IS学園での物語   作:トッポの人

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こいつぁひでぇや。
あとあとがきにウサギさんの事を載せてます。


ネタバレ
ミコトちゃんはお休みです。


第48話

 色々と波乱があった翌日。よく分からない事態に巻き込まれたりしたが、幸いな事に今日は休み。ゆっくりしようと思ったが朝から整備室に来ていた。

 目的は未だ整備中のミコトとラファールの様子を見に来たのと、少しでも布仏先輩達の力になれればと手伝いに来たのである。

 

 いや、自分の相棒の事なんだからもっと頑張れよ俺。

 

「……悠木先輩、おはようございます」

「おっ、おはよー。朝早くからどうしたの?」

「……何か手伝いでも、と」

「ほうほう……オッケー、ちょっと待ってね」

 

 入室した時にたまたま近くを通り掛かった悠木先輩に挨拶すると明るく返してくれた。いつも薄暗い俺と違い、朝だというのに非常に元気が良い。

 と、挨拶もそこそこにウィンドウを開いて誰かと通信を始めた。いや、相手が誰かなんて聞くまでもない。悠木先輩のにやにやと浮かべている笑みを見れば嫌でも分かってしまう。

 

 《悠木? どうしたの?》

「櫻井くん来たわよー」

 《えぇ!? な、何で!?》

「それは私よりも虚の方が分かってるんじゃない? とにかく早く来る事!」

 《うっ、うぅ……》

 

 やはりというか、悠木先輩が口にした名前と聞こえてくる声は布仏先輩のもの。俺が来た事にかなり動揺しているようだが、そこまで驚く事だろうか。

 それと悠木先輩には今理由を話したばかりだから分からないなんてあり得ない。何故嘘を吐いたのかが気になる。

 

「これでよし」

「…………あの」

「もう少しで虚が来るから待っててっ」

「……はぁ」

 

 嘘を吐いた理由を訊ねようとすれば弾むような声で遮られてしまった。何やら凄く楽しそうなこの人に訊いても答えてはくれないだろう。仕方ないので大人しく待とうした時だった。

 

「お、お待たせしました……」

 

 聞き慣れた声に振り向けばそこにはツナギ姿の布仏先輩がいた。呼び掛けたものの、何故か恥ずかしそうにこそこそと隠れながら。

 

「…………何で隠れてるんですか?」

「だ、だって……」

「櫻井くん。女の子はいつだって綺麗な自分を見てもらいたいのよ」

「悠木!」

「……なるほど」

 

 遠くから小さい声で説明しようとする布仏先輩の代わりに悠木先輩が簡潔に教えてくれた。分かりやすく動揺しているところを見るにどうやら図星らしい。

 確かに微かに見えるツナギが少し汚れている。既に作業を始めていたようだ。少し出遅れたのを申し訳なく思うと同時、どうしたものかと悩んでいると後ろから陽気な声が聞こえてくる。

 

「おーおー、何か楽しそうな事になってるじゃないの」

 

 振り返れば悠木先輩と同じように楽しげな笑みを浮かべている藤尾先輩が近付いてきた。

 横を見ればにやにやしている二人に、真正面には若干顔を赤くしてこそこそ隠れている布仏先輩。俺がこの状況をどうにかするのは非常に難しい。

 

「…………すみません、どうにかしてください」

「ふむ、お安いご用だ」

「……いいんですか?」

「任せてくれ。勝利の法則は決まった」

「???」

 

 こちらのお願いをあっさり引き受けてくれた事に戸惑いつつ再度確認すると、顔の近くで立てた人差し指を横にスライドさせて手を広げるという謎のポーズを決める。ドヤ顔で言っている辺り、藤尾先輩にとって決めの台詞とポーズなのだろうか。

 

「さぁさぁ。虚は放って置いて、向こうでお姉さん達ととっても有意義な話をしようじゃないか」

「おお、いいね!」

「っ!?」

 

