっ、何でこのタイミング? ま、まぁいいか。どんな鳴き声なん?

 

『ミッコミッコ』

 

 うわぁ、露骨な可愛さアピール。あざとい……さすがミコトちゃんあざとい……。

 

 いきなり関係ない会話から始まったが、学年別に行われるこのトーナメントは十三もあるアリーナの内、九つを各学年毎に分けて使用する。残った四つもアリーナに何かあった時の予備としているとの事。

 

「む、あいつらも始まるみたいだぞ」

「……ん」

 

 ボーデヴィッヒの言葉で控え室にあるモニターへ視線を向けると一年生の優勝候補タッグがその姿を見せた。

 

 まずはここ第二アリーナに姿を現したのは簪と箒の日本ペア。代表候補生で専用機を持つ簪は勿論だが、恐らく一般生徒で最もISに触れているだろう箒も脅威だ。簪を始めとする代表候補生達とも訓練しているから尚更だろう。

 第三アリーナでは鈴とセシリアのペア。近距離、中距離に対応出来る鈴と遠距離のみだが、最近完全習得した偏向射撃により誤射などほぼ決して起こさないセシリア。

 

 やべぇよやべぇよ……。何だよあの強キャラチーム。もう少し他のチームとのバランス考えろよ。

 

『ミッコォ!』

 

 何か怒ってる風だけど何て言ったの?

 

『何やこの厨パァ!』

 

 結構現世に染まった事言ってらっしゃる。

 

 そして――――

 

 《きゃあああ!!》

 

 モニターから黄色い悲鳴が聞こえてくる。これから第一アリーナで戦う一夏とシャルのペアだ。こういった舞台に慣れているのかシャルは気軽に手を振り、一夏は少し戸惑っているようだった。

 

 近接戦特化の一夏にバランス型のシャルと相性もそうだが美男美女で中々良いと思う……まぁ、そう言うとシャルは凄く不機嫌になるけど。

 前に誰とペアになったのかと聞いた後につい言ってしまい、その後のご機嫌取りが大変だった事があった。本当にしんどい。

 

『まぁ言っても頭撫でて終わったけどね』

 

 そうかもしれんが俺の精神が磨り減る。相変わらず気楽に抱き付いてくるからこっちも我慢するの大変なんだよ……。

 

 再び女子の嬉しそうな悲鳴が聞こえたので意識をまたモニターへ。

 そこには作戦会議でもしているのだろう、仲良く肩を組んでひそひそと耳打ちしている一夏とシャルの姿があった。プライベートチャンネルを使わないで。

 たまに一夏は変なところで不慣れさをアピールしてくる。今も他人には聞かれないプライベートチャンネルの事を忘れているんだろう。

 

 《えっ、やだ、ちょ、やだ!?》

 《んんん? 何あれ? 完全にデキてるよね?》

 《ないものが元気になってきた!》

 

 そんな仲良しな二人の姿を見て聞こえてくるのは特定の女子達による魂の叫び。いつもなら隠しているのだろうが、目の前で見せられて昂りが抑えられなかったようだ。

 

 怖いよ……ないものが元気にって何だよ……。何が元気になってるのさ……。

 

見えない欲望(アストラルデザイア)だよ』

 

 何それカッコいい。

 

 そんな事を話していれば、作戦会議もそこそこにそれぞれが対戦相手のチームと対峙して試合開始。

 一番早く決着が着いたのは一夏とシャルのペアだった。

 

 《おおおッ!!》

 

 気合いの咆哮と共に一直線で相手の元へ。

 無論、相手も見ているだけじゃない。近付かせまいと銃を放つが、向かってくる銃弾なんて何のその。無傷ではないにしろシャルのサポートもあり、避けて避けて避けまくると辿り着いた相手に『零落白夜』で一閃。

 例えどんなISであれ絶対防御を発動させるその攻撃は多大なエネルギーを消耗させ、たった一撃で底を尽かせた。

 

『おお、一撃で決めていくぅ!』

 

 白式の攻撃力と機動力を最大限に生かしたガン攻め。馬鹿正直に真正面から来るのに対して、相手も引き撃ちをするもそんなの慣れっこな一夏にはあまり有効ではない。伊達に代表候補生と連日訓練していた訳ではないのだ。

 

 ただ前から思っていたが、何であんなリスキーな戦い方をするのやら。もう少しやり方を変えればもっと余裕が出るだろうに。

 

