IS学園での物語 作:トッポの人
「避難勧告聞かない悪い子達みーつけたっ」
「お姉ちゃん……」
観客席に残った人がいないかを確認しに行けばそこには良く見知った面々がいた。声を掛ければ愛らしい妹と共にセシリアちゃんと箒ちゃんもこちらへ顔を向ける。
逃げ遅れた訳じゃない。何故なら彼女達とは避難の途中でたまたま出くわしたのではなく、きちんと席に座っているところを見つけたのだから。
「ところで何で鈴ちゃんは俯いてるの?」
「…………」
「えっと、鈴さんは……その……」
ふと、ずっと顔を手で覆って俯いている鈴ちゃんが気になった。こうして名前を出されてもピクリとも反応しない。普段活発なこの子にしてみればかなり珍しい光景だ。
一体どうしたのかと訊ねればセシリアちゃんが答えようとする。苦笑いとも何とも言えない表情を浮かべて。
隣を見れば簪ちゃんも、箒ちゃんも似たような表情をしている。もう一度どうしたのか訊こうとした時、俯いたまま鈴ちゃんが独り言のように呟いた。
「待って……ねぇ、待って……。さっきの一夏凄くカッコ良かった……」
「へ?」
えっ、この子ってば急にどうしちゃったの?
「先ほど交わした一夏さんとのやり取りが心に響いたようでして……」
「一方的に通信を切ってからずっとあの調子なの」
「そ、そうなんだ……」
「鈴、その……落ち着け。な?」
「はぁー…………好き……」
ついつい出てしまった間抜けな声を出した私にセシリアちゃんと簪ちゃんが説明してくれた。その横で箒ちゃんが鈴ちゃんを落ち着かせようとするも、熱っぽい吐息が漏れるだけ。
何かただのファンみたいになっちゃってるけど、本来の役目を果たさないと。
「放送は聞こえたでしょ? 早く避難しなさいな」
「それは……出来ません」
「嫌です……」
今どういう状況かはこの子達はちゃんと分かっている。だがそれでも箒ちゃんだけじゃなく、顔を伏せたままの鈴ちゃんもこれには反応してきた。
「……何でか聞いていい?」
「私は前回見る事しか出来ませんでした……今回も見る事しか出来ないんです……」
ゴーレムが襲来した時、酷い言い方だけどここにいる中で唯一箒ちゃんだけが戦いに参加していなかった。専用機を持っていないのだから当然だ。それについて誰も責めたりはしない。
でもそれは彼女の中では仕方ないで済ませられない話のようだ。悔しそうな声と膝の上で固く握られた両手がそれを物語っている。
「だから、せめて近くで見ていたいんです。春人が……春人と一夏が勝って無事に帰ってくるところを」
「それに勝手ですが、春人さんには約束しましたから」
「傍にいるって……約束したの」
だからこの場から離れない。たとえここがどれだけ危険な場所だったとしても。
口にはしなかったけど、言外に込められた思いは確かに私にも届いた。今VTシステムと対峙している二人が戻ってくるまでこの子達は決して動かないだろう。
「はぁ……虚ちゃん、本音ちゃん」
《会長、どうかされましたか?》
《何かありましたー?》
堪らず溜め息を一つ。その後、直ぐに同じように他を探していた虚ちゃん達へ通信開始。ウィンドウ越しに簪ちゃん達を見て何となく察したようだった。
「二人とも探すのはそこで最後よね? そしたら観客席に来て。悪い子達を見守らなきゃいけなくなったから」
《りょーかいでーす!》
《いいんですか……?》
「来れば分かるわ。この子達動こうとしないもの。そ、れ、にぃ……」
《な、何ですか?》
にんまりと浮かべた笑みに虚ちゃんがたじろぐ。それは言葉にも滲み出ている。
「虚ちゃんだって本当は春人くんを見守りたいんじゃないのー?」
《な、ななな何を言って……!?》
真っ赤になって否定しようとするも噛み噛み。こんな虚ちゃんを見るのは初めてだ。
非常に分かりやすい反応をされれば笑みがより深まるのも仕方ない。
