IS学園での物語   作:トッポの人

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

ミコトメイン?のお話です。


第53話

「ん……」

 

 寝惚けた目で携帯の時計を確認すれば、ミコトに頼んだ目覚ましの時間よりも早く起きてしまった。

 つまりはあと少しだけ寝ていられる。そう分かるやまた枕に顔を埋めて少しでも横になる時間を増やす。

 

 ただいざ時間となった時にちゃんと動けるかどうかが怪しいのが難点だ。ミコトがセットした目覚ましに期待するしかない。曰く聞けば一発で起きるとお墨付きだが……。

 さて、案の定うとうとし出したところで目覚ましの時間がやってきた。

 

 《覚醒!》

「えっ」

 

 突然何か物凄くパワフルな声が。短い言葉だがそこに込められた力は凄まじく、一気に目が覚めた。

 

 《Wake up CROSS-Z! Get GREAT DRAGON! Yeahhhh!》

 

 しかもそこからまだ続くようで朝からパワフルな声がやたらハイテンションで叫ぶ。

 

 えっ、何これうるさ……。

 

『おはよー、春人ー!』

 

 音が止んだかと思いきや入れ替わり立ち替わりで幼女の声が聞こえてくる。言わずもがな、声の主は相棒のミコトだ。

 朝なのにいつも通り明るく無邪気な声で挨拶してくる辺り、早く起きててずっと俺に話し掛けたかったのかもしれない。

 

 はい、おはよう。目覚ましありがとうな。

 

『うんっ。で、目覚ましどうだった? あれ凄いでしょ。さいっこうでしょ。てぇんっさいでしょー!』

 

 実は挨拶以外にも言いたい事が少しだけあった。目覚ましの音量とか、その内容をもう少し静かなものに改善して欲しいと。

 しかし、毎度の事だがこれだけ楽しそうにしているならそれでもいいかと思えてしまう。

 

 でもそれ藤尾先輩がよく言うやつじゃん。そういうパクリありなのか。

 

『パクリではなくリスペクトゆえセーフ』

 

 と、そんな話をしながら朝に行われる織斑先生との訓練に向かう時間だ。

 何だかんだ俺のためにやってくれているのは馬鹿なりに分かっているつもりだ。だから気が進まないのは本当に申し訳ないと思う。

 仮にもあの織斑先生に師事を受けているのだからしっかりしないと。

 

「……行くか」

『おきらくらくしょーいってみよー』

 

 気合いを入れ直したところでミコトからやたら気の抜けた声が聞こえてくる。懐かしさと共にガックリ力が抜けていきなり出鼻が挫かれてしまった。

 

 それでも何とか身体を動かしてアリーナに辿り着くと早速訓練開始。

 

「力はお前の方が上なんだ。一々逃げるな、色男!」

「くっ!?」

 

 時間を短くした代わりに織斑先生の勢いが凄い。息つく暇もない怒涛の攻めに真っ向から立ち向かうなんて無理だ。

 力は上かも知れないが、振るわれる一つ一つに俺にはない鋭さがある。単純な速さとはまた違うものだ。これが技の冴えというやつか。

 

『このままだとやられてばっかりだよ色男!』

 

 ただやっぱり一つ言いたいのは俺は色男じゃないんですけどね!

 

 織斑先生だけからじゃなく、ミコトからも言われると反論したくもなる。熱い風評被害はやめて欲しい。

 ともあれこのままでは一方的にやられてばかりなのも確か。勝ち目はないかもしれないが、打つ手は打っておかないと。

 

 やるぞ、ミコト!

 

『りょーかいっ!』

「むっ」

 

 肩に装備されている大剣の切っ先を正面に向けて刀身を展開。スラスターの光が灯り、俺を後方へと遠ざけてくれる。

 同時に持っていた両手剣を投げ捨てて少しでも時間を稼ぐ。更におまけでミコトが風の防壁も付けてくれた。

 

 が、こんなので逃げ切れるとは思っていない。時間稼ぎといっても極々僅かだろう。

 

「はぁッ!!」

 

 その予想通り、投げ捨てた両手剣を切り払って二回、三回と瞬時加速を連続で行って風を振り切り一気に距離を詰められる。

 刀を背中に届かんばかりに両手で振り上げて、そのまま力強く俺に向かって振り下ろさんとする姿は威圧感があって非常に恐ろしい。

 