『白式がね、一夏は春人が前言ってた弱い考えに逆らうをやってるんだって』

 

 俺の素朴な疑問にミコトが答える。というよりは白式か。コアネットワークを使って聞いたらしい。

 なるほど、だから態々遠回りせずに一気に最短距離を行って決めていったのか。決して楽ではない、困難な道を。

 

 ……やべぇ、変な事教えたくせぇ。

 

「ほう……敢えてそちらを行くか。やるじゃないか」

 

 隣で見ていたボーデヴィッヒも一夏の戦い方に感心しているようだった。にやりと笑みを浮かべるその姿はこの先戦うであろう相手に何を考えているのか。

 ちなみにだが一夏と戦おうとすると決勝戦まで行かなくてはならない。更に言えば決勝戦まで行こうとすると、それまでに俺達は簪と箒のペアとセシリアと鈴のペアを相手に勝つ必要がある。

 

 いや、何でやねん。偏り過ぎでしょうに。

 

『くじ引きって公平な手段で決まったから……』

 

 公平とは一体……。

 

「はーるーるーんっ!」

「……ん」

「む?」

 

 自らの運のなさを呪っていれば背後から間延びした俺を呼ぶ声。俺をこんな個性的なこの呼び方で呼ぶのなんて一人しかいない。

 そこへダメ押しとばかりに背中に軽い衝撃が走る。俺の首にひしっと掴まる袖に包まれた腕。

 

「……布仏か」

「私なのだー」

 

 隠すつもりもない正体を当てれば、やはりのんびりとした声で返事が来る。俺からも布仏の足を抱えて背負い直せば、首に巻かれていた腕が俺の肩に置かれた。

 

「はるるん、ありがとっ」

「…………ああ」

 

 俺の肩からひょっこり顔を覗かせてこちらへお礼を言ってくる布仏。気のせいか、横目で見るその顔はいつもより三割増しくらい笑顔が眩しい。

 

「本音っ。危ないからやめなさいっ」

「えへへ、ごめんなさーい」

「はぁ……ごめんね、櫻井くん」

「……いえ、お気になさらず」

 

 遅れてやってきた布仏先輩が叱るも、布仏のペースは崩れない。この調子ではまたやってくるだろう。それが分かったのか、困った顔で謝罪してくる。

 

 とはいえ確かにいきなり首に飛び付かれたら危険だ。日頃から鍛えてる俺でなければ大惨事だろう。一応俺からも言っておくか。

 

「……だが布仏先輩の言う事も確かだ。他の人だと危ないからあまりやるな」

「ぅん? はるるんにしかやらないよ?」

 

 それはそれで何でだ。

 

「櫻井春人。この二人は生徒会に所属していたはずだ。ここにいていいのか?」

「私達は櫻井くんの専属メカニックみたいなものでもあるから特別にね」

「……いつもありがとうございます」

 

 生徒会は本来ならトーナメントの運営側に回っている人間だ。各アリーナを巡回して問題なく進行しているか確認する仕事がある。

 しかしながら布仏先輩が頭となって専用に改修したラファールのため、俺の出番の前だけその任から解放されるとの事。

 

 その話を聞いてボーデヴィッヒが感心したような溜め息が漏れる。

 

「ほう、余程腕が良いのか」

「……三年生の整備科の中でもトップクラスだ。織斑先生から俺のISを改修するよう任されていたしな」

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 織斑先生に認められるのはボーデヴィッヒにとって最上級に羨む言葉であろう事は分かっていた。これが一番分かりやすい上に事実だから問題はないはず。

 顔を赤くしつつ、こちらへ振り向いて抗議しようとする布仏先輩を尻目にボーデヴィッヒが少し興奮したように話す。憧れのヒーローが目の前にいる子供のように瞳を輝かせて。

 

「教官からか!? それは凄い……!」

「あ、ありがとう……」

「そうだよー。お姉ちゃんは凄いんだよー。すっごく、すっごく、凄いんだよー」

「本音……。もう少し言い方を……」

 

 ボーデヴィッヒに続き、妹である布仏もここぞとばかりに褒め殺し。だが慣れているのか、布仏先輩もやんわりと受け流していく。

 知り合ったばかりの時に更識会長から褒めてあげてと言われているし、ここは俺も乗るべきだろう。

 

