IS学園での物語   作:トッポの人

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お待たせしました。日常です。


第51話

 皆の枕にされた翌日。あれは酷かった……。あまり思い出さないようにしよう。

 さて、今日の朝から訓練復帰となるのだが右手にミコトはまだいない。だが昨日の夜には直っていたらしく、こうして朝からアリーナに呼ばれる事となった。

 

「春人くん、おはよっ」

「……おはようございます……更識会長?」

「そっ。皆大好き楯無おねーさんよ」

 

 アリーナの中央で待ち構えていたのは織斑先生ではなく、ISスーツ姿の更識会長だった。

 ウインクと同時に開かれた扇子にはお待たせ(はぁと)と書いてある。相変わらずその扇子は何処で売っているのかと考えてしまうのは仕方ない。

 

「……ところで何で更識会長がここに?」

「織斑先生の代わりよ。まだまだ忙しいみたいだから頼まれたの」

「……なるほど」

 

 あの事件からまだ一週間も経っていないから慌ただしいのは当然か。放課後になるとラウラも呼び出されたりしているし、本当の意味ではまだ終わってはいないのだろう。

 

「んふふー」

「……?」

「ねぇねぇ、今日は久し振りのおねーさんとの時間なんだけどなー? 春人くん嬉しくないのかなー?」

 

 と、そこで態々屈んでこちらを伺ってくる更識会長に気が付いた。その綺麗な顔ににんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべて。

 

 言われてみれば更識会長とこうして朝の訓練をするのは随分と久しい。元々はこの人の企画だったのにである。

 更に考えれば更識会長も強いとはいえ、世界最強と言われた織斑先生に比べれば遥かにましだろう。よくよく考えなくてもこれはご褒美でしかない。

 

「……ええ。更識会長との時間、とても嬉しいです」

「ふへっ!?」

 

 だから思った通り答えたら更識会長が真っ赤になって、口からは聞いた事もない変な声が出た。

 余裕たっぷりだった悪戯っぽい笑みも消え失せて、ただ口を開閉させるだけ。要望通りの答えだったんだが、どうやら何か予想外だったらしい。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「あうあうあう……」

「お待たせしまし……お、お嬢様?」

 

 と、そこへ虚さんもやって来た。さっきからあうあうしか言わなくなった更識会長を見て動揺を隠せないでいる。

 

「春人くん、何したの?」

「…………いえ、俺はただ――――」

 

 何やら虚さんの中では俺のせいになっているようだ。これはまずい。何とか弁解しなければと、さっき起きた内容を伝える事に。

 話をしていく内に虚さんがだんだん何とも言えないような、呆れたような表情になっていき、そして――――

 

「はぁ……今後は気を付けてね」

「…………はい」

 

 ――――大きな溜め息と共に静かに注意されてしまった。やっぱり俺が悪かったらしい。素直にはいとしか言えませんでした。ちゃんちゃん。

 いや、俺が切っ掛けなのは分かっていたんだが悪いのは違うかなーって。まぁいいけど。

 

「向こうに春人くんのラファール準備してあるから」

「……了解しました。いつもありがとうございます」

「どういたしまして。お嬢様は任せて早く行ってあげてね」

「……はい」

 

 更識会長の話もそこそこに、促されるまま背後に置かれているラファールの元へ。

 と、一つ虚さんに言うのを忘れていた。少しだけ進んだところで振り返り、軽く会釈しながら口を開いた。

 

「……言い忘れてました。おはようございます、虚さん」

「あうあうあ……んんん?」

「はい、おはようございますっ」

 

 挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。

 ただ挨拶するだけでこんな俺でも朝から虚さんの笑顔が見れるのだからやはり昔の人が言うのに間違いはない。

 

「えっ、虚ちゃん? いつから名前で呼ばれるように……?」

「こ、この間からです……」

「へー……ほー……ふーん……」

 

 唐突に元に戻った更識会長を尻目に今度こそラファールというかミコトの元へと向かう。

 別にただならぬ雰囲気を纏って問い詰める姿から逃げた訳じゃない。怖くないったら怖くないのです。

 

 目の前に鎮座するラファールに触れると光の粒子となって俺の右腕を包む。光が収まるとラファールが消えて、代わりに右手には見慣れた待機状態の腕輪が現れた。

 

『春人ー!!』

 

 同時にこれまた久し振りに相棒であるミコトの声が聞こえてきた。俺の名前を呼んだだけだが、その声色からこれでもかと喜んでいるのが伝わってくる。

 

 久し振りだな、ミコト。元気にしてたか?