 そう考えるのも束の間、藤尾先輩は俺の腕を取って奥へ引っ張ろうとする。そこに悠木先輩も便乗してきた。方角的に布仏先輩から遠ざかろうとしているらしい。

 訳が分からず、引っ張られるまま藤尾先輩にどういう事か訊ねてみた。一応布仏先輩には聞かれないように小声で。

 

「……あの、これは?」

「単純な話さ。言ってもダメなら向こうから出て来てもらうだけだ。君という美味しそうな餌を使ってね」

 

 なるほど、一つを除いて言いたい事は何となく分かった。押してダメなら引いてみろってやつだ。ではその一つを改めて訊ねる事に。

 

「…………俺は美味しくないと思いますが」

「餌役になるのは皆そう言うんだよ。自分がどれだけ美味しいのか分かっていないものなの」

「わ、私も行きます!」

「ほらね」

 

 うぅむ、どうやら本当に俺は美味しい餌みたいだ。こそこそ隠れていた布仏先輩があっさり出てきた。こちらに焦りさえ感じさせるほどの素早さだ、余程美味しそうなのだろう。

 

「えっ、や、やっぱり汚い……?」

「……いえ、そうではなくて」

「?」

 

 近付く間も、直ぐ側まで来てからも、じっと見ていたからか布仏先輩が不安そうに訊ねてくる。

 

「……布仏先輩」

「何かしら?」

「…………俺の事、食べないでくださいね」

「食べませんっ!!」

「「ほほーう」」

 

  何か真っ赤になって怒られてしまった。横を見ればさっき以上ににやにやしている二人。しまった、余計な事をしてしまったようだ。少しだけ反省。

 

「さてさて、虚も来た事だし私は退散するわねー」

「……すみません、ありがとうございました」

「はいはーい。あっ、そうだった」

「?」

 

 軽く頭を下げて礼を言うと、悠木先輩は手をひらひら振りながら奥に行こうとしてまた戻ってきた。何か思い出したようだ。俺の元へまたやって来る。

 

「虚の事、ちゃんと名前で呼んであげなさい」

「…………何でですか?」

「その方が喜ぶからよ」

 

 んん? そんなもんかね?

 まぁ喜ぶというならやってみよう。

 

「……分かりました」

「じゃ、上手くやりなさいねー」

 

 俺にしか聞こえないようそっと小声で囁いたかと思いきや、最後に他の人にも聞こえるように大声で。

 先の俺とのやり取りに加えて、今の発言にまた布仏先輩の顔が赤く染まる。

 

「んん! で、でも藤尾にお願いしたい事もあったからちょうどいいわ」

「露骨なお茶の濁し方だけどまぁいいか。私に何の用?」

「くっ……」

 

 空気の切り替えだと分かっているのに素直に返事しないのがこの人らしい。しかし、ほんの少しだけ真面目になったようで笑みは変わらず浮かべているが、からかうようなものではなくなる。

 

「去年作ってた大剣と両手剣を使いたくて」

「えー……あれを使いたいの?」

「あっ、ごめんなさい。ダメだった?」

「いや、いいんだけど……あー、やっぱり良くないというか……うぅん」

 

 お願いの内容を聞いた途端にその表情が曇る。あまり気乗りしないらしい。そうなると興味が湧いてくる。

 

「……どういうのなんですか?」

「ああ、じゃあ見せながら説明するわね」

 

 すると布仏先輩がいつも持っている端末から俺といつもの装備とは違うラファールの立体映像をその場に映し出した。

 そこには『ヴァーダント』が装備されていない。その代わりに両肩に機体全長ほどもある幅広な大剣、背部に同じくらい長大な両手剣が装備されている。

 

 わぁお、更に剣に特化してらっしゃる。何処に行こうとしてるのラファールさん。

 

「これが装備例。大剣に干渉するから『ヴァーダント』は外してるの」

「……しかし、それでは防御面が」

「あー、心配しなくていい。大剣にはバリアを展開する機能があるし、そもそもかなり頑丈に設計してるからね。盾代わりにしても問題ないんだよー」

 