《お、お嬢様こそ櫻井くんの事を見守りたいからそうしているのでしょう!?》
あらあらまぁまぁ。虚ちゃんってばそんなありきたりで、何ともつまらない返ししか出来なくなるなんて相当追い詰められているようね。ちゃんときっぱり違うと言っておかないと。
「そ、そそそそんな事ないですし!? べ、べべべ別に私は……」
そこまで言い掛けて、視界の端で自ら一夏くんへ手を伸ばす春人くんの姿が見えた。シャルロットちゃんも離れたし、そろそろ戦いが始まるのかもしれない。
「鈴、そろそろ始まるぞ」
「うん……」
箒ちゃんに言われて鈴ちゃんも顔をあげた時だった。暗い表情だった一夏くんが少し笑って差し出された手を叩くと、春人くんが嬉しそうに少しだけ笑った。
「「「ん゛っ」」」
《えっ、何ですかその反応は》
思わぬサプライズに鈴ちゃんを除いた面々が胸を抑える。といっても鈴ちゃんも一夏くんの顔を見てまた顔を覆っていたけど。
その光景はさっきまでからかわれていた虚ちゃんが冷静になって訊ねてくるほど不思議なものだった。
「まずは俺から行く!」
「頼んだ!」
『行くぜ行くぜ行くぜぇ!!』
《Complete》
二人ともISを展開と同時に突撃。久し振りの全力戦闘をするべく、ラファールの各部装甲が展開されていく。織斑先生からの許可はとっくに出ていたらしい。
準備が整ったと機械音声が教えてくれるとスレスレで飛んでいたところで地面を踏み込んだ。
《Start up》
「加速しろ、ラファールッ!」
「『――――』」
言葉と共に地面を蹴れば土埃が巻き上がり、その中で応えるようにスラスターが煌めく。
こちらが近付いたためか、VTシステムが顔を向け、鞘はないが抜刀術のように刀を腰に構えた。
さっき一夏を倒した時と同じ構えだ。一撃目で相手の武器を弾き、無防備な状態にしてから本命の二撃目を叩き込むというもの。
だが何であろうと関係ない。俺は俺が出来る事をやるだけだ。
「はぁぁぁ!!」
掛け声と共に上段から一閃。振り下ろした刀は甲高い音を奏でると、横一文字に放たれた黒い『雪片』によって俺の手から空高くへ離れる。
「ナイスパァス!!」
「だろう!?」
「『――――』」
そこへ俺の後ろから風で隠れていた一夏が飛び出した。右手に『雪片』を、左手に今弾かれたばかりの『葵・改』を手に。
二振りの刀で十字に切り裂こうとしているところに合わせるべく、俺も左側に回り込んで右腕を引き絞る。放つのは軽くて速いパンチだ。
「でやぁ!」
「ふんっ!」
二方向からの同時攻撃。どちらかを防ごうものならもう片方の攻撃は与えられる。そういう算段だった。即興の連携にしては上出来だと思う。
だが、そんな状況だというのに何もない能面の顔がまたにやりと笑った気がした。
「なっ!?」
黒い『雪片』の切っ先で襲い掛かる二刀の交点を抑えられる。簡単に言ったが、恐ろしく難易度の高い技だ。武器を持っていた一夏の方が危険だと判断したらしい。
ならばと踏み込んで殴り掛かるも後ろに下がって避けられる。その際に背中を押されて一夏の前まで引きずり出された。
「やべっ!?」
『任せて!』
「ぐっ!?」
抑えられていた刀も解放される。一夏も咄嗟に俺を切り裂く寸前で何とか踏み止まるも、続く俺に放たれた前蹴りで二人纏めて吹き飛ばされてしまった。
蹴られる直前にミコトのサポートで『ヴァーダント』が展開され、特にダメージもなく吹き飛ぶだけで済んだ。一夏も俺にぶつかっただけでそこまでのダメージはない。
「ちぃっ!」
「練習してるけど二刀流はまだダメか……返す! そんで次は俺だぁ!」
体勢を建て直すと『葵・改』を投げ渡し今度は一夏が、白き騎士が先に飛び出す。その手に唯一の武器である真っ白な刀を持って。
『春人、合わせるよ!』
おう!