 

『んーまっ! んーまっ!!』

 

 おう、再会して早々ちゅっちゅっすんのやめーや。

 

 と、まぁ注意はしたがこちらの事なんて無視してひたすらちゅっちゅっしてくるミコト。まぁ整備室に顔は出していたとしてもやはりそれだけでは寂しかったのかもしれない。俺としてもこのまま気の済むまでさせておきたいが……。

 

「も、もしかして私だけ仲間外れ……? むむむ……!」

 

 まぁそうは問屋が卸さないってね。何か怒りに燃えている更識会長がこちらを睨み付けてくる。いつの間にか遠く離れていた虚さんが謝るジェスチャーをしているのが見えた。

 いつぞやの簪の寝顔を見た時みたいに厳しくなりそうだ。これは気を引き締めていかないと。

 

 という訳だ。行くぜ、ミコトちゃん!

 

『えー? 行くって何処にー?』

 

 ――――はっ。愚問だぜ、相棒。俺達が行く場所なんて一つに決まってるだろ。

 

『あっ、待って……その言い方凄い好き……』

 

 えぇ……まだ決め台詞言ってないのに……。

 

 突然始まったいつもの小芝居に秒で合わせたが、決め台詞を言う前の前座で感極まったようで一時中断。

 落ち着いた頃に藤尾先輩が造ってくれた大剣と両手剣を装備した新しいラファールを展開し、気を取り直して何処に行くのか問われる。

 

『何処に行くのー?』

 

 ――――空に帰るのさ。

 

『ヒュー!!』

 

 なるべく良い声で応えるといつも通りの歓声があがった。そうなれば小芝居もここでおしまい。

 対面する闘志まんまんの更識会長を相手にするべく、大剣と両手剣の刀身がくの字に展開されて高速機動形態へ移行する。

 

「……ラファール・セットサーベラ、櫻井春人」

『with私!』

「行きます!」

「来なさい!」

 

 その掛け声を聞いて一気に飛び出す。右手に刀を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の訓練も終わって帰る途中。一人とぼとぼと歩きながら訓練を振り返っていた。何か久し振りに更識会長と戦ったからか、めっちゃ強かった気がする……。

 さすがにボコボコとまでは行かなかったが、それでもかなり苦戦したのは確かだ。俺ってば一応VTシステムにも勝ったのに。

 

『恋する女の子は強いのです』

 

 でもその理屈で言ったら俺に恋してるミコトちゃんも強いんじゃないの?

 

『私は恋っていうか最早愛ですしおすし』

 

 つまりミコトちゃん最強やん。

 

『そうなんですよー! きゃー、言っちゃったー! やだーもう恥ずかしー! てれりこてれりこっ』

 

 と、まぁこんな話をしながら部屋に戻っていると、部屋に近付くにつれ段々人が増えていき、騒がしくなっているのに気が付いた。そして集まった皆が俺の部屋を見ている事にも。

 

「……すまない。いいか?」

「あっ、櫻井くんおはよー」

「……おはよう」

 

 朝の挨拶を交わしながら人混みを掻き分けていく。内心首を傾げながら近付いてみるとその原因が分かってきた。

 

「お、お前は何故裸でここにいる……?」

「知らないのか。夫婦とは包み隠さないものだぞ」

「意味合いが違う! 第一、いつ春人と夫婦になったのだ!?」

「何だ、それも知らないのか。日本では気に入った相手を嫁にするというのが一般的な習わしだと聞いたぞ。あいつが嫁なら、私は夫となるのが自然だと思うが?」

「ならんわ! 大体何だその習わしは!? 私は聞いた事がないぞ!? 」

『ほーん……』

 

 箒とラウラのやり取りが扉を開けっ放しにしているため、外にまで聞こえていたようだ。それが人を集める原因となっている。

 しかも箒の言う事が本当ならラウラは裸なのだろう。今はシーツで身を包んでいるが。

 

 そういえば朝起きたらラウラが横で寝ていたな……。あれは寝惚けて見た幻覚だと思っていたが違ったようだ。どうりでやたらリアルだと思った。というか目を覚ましてもそこにいたし。

 

「…………何だこれは」

「「っ!」」

 

 と、心の声が漏れていたらしく二人が一斉にこちらへ振り向いた。今まで行っていた険悪な雰囲気など忘れて華が咲いたような笑みを浮かべて。

 

「お帰り、嫁っ」

「……ただいま」

「その格好は訓練か? 朝から偉いな。だが私達は夫婦なのだ。夫に黙って行くのはよくないぞ」

「…………そうか」

 

