IS学園での物語 作:トッポの人
試合も終わり、ボーデヴィッヒと和菓子を教えて貰った後に一人で今日の試合を振り返りながら廊下を歩いていた。当てもなく、ただひたすらにとぼとぼと。
「……くん?」
「…………」
「櫻井くんっ!」
「……山田先生?」
「ああ、良かった。何度も声掛けてたのに反応してくれなかったから心配したんですよ」
気付けば目の前にまで来ていた山田先生が安堵した表情を浮かべていた。あれだけ大きな声を出されて漸く気付いた辺り、相当集中していたらしい。
「……ご心配お掛けしましてすみません」
「いえいえ。生徒の事を気に掛けるのも先生のお仕事ですからっ」
「……ありがとうございます」
ニコニコと明るい笑顔を浮かべながら両手で小さくガッツポーズを取る山田先生。任せろと言っているようだが、童顔と相俟って子供が大人ぶっているようにも見える。そんな先生の様子を見て、俺の方が歳下なのに微笑ましく思っていた。
「何か考え事ですか? 私で良ければ相談に乗りますよー」
「……そうですが、いいんですか?」
「何がですか?」
問い掛けに対する問い掛けに山田先生はどういう事かと再度問い掛ける。可愛く小首を傾げて。
ずばりその通りなのだが、言ってもいい話なのだろうか。少し悩んでから結局口にしてみる事に。
「…………俺の事、怖がっていたのでは?」
「うっ……」
それまで浮かべていた笑顔から一転、あからさまに気まずそうな顔をして狼狽える。実に分かりやすい反応だった。
「す、すみません……私、櫻井くんの事を見掛けで判断してました……」
「……それで正解だと思います。男は狼だと言いますから」
目付きは悪いし、頭は悪いし、怒ってると思われる事も多々あるほど愛想も悪い。何故か最近はそう思われるのも少なくなってきたけど。
『確かに目付き悪くて、頭も悪くて、愛想もないかもしれないよ。でも――――』
するとこれまで俺が一人で考えたいからと沈黙をしていたミコトが口を開く。
一体何を言うのか、でもと言ってから少し勿体振るように溜めてから発言した。今まで俺の側で俺を見てきたからか、たっぷり実感を込めて。
『――――顔は良い』
でしょ!? 俺もそうだと思ってたんだよ!
「ち、違います!」
とミコトとふざけていると、これまで見た事がないような勢いで山田先生が否定してきた。慌ただしく手を動かして必死に伝えようとしている。
「櫻井くんは狼さんの皮を被った羊さんです! えっと、ですから、その……!」
あれ、これって遠回しにヘタレって言われてない?
『気のせいにござるよ』
う、うぅん? まぁいいか。
「……では聞いてもらえますか?」
「はいっ!」
そんな山田先生に根負けして俺も話す事にした。慌てて弁明しようとするこの人を落ち着かせるという意味合いもあったのかもしれない。
「…………その、さっきの戦いについて考えていました」
「と、言いますと?」
「……もう少し上手くやれたんじゃないかと」
途中までは我ながら上手く行っていたと思っている。だが最後、田中との戦いに関しては疑問が残ってしまう。
やり過ぎてしまった。あそこまでやる必要はなかった。そもそも痛い目、怖い目に遭わせなくても降参させられたんじゃないのか。考え始めれば止まらない。
口下手ながら山田先生にそれを伝えると目を丸くさせて、柔らかく微笑んだ。
「櫻井くん、少し屈んでもらっていいですか?」
「……? こうですか?」
「もう少し……はい、そこで大丈夫です」
言われた通り、屈むと山田先生の手が俺の頭へ。
「よし、よし……良い子ですねー」
何か頭撫でられ始めた。まるで幼い子供をあやすように。
「…………あの?」
「櫻井くん、いいですか。相手を傷付けずに勝つ、というのは織斑先生でも出来ません」
「……織斑先生でも?」
「はい。櫻井くんは世界的に有名な織斑先生でも出来ない事をやろうとしたんですよー」
改めて言われると途端に恥ずかしさが込み上げてくる。世界最強と言われている織斑先生でも出来ない事を、無名の俺がやろうとしていた。笑い話にもならない。
「その結果、櫻井くんは田中さんを怖がらせてしまいました」
「……はい」
「でもそれは櫻井くんが相手を傷付けないようにしよう、という過程があったからです。切っ掛けは良かったので、今度はその後の過程と結果も良くなるように一緒に考えましょうっ」
「…………はい」
