IS学園での物語   作:トッポの人

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第44話

 一度はドロリと溶けたISがボーデヴィッヒを覆っていく。

 

 そう、覆っていくのだ。パートナーの姿はISの元の色に合わせてか、全てを塗り潰す黒で覆われていき、やがて珍しい全身装甲タイプのISへと生まれ変わった。

 打鉄に酷似した何処か見覚えのある黒のISはその手に刀を持ち、ゆっくりと一番近くにいた一夏へ顔を向ける。

 瞬間、ぞくりと嫌なものが走った。俺が直接見られた訳ではないのに。

 

「『――――』」

「やべ……っ!?」

 

 刀を腰に収めるように構えるとボーデヴィッヒは一夏へ突撃。慌てて『雪片』を構えるも抜刀術からの一撃で弾かれてしまう。

 随分とあっけないが受けるよりも前、構えを見た瞬間から一夏の表情が固まっていた。この状況で止めてはいけないのに動きさえも。

 

「これ、は……!?」

 

 何故止まったのか分からなかった。さっきまでの戦いを考えると反応出来なかったのとは違うようだ。

 

「「一夏っ!」」

「ぐあっ!」

 

 とにかく慌ててシャルと二人で援護しようとするももう遅い。その一瞬を突かれて、無防備なところへ唐竹で一閃。

 元々俺と戦っていたせいもあって、多くはなかった残りエネルギーも今の一撃で発動した絶対防御によって枯渇したようだ。一夏の体を光が包み、白式が格納される。

 そんな無防備な状態にも関わらず、ボーデヴィッヒは持っていた刀を振り上げた。対象は目の前の倒れた一夏。

 

「「「きゃあああ!!」」」

「そこっ!」

「『――――』」

「ぜあぁ!!」

 

 これから行われるであろう凄惨な光景に観客席が恐怖に包まれる中、そうはさせまいとボーデヴィッヒの目の前を銃弾が通過。仰け反ったところへ俺が斬りかかる。

 

「お兄ちゃん!」

「一夏を頼む! 俺はこいつを!」

「うんっ!」

 

 難なく受け止められたが、顔と意識をこちらに向けるのには成功した。シャルも一夏の元に着いたので、これであとはここから離れるだけだ。

 

「おおおっ!!」

 

 鍔迫り合いをしながら押し込む。少しでも遠くへ。二人が安全だと思えるところまで。

 スラスターを全開で吹かしてやればあっさり引き下がる。何の抵抗もないと思えるほど実にあっさりと。

 

 どういう事かとのっぺらぼうのような顔になったボーデヴィッヒと向き合えば、ぼそりと俺にしか聞こえない音量でこう呟いた。

 

「『――――なるほど』」

「?」

 

 ボーデヴィッヒの声に何か別の誰かが被さった声はたった一言だったが、その声は実に嬉しそうなもの。気のせいか、表情なんて分からない外見のはずなのに笑っているようにも見える。

 

「しまっ!?」

 

 そんな場違いとも言える考えはこいつにとっていい餌だったろう。隙を突かれて刀を弾かれてしまった。もう一振りを量子展開しようとするも到底間に合いそうにない。

 

 と、その時俺とボーデヴィッヒの間に無数の弾丸が割って入る。現状で銃弾を放てるのなんて一人しかいなかった。

 

「お兄ちゃん、下がって!!」

 

 一夏を抱えたまま、空いた右手でアサルトカノン『ガルム』をフルオートでボーデヴィッヒへ向けて放つシャル。

 だがそれら全てを切り払うか、距離を取りながら避けるかで一発も当たらない。

 

「嘘……!?」

 

 驚愕に染まったシャルの声が聞こえてくる。それもそうだろう。シャルは決して射撃が下手な訳じゃない。むしろ得意な方だ。

 それはこれまでの試合を見て、ボーデヴィッヒ自身も手放しで強敵だと褒め、認めていたほど。

 

「くっ、このっ!」

「『――――』」

 

 しかし、今のボーデヴィッヒは華麗とも言える動きで弾丸の雨を掻い潜り、弾き、避ける。

 最初に装填していたマガジンの弾が尽きる頃には目的通り、俺達から遠く離すのには成功していた。一発の被弾もなしという想定外の状態で。

 