 シーツにくるまったラウラがとことこと近付いて出迎えてくれた。腕を組んで何故かドヤ顔で仕方ないとばかりに言ってくる。

 夫婦かどうかは置いといて、確かに黙って行くのは良くなかったかもしれない。

 

「だ、だから夫婦じゃないと……ち、違うよな!?」

「っ!?」

 

 そこへ空かさず箒が否定してくる。だが自分で口にしてて不安になったのか、箒が必死に問い掛けてきた。

 今にも泣きそうなその表情は俺を焦らせるには充分過ぎる代物。身振り手振りも加えてどうにか違うと伝える事に。

 

「ち、違う。違うから、な?」

「……っ!」

 

 悲報。俺氏テンパり過ぎて違うしか言えてない。確かに違うんだが、何が違うんだろう。

 でもそれで箒が泣き止みそうだからよし。

 

「何を言う。お前は私の嫁だ。異論は認めん」

「…………それはいい。だが服を着ろ」

「嫁も知らないのか。夫婦は包み隠さないのだぞ。ほら」

「ちょっ……!」

 

 ほらじゃねぇよ馬鹿!!

 

「わぁ、ボーデヴィッヒさんだいたーん」

「未熟な果実を惜しげもなく見せてくるとは……」

 

 言い終えると共にその身体を包んでいたシーツを広げてきやがった。周りの反応から察するに本当に裸らしい。

 俺は包まれていた部分を見る前に顔を背けたので見ずに済んだ。何度思い返しても断言できる。今までの人生において最高の反射速度だったと。

 

「は、春人は見るな!」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいた箒が抱き付くようにして俺の目を手で覆った。視界が覆われた事で背中に感じる柔らかな感触がより鮮明に。

 

「…………見ないから離れてくれ」

「ダメだ!」

 

 離れるようお願いしたら逆にもっと強く抱き付かれたでござる。こんなところ一夏に見られたら箒も弁解のしようもない。早くどうにかしないと……。

 

『なるほど、大体分かった……』

 

 何か無理してカッコいい声出してるミコトちゃんさすがっす!

 で、どうすればいいっすか?

 

『ラウラは春人を嫁だと思ってるみたいだからね。あのね――――』

 

 うん、うん……えっ、そんなんでいいの?

 

『だいじょぶだいじょぶ!』

 

 ごくごく簡単に対処法を教えてもらったが、そんなので本当に解決するのか不安だ。

 だが他に方法が分からないのも事実。明るく言ってくるミコトを信じて効果があるように祈るしかない。

 

「…………はぁ」

「ん?」

「どうしたのだ嫁よ」

 

 態とらしく溜め息を吐くとラウラに加えて箒の気も引けた。少しだけ拘束が和らぐ。

 

「……ラウラ。夫婦は包み隠さない、と言ったな」

「ああ、なんと素晴らしい言葉か。昔の人に習って私達もそうしなければな」

「……俺もそう思う」

「春人!?」

 

 まぁ俺とラウラは結婚してないし、知っている意味違うけどな。

 

 そんな俺の考えなど分かるはずもなく、箒が驚きの声をあげると同時に抑えている手が震える。何かに怯えているかのように。

 

「ふふん、さすが私の嫁だ。理解がある」

「……だが」

「む?」

 

 怯える箒を見たからか、横にいるラウラから勝ち誇ったような声が聞こえてきた。

 しかし、それも予定通りなら直ぐに終わる。

 

「……だが現状お前は夫婦以外にも包み隠さずにいるな」

「えっ」

「なるほど、浮気か」

「――――」

 

 俺の言葉にすっかり怯えがなくなった箒が止めを刺す形となり、何処からか聞こえてくる地の底から出しているような声。それがラウラに似ているのは気のせいではないだろう。

 

「ち、違う、違うぞ! 浮気なんて……私はお前一筋で……!」

「その格好で言ってもなぁ……」

「き、着る! ちゃんと着るから!」

 

 続いて聞こえてきたのは明らかに焦っているような声だった。そこへ空かさず箒からの援護が加わり、漸く解決に向かいそうだ。

 ドタドタと慌ただしく物音を立てて部屋の奥へ音が消えていく。

 

「ふぅ……全く」

 

 そして目を瞑っていて相変わらず見えないが目を覆っていた箒の手が肩に置かれる。余裕が出てきたようだ。出来ればそのまま離れて欲しい。俺の精神的なもののために。

 