だが山田先生は俺の頭を撫でながら、微笑み続ける。それは決して人を馬鹿にするようなものではなく、暖かさを感じさせるものだった。
「そのためにはまず自分が傷付かないようにしましょうね」
「…………はい」
それがあまりにも心地好くて、そのまま織斑先生から連絡が来るまで撫でられ続けてしまった。
さて、そうは言われたものの一人で考えなくて良い訳ではない。どう戦ったものかと考えていると気付けば夜になっていた。
「お兄ちゃん、先にシャワーいいよ」
「……ありがとう」
「う、うぅん。気にしないで」
部屋に戻ってからもずっと悩んでいる俺にシャルも心配していたらしく、いつもは先のシャワーを譲られた。何やら落ち着かない様子でじっと俺を見ているのが気になる。
「……ふぅ」
しかしそれも浴室まで。蛇口を捻れば頭上から冷水が降り注ぐ。慣れない事をしている頭を冷やすのと同時に一度目を覚ましたかった。
『こんな季節だけど寒くないの?』
超寒いです。もう限界なのでお湯にします。これを長時間浴びれるとかやっぱアニメのキャラとかすげぇよ。こんなん一瞬で心折れたわ。
もうバッチリ目も覚ましたから冷たい水から暖かいお湯へ。程よく暖まったところでまずは頭から洗おうとした瞬間だった。
部屋から聞こえてくる慌ただしい物音。何かがあったと理解するのに時間なんていらない。デュノア社がシャルの裏切りに気付いたのではと嫌な予感が頭を過る。
「シャル!!」
そうすれば行動は早かった。髪から水を滴らせたまま、部屋へと向かう。
慌ててはいたが、何とか今真っ裸だったのは忘れていなかった。顔だけ覗かせればそこには無事な様子のシャルが。物音の割りにはなんて事はなかったらしい。
「……シャル?」
「いやぁー、用意してた着替えにお茶を溢すなんて――――っ!?」
何処か棒読みのように言っていたシャルが俺を見て固まる。まるでとんでもないものを見たかのように。といっても今顔しか見せてないのだけど。
そして恐る恐る話すように口を開いた。
「お、お兄ちゃん……」
「……何だ?」
「お兄ちゃんってお風呂入ってる時はオールバックにしてるの……?」
『それな』
動揺してるポイント……。そんなに珍しい事でもないだろ……。
「…………まぁ、邪魔だからな」
「そっかぁ……写真撮っていい?」
「…………」
「あぁ、ちょっと!」
謎の申し出を無視して無言で浴室に戻る事に。鍵を掛けた浴室の扉から低い唸り声とカリカリと引っ掻く音が聞こえる気がするが気のせいだろう。
「うぅ……いいじゃん写真くらい……」
「……何か、すまん」
と、思いたかったがまさか浴室から出てもこうまで悔やまれるとは思わなかった。あれから多少は時間が経っていたはずなのだが。これでは気のせいと思いたくても思えない。
「……シャワーでも浴びてすっきりしてこい」
「う、うん。それでね、お兄ちゃんに相談なんだけど……」
「…………何だ」
もじもじと恥ずかしそうにしているシャルは上目遣いでこうお願いしてきた。
「僕の寝間着がさっきので全滅しちゃったからお兄ちゃんの服貸して欲しいなって……ダメ?」
そういえば用意していた着替えに溢したと非常に分かりやすく言っていたのを思い出した。
まさか予備もやられていたとは思わなかったがそういう事なら仕方ない。というかダメと言ったらどうする気だったんだろう。
『そりゃもうエッッッって感じの格好で寝るんじゃない?』
「こ、これを使え」
シャルには悪いがちょっと想像しかけてしまった。結論、そんなの俺が耐えられそうにない。
返事と共に慌てて洗い立ての黒いTシャツを手渡せば、たちまち明るい表情へ。
「お兄ちゃん、ありがとうっ!」
「…………はぁ」
渡された黒いTシャツを大事そうに抱えて浴室へ消えていくシャル。少し疲れてベッドに倒れると、もう一度思考の海へと潜った。
しかし、考えても考えても納得出来る答えは出ない。
「お風呂上がったよー……お兄ちゃん?」
天井を見ながら一人でまたうんうん唸っていると不意に身体に重みを感じ視線を下に下げる。
そこには渡した黒いTシャツを着たシャルが俺の胸元に顔を埋めている姿があった。何をしたいのか分からないので名前を呼んでみる事に。
「……シャル?」
呼ばれて直ぐに顔だけ動かす。俺に向けられるのは真剣な眼差し。何かあったのかともう一度呼ぼうとしたところで――――
「わふっ!」
――――完全に俺の時が止まった。
わふ???