 やる気が限りなくないが、こちらの些細な疑問に答えてくれた。なるほど、だから『ヴァーダント』を外しても大丈夫であると。

 しかし、これは相当鈍重になりそうな見た目だ。一応『ヴァーダント』には小型のスラスターが付いていたため、防御面では大丈夫かもしれないが機動性に些か不安が残る。

 

「そしてこの大剣と両手剣にはもう一つ機構があるのよ」

 

 布仏先輩の言葉と共に端末に何か打ち込むと大剣と両手剣がその姿を変えた。刀身が二つに展開され、平仮名の「く」のように。

 これは何かと問う前に察してくれたのか、藤尾先輩が口を開いた。

 

「刀身の中にスラスターがあってねー。こうして展開する事で高機動モードに早変わりするんだー」

「勿論、見た目通り大剣や両手剣として振るっても構わないわ」

「おお……! 凄い……!」

「っ!」

 

 二人の説明に思わず感嘆の声が俺の口から漏れる。この変形機構がカッコいいというのもあるが、これだけで近接だけとはいえ攻撃、防御、機動が出来るのは相当凄いだろう。

 そんな単純な俺の感想にさっきまでやる気なしだった藤尾先輩がこちらの肩を掴んで来た。まるで子供のように目一杯瞳を輝かせて。

 

「そうでしょ? 凄いでしょ!? 最高でしょ!? てんっさいでしょ!?」

「藤尾、落ち着いて!」

 

 興奮しすぎて俺の肩を必死に揺らしてくるのを布仏先輩が止めてくれた。久し振りにこの台詞聞いたけど、ここだけ聞くとやばいひとだな。

 しかし、そこまで喜ばれるとどうやらこの武器はそれなりには気に入っていると分かる。そうなれば益々気になる事が出てきた訳で。

 

「……でもどうしてあまり乗り気じゃなかったんですか?」

「そういえば何で?」

 

 これだけ喜んでいたらこの人の事だ、直ぐに見せびらかそうとするはずなのに隠してただけじゃなく、今使おうというのにも良く思っていない。

 

「はぁ……」

 

 そう言うや否や、天井まで上がっていたテンションが再び地の底へ。何やら深い溜め息を吐かれてしまい、布仏先輩と二人して首を傾げてる。

 

「見てみた方が早い……」

「「?」」

「これ、どう思う?」

「どう、って言われても……」

「…………むぅ」

 

 布仏先輩の端末を操作すると左肩の大剣を手に取った姿が映し出された。これが何だと言うのだろう。

 布仏先輩と二人して困り果てていると、分かってもらえないためか若干怒りまじりの口調で衝撃の答えが飛び出した。

 

「左右対称じゃなくなってカッコ悪いでしょうがっ!!」

「えぇ……」

「はぁ……」

 

 使いたくない理由それかよ……。

 

 確かに片方の肩にだけ大剣が装備されているのは少しカッコ悪い。でもまさかそんな理由だとは誰も思い付かないだろう。

 あんまりな理由に呆れていると布仏先輩も困ったように頬に手を添えた。作業で少し汚れてしまった手を。

 

「あっ」

「ん? 何?」

 

 思わず出た言葉に布仏先輩がこちらに振り向く。やはりというか、その綺麗な頬にそぐわない黒い汚れを残して。

 

 ここで汚れてますよと言ってしまうとまた何処かに隠れてしまうだろう。最悪、お前の方が汚いと言われる可能性もある。死にたい。

 かといって言わないなんてのは論外だ。という訳で布仏先輩には隠密に、バレないようにこの汚れを落とす必要がある。

 

「……動かないでください」

「えっ……?」

「お?」

 

 そこで持ってて良かったハンカチの出番なのです。箒に毎朝持ってるかと確認されている内に自ら持つようになっていた。

 汚れてしまった布仏先輩の頬になるべく優しく押し当てて拭いていく。

 

「な、何を……?」

 

 藤尾先輩も近くにいるからか羞恥で赤く染まっていく顔。考えてみれば物凄く恥ずかしい事をしている。誤魔化さなくては。この人のためにも、あと俺のためにも。

 

「…………虚さん」

「っ、は、はい」

 