 《非常事態発令! 試合は中止、来賓及び生徒は速やかに避難する事! 繰り返す!》

「……何だ、あれは」

「僕が聞きたいよ……。さっきまでより遥かに強くなってる……」

 

 響き渡る避難警報と悲鳴を尻目に自然体で呆然と立つパートナーを見ていた。その上達ぶりに思わず口を突いて出たのにシャルも同意する。

 明らかにボーデヴィッヒの動きが変わっている。最近何処かで見た動きかと思えば突然見た事もない動きはまるで別人。それに我らって誰の事を指してたのかも気になる。

 

 何だ、トモちゃんか? いつの間にかエア友達のトモちゃん作ってたのか?

 

『いや、VTシステムの事だと思う』

 

 何だ……それ。

 

 ミコトが口にしたのは聞いた事もないものだった。嫌な予感がしつつも聞き返すとその詳細を教えてくれた。

 

『正式名称はValkyrie Trace system。モンド・グロッソの各種目で優勝したヴァルキリーの動きを再現するってやつだよ』

 

 おいおい、随分すげぇもん搭載してるじゃねぇか……。さっきのは何処かのヴァルキリーの動きかよ。

 

『でも欠点があってね。搭乗者に掛かる負担なんてお構い無しなんだよ。その結果、たとえ搭乗者が死ぬ事になっても……ね』

 

 視線の先、未だ動こうとしないボーデヴィッヒ……いや、VTシステムか。

 ともかく、あいつが動こうとするとそれだけボーデヴィッヒが死に近付くらしい。今動いていないのが不幸中の幸いか。

 

『何かしてるみたい。そっちを優先してるみたいだから向こうから仕掛ける事は多分ないよ。どっちにせよ、早く助けた方がいいけど』

 

 そうだな。そうするよ。もう厄介な事になってるが、悪化する前に止めるさ。

 

 近くにいる二人を尻目に再びVTシステムの元へ行こうとした時だった。

 それまで黙っていた一夏がゆっくりと立ち上がり、俺と同じようにVTシステムへと歩み始める。ただ一つ、ISを展開していない事を除いて。

 

「……待て、一夏。ISは展開出来ないだろう」

「それがどうした!?」

 

 ヒェ……。

 

「どうしたって……急にどうしたの?」

 

 そんなのは関係ないと一夏にしては珍しく怒りを含んで吠えた。突然の怒鳴り声に内心ビビっていると、ただ事ではないとシャルも分かったようで思わず訊ねる。

 

「あれは、千冬姉の剣だ……!」

「…………織斑先生の?」

「そうだよ……でも、見掛けだけだ。本物の千冬姉の剣はあんなに軽くねぇ!!」

 

 さっき動きが止まったのは憧れている人の動きだったからか。怒っているのはそれが見掛けだけだから。本物を知っていて、憧れている一夏としては許し難い事なんだろう。

 

 そして……なるほど、俺が見た事あると思っていたのは織斑先生の動きだったようだ。

 VTシステムは各ヴァルキリーの動きを再現するのだから、その中に優勝者である織斑先生がいてもおかしくはない。

 まさか動きを再現するVTシステムを一夏が知っているとは思わなかった。意外に勉強熱心なんだな。

 

『多分一夏が気付いた理由はシスコン的なサムシング』

 

 あっ、そういう理由なのね……。ホモ(予備軍)で、シスコンで、鈴のファンとかこいつも濃いな……。

 

「……あれはVTシステム、というものらしい」

「えっ!? VTシステム!?」

「んなもん知るか! あいつぶっ飛ばすから退けよ!」

 

 システムの名前を出せばシャルは知っているらしく、少し青ざめた。戦っていた相手がどんなにやばいのか知ったんだろう。

 対して興奮冷めやらぬ様子の一夏をどうにか落ち着かせなければならない。

 

「春人、お前をぶっ飛ばしてでも……!」

「落ち着いてよ!」

 

 どうしたものかと考えていると、完全に頭に血が上っている一夏が形振り構わずそう言ってきた。本当にらしくない。

 ミコトの言う通り、VTシステムから何かしてくる気配もないのでISを格納し、一夏に応える事に。

 

「……そうか。それは構わない」

「お兄ちゃん!?」

「……だが」

 