「…………シャル?」
「今の僕はシャルじゃなくて、シャルわんこです」
「…………はぁ」
「シャルわんこはご主人様との触れ合いを求めています。撫で撫でするとそれはそれは大層喜びます」
真面目な表情で何言ってんだこいつ……。
「日本で言うアニマルセラピーだよ。ペットがいないから僕がその代わり!」
「…………そうか」
余程俺が不思議そうにしていたのか、シャルが説明してくれたが謎は深まるばかりだ。
だがそれでもこいつが悩んでいた俺のために何かしようとしてくれているのは分かっている。付き合ってみるとしよう、少しだけ。
「きゃーっ」
シャルの顔に両手を伸ばしてわしゃわしゃと撫でれば、目を細めて嬉しそうな悲鳴があがる。
「……嬉しいのか?」
「えへへっ、わんっ!」
念のため確認に訊ねれば、返ってきたのはこれでもかと破顔させた表情と嬉しそうな犬の鳴き声。あ、これちょっといいかもしれない。
時間は飛んで大会も最終日。布仏先輩達に見てもらった後、ボーデヴィッヒと出番を今か今かと待ち構えていた。
思えばこれまで目を背けたくなるような戦いの連続だった。ていうか俺がどのペアからも狙われてただけなんだけど。
『まぁ明らかに『
ミコトの言う通り、初戦で見せた『天狼星の弓』を警戒しまくって戦う相手全員が一目散に俺へやってくるように。俺一人だけ忙しい。
特に簪、箒ペアとセシリア、鈴ペアとの戦いでは泣きそうになった。ていうか泣いた。なるべく頑張りはしたが、防ぐので手一杯で無傷で済ますなんて出来そうにもなかった。
幾らボーデヴィッヒがいるとはいえ、代表候補生やそれに近い実力者から狙われるとか本当に無理。
『でも、春人カッコいいじゃん?』
そうなんだよ。俺カッコいいから本当は無理だけど出来ちゃうんだよな。
そんな事はないと分かっているが、そうでもして無理矢理ポジティブにしないとやってられそうになかった。
『その時の状況を振り返ってみて、ムウさん風に感想お願いします』
――――全く、モテる男は辛いねぇ。
『間違ってないんだよなぁ』
やっぱり? まぁムウさんなら言いそうだよな。
「ふむ……決勝はやつらか。まぁ予想通りだな」
「……そうだな。お前の停止結界のおかげだ」
決勝戦、戦う相手は一夏とシャルのペアだ。噂ではそのペアと俺達のペアによる決勝戦が順当な組み合わせとの事。
まぁボーデヴィッヒの停止結界とかいうのが強すぎるからその評価も仕方ない。でも俺というマイナス要素を忘れないでくれ。
「そういえば何故お前は私の停止結界が発動しそうだと分かるのだ?」
ふと、これまでの試合を思い出したのだろう。ボーデヴィッヒから素朴な疑問が向けられた。
停止結界は相手に降参を強いる戦いをしている中ではこの上なく相性がいいもの。だから俺も発動しそうな時は範囲ギリギリの相手を押し込んだりしていた。
「……お前は発動する時、手を翳すからな」
「それは私も分かっている。だからフェイントとして使う時もあるが、お前はそれをちゃんと判別しているだろう」