「甘いなっ!!」

「これでもですかっ!」

 

 だが恐怖を抑え込んで刀をレーザーブレードで右手に呼び出した俺は居合い抜きのように迎え撃つ。大剣も通常状態に戻して逃げるのはやめた。

 

 さっき織斑先生本人が言ったように力なら俺の方が強い。鍔迫り合いになれば俺の方に分があると踏んだのだ。

 自然と刀を持つ手に力が入る。狙い通り行けば、初めてあっと言わせられるかもしれない。

 

「――――ああ、甘い」

『春人!』

「ぐっ!?」

 

 しかし、そんな考えは甘かったようだ。

 こちらの思惑なんて全て分かっていると言わんばかりに笑みを浮かべてもう一度加速。

 振り抜こうと構えた右腕に膝蹴りして抑えると同時に斬撃から柄尻による首元への打撃に切り替えた一撃が迫る。

 

「させませんっ!」

「ほう」

 

 左手で大剣を途中まで引き抜いて上段から襲い掛かる一撃を防御。俺達しかいないアリーナに甲高い金属音が響く。

 

「ぜやぁ!!」

「やるじゃないか」

「ふー……」

 

 残りも一気に引き抜いて振り払うと、それに合わせて織斑先生が飛んだ。

 距離が取れたので大剣と刀という異色の組み合わせで構え直して呼吸を整える。

 いつ来てもいいように気を張っていると向こうの張り詰めていた気が柔らかいものになり、ゆっくり手で制された。

 

「よし、ここまでにしよう」

「……ありがとうございました」

 

 続く言葉に大剣と刀を納めて軽くお辞儀。

 今日の訓練が終わったので続いてさっきの攻防の反省会へ。

 

「自分の得意な分野に持ち込むのは中々良かったな」

「……ありがとうございます」

「ただ相手が強いと分かると直ぐにへっぴり腰になるのはいただけないがな」

「…………なるべく善処します」

 

 お褒めの言葉に嬉しくなるが、直ぐに注意されてなかった事にされる。ただ無茶は言わないで欲しい。何せ相手は世界最強なのだからへっぴり腰にもなる。

 反省会も終えると投げ捨てた武器の回収と共に二人で片付けをする事に。

 

『見て見て春人、さっき撮った千冬のせくしーぽーずっ!』

 

 それ色気あるセクシーポーズじゃなくて、両手で刀を振りかぶった殺気あるファイティングポーズだろ。

 

 ナイスタイミングで撮れたらしく、刀が上手く背中に隠れていてまるで両手を頭の後ろで組んだセクシーポーズのように見えなくもない。顔は闘志溢れるものだけど。

 ミコトと会話をしつつ、まず最初に武器を回収していく。投擲で使った槍が二本、投げ捨てた両手剣、そして――――

 

「ほら、こいつも忘れるなよ」

「……ありがとうございます」

 

 最後に織斑先生が拾ってくれたのはラファール十本目の剣。名前は特にない。

 既に量子格納領域には他の武器で入りきらないため不可能だと思われていたが、ミコトのある提案により十本目を持つ事になったのだ。

 

 はい、何て言ったんだっけ?

 

『量子格納出来ないなら、最初から手で持ってればいいじゃない』

 

 その通り。そのおかげでナインソードから更に進化したテンソード……いや、テンコマンドメンツとなったのだ。

 

『じゃあそれ十本目だからレイヴェルトだね』

 

 なるほど……よし、今日からこの剣の名前は第十の剣、根性の剣レイヴェルトにしよう。

 

『別にレイヴェルトはハルの根性で強くなる剣じゃないの!』

 

 えっ、そうなの?