「さ、お前も汗を流して制服に着替えろ」

「……分かった」

「ほら、こっちだ」

「……ん」

 

 手を引かれるまま、案内されて漸く目を開ける事が出来た。

 シャワールームに入ると早速箒の口から溜め息が漏れた。少し疲れてしまったらしい。

 

「はぁ……春人と一緒だと朝から騒がしいな」

「……すまない。だがあまり溜め息を吐かない方がいい。幸せが逃げる」

「ふふっ、意外とそういうの信じてるんだな」

「…………まぁな」

「でも私はいいんだ」

「……何故だ?」

 

 口元を手で抑えながらくすくすと笑う箒。幸せが逃げても構わないという彼女に首を傾げると見惚れるような笑顔でこう言った。

 

「私の幸せは逃げても直ぐに誰かが与えてくれるからな」

「…………御馳走様と言っておこう」

「まだまだだぞ。その内お前もお腹一杯にしてやる」

 

 そう言うと着替えを取ってくると言ってシャワールームを後にした。何かしら含みがあるような笑みを浮かべながら。

 

『おやおや、何でお腹一杯にしてくれるんですかねぇ……』

 

 惚気話だろ。

 

『ふぁっく』

 

 えぇ……何でぇ……?

 

 突然の罵倒に動揺しつつ、訓練でかいた汗を流して用意してくれた制服に着替える。

 シャワールームを出ると腹部に軽い衝撃が走った。視線を下げればラウラが。上げれば困ったように笑う箒が。訳が分からないので本人に訊いてみよう。

 

「……どうしたんだ?」

「いや、何というか……」

「よ、嫁よ……さっきのは浮気じゃないんだ……許してくれ……」

 

 声からして物凄く弱ってる様子。さっきの一言は想像以上の効果を出しているらしい。じわりと目に浮かぶ涙が何よりの証拠だった。

 

「こ、今度から気を付ければいいから、な?」

「あ、ありがとう……!」

 

 どうにか泣くのは阻止出来たようで一安心だ。朝から既に二回くらい泣かれそうになってる件について。どうなってんだ。

 朝から訓練以外で大騒ぎしていたので余計に腹が減ってしまった。早く行こうと扉を開ければ簪とセシリアが待っていた。

 

「皆さん、ご一緒に……あら、ラウラさん?」

「シャルロットは?」

「…………こいつだけ先に来た」

「そ、そうだ。私だけ先に来たんだぞ」

「ふふっ。いや、何でもない」

「「むぅ……」」

 

 俺が寝ている間から来ていただけで嘘は言ってない。ラウラも賛同してくれた。

 だが話を聞いて笑った箒を見てそれだけではないと察したらしく、面白くなさそうに唇を尖らせる。

 

「簪さん」

「うん」

「「えいっ」」

 

 すると二人が顔を合わせて何をするのかと思いきや俺の左右の腕に抱き付いてきた。

 

「…………何でだ」

「わたくし達だけ除け者にして楽しんでいたようですからっ」

「私達も楽しむっ」

「…………そうか」

 

 そんなんで楽しめるとは思えないんですけど……。まぁ今凄い笑顔だしそれでいいならいいか。

 

「私は少し先を歩こう。夫は嫁の三歩先を歩くらしいからな」

「……よく知っているな」

「うむ、嫁の国の伝統を学ぶのも夫の務めだ」

 

 という事で俺の左を簪、右をセシリアがガッチリ固め、先をラウラ、後ろを箒が歩き、一同食堂へ。

 やたらラウラが後ろを確認してくるがまぁいいだろう。

 

「はるるんっはるるんっ、ねぇはるるんっ」

「…………何だ」

「むぅ」

 

 そして道中でねだってきた布仏を背負い、ただ歩いているだけなのに俺の三方向が人で埋め尽くされている状態に。

 更にこれだけの面々が集まっているせいで注目の的だ。勘弁してくれ。

 

 それにしても今のやたらリズミカルだったな。どうしたんだろうか。

 

「お腹空いたから早く行こー」

「……分かった」

「むぅ……」

 

 全然大した事なかった。ラウラも不満そうにしているし、異論もないので食堂へ急ごう。同じ男としてここに一夏が欲しい。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 と、願ったら元男装少女のシャルが先に食堂に来ていた。

 先に席を確保してくれていたらしく、自分の分の食事をテーブルに置くと俺へ駆け寄ってきた。そしてそのまま正面から俺の胸元へ。

 