 そう言ってから軽く地面に向けてジャブを放った。放たれた先にある地面からタイミング良く土煙が上がる。と、同時に一夏の顔色がさっと血の気が引いた。

 

「えっ。えっ?」

『あかん』

「……だが一発は一発だ。やるからには俺も全力でやる。安心しろ……ハンデはなしだ」

「ごめんなさい……」

 

 何か揉めてた割にはあっさり一夏が折れてくれた。やったぜ。

 

 とりあえず冷静になった一夏にVTシステムがどういうものかを説明。

 やはりシャルも知っていたらしく、どれだけ危ないものかと二人で話した上で一夏は頭を下げてきた。

 

「頼む、春人。俺も一緒に戦わせてくれ」

「…………何で戦うと思った?」

 

 えっ、いや確かに俺は行く気満々だったけど何で分かったの?

 

「お前ならそうするって思ったから」

 

 出てきた理由は理由などではない。どちらかといえばこれは勘というものだ。酷く曖昧で、頼りないものだった。

 しかし、それが全てだと物語る瞳に迷いはなく。自信に満ちた一夏の瞳から思わず逸らして続けた。

 

「……だがお前のISはもうエネルギーが――――」

「それなら僕がどうにか出来るよ」

「本当か!?」

「うん。僕のリヴァイブからコアバイパスを接続させれば大丈夫」

「頼む、早速やってくれ!」

 

 白式のエネルギー問題はシャルが解決するらしい。リヴァイブから伸びたケーブルが白式の待機状態である籠手に繋がってエネルギーが譲渡されていく。あとは俺が了承するだけ。

 

「…………はぁ、一夏」

「何だよ、ここまで来たんだ。俺は降りる気ねぇぞ」

 

 あからさまな溜め息に少しむっとした表情で応える一夏。その一歩前へ出て問い掛けた。

 

「……ついてこれるか」

「――――」

 

 続いて出た言葉に今度は目を見開いたが、それも一瞬だけ。代わりにニヤリと不敵な笑みを浮かべてお返しとばかりにこう返す。

 

「はっ! お前の方こそついてこれんのかよ!」

「……悪いが、俺はそう簡単には振り切れないぞ」

『ん゛っ』

 

 どうしたのミコトちゃん?

 

『今の台詞グッと来た! 春人、勝利を奪い取るよ!』

 

 お、おう? 元より勝つつもりだ!

 

 気分も高まってきたところで俺達の前に通信ウィンドウが開かれた。ウィンドウには生徒会を除いたいつものメンバーが心配そうな表情を浮かべている。

 

 《皆、無事か!?》

「おう!」

「僕は平気だよ」

「……まぁ何とかな」

 《良かった……!》

 

 箒に言われて二人に目配せすると大丈夫だと全員で返事。それを聞いた簪が張り詰めていたものが解けたように安堵した。

 この中で唯一ダメージを受けた一夏も割と元気だ。そういえば以前ゴーレムと戦った時も瀕死の状態から復活していたのを思い出した。相変わらずとんでもないドMだ。

 

 《で、どうせそいつとやるんでしょ? 手伝うわよ》

 

 そう言うや否や鈴を始めに、セシリアと簪もウィンドウ越しに立ち上がる。いつでも一緒に戦えるとこちらへ言葉ではなく、態度で示す。

 

「いや、ここは俺と春人に任せてくれ」

 《馬鹿じゃないの。皆で戦った方が楽に決まってるじゃない》

「悪い、鈴」

 

 だが、一夏がそれを遮る。俺と二人で充分だとせっかくの申し出を断られれば、鈴が呆れたように言うのは仕方ないだろう。

 実際問題、鈴の言う事に間違いはない。もうタッグトーナメントではないのだから皆で戦った方が遥かに勝率は高い。一夏もそれは分かっているらしく、次に口にしたのは謝罪の言葉だった。

 

 《悪いっていうなら最初から――――》

「その馬鹿を極める……!」

 《――――》

 

 納得いかない鈴が少し語気を強めて攻めようとした瞬間、拳を握り締めて応える。その瞳に決して揺らぐ事はない強い意志を込めて。

 

 えっ、ちょ、待って、一夏くんテラカッコいい。そんな事されると僕男の子になっちゃう。

 