 と、言い忘れてた。

 

「……織斑先生、あとはやっておきますので先に」

「ん……。いつもすまないな」

「……いえいえ」

 

 終わるのが早くなったとはいえ織斑先生も女性だ。朝の身支度にはやはり時間が掛かるだろう。あとは地面を均すだけだし、ISを使えば大して時間も掛からない。

 

「礼代わりに授業中の居眠りでも見逃してやろうか」

「えっ」

 

 素晴らしく魅力的な提案に思わず作業を止めて顔を向けて反応すると、身体を震わせて笑う織斑先生が。

 

「くっくっくっ、冗談だ。授業は真面目にやれよ」

「…………了解です」

 

 くそう、騙された。さっさと終わらせて早く帰ろう。

 

『で、テンソードもといテンコマンドメンツの代わりは思い付いたの?』

 

 部屋への帰り道、さっきも話した十本目の剣を手にしたため名前をどうするかの話が再開。

 よくよく考えればテンコマンドメンツは十種類の剣があるのでテンなのであって、単純に十本あるだけでは名乗っていけない気がする。ただテンソードではカッコ悪いのは事実。

 

 もう一々剣の本数で名前を変えるのは大変だし面倒だ。そういうのに左右されない名前を考えた。

 

『というと剣の数は名前に入れないの?』

 

 ああ、という訳でこれからは天神創生剣、グレートソードの春人と呼んでくれ。

 

『双子座と乙女座と射手座の力持ってそう。そして間違いなく一級のロリコンですね、ひゃっふぅ!』

 

 まぁ、嘘だけど。ていうかこれ機体の名前じゃなくて異名だし。だからロリコンではありません。

 

『おあああっっ!!』

 

 何でこんな全力で悲しんでるんだこいつ……。

 

「あれ、春人こんな朝早くからどうしたんだ?」

「……おはよう一夏」

「おう、おはよう」

 

 全力で悲しむミコトに困惑しつつ、とぼとぼ歩いているとジャージ姿のイケメンと遭遇した。汗を流しているところを見るとランニング帰りらしい。

 

「…………まぁ野暮用だ。そっちはランニングか?」

「ああ、そうだけど……野暮用ねぇ」

 

 何やら思うところがあるらしく、ジト目でじろじろと見てくる。

 織斑先生から一夏には絶対言うなと言われてるし、適当に誤魔化すしかない。

 

「ま、いいか。じゃあ食堂でな」

「……ああ」

 

 一転して物分かりがよくなると疑うのをやめ、直ぐの再会を約束してそれぞれの部屋へと別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は一気に飛んで放課後。場所は再びアリーナ上空。

 

「オラァッ!!」

「ふっ!」

「ぐぅっ!?」

 

 気合いと共に放たれる拳を軽く手を添えて上方へ受け流し、一歩踏み込んで体当たり。

 肩に積まれた大剣のシールドを展開してやったため通常よりも威力はあるはずだ。

 

「くっ、うおおお!!」

 

 しかし、体当たりを受けた一夏は崩した姿勢を空中で直ぐ立て直して飛び掛かる。再び真っ直ぐ俺へと向かって。

 その様がまるで手招きしている飼い主の元へ喜んで向かう犬のように見えた。

 

「いい子だな……来い」

「野郎っ!!」

 

 だから言葉と共に前屈みになって手招いてやれば更に速度を上げて接近。そして――――

 

「わんわんっ!」

「…………」

「……?」

 

 ――――何故か離れたところにいたシャルが可愛らしい犬のような鳴き声をあげて反応した。意識をそちらへ向ければ凄く嬉しそうな表情から一転、きょとんと可愛らしく小首を傾げるシャルの姿。

 

『あかん……』

 

 違うんだよシャル。今はシャルの事呼んでなかったよ。

 

「「《…………》」」

 

 そしてそのおかげで離れたところで訓練していた他の皆からは冷たい視線が一斉に向かってきた。

 シャルみたいな美少女に何言わせてるんだと言外に込められた想いがひしひしと伝わってくる。

 

 《わふわふー!》

 

 だから布仏、その追い討ちはやめてくれ。あと何か若干違う気がする。

 

『春人、正面!』

「いっただきぃ!!」

「っ!」

 

 予想外のダメージを受けているとその隙を突かんと距離を詰めた一夏が殴り掛かる。

 とはいえこちらも毎朝織斑先生と辛い特訓をしているのだ。そう簡単には当たってやれない。

 

「喰らうかっ!」

「くっそ!」

「ふんっ!」

 

 寸でのところで回避して拳で返礼。しかし受け止められてしまった。

 

「む」

『おお』

「へ、へへ……驚いてるみたいだけどどうした……?」

 