 悠木先輩に言われた通り、名前を呼ぶと緊張した様子で変事をする。釣られてこちらも緊張してしまうが、ここで会話しなければ話にならない。

 

「…………その、いつもありがとうございます」

「っ!?」

「おお?」

 

 誤魔化そうと話をする事にしたのはいいものの、話題が思い付かなくて日頃の感謝を言えば更に赤く染まった。

 何か言いたいのか、酸素を求めているのか虚さんは口の開閉をひたすら繰り返す。こうしている間にも頬を拭いていけば頬もすっかり綺麗になっていた。

 

「は、あ、う……」

「…………虚さん?」

 

 だが、代わりに虚さんはトリップしているらしい。気付けば頬に触れていた俺の腕を支えにしないと立てないのか、足を震わせながら両手で必死に掴んで立とうとしている。

 口から漏れでる言葉に大丈夫かと名前を呼べば、はっと気付いた。漸く遠くから帰って来たようだ。

 

「ご、ごめんなさい!」

「……はい」

「く、くくく!」

「あらあらまぁまぁ」

 

 何故か虚さんに謝られ、それを近くで見ていた藤尾先輩と遠くから様子を見ていた悠木先輩に笑われるという混沌とした事態に。

 ともかく、大剣と両手剣に関してはこの後使用許可をもらえた。なんでも、面白いものを見せてもらったお礼だそうだ。しかし、それを聞いていた虚さんから整備室を追い出されてしまうはめに。何しに来たんだろう俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚さんに追い出されたあとは仕方ないので自室に戻って模様替えをしていた。といってもそこまで大掛かりでもない。シャルがいなくなり、一人部屋になったので贅沢に二つのベッドをくっ付けるだけだ。これぞ真のダブルベッドよ。

 早速二つのベッドの真ん中に胡座をかいてみる。夏だというのに気持ちいい風が吹いているし、広々してて中々いい。今日からここが俺の寝床だ。と、部屋の扉が開かれた。

 

「お邪魔しまーす」

「……布仏か」

「おー、ベッドくっ付けたんだね」

「……ああ」

 

 間延びした声と共に布仏が部屋に入ってくると真っ直ぐベッドに近付いてくる。というよりはそこにいる俺に、が正しいのかもしれない。

 

「……何をする気だ?」

「お昼寝ー。だから背中かーして」

 

 訊ねればあっさり答えが分かった。どうやら俺の背中で昼寝をしたいらしい。

 

「…………いや、昼寝するなら自分の部屋に」

「お休みなさーい」

「……おい」

「ぐー」

 

 必死の抗議もむなしい結果となり、俺の背中に寄り掛かるようにして布仏は寝てしまった。それにしても寝るのがやたら早い。

 まぁ外で昼寝する時はいつも膝を借りているからこれくらいはしないと罰が当たるか。そう思って携帯を弄って時間を潰す事に。

 

「すやぁ……」

 

 一時間は経っただろうか。一向に起きる気配がしない。寄り掛かっているのでろくに動けないのがこんなに辛いとは。というか喉が渇いた。

 

「春人、いるか?」

「……どうぞ」

 

 部屋にノックしてからやって来たのは箒だった。皆と一緒に訓練に参加していたはずだから、もう訓練も終わったようだ。

 ナイスタイミングとしか言えない救援に神に感謝しつつ、この渇きを伝えるとしよう。助けてください。

 

「……すまない、冷蔵庫から水を取ってくれないか?」

「構わないが何故自分で……ん?」

「ぐー……」

 

 途中まで言い掛けて俺の背中で布仏が寝ているのに気付いたらしい。説明する手間が省けたのを喜ぶべきか。

 箒は溜め息を一つ吐くと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、俺へ差し出す。困ったような、呆れたような笑みも添えて。

 

「仕方ないな。ほら」

「……ありがとう」

 

 受け取った冷たいミネラルウォーターを口に含むと身体に染み渡る。生き返る……。

 

「ところで本音は何をしているのだ?」

「……昼寝らしい」

「そうか……。ふふっ」

「……何故笑う?」

 