『元から男の子なんだよなぁ』

 

 下らないやり取りをしていると呆けている鈴が気になったらしく、首を傾げて呼び掛ける。

 

「鈴?」

 《っ、な、なら勝手にしなさいよ!》

 

 漸く気が付いた鈴がみるみる顔を赤くさせると、少し乱暴に通信を切った。多分一夏に見惚れていたのが恥ずかしかったんだろう。

 そんなある意味でツンデレのテンプレみたいなやり取りを見せられた俺達は次の瞬間驚愕するはめに。

 

「はぁ……また怒らせちゃったな……」

「『《えっ》』」

「えっ」

 

 がっくりと項垂れる一夏の言葉にこの場にいる俺達だけじゃなく、ウィンドウの向こうにいる鈴を除く全員が思わず口を合わせた。

 そんな事態になるとは知らず、一夏は視線を忙しなく皆に移していく。分かっていないのは一夏だけ。

 

 《一夏……そういうところだぞ……》

「な、何がだ?」

 《いや、もういい……》

 

 不憫に思ったのか、堪らず箒が遠回しに一夏を非難するがやはり伝わらない。態々箒が敵に塩を送っているというのに。

 

 《三人とも聞こえるな?》

 

 さて、また新しくウィンドウが開いたかと思えば今度は織斑先生と山田先生の二人。俺達が観客がいなくなったのに避難しないのを見て、

 

 《やはり戦うつもりか》

「ああ。あいつは俺達が倒すよ」

 《ど、どういうものか分かってるんですか!?》

 

 比較的落ち着いた様子の織斑先生とは対称的に血相変えて言ってくる山田先生。態度は違えど、二人ともこれでもかというくらい心配してくれているのは充分伝わっていた。

 

「……VTシステムでしょう?」

 《知ってて……!?》

 

 俺の返答に絶句した山田先生の後ろで、こちらにも聞こえるような大きな溜め息が。それが誰のものかなんて言うまでもなく。

 

 《……五分だ。五分後に部隊を投入する。それまでにやってみせろ》

 《織斑先生!?》

「分かった。ありがとう、千冬姉」

 《織斑先生だ。馬鹿者》

 

 驚く山田先生を置いて通信が切られた。と、思いきや再び織斑先生から通信がやってきた。今度はプライベートチャンネルで。

 

 《……もしもし?》

 《聞こえるか。全く、まさか一夏まで戦うと言い出すなんて思わなかったぞ》

 

 出てみると開口一番、砕けた態度で接してくるこの人に少し面食らった。だが早朝の訓練で少し慣らされていたのもあって直ぐに立ち直る。

 

 《……一夏ならそうすると思いますが》

 《あいつはあれで中々現実が見えている。相手との実力差もな。普通なら二人きりで挑むなんて無謀な真似はしないさ》

 

 くつくつと笑う織斑先生。その表情は楽しんでいるようにも、喜んでいるようにも見えた。

 だがそれも僅かな間だけ。直ぐにいつもの表情に引き締めて、真っ直ぐこちらを見据えた。ここからは真面目な話らしい。いつもの口調で、いつもの無茶振りが始まろうとしている。

 

 《櫻井、私の可愛い弟と教え子を頼んだ》

 《……了解》

 《そして勝ってみせろ。今のラウラに勝てんようではこの前のあいつには到底勝てん》

 

 言われてあのゴーレムこと、元カノを思い浮かべる。目の前のVTシステムは少なくとも元カノよりはましとの事。それには同意見だ。

 いや、まぁ出来ればもう戦いたくないんですけどね。

 

 《…………やってみます》

 《頑張れよ色男。勝てたら褒美は弾むぞ》

 《……楽しみにしています》

 《ああ、だから戻ってこい。ちゃんと褒美を楽しめるようにな》

 

 そこまで話して通信は終了。褒美があるらしいが、それよりも目の前に集中せねば。もう少しで一夏のエネルギー補給も終わるはずだし尚更だ。

 

「なぁ、あいつどう思う?」

「……そうだな」

 

 不意に隣でひたすら待っている一夏が訊ねてきた。未だに微動だにしないVTシステムを眺めながら。

 俺も一夏にやっていた視線をVTシステムに移し、少し考えて。

 

「……大した事はないな」

『ヒュー!』

「『――――』」

 