うぅん、確かにその通りだが別に嘘でもないんだよなぁ。判断材料の一つとして使ってるだけで。まぁいい本当の事を言おう。
「……すまない、本当は何となくだ」
「何と、なく?」
「……何となく」
「……何となく……? 祖国が造り上げた停止結界を何となくで……?」
もう一度繰り返せば、ボーデヴィッヒは唖然としてぶつぶつ独り言を口にするようになってしまった。何かを悪い事をしただろうか。
《さぁ決勝戦、の前に!》
《決勝戦では一人ずつ入場してもらい、こちらで選手を紹介したいと思います!》
実況が開始のアナウンスと共に観客が大いに盛り上がる。先日勝った時から紹介をしたいからと言われていた。盛り上がるためだと言われたら断れない。
ちなみに紹介される順番は一夏、シャル、ボーデヴィッヒ、俺らしい。紹介されるのも嫌なのにトリとかどうすればいいんだ。
《ではまずこの人! 世界初の男性IS操縦者!》
《目の前に困難が立ちはだかろうと、真っ直ぐ行ってぶったぎる! 世界最強、織斑先生から受け継いだ剣でぶったぎる!》
《弱い考えに逆らえ! 『
《な、何か恥ずかしいな……》
実況が言い終えると俺達がいるピットの反対側から白式を纏った一夏が飛び出す。照れているような、困ったような顔を浮かべて。
えっ、カズマさんやん。カズマさんですやん。ずるいわずるいわ。
『大丈夫だよ。春人の方が厨二力高いから』
もっと他のところが高い方が良かった……。
《続きまして、世界で三人目の男性IS操縦者!》
《甘いマスクと守ってあげたくなる雰囲気に女子は夢中! そして後に出てくるお兄ちゃんとの関係に隠れていた女子も夢中!》
おい、やめろ。
《フランスが生んだ貴公子、シャルル・デュノア!!》
《ち、違うよ。僕とお兄ちゃんはそんな……》
実況からの指摘に飛び出したシャルは否定するも、その表情には説得力がない。むしろ肯定の方に説得力があった。
シャルにはっきり否定しないと変な疑いを掛けられると教えたんだが、あまり意味がなかったようだ。これからどうしよう……。
《どんどんいきましょう! 次は反対側、対するはドイツの代表候補生!》
《最初の頃の冷たい態度は一体何処へ!? 最近は厨房で泣きそうになってる姿もたまに見る!》
《一体全体何があった!? ドイツの妖精、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!》
「むむむ、見られていたのか。まぁいい、先に行くぞ」
「……ああ」
最近の和菓子作りの様子を見られていたようだ。情報収集力半端じゃない。さすがのボーデヴィッヒも恥ずかしそうにしていたが出撃した。
さて、残すところ俺一人なのだが明らかに俺だと盛り上がりに欠ける。盛り上がる要素がないからだ。むしろ盛り下がる可能性の方が高い。
なので俺は演出で誤魔化そう。恥ずかしさもあるが、出た時の盛り下がりに比べたら幾分増しだ。という訳で頼むぜミコトちゃん!
『あいあいさー!』
やぁってやるぜ!