「……良いのは整備の腕だけじゃない。この前の昼食で分かっているだろうが、気配りだって――――」

「お、お願い、もうやめて……」

 

 えぇ……。まだ少ししか言ってないのに……。

 

 俺が言い始めた途端に恥ずかしそうに両手で真っ赤になった顔を覆う布仏先輩。耳まで赤くなっている辺り、相当恥ずかしいようだ。

 

「む、そろそろ私達も行くか」

「……ああ」

「おー!」

「うぅ……」

 

 と、その時ボーデヴィッヒがモニターに映る簪と箒の試合が終わりそうだと気が付いた。

 あともう一つ試合が終われば俺達の出番だ。ボーデヴィッヒの提案に従い皆でピットへ。

 到着すると早速ラファールを展開して二人による最終チェックが始まる。

 

「こっちはオッケーだよー」

「こっちも……うん、大丈夫ね」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして。でも藤尾の作ったこれ装備したままでいいの?」

「……大丈夫です」

 

 布仏先輩が言うのは両腕に装備されているプロトGNソード擬きの事だ。中々気に入っている一品だったりする。

 

『銃を装備しない代わりに剣を増やすという脳筋スタイル』

 

 まぁ使うの嫌だけど『天狼星(シリウス)の弓』だってある。よって俺は脳筋ではない。

 そして遠距離射撃武器を手に入れた、スーパーラファールは無敵だぁ!!

 

『フォン・スパークなのか、カナード・パルスなのか……』

 

 呆れたようなミコトの声を遮るようにアリーナからの大歓声。どうやら試合が終わったらしい。来る途中で簪と箒の試合は終わっていたので、次は俺達の番だ。その前に布仏先輩へ振り向いた。

 

「……さっきはすみませんでした」

「もうそれはいいのっ」

「……いえ、それでは。何かして欲しい事とかありませんか?」

「うぅん……」

 

 そんなつもりもなかったが、少しからかい過ぎたと謝ろうとするも聞く耳を持ってくれない。もう早く忘れたい事なんだろう。

 しかし、俺とてそう簡単に引き下がる訳にはいかなかった。今までお世話になっていた人に対してそんな曖昧ではいけない。

 何かないかと訊ねれば少し悩んでから若干早口でこう言ってきた。

 

「そ、それならなるべく損害は少なくして帰って来て。今日から忙しくなるから」

『おお! 春人、これは応えるべきですよ!』

「……了解しました。頑張ります」

 

 なるほど、トーナメントは明日もある。他のISのメンテナンスもあるし、出来るだけ負担を減らしたいと。簡単ではないが、頑張ってみよう。

 

 《櫻井春人、ラウラ・ボーデヴィッヒペア、発進どうぞ》

「先に行くぞ」

「……ああ。では行ってきます」

「ええ、いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい」

 

 アナウンスに従って先に行ったボーデヴィッヒの後を追うように俺も出撃。暗い通路を抜ければ、そこには満員御礼の観客席が。一夏とシャルのアリーナもそうだったが、どうやら希代のホモである俺を見に来ているらしい。ぐ、具合が……。

 

『ミコトちゃんガード!』

 

 しかし、そこは相棒であるミコトがいつも通り搭乗者保護システムできっちりサポート。

 某勇者王のプロテクトシェードみたいな発音で展開されたガードにより、悪くなりそうだった気分も、悲鳴をあげていたお腹も大丈夫。もうこの子なしでは生きていけません。

 

『でしょ!? ミコトちゃんもそう思ってたんですよ!』

「おい、櫻井春人。分かっているだろうな?」

 

 対戦相手を待つべく、地上に降り立つと横に並んでいたボーデヴィッヒから声が掛けられる。

 こいつとしては特に意識はしてないんだろうが、鋭い目付きが向けられた。腕を組んでいるのもあって中々威圧感がある。

 

「……ああ。やるからには勝つ」

「む? 何を当たり前の事を言っている。今日は静江教官が和菓子について教えてくれる日だろう」

 

 あ、そっちね。

 

 静江教官とは黒いうさぎを作ってくれとお願いした時の人である。ただの教官だと織斑先生と被るのでこういう呼び方になったのだ。

 俺は行く必要ないと思うが、織斑先生の一緒に行動しろという指示で行かなくてはいけないらしい。

 

「…………それも分かっている」

「うむ。ならいい」

 

 返事をすれば、ボーデヴィッヒは少し満足そうに頷く。

 