 布仏がこうしている理由を教えれば何故か笑われてしまう。

 

「どうせ断り切れなかったんだろう? それがお前らしいなと思ってな」

「……むぅ」

「ほら、もう飲まないのだろう? また冷蔵庫に入れておくから渡せ」

「……お願いします」

「ああ、お願いされましたっ」

 

 その時の俺を想像しているらしく、実に楽しげな様子の箒。あながち間違っていないだけに否定も出来ない。

 くすくす笑っている箒に飲みかけの水を渡して冷蔵庫に仕舞うと、ベッドに座っている俺の横へ。

 

「…………おい」

「私も眠くなってしまったなー。横になると寝過ぎてしまいそうだー。仮眠を取りたいものだがどうしたものかなー」

 

 俺の右側に陣取った箒はこれまた俺に寄り掛かりながら片目でこちらを伺ってくる。

 

「…………好きな場所で寝ればいい」

「ふふっ、そうさせてもらおう」

 

 そう言うと俺の肩に頭を預けて満足そうな表情で目を閉じた。少しすれば安らかな規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

 えっ、好きな場所ってそこなの。どんな物好きなのさ。てっきり寝るから起こしてくれって意味だと。ていうか余計に動けなくなってしまった。どうしよう。

 

「春人さん、いらっしゃいますか?」

「……開いてるから入ってくれ」

「お邪魔致し、っ!?」

 

 どうしたものかと悩んでいれば、続いてやってきたセシリアは部屋に入るなりその動きを止めてしまう。まぁ部屋に来たらベッドの上で胡座かいてる男に美少女二人が寄り添ってるのだから無理もない。

 

「は、春人さん? これは一体……?」

「…………昼寝だそうです」

 

 セシリアから放たれるプレッシャーに負けてつい敬語で応えてしまう。

 

「そう、ですか……っ」

 

 その返事を聞いて暫く俯いて震えていると、意を決したように顔をあげてこちらへずんずん突き進んでくる。

 身構えようにもこの状況では見る事しか出来ず、セシリアの姿を目で追っていくと。

 

「し、失礼致しますっ!」

 

 宣言と共に俺の左側に座り込んだ。俺の腕を取り、その細くて軽い身をこちらへ預けて。何でやねん。

 

「…………何でそうなる」

「あらー? 箒さんや本音さんは良くてわたくしはダメなんですの?」

「……むぅ」

 

 ジト目でそう言われると益々言い返せない。これまでも散々思い知らされてきたが、美人は迫力があるのは本当なのだ。

 

「…………分かった。好きにしてくれ」

「はいっ。好きにさせてもらいます」

 

 観念すればセシリアは一転して華が咲いたような笑顔を向けた。嬉しそうにしているのを見ると最初からそうしておけば良かったと思ってしまう。

 

「今から見る夢が楽しみですわっ」

「……悪い夢なら起こそう」

「あら、そんな事はありません。間違いなく、良い夢になりますわ。あなたがこうして側にいてくださるのなら」

 

 何を根拠に言っているのか分からないが、セシリアはそう信じて疑わない。誰が何と言おうとも。決して言わないが、何より目が語っていた。

 

「……ならあとでどんな夢だったか教えてくれ」

「ええ、幾らでも。ですから……」

 

 夢なんて忘れる時はあっさり忘れるものだ。覚えていられる保証なんてない。

 しかし、こちらの無茶振りにもセシリアは自信たっぷりに応える。そして取っていたこちらの腕をぎゅっと握り。

 

「ですから側にいてくださいね」

「…………ああ」

「ふふっ。ちゃんと聞きましたっ」

 

 頬を染めて懇願してきた。その姿に思わずドキリとしたのは言うまでもない。セシリアも俺の空返事を真面目に受け取って寝付いてしまった。

 これで左右背後とほぼ囲われている状況になったのだが……。

 

「嫁よ、今帰ったぞ!」

「お兄ちゃんは嫁じゃ……! えっ、何この状況」

 