先を行く騎士を援護するべく両手を胸の前で合わせて声高らかに叫んだ。
「アルゲンティウム・アストルム!」
手を拡げると左手に眩い輝きを放つ黄金の弓が顕現する。
何も持たずに弓の弦を引こうとすればそこから黄金の矢が一本。途中まで引けば上下に更に一本ずつ。最後まで引くと計五本の矢が番えられていた。
「『
『Yes.Master』
放たれた五本の矢はその数を無数に増やしていく。一本が数本となり、数本が十数本となり、十数本が数十本となる。やがては合計で百を優に越える数が一斉にVTシステムへ向かう。より正確に言えばその周囲一帯へ。
「『――――』」
さっきは避けなかったが、シャルが攻撃した時のような動きをされたら厄介な事この上ないし、今度もしないという保証もないのだ。
それを防ぐためにも『天狼星の弓』で周囲への攻撃を重視しつつ、システムにも攻撃。逃げ場をなくせば留まるだろう。
難点としては周囲一帯への攻撃なので近寄りがたい事か。VTシステムでさえ動かずに切り払っているくらいだ。
『この状況なら動かない、近付かないが懸命だね』
――――まぁ、それでもあいつは行くんだろうなぁ。
「おぉぉぉ!!」
『ヒュー!』
後ろからやってくる数多の矢なんて気にもせず、件のあいつは近付くと刀の形状を変化させた。
ほぼ柄だけの状態から発生したのはエネルギー状の白い刃。『零落白夜』だ。上段に構えたそれを再びVTシステムがあの構えで迎撃しようとする。今までの事を考えると狙いは白の『雪片』を弾く事だろう。
「ぜやぁ!!」
「『――――』」
「――――なんてな!」
白い刃と黒い刃が交差しようとする瞬間、白の刃がその姿を消した。黒い刃が空を切る。
断じてエネルギー切れではない。何故なら次の瞬間、相手に向けて水平にした柄から再び白い刃が復活したのだから。
「貰ったぁ!!」
「『っ!』」
霞の構えから踏み込んで放たれた突きは回避行動により仕留めるにはいかないまでも、切っ先がVTシステムの脇を掠めるのに成功。
漸くダメージを与えられた。大きな一歩だ。
だからそれに続かないはずがない。
「シッ!」
「『――――』」
「うおっ!?」
回り込んで再度三本の矢を番える。今度はさっきまで放っていたものよりも少し大きい。決して無視出来ない三本の矢を放つとVTシステムは一夏の手首を掴んで引き寄せて盾代わりに。
避けろなんて言っても到底間に合わない。そもそも掴まれたままだし、矢は待ってくれない。このままだと矢は真っ直ぐ一夏に当たってしまう。
「『っ!?』」
だが三本までなら俺も
こちらの意思を読み取った矢は曲がりくねって綺麗にVTシステムにだけ命中する。一夏を引き寄せたせいで切り払うのも出来なくなっていたようだ。
「せいっ!」
そこで間合いを取るべく一夏が蹴りで追撃……にしては派手に飛んだ。体勢を立て直すために自分から距離を取ったと考えるのは難しくない。
「させるかっ!」
『バッター初球、打ちました!』
《Three》
地面を蹴るのと瞬時加速を併用して一気に加速。VTシステムが飛んだ先に回り込み、呼び出した槍を相手の背中に押し当ててから振り抜いた。『零落白夜』を発動させてこちらへ向かってくる一夏の方へと。
「決めろ、ヒーロー!」
「でぃぃやぁぁ!!」
「『――――』」
《Two》
すれ違い様にVTシステムの肩から切り裂いて、一夏が俺の隣に降り立つ。振り払うようにして『零落白夜』を消した一夏へ訊ねてみた。
《One》
「……どうだった?」
「大した事なかったな」
『イッケメン、イッケメン!』
やだ、カッコいい……。
《Time out.Reformation》
本気を出してからちょうど一分だったようで機械音声と共に装甲が閉じていく。
VTシステムが握っていた黒い『雪片』もその手から離れ、それがこの戦いの終了を告げる合図……となるはずだった。
「ああああっ!!」
「「っ!?」」
何故かくるりと振り返ったVTシステムから覗くボーデヴィッヒが苦痛に喘ぐような声をあげる。まだ終わってはいないらしい。
一夏が切り裂いた傷が修復されていく中、確かにそれは聞こえた。か細くて今にも消えてしまいそうだけど、空耳なんかじゃない。
「た、すけ……」
「っ、ボーデヴィッヒ!」
『待って!』
最後まで言えずに黒に塗り潰されたそれは確かに助けを求めるものだった。駆け寄ろうとした瞬間、ミコトから待ったが入り、寸でのところで立ち止まった。
「な……何だよ、あれ」