 と、そこで対戦相手が目の前に降り立った。相手は打鉄とラファールの組み合わせだ。一般生徒だし、それぞれ箒やシャルとの訓練で特徴は分かっているが油断出来ない。

 試合前に握手でも、と手を伸ばすと露骨に嫌そうな顔をされてこう言われてしまう。

 

「ちょっと、やだ。ホモなんかと握手したら汚されるじゃない」

「弁えなさいよ、このくそホモ」

「――――」

「ん? おい、ホモってなんだ?」

 

 瞬間、ピシリと固まった。

 

『違いますー! 春人は女の子に興味津々なんですー! 具体的には幼女体型のー!』

 

 おう、変なデマ流すのやめーや。

 違うと言いたいが我慢だ。ここで否定してどういう事かと調べられたら一溜まりもない。可能性はない方がいいに決まっている。

 ぐぐぐ……しかし、怒りのあまり三日月・オーガスインストールしそう。

 

『インストールするならせめてユニコーンドリルかドラゴンにしよう!』

 

 ドラゴンインストールだったらあんまり変わってない気がする……。

 

「おい、無視をするな。ホモとはなんだ?」

「…………その、だな」

「ホモってそいつみたいに男なのに男が好きなやつの事を言うのよ」

「ああ、ゲイの事か。軍では珍しくないぞ」

 

 ホモという聞き慣れない単語がどうしても気になるボーデヴィッヒ。知らなくていい事だが、どう説明したものかと悩んでいたら向こうが勝手にしてくれた。

 

「それとこいつはホモではない」

「……ボーデヴィッヒ?」

「へぇ、じゃあ何よ?」

 

 ふふん、と不敵に笑うボーデヴィッヒが何処か恐ろしい。そしてその予感は当たってしまった。

 

「こいつは両刀使いだ」

「「「えっ」」」

『やっちまったがや』

 

 ――――こいつなんて事言いよるんや。何でそれだけちゃんとした意味で理解してるんや。

 

 ISの通信を通じて響き渡る悪化した俺の肩書きに観客席から驚きの声。泣きたい。

 試合前のやり取りもそこそこに俺達は決められた開始線まで離れてそれぞれの武器を展開した。武装展開時間による有利不利をなるべくなくそうという事らしい。

 

 ラファールに乗った藍田美樹は両手にアサルトライフルを。打鉄に乗った田中里奈はアサルトライフルと刀を展開。ボーデヴィッヒはほぼ固定装備なので特に展開する事はなかった。

 

「聖弓『ウィリアム・テル』起動」

『Yes.Master』

 

 そしてホモ扱いされた怒りで恥ずかしさを彼方へ追いやった俺は黄金の弓を展開した。

 この武器は毎回特定の台詞を言わなければ展開出来ないという弱点があるが、その他の性能は折り紙付きだ。これでも本来の半分程度しか発揮できていないらしいが充分過ぎる性能がある。

 

 《さぁ、始まる前から色々ありましたがいよいよ試合開始です!》

 《レッツロック!》

 

 実況二人の掛け声と共に試合が始まった。

 早速向こうは銃を構えて放つも、遠いせいか狙いが甘い。これなら避けなくても充分だ。

 その間に俺は矢を番えて狙いを定めると言葉を紡ぐ。

 

テルの矢は決して林檎に届かない(The paradox of tell and apple)

 

 ただの矢と呼ぶには巨大な光の一矢は空気を裂き、真っ直ぐ二人の元へ。

 

「たった一発の矢で――――っ!!?」

 

 当たる訳がないという台詞は最後まで続かなかった。前衛の田中が避けた瞬間、矢が田中へと進行方向を変えたのだから。幾度避けようとも、矢は上下左右何処に逃げても追い掛ける。

 

 《何だあれはー!? 矢が直角に曲がり、何処までも追い掛けていくー!》

「里奈! って、うぇっ!?」

「な、何だあの軌道は……」

 

 援護しようとすれば今度は藍田の方へ。その逆も然り。たった一発の矢が二人を翻弄しているのを見てボーデヴィッヒが手を出す事もなく、呆然と立っていた。

 まぁ放たれた矢が真ゲッターみたいな無茶苦茶な軌道をしているため、そうなるのも仕方ない。

 

 しかし、それももう直ぐで終わりを迎える。

 放たれた矢を紙一重で避けていた二人だったが、やがて限界がやってきた。

 