 震える手で何とか防いでいる一夏は不敵に笑う。本当はいっぱいいっぱいだろうがそれでも精一杯カッコ付けて。

 未だにブーストが掛かってるとはいえ第伍十戦術を使っての力比べで拮抗しているのは初めてだった。

 

『そもそもあくまでブーストはパワーアシストだけだから、受け止めたのは一夏の力だよ』

 

 なるほど。まぁ一夏も何かしら朝早くからやってたみたいだし、実際はランニングの他にも色々とやっていたのかもしれない。

 今も徐々に強くなっているらしく、次第に手の震えも収まってきている。

 

 しかし――――

 

「でやぁっ!」

「う、おお!?」

 

 こちらもまだ本気は出していない。

 軽くて速いパンチから重くて遅いパンチに切り替えると拳で一気に押し込んだ。突然の力の上昇に驚きの声をあげて距離を取る一夏。

 

 さて、距離が開けたここで藤尾先輩に教えられた台詞を言いたいのだが何だったか。決め台詞のような感じだったのは覚えているのだが。

 

『てぇんっさいでしょ、じゃないの?』

 

 いや、違う。何だっけな……たしか勝利の……?

 

『も、もしかして勝利の法則ですか……?』

 

 あ、それだ!

 

 恐る恐る言ってきたミコトのおかげで思い出した俺は右の拳を左手に叩き付けてから顔の高さに上げた右手をスライドさせる。

 

「勝利の法則は……決まった!」

「『っ!!』」

「か、簪ちゃん? どうしたの?」

「だったら決めてみろよ!!」

 

 言い終えると共に一夏が突進してくる。ハイパーセンサーには何故か分かりやすく反応した簪の姿を捉えた。

 

『教えて、春人の勝利の法則教えて!』

 

 ああ、しっかり見てろよ!

 

 興奮しているミコトと共に僅かに遅れてこちらも突進。お互い右腕を構えた。右と右のぶつかり合い。

 まだこちらが速さは勝っているとはいえ、それは全力の時の話だ。加減していれば先のやり取りから分かるように一夏が先に届く可能性も充分ある。

 

 お互い射程に入った瞬間、一夏の拳が真っ直ぐこちらへと向かい――――

 

「おぉぉ!! ッラァっ、ってあれ?」

 

 空を切った。いや、正確には確かに一夏の拳は当たっていた。

 ただしそれは風で作った俺の幻影に対してである。交差する直前に作って先に行かせていたのだ。一夏の視点から見れば直前で俺が加速したように見えただろう。

 

「勝利の法則、それは――――!」

「げっ!!?」

『わくわく! わくわく!』

 

 振り抜いた拳で消えるように霧散した俺の背後から本物の俺がやってくる。

 さぁ、ここで聞かせよう。俺が見つけた勝利の法則。その答えを!

 

「俺が、殴る!!」

「『えっ』」

「ぐえぇぇ!!」

「い、一夏ぁぁ!?」

「だ、大丈夫か一夏!」

 

 がら空きのボディに一発。加減していてもカウンターで入った一撃は相当だったらしく、悲鳴をあげて地上まで吹き飛んでいく。

 慌てて駆け寄っていく鈴と箒に俺も続く。というか一時中断してこの場にいないラウラを除く皆が駆け寄っていた。

 

『春人……勝利の法則もちょっと言いたいけど、ぐえぇぇはまずいよ』

 

 ああ、ぐえぇぇはちょっとまずいな。普通出ないもんな。

 

「一夏、しっかり!」

「助けて鈴……ぽんぽん痛い……ぽんぽん苦しい……」

「だ、大丈夫か?」

 

 皆が駆け寄るもぐったりと横になっていたままの一夏に恐る恐る声を掛ける。

 

「あ、何かもう痛くなくなったわ」

「えぇ……」

 

 俺が声を掛けた瞬間、さっきまで苦しんでいたのは何だったのか、けろっとした様子で起き上がった。

 

 心配して損したなんて言うつもりもないけど、あれだけ苦しんでて直ぐに元気になるとか何なのこいつ……。

 

『あれはね、攻め手が上手いのもあったんですけど、受け手の一夏さんがガチで行きましたね』

 

 ガチで行ってぐえぇぇ出たけど……。

 

「皆してどうしたのだ?」

「……ラウ――――!?」

「「「あっ……」」」

「何だあれ?」

 

 と、そこへ何処かに行っていたラウラが戻ってきた。ISの装甲に包まれた両手にとある物を持って。

 一夏を除く皆がそれに気付いたと分かったら途端にラウラの顔が嬉しそうに俺に差し出してきた。

 

「嫁よ、見てくれ。お前に見せたかったのを遂に捕まえたのだ!」

 

 何処かぐったりした様子のウサギさんを。

 

 う、ウサギさぁぁぁん!!