《では最後、っ!?》
俺の紹介が始まろうとした瞬間、アリーナに風が吹き荒れた。随分前の経験を生かして吹き荒れるのは俺が出撃する時だけにして。
皆が待つ地上へ降り立つと同時に風を解除。そして目の前に立つ二人に視線を向けてこう言った。
「……さぁ、どっちからだ?」
「「えっ?」」
「……次に俺の餌食になるのは、どっちからだ?」
「「っ!」」
突然の問い掛けに呆ける一夏とシャルへ早々に答えを出した。ちょっとというかかなり恥ずかしかったからだが、これで盛り上がるはず……きっと。
風に気圧されてか、黙っていた観客席がこれまで以上に盛り上がる。それに負けじと実況が口を開いた。
《吹き荒れる風と共に現れたのは二人目の男性IS操縦者!》
《その実力は本気を出していないため未知数! ですが彼の二つ名がそれを物語っています!》
「何?」
《『一刀修羅』、『二闘流』、『斬撃皇帝』なんか呼ばれ方が色々多すぎる! ですが、我々からも彼に名前を送りたいと思います!》
《――――『黒』。『黒』の櫻井春人、降臨!》
『oh……』
いででで!? 何か厨二力がパワーアップしてる!? 何で!? どうして!?
「誰が餌食になるかよ。悪いけど今日は勝たせてもらうぜ?」
「…………楽しみにしてる」
「ああ、目一杯楽しませるよ」
変な盛り上がりを見せる中、それぞれの開始位置に別れる寸前、一夏が気を利かせてさっきの台詞に乗っかってきてくれた。ありがてぇありがてぇ。
ちょっと試合前にお兄ちゃんにあんな事言われてドキドキしたけど、もうそんな事も言っていられない。
相手はお兄ちゃんとラウラの優勝候補だ。気持ちを切り替えないと。じゃないと何も出来ずにあっさり負ける可能性もある。
「なぁ、悪いけど春人は俺に任せてくれないか?」
「いいけど、何で?」
元々お兄ちゃんにはどっちかを張り付かせないとダメだった。あの黄金の弓は絶対に撃たせないようにするためにも。
初戦以降使ってないけど、今回も使わないなんて保証はない。だから一夏が行くというなら反対する理由もなかったけど、単純に何で行こうとするのか気になった。
「分かるんだ。あいつは俺を狙ってくる。俺があいつの立場ならそうする」
理由は凄く不確かなものだった。でも一夏はそれが間違いないと確信しているみたいだ。
その証拠に一夏はさっきからこっちを見ていない。視線はずっとお兄ちゃんに向けられていた。誰よりもこの日を待っていた一夏だからこそこうなるのかもしれない。
でも離れたところにいるお兄ちゃんも一夏を見ていた。ハイパーセンサーで直接見る必要もないのに、その鋭い視線が一夏から外れる事はない。誰が見ても明らかだった。
「……分かった。じゃあ僕はラウラの方に行くね」
「悪いな」
「全然そう思ってないくせに」
「バレたか」
漸くこっちに顔を向けた一夏は本当に嬉しそうな顔をしている。まぁ僕もラウラには用があったからちょうどいいかな。
「で、作戦はどうするの?」
「俺に出来る事なんて決まってるだろ?」
そう言うと一夏は右拳を左手に叩き付けてからこう答えた。
「――――真ん前からやってやる」
「……一夏は俺に任せてくれないか?」
チーム毎の開始位置に別れてから櫻井春人が提案してきた内容に少々驚いてしまった。
そのため返事が遅れたのだが、それを否定と感じ取ったらしく首を傾げて訊ねてくる。先ほど強気な発言をしていた人物と同じとは到底思えない。
「……ダメか?」
「いや、構わないが……初めてだな。お前が相手を指名してくるなんて」
これまで私達が事前に話す内容なんて対戦相手についてだけで、どっちが誰をどうするかなんて話した事もなかった。
そもそも普段の日常ならいざ知らず、戦いでこいつが口出ししてくる事が珍しい。私が構わないと言うと直ぐに視線を前方にいる織斑一夏へ移る。
「……あいつは俺を狙ってくる。俺があいつの立場なら必ずそうする」