「あっ!」

「くっ!?」

 《あっと藍田、田中ペア、ライフルを破壊されてしまいました!》

 

 常にギリギリ回避出来るレベルだったので一瞬の油断が命取りに。その油断を突いて持っていた銃を貫くと、こちらの意図を読んだボーデヴィッヒが動き出した。

 続いて俺も弓をしまい、両手に槍を呼び出すと空へ逃げていた田中へ突撃。矢は弓が格納された事で消えてしまった。

 

「そんな武器卑怯じゃない!」

『そんなんチートや?』

「俺もそう思う」

「この……! 素直に認めてんじゃないわよ!」

 

 繰り出した突きを避けられると、お返しとばかりに振り上げられる刀。それを目の前で交差させた槍で受け止める。ついでに口から飛び出た文句も。

 

 刀をはね除けるともう一度突いて、そのまま払い、もう片方の槍で叩き付け、刀で防がれたところへ回し蹴り。それも打鉄の盾で防がれたがその表情は苦い。

 

「う、く……!? 美樹、援護し――――」

「悪いがお前の相方は私の手の内だ」

「ご、ごめん里奈……」

「う、嘘でしょ? そんな、っ!」

 

 俺の攻めを捌ききれないらしく、堪らず相方に助けを求めるも、もう遅い。ボーデヴィッヒが無防備な藍田に詰め寄ると右手を翳してあっさり終了。

 

 呆気なさ過ぎると動揺している田中へ左手にある槍の切っ先を突きつけた。息を飲む音が良く聞こえる。

 

「……終わりだ。降参しろ」

「っ、誰がするかぁ!」

 

 突き付けられた槍を刀で弾く。槍は俺の手から離れて地上へ。しかし、大振りで弾いたため、また隙だらけになった田中へ右手の槍を突き付けた。

 

「……もう一度言う。降参しろ」

「はぁっ!」

 

 今度は返事をするまでもなく弾かれた。降参する意思はないようだ。再び俺の手から離れる槍を無視して一旦距離を取ると好機と見たのか、距離を詰めて上段に大きく振りかぶる田中。悪いが隙だらけだ。

 

「なっ!?」

「ふんっ!」

 

 瞬時加速でこちらからも距離を積めると振り下ろされる途中の腕を掴んで前方に放り投げる。体勢を崩すと同時に両腕のプロトGNソードを展開。

 

「少しだけ痛い目を見てもらう……!」

 《櫻井選手、滅多切りー!》

 《でも全部盾に当たってますね。相手はエネルギー減ってないですよ》

「こ、この……!?」

 

 全部盾に当たっているが、プロトGNソードによる乱舞により反撃が来ない。それにしても打鉄の盾は自動で防いでくるから厄介だ。

 

 両方のソードで右上から左下へ切り裂くと勢い余って反転してしまう。

 

「馬鹿、っ!?」

「ちっ」

 

 背を向けた瞬間、攻めてこようとしたところへ思いっきり腕を引いて折り畳んだソードを肘打ちの要領で叩き込む。

 だが少々気が早かったようだ。再び盾に遮られてしまう。

 

「ま、また……!」

 

 正面に振り返ると同時にバインダーを展開。太刀を取るついでに右肘によるアッパーを繰り出し、畳んだままのソードで切り付ける。

 そのまま太刀を振り下ろすと今度は左手でも同じようにソードで切り付けて太刀を取って振り下ろした。

 

「まず……!」

「逃がさん! バースト!」

「きゃあ!?」

 

 相手は全速力で後退。そこに両手の太刀を投げ付けて爆破させる。

 

「けほっ、えほっ……あっ」

「……これで最後だ。降参しろ」

 

 爆発に巻き込まれて動きが止まったところで接近し、また降伏勧告。今度は槍の代わりに刀を突き付けて。

 

「は、はい。降参します……」

 《藍田、田中ペア降参により、勝者櫻井、ボーデヴィッヒペア!》

 

 試合終了のアナウンスが流れる頃には試合前とはうって変わって、非常に大人しくなっていた。むしろ少し恐怖で震え上がっていたようにも見える。

 

 ダメだ、調子こいて色々やっちまった……はぁ。

 

『まぁ多少はしょうがないというか……』

 

 しょうがないって言っても、限度があるだろうに。難しいなぁ……。




はぁ、戦闘シーン難しいよ……。


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