 勢い良く扉を開けて登場したのは俺の旦那であるらしいラウラと妹のシャル。何で同じタイミングで来たのかは恐らく部屋が同じになったからだろう。ここまでは同じだったのに俺の状況を見て固まってしまったのがいけなかった。

 

「あっ、ちょっと!」

 

 シャルの声も虚しく、ラウラは一目散に俺の元へ向かい、唯一空いていた正面に座る。具体的に言えば胡座の上に座った。

 

「ちゃんと夫の場所を残しておくとはさすが嫁だな」

「…………夫の場所?」

「うー……!」

 

 直ぐ側まで来て恨めしそうに唸るシャルを尻目にラウラに夫の場所について訊ねてみる。

 まぁ放置するという訳にもいかないのでセシリアに掴まれていてあまり自由は効かないが、可能な範囲で手を差し出すと途端に明るくなって手と遊び出した。

 

「部下にここは良いものだと聞いてな。うむ、聞いた通りだった。これからここは私の特等席だ」

 

 何やら勝手に席を決められた件について。というか俺が椅子認定されているんですが、それは。

 

「……座ったばかりで良いも悪いも分からないだろう」

「確かに。だが一つだけは分かる。それだけで私は充分だ」

「…………何だ?」

 

 何が良いのかと訊いてみれば、ラウラは態と浅く座り直して寝転ぶようにすると下に向くよう俺の顔を掴んでご対面。以前からは考えられなかった柔らかい笑みを浮かべ、こう応えた。

 

「――――こんなにも近くにお前がいる。他の椅子では味わえない最高の贅沢だ」

「…………そうか」

 

 もう何て言えばいいか分からないよ……。この子は一体どうしちゃったの。

 

 助けを求めようとシャルに視線を向ければ足元に寝転がって、必死に俺の手と遊んでいるシャルが。視線に気付いたのかシャルが嬉しそうに微笑む。

 

「わんっ」

 

 シャル、それあかんやつや。今やったら俺がただの変態にされるやつや。

 

「春人……何してるの……?」

 

 あかん……。

 

 いつの間にか部屋に来ていた簪が頬をむっちり膨らませてこちらへ近寄る。分かりやすい怒ってますアピールしつつ近くに寝転ぶと、箒によってあまり自由に出来ない右手を頭に乗せた。

 

「春人……」

 

 寂しげに、切なげに俺の名前を呼んでくる簪。かなり焦ったが、ここまでされれば俺が何をするべきかなんてもう分かりきっていた。

 

「んっ。えへへ……」

 

 触れていた頭を優しく撫でればふにゃりと簪の頬が緩む。幾ら焦っていたからやるしかなかったとはいえ、たったこれだけで上機嫌になるのは少しどうなんだろうと思ってしまう。

 

「すーすー……」

「んぅ……」

「んー……」

 

 そんな事をしていれば落ち着いたのか三人ともすっかり寝てしまった。ラウラは腕を組んで俺に寄り掛かり、シャルと簪は俺の手を枕にして寝ている。

 

 さて、周りを見れば穏やかに寝ている皆。その皆に囲まれている俺。対する俺の思いはほぼ最初から変わらない。

 

「…………何だこれは」

 

 とにかくあっついから早く起きてくれ! あと本当に身動き一つ取れなくなったから!

 

 

 




ちなみにこのあと一夏と鈴が来てエアコン動かすんですが、皆本気で寝始めたのと冷たい風が直撃したのもあって無意識に春人に暖を求めて更に抱き着いてくるという。




ウサギさん
正式名称RRーUSLNーmkⅡ。通称ウサリンmkⅡ。
別に人参型のビットとか持っていない。あと一号機の事を聞かれると白けるぜといって何処かへ行ってしまう。
普段はウサギの形をした強化装甲。量子空間を通り、ISの元へ駆け付けるため呼べば何処でも出てくる。

機体に掛かる負荷を大きく緩和するのが一番の役目。また耳にスラスターが付いており、装着した機体の機動性を大きく上昇させる事が可能。
ミコトの人格をベースにしたAIが搭載されており、ただ合体するだけじゃなく敵に体当たりしてサポートもする。

ちなみに訳している内容に偽りはない。

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