 

 

 

 

 

 

「むぅ……あれは嫁のペットだったのか……知らなかったとはいえすまなかった」

「…………気にするな。俺は気にしていない」

 

 まぁペットではないけど。

 

 俺の膝の上で少ししょんぼりしているラウラを慰めつつ、モンハンに興じる。

 あくまでラウラも俺を喜ばせようとしてくれていたんだとは思う。そこを怒るなんて俺には出来ない。

 それよりも気絶していた一夏はともかく、ラウラがウサギさんを知らなかったのは驚きだ。

 

「……それよりも知らなかったんだな」

「合体したあとははっきり覚えているが、合体する前は朧気なのだ……それよりこのゲージがなくなりそうだぞ」

「…………ん?」

 

 ラウラに言われて漸く気付いた。画面に映っている俺のキャラクターのHPが始まったばかりで尽きかけている事に。

 どうやら今回の相手であるテオ・テスカトルという強力なモンスターが目の前にいたようだ。

 

「ちょ、大丈夫なの」

「……何とかする」

「こっちキャンプスタートだからそっち行くの時間掛かるぞ」

「……分かった」

 

 という訳でもう死にそうな状態で一人耐えなければならない。

 このゲームの仕様上、HPを回復させようとすれば何故か足が止まってしまう。回復したいが、一対一においては愚かにもほどがある行為となるのだ。

 

 さて、どうするか。

 

『ミコトちゃんにお任せっ!』

 

 その時、何故かミコトが名乗りを上げた。ちなみに当たり前だが別にこのゲームに参加はしていない。

 ただ何か考えがあるようなのでやらせてみるか。今のところは逃げるしか手がないからそれしかなかった。

 

 じゃあ頼む。どうすればいい?

 

『とりあえず距離を取ってー』

 

 了解だ。

 

 言われた通り、激しい攻撃を掻い潜りながら何とか距離を取った。一夏と鈴はまだまだ遠い場所にいる。

 

『それじゃあ回復薬飲んでー』

 

 よし、分かった……って何!?

 

 ついつい言われるまま行動してしまったが、障害物も何もない広場で飲んでしまった。

 ここから暫くは身動きが取れない。そしてこの大きな隙を敵が見逃すはずがなかった。

 進路上の敵を凪ぎ払うように進む突進が襲い掛かる。俺のキャラクターの命を刈り取らんと、真っ直ぐ身動きの取れないこちらへ。

 

 終わった……早速一乙だ……。

 

『予定通りなのですっ。では最後に――――』

 

 だがそれもミコトには予定通りのようだ。しかし、身動きの取れないこの状況で何をしようというのか。その答えは直ぐに分かる事となる。

 

『くぅーん、くぅーん……』

 

 こいつ、捨てられた子犬のような鳴き声を……!?

 

 まさかの可愛さアピールだった。ゲーム内にそんな行動があるならいざ知らず、現実でやっても意味がない。

 終わったと思った瞬間だった。突進してきたモンスターが当たる直前で僅かに進行方向を変えたのだ。まるでこちらを避けるように。

 

『いぇーいっ!!』

 

 えっ、嘘。避けた。いや、たまにそういう事するけれども。

 

『可愛いは正義。やはりこれは新党ミコ党を設立すべきですね』

 

 大丈夫か? それ党員ミコトちゃんだけじゃないの?