 おどけた自分の考えを言えば、たまたまなのかピクリとVTシステムが反応した。まるでこちらの会話を聞いているかのように。

 

「まぁ確かにこの前のゴーレムよりはましかな」

「…………そういう事だ」

 

 一夏もそう感じ取っていたらしく、同意してくる。本当はもう少し違うんだが、まぁいい。補給ももう終わりそうだし、ちょっとやってみたい事も出来た。

 

「おい」

「へ?」

「お兄ちゃんどうしたの?」

 

 突然大声をあげた俺に一夏とシャルが不思議そうに見てくる。VTシステムに話し掛けるのがそんなに予想外だったか。

 さっきもなるほど、とか言っていたからこっちの言う事も分かるかもしれない。やってみる価値はある。

 

「ボーデヴィッヒを解放してくれないか?」

「『――――』」

「お前……」

 

 しかし、返答はおろか反応すらしない。さっきのは気のせいだったのだろうか。

 

「……ダメか」

「諦めるのはまだ早いんじゃないか?」

「……一夏?」

 

 補給が終わったらしく、繋がっていたケーブルが外されて漸く自由になった右腕を動かしながらそう言ってきた。

 

「一緒に助けようぜ。お前のパートナーをさ」

「…………ああ」

「シャルルは下がっててくれ」

「うん。僕の分もお願い」

「任しとけ」

 

 期待に応えるように一夏が軽く胸を叩く。

 ある程度シャルが離れてサインが出たら戦闘開始だ。それまでもう少し時間がある。

 だからこの場にいる一夏と会話が始まるのは自然の流れだった。

 

「どうする?」

「……お前に合わせる。気張れよ、ヒーロー」

「だ、だからそのヒーローってやめろよ」

 

 慣れない呼ばれ方に恥ずかしそうにする一夏。しかし、浮かべていた明るい表情も直ぐに曇る。どうしたのかと声を掛ける前に重い雰囲気のまま口が開かれた。

 

「俺……二人に言われてもやっぱり許せなくて、あいつを殴るつもりだったんだ」

「…………」

「だからラウラを解放してくれないかって言った時は驚いたよ。それで漸く分かったんだ。お前は助けようとしてるけど、俺は倒そうとしてるんだって」

 

 一夏の懺悔ともいえる独白をただ静かに腕を組んで聞いていた。多分それが正解だと思ったから。

 今一夏が言っているのは言わなければ誰も分からなかった事、誰も知り得なかった事。そんな事を態々言う辺り、くそ真面目で馬鹿正直過ぎる。俺の事を不思議だと言っていたりするが、こいつの方が余程不思議だ。

 

「分かっただろ? 俺はお前とは違う。ヒーローじゃない。ヒーローなんかじゃ……ないんだ」

 

 でもだからこそ、こいつはヒーローなんだと思う。誰かのために動けるからこそ織斑一夏なんだと。

 

「……でも最後には一緒に助けようって言ってくれただろう? あれは嘘か?」

「う、嘘じゃない!」

「……ならそれでいいだろう」

「でも……」

 

 先ほど提案されたのは嘘じゃないと若干慌てて否定するも、やはり納得は出来ないらしい。直ぐに俯いてしまう。

 

「……あんな事は言ったが、俺もこうして戦おうとしている。目的は違ったかもしれないが、手段は同じだ。それに」

「それに?」

「……諦めるのがまだ早いなら、ヒーローじゃないって決めるのもまだ早い。これから幾らでも巻き返せる」

「っ!」

 

 ふと視界の端でシャルが大きく丸のサインを出してきた。もう大丈夫だと確認すれば、そっと手を下から差し出す。

 その頃には一夏も吹っ切れたようで、はっと顔をあげたかと思えば差し出された手を見て薄く笑みを浮かべた。

 

「……行くぞ」

「おう!!」

 

 差し出した手を一夏が手のひらで上から叩き付けるようにすると乾いた良い音が鳴り響く。こちらのやる気に比例するかのように大きな音が。それがゴングの代わりとなり、同時に二人で一斉にISを展開。

 

 さぁ、二対一の変則タッグマッチと行きますか。




VTシステムはあと二話ぐらいで終わって、箒さんと買い物とかする予定でがんす。

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