根拠としては非常に弱い理由だ。だが向こうもこちらを見ていたらしく、二つの視線が交わる。強ちまるっきり当てがないという事もないようだ。
いや、むしろ上手くいけば一気に片付けられるかもしれない。当てにするだけの価値は充分ある。
「だがその前に……お前、今まで本気を出していなかったのか?」
「…………すまない」
「そうか。いや、分かった」
先ほど判明したこいつが未だ本気を出していない事。改めて問い詰めればあっさり答えた。そっちがそのつもりならそれでいい。こっちも好きにやるさ。
「しかし、あの男とどう戦うつもりだ?」
「……誰が相手であろうと関係ない。俺が出来るのは一つだけだ」
櫻井春人は私からの問い掛けに拳を作って答えた。
「――――正面から行く」
『で、実際のところどうなの?』
いや、普通に考えたらまず弱いやつから来るだろ。あと俺だけとびっきり肩書きおかしいし。厨二で、クール(笑)で、不良で、ホモだぞ。
『やばいっすね……』
ともあれこれでボーデヴィッヒからも一夏と戦っていいと言われたので何の憂いもなく一夏と戦える。
《では決勝戦、盛り上がっていきましょう!》
《レッツロック!!》
「おおおっ!!」
開始の声と共に一夏が天高く舞い上がる。アリーナに展開されているシールドギリギリまで飛ぶと今度は真っ直ぐこちらへやってくる。足を向けて、一直線に飛び蹴り。
「でぇやぁぁぁ!!」
《織斑選手、櫻井選手へ向けて飛び蹴り!》
《だが距離があります。櫻井選手なら避けられるでしょう》
「あんな茶番に付き合う必要はない。さっさと避けろ」
高機動型の白式とはいえ、距離が開き過ぎていた。実況の言う通り、これでは簡単に避けられるだろう。ボーデヴィッヒからも茶番だと冷たい言葉が放たれた。
だが、知らないのだ。一夏が放つこれがどういう意味であるのかを。
「……ボーデヴィッヒ、あれは挨拶だ」
「は?」
これまで幾度も戦いを共にした相方は俺の言葉に何を言っているのかと思わず顔を向けて抗議してくる。だから教えなくてはならない。
「……挨拶には挨拶で応えるのが礼儀だろう」
「おい、何を言って――――」
「……第伍十戦術」
《Dual up!》
左手で顔を遮るようにすると半分まで制限を解除。所謂ライダーキックで迫り来る一夏を睨み付けた。
「ちっ、なら私が、っ!?」
と、横にいるボーデヴィッヒが一夏へ砲身を向ける。付き合いきれなくなったようだ。だが準備した砲弾は放たれる事なく、ボーデヴィッヒはその場を離脱。
代わりにさっきまでいた場所に飛来してくる無数の弾丸。目で追っていけば両手にアサルトライフルを持つシャルがいた。
「シャルル・デュノアか……!」
「悪いけど、僕の相手をしてもらうよ……!」
代表候補生同士の戦いが始まろうとしている傍ら、こちらも始まろうとしていた。
「一、撃、だぁぁぁ!!」
何処か聞き覚えのある台詞と共に一夏は瞬時加速を発動。今言った言葉に真実味が帯びてくる。
「ぜやぁ!!」
「ぐっ!? おおお!!」
俺も二歩前に出ると放たれた飛び蹴りを上段蹴りで迎撃。蹴りと蹴りがぶつかり、ありったけの力が込められた重みのある音がアリーナを覆った。
「ふんっ!」
「くっ、まじかよ!?」
「……まだまだだな」
『お、おお……何それぇ……』
《はっ! お、織斑選手の飛び蹴りを櫻井選手が上段蹴りで迎撃ー!》
《開幕から魅せていくぅ!》
押し負けて一夏は後方に広がる空へ逃げると捨て台詞を吐いた。余程自信があったらしいが、まずは初撃の撃ち合い勝負は俺の勝ち。
そこで思い出したように実況が始まった。遅れて沸き立つ観客席。
「……どうした。楽しませてくれるんだろう?」
「ああ、目一杯な!!」
だが俺達にはあまり関係ない。再び訊ねれば不敵な笑みを浮かべてやはり楽しませてくれるとの事。
じゃあ、早速二度目の勝負と行こうか!
ちなみにじゃれてきたシャルの格好を見て結局「エッッッ」っていう。
厨房ラウラさんを後書きに載せる予定でしたがもう少し考えます。