がくん、と力なく俯くと紫電が迸り背部が蠢いて徐々に形を成していく。やがて出来上がったそれは白式のウィングスラスターに似ていた。
紫電が収まり、形状の変化も収まると何もない顔がゆっくり上がっていき……。
こちらに向けられた瞬間、背筋が凍った。
「来るぞ!!」
「分かって、っ!?」
やばい。そう感じて即座に一夏へ呼び掛けるも、次に見たのは土煙をあげて一気に距離を詰めているVTシステムの姿だった。
「が、はっ……!」
固く握られた右拳がさっきのお返しとばかりに一夏の腹へ叩き込まれてくの字に折れ曲がる。更に後頭部へ肘打ちをお見舞いし、地面に叩き付けられ、白式が光と共に消えてしまった。微かに動いてるのを見ると気絶したらしい。
「一夏っ!」
『春人!』
無防備となった一夏に更なる追撃は許されない。カバーに入ろうとしたが、そんなのは必要なかった。
また土煙をあげて今度は俺だと、再度拳を握り締めて来たのだから。
「ぐっ、お!?」
「『――――』」
『これ、春人と同じくらい……!?』
一夏にしたように突き上げるボディブローが放たれるも何とか両腕でガード。
その気はなかったが、上空に吹き飛ばされると追ってきてまたガードの上からボディブローが放たれる。ガードなんて関係ないとでも言うように。
「こ、この……がっ!?」
三度目の正直とはよく言ったもので、三回目にして両腕の防御を破ると踏みつけるようにして一気に地上へと落とした。
凄まじい力で地面と激突しそうになるが寸前で姿勢制御。片手を地面につけた状態で未だ上空にいるVTシステムを睨み付ける。一先ず追撃は来ないようだ。
何度か手を閉じたり開いたりしていると一際強く握り締めた。
「『アップグレード完了……くっくく!』」
聞こえてきたのはやはりボーデヴィッヒと別の誰かが被さった声。喜びのあまり腹の底から出るような笑い声が漏れている。
「『手に入れたぞ。お前の力! これで我らに勝てるものはいない!』」
「……どういう事だ?」
未だ痛みが走る腹を抑えながら訊ねてみた。
「『そのままだ。これまでの戦いから得たデータでお前の力を再現した。まさか全力を出してなかったとは思わなかったぞ……!』」
『何かしてたのは春人の戦闘データを解析してたのとそれを反映させるため……!』
えっ、ちょっと待って。何で俺なん? もっと他に再現するべきやつはいただろ。
『春人さん力持ちだから……』
えっ、選ばれた理由それだけ……?
「『どうだ、大した事ない相手に一方的にやられる気分は?』」
「…………?」
「『ちゃんと聞こえていたぞ。我らを大した事ないと言っていただろう』」
やはりあの時一夏との会話に反応したのは気のせいではなかったらしい。ゆっくりと降りながら『雪片』が置いてある場所に向かっていく。
「『さぁ、教えてくれ。今はどうなんだ?』」
「…………そうだな」
黒い切っ先を向けて再度問い掛けてくる。余程さっきの発言が頭に来ているようだ。
言われて態とらしく勿体振って目をつぶって考えてみる。距離はあるが、今のVTシステムなら一気に距離を詰められるだろう。しかも既に答えなんて出ているからこんなのは無駄でしかない。防御していた両腕や直撃をもらった腹に痛みが残っているが、譲る気なんてなかった。
「……大した事はない」
「『ほう……?』」
瞬間、VTシステムが地面を蹴って一気に近付くと力任せに刀を振り降ろしてきた。咄嗟に『ヴァーダント』で防ぎ、こちらも刀を呼び出す。
「くっ!」
「『そのでかい口を叩けなくなるよう、じっくり思い知らせてやる!』」
「ちっ、第伍十戦術!」
《Dual up!》
気休めにしかならないと思いつつ、第伍十戦術を発動させたが本当に気休めにしかならない。
《シャル、一夏を連れて下がれ!》
《お、お兄ちゃんも逃げようよ! そんなの勝てるはずないよ!》
《いいから連れて下がれ!》
《う、うん》
気休めにしかならないが、対応出来ない訳じゃないんだ。力も速さも相手が上なんて状況もこれが初めてでもないしな。
ただ周りに気を使う余裕はない。なのでプライベートチャンネルでシャルに一夏を任せるとまた目の前のこいつに集中する。
『大丈夫、切り札はあるよ! ただちょっと時間掛かるからそれまで持ちこたえて!』
期待しないで待ってる!
元にした変態合体攻撃はランページゴーストでした。分かりにくいね、仕方ないね。
次回の台詞?を一つ抜粋
《Max Hazard on》
ただFGOの水着イベが来るから次回はいつですかね……?