「ぎゅーっ」

「…………シャル。その、離れてくれないか」

「はるるん、ぎゅーっ」

「ぎゅー……」

「ぎゅ、ぎゅー」

 

 主に周りの視線が痛いから。正面から抱き付かれてるのもそうだけど、他の皆の無言の圧力も凄いから。

 布仏も一緒になってやらないでくれ。簪とセシリアも恥ずかしいなら一緒になってやらなくていいから。

 

 それにしてもシャルのおかげで完全に俺の四方が埋め尽くされてしまった。朝食に行くだけでも凄く騒がしい。

 

「……ちなみに何で前を歩いてないんだ?」

「で、伝統も大事だが嫁と並んで歩くのも大事だからな!」

「…………そうか」

 

 あっさり考え変わったな。

 

 そうして食事、授業、放課後の訓練も終えて時間は一気に飛んで夜。自室でのんびりしていたら一夏を筆頭に俺の部屋に皆が来ていた。

 普段は俺一人の静かな部屋がわいわいと騒がしい。主に女子で。

 

「…………何で俺の部屋なんだ」

「だってお前呼んでも来ないし。よっと」

「……む」

「場所提供してくれる代わりにお菓子と飲み物持ってきたからいいじゃない。あっ、そっち行ったわよ」

「……任せろ」

 

 俺のぼやきに一夏と鈴がそれぞれ共にモンハンをやりながら突っ込む。正直な話、俺の初マルチプレイでもある。

 鈴の言う通り、これでもかと言うほどお菓子と飲み物が持ち込まれていた。お菓子は山のように積まれ、飲み物は冷蔵庫に入りきらないほどだ。

 

「うまうまー」

「本音、お菓子はほどほどにしなさいね」

「はーい」

 

 まぁお菓子は布仏が食べてくれているからいいけど。虚さんが注意してもダメだと思う。

 今ので分かるかもしれないが、それぞれが俺の部屋で好き勝手に過ごしている。正直俺の部屋じゃなくていい気もするが、気にしないでおこう。

 

「むむむ」

「あっ、おねーさん分かったわ」

「むむむ……!」

「お姉ちゃん……」

 

 横で簪とラウラ、楯無さんの三人でクイズ番組を見ている。

 出題された内容は単純ななぞなぞだが頭の固いラウラには難しいようで、楯無さんが大人気なく勝ち誇ったように言った。俺が名前で呼ぶようになってからはしゃいでいるようにも見える。

 恐らく簪も分かっているが敢えて言わないだけなのだろう二人を見て苦笑いしていた。

 

「……楯無さん、すみません。もっと色っぽくお願いします」

「――――分かっちゃったぁ」

『――――あら賢い』

 

 俺の求めに即座に対応してくる辺りさすが楯無おねーさんだ。小指で下唇に触れながら言ってくるところなんて慣れているようにしか見えない。

 ただこっちを見ながらはやめて欲しい。他の皆の視線が痛いので。まぁ言わなければ良かったんだが。

 

「ん? ああ、これね。私も分かるわよ」

「はーい、じゃあ鈴ちゃんも色っぽく言ってみましょっ」

「えぇ!?」

「っ!!」

 

 と、そこにプレイの合間に何気なくテレビを見た鈴がその言葉を口にしてしまった。分かったと。

 絶賛悪乗りしまくりの楯無おねーさんの発言に鈴だけでなく、一夏まで顔を上げる。

 

「わ、分かりました! 分かりましたから!」

「じゃあ鈴ちゃん言ってみよー」

「う、うぅ……!」

 

 楯無さんに抗えるはずもなく、諦めて言う事に。隣で一夏が物凄く見てるのは気のせいではないだろう。

 

「わ、分かっちゃったっ」

「色っぽくはないわね……」

「…………そうですね」

「う、うるさいわね!」

 

 僅かに身体をくねらせて人差し指で頬に触れるように言ったが、これは色っぽいというよりは可愛い系だろう。まぁ鈴は元々可愛い系だからこのお題にはそもそも合わない。

 と、一夏が黙っているのが気になったので目を向けると――――

 

「――――」

「し、死んでる……」

「えぇ!? 一夏ぁ!?」

 

 白目をむいて即死していた。鈴の可愛さに耐えられなかったんだろうと予測するのは容易い。

 一夏も何とか生き返ったが、これからは危ないのであの遊びは禁止となりましたとさ。

 

 というか、この日だけかと思ったらまさかこれから毎日俺の部屋に皆が遊びに来るとは思いもしなかった。

 




大分駆け足で終わらせますた。
次回は多分箒さんとのお買い物です。

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