 

『私と春人の二人だけやで』

 

 俺もか……。まぁいいけど。

 

 と、まぁミコトのおかげで何とか誰も欠ける事なく無事に狩猟を終える事が出来た。

 さて、小休止としてラウラや楯無さんが眺めていたクイズ番組を眺めるととんでもない問題が出題されていた。

 

「む、いつものように分かったと言わないのですか?」

「えっ、いや、これは……」

「???」

 

 さすがの楯無さんもたじたじ。他の面々もおかしいのに気付いてテレビを見て一気に赤面した。簪や布仏も見た瞬間に分かったのだ。分かっていないのはラウラだけ。

 

 というのも出題されたクイズがいけなかった。内容はこうである。

 

 ・コで始まりムで終わるもの

 ・カタカナで四文字

 ・それとは別に長音符、『ー』が入る

 ・コンビニや薬局で売っている

 ・口に入れても大丈夫だが飲み込むのはよくない

 

 この部屋にいるのが同性だけなら何の問題もなかったが、生憎異性がいる。ラウラを除いて全員が気まずい思いをしていた。

 

「も、もうっ。他の番組にするよ」

「ああ! シャルロットよ、何をする!」

 

 勇気あるシャルロットの行動で番組を変えられたが、分かっていないラウラが抗議する。無知とは恐ろしいものだ。

 

「今こそチャンスなんだ。初めて先に分かりそうなんだっ」

「う、うぅん……で、でも……」

「頼む、シャルロット!」

 

 そうは言うがここでラウラの初めてが失われてもいいものか。ともかくこの場の雰囲気を壊してはいけないとシャルもどうにか話を逸らそうとするが一向に気が逸れない。

 

 そして。

 

「――――はっ。分かったぞ!」

『BGMごー!』

「くっくっくっ……!」

 

 ひたすら頭を捻っていたラウラが遂に分かってしまった。と、同時に何故かミコトが昔の歌謡祭か何かで流れていた歌が流し始める。

 俺の膝の上から離れて立ち上がると悪役のような笑みを浮かべる。

 

「気になるだろう……コで始まり、ムで終わるカタカナ四文字のものは何か!」

「……落ち着け、ラウラ」

「ら、ラウラ落ち着いて」

「ラウラちゃーん、おねーさん降参するから、ね?」

 

 やたら自信溢れる様子で再度与えられたヒントを声高らかに告げていく。

 本当に言うのかと周りが焦り始め、簪と楯無さんと説得するもその声はもう届かない。

 

「その間に長音符が入り、コンビニや薬局で売っていて……!」

「あの、その……ラウラさん、お止めください」

『それ以上言うなー!』

「口に入れても大丈夫だが、飲み込むのはよくないもの……それは……!」

『やめろー!』

 

 エキサイトしていくラウラに対して皆に加えてミコトも止めようとするが止まる事はなく、既に用済みとなったヒントを口にしていく。

 

 というか何かミコトが若干楽しそうなのは俺の気のせいなのか。

 そして遂に自信満々のラウラの口から爆弾が投下される。

 

「コーヒーガムだっ!」

 

 爆弾はとんでもない威力を秘めており、爆発と同時に辺り一帯を静寂が包んだ。誇らしげに胸を張るラウラだけを残して。

 

「「『……えっ』」」

「ふっふっふっ……日本にはコーヒーガムが大好きな犬がいるのだろう? 昔、部下から聞いたのを思い出したのだっ」

 

 一拍置いて皆が漸く声をあげた時には得意気にラウラが語り出していた。部下との会話にあった単語が条件を満たしていたのを思い出したらしい。

 

 ていうかその犬、俺の知ってるやつなら日本の犬じゃないけどな。

 

「確かにガムはコンビニとか薬局で売ってるけど、それ長音符二つ入ってるよ……?」

「何を言う。別に一つだけとは言ってないだろう」

「飲み込むのは……」

「ガムは飲み込むなと織斑先生に教えられたが違うのか?」

 

 真っ先に不純なものを思い浮かべた俺達に対してラウラは何処までも綺麗な心で向き合っていく。

 それに浄化されてか、何も言わずにラウラの頭を優しく撫でていった。まるで親が子供を褒めるかのように。

 

「む、むぅ……皆どうしたのだ?」

「…………お前が賢いなと思ったんだ」

「そ、そうか。うむっ、なら仕方ない。もっと褒めるがいいっ」

 

 かくいう俺もこの時ばかりは自分から膝の上に乗せて存分に撫でた。

 そこでもラウラは得意気にしているが今日ばかりはいいだろう。

 

 ちなみにさっきの反応から察するにミコトちゃんも分かってたの?

 

『えっ、コーヒーガムでしょ?』

 

 こいつ……。

 

 

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