IS学園での物語   作:トッポの人

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Q何で遅れたの?
Aそれは悲しいアクシデントが色々重なったからです


第56話

 《テストはそれで充分よ。お疲れ様》

「……了解しました。お疲れ様です」

 《アリーナの隅に簡易の補給装置があるからそこで待っててね》

「……ありがとうございます」

 

 ウィンドウ越しに虚さんとのやり取りを終える。放課後の時間で今日は久し振りの装備試験を行っていた。

 今回のはナイフだ。銃のようにトリガーとトリガーガードが付いているのがポイントらしい。

 まだ改良途中のようでこれから機能を付加していくらしく、今回はただ武器としての性能を試すだけ。そこまで調べる項目もなかった。

 

「嫁よ、性能試験はこれで終了か?」

「……ああ。助かった」

 

 しかも以前のGNハンマーと違い、今回は非常に楽だった。幸いにもナイフの扱いに慣れているラウラが付き合ってくれたからだ。

 付きっきりでレクチャーしてくれたおかげで試行錯誤の末、何となく扱えるようにはなった。流石に素人が取ったデータでは納得してくれないだろう。

 

「さっきも言ったが今はISを展開している事を忘れるな。それまでが悪いとは言わんが、状況や人によって何が有効か変わるのは当然だ」

「……了解」

 

 ラウラが言ってるのは俺のナイフの使い方について。自分から一番近い部分を切りつけるというやり方をしていたがあまり効果的ではなかった。

 以前読んだ本で有効的とか書いてあったがラウラの言う通り状況次第という事か。

 

『ちなみにその本の名前は?』

 

 ホーリーランド。

 

『それ生身の話じゃないですかー!』

 

 言われてみればそうなんだよなぁ……。

 そもそも血を流して怯ませるみたいな戦法だし、相手IS展開してるからあんまり意味ないような気がする。だからラウラもこう言ってるんだし。

 

「……もう一度、ありがとう」

「そう何度も言わなくていいぞ。夫婦は支えあってこそだ。夫として嫁の手伝いをするのは当然だろう」

「…………そうか」

「夫をもっと頼ってもいいんだぞ」

 

 改めて礼を言えば、得意気な顔でそう言われてしまった。

 相変わらずこの夫はドヤ顔で間違った事を言っている。その内どうにかしないと。

 

 その時視界の隅で一夏と楯無さんの模擬戦が行われており、目の前まで接近した一夏を楯無さんが発生させた水の激流が押し戻す。

 

「おねーさんのスイトン・ジツ! イヤー!」

「グワー!」

『水のないところでこのレベルの水遁を発動出来るなんて……』

 

 さすが生徒会長……でも一夏も案外余裕そうだな。ていうかいつから二人は忍者になったんだ。

 

 どっちにせよ、あの戦いに巻き込まれない内にこの場を離れた方が良さそうだ。

 ラウラと共に離れようとしていると隣から視線を感じた。相手は言うまでもない。

 

「……どうした?」

「いや、それにしても良いコンバットナイフだなと思ってな」

「……そうなのか」

「うむ。出来れば私が使いたいくらいだ」

 

 褒められたから見せびらかす訳じゃないが、お手玉のようにしながら左右の手を行き来しつつ、持ち方を順手、逆手と変えていく。

 それを猫じゃらしを前にした猫のように目で追い掛けていくラウラ。少し可愛いと思ってしまった。

 

 ナイフなんてこれが初めてだからよく分からないが、現役軍人がそこまで言うくらいだから余程なんだろう。

 

「……完成したら一つ貰えないか聞いておく」

「ほ、本当か!?」

『その時、一羽のウサギが食い付いた』

 

 食い付くの虎なんだよなぁ……。

 

 俺の思い付きの発言にナイフを追い掛けていた瞳が俺を捉えた。おもちゃのケース前にいる子供のようにキラキラ輝かせて。

 まだ貰えるかどうかも分からないのにこの喜びよう。少し軽率だったかもしれん。

 

「……手伝ってくれた礼だ。ただあんまり期待はするなよ」

「ああ、分かっているっ」

 

 貰えなかった場合を想定して注意はしたが、言葉とは裏腹に顔を綻ばせている。本当に分かったのか怪しいところだ。

 

「はい、お待たせ。それじゃ補給するから二人とも展開したままこっちに来て」

「おいでおいでー」

「……お願いします」

「お願いしますっ」

 

 どうしたものかと悩んでいると虚さんと布仏が来てくれていた。

 やたら上機嫌に返事するラウラに首を傾げつつもきっちり仕事していく。しかし、どうにも気になるようでついに訊ねてしまった。

 

「凄く嬉しそうだけど何かあったの?」

「ええ、嫁からプレゼントが貰えるので!」

『oh』

「「「っ!?」」」

 

 問われた内容にラウラが鼻息荒く、大声で応える。余程誰かに言いたかったようだ。

 その想いは通じたらしく、おかげで離れたところで訓練していた皆から何か言いたげな視線が向けられる。何故か俺に。

 

「へ、へー……そうなのー……」

「はいっ!」

「…………」

 

 側で聞いていた虚さんの表情も何とも言えないものになる。

 いや、プレゼントなんて大それたものじゃないし、そのプレゼントは色気があるものでもない。

 

 視線に耐えきれず、顔を背けるとその先には布仏が俺をじっと見ていた。ただ布仏にしては珍しく、少し不満そうにしている。

 

「はるるん」

「……何だ」

「らうりーだけ贔屓するのは良くないよー」

 

 そこまで言われてはっと気付いた。

 言われてみれば確かにラウラにだけ武装を渡して強化しようとしている。国家代表を目指している面々の中でだ。

 確かにこれは贔屓と捉えられても仕方ない。代表候補生でもないのに箒が反応したのは知らないし、何故鈴が反応しないのかは置いといて。

 

 とりあえず困ったな。解決法が全く分からん。

 

「逆に考えるんだー。一人にあげてダメなら、皆にあげちゃえばいいんだって考えるんだー」

「…………それはどうなんだ」

 

 どうしたものかと考えていると、布仏が袖に包まれた手を一生懸命振って身振り手振りを加えて説明してきた。それのおかげで分かりやすくなったかは考えないでおこう。

 しかし、そうは言ったがまるっきり間違った答えでもない。一つの考えとして片隅に残しておこう。

 

「……ねぇ、はるるん」

「……ん」

 

 再び呼ばれて意識を向ければ、いつもより笑顔にほんのり頬を染めている布仏が手招いている。何かと思い近付けばこっそり耳打ちしてきた。

 

「私も、お姉ちゃんも、はるるんからのプレゼント楽しみにしてるからね」

「えっ」

 

 まだ皆にプレゼントするって決まってないのに……。というか布仏も虚さんも武器欲しかったのかよ。

 

「…………そうなのか」

「そうだよー。ねー、ウサリン」

「……何?」

 

 俺の横に問い掛けるといつの間にかいたウサギさんがこちらへ振り向いた。

 本来は全身を入れて固定するエネルギー補給装置に顔だけ突っ込んでいる。何をしていたんだろうか。

 

「嫁のペットか。よしよし」

「またそうやって……はぁ」

 

 補給が終わるのを待つだけとなったラウラと虚さんもやって来た。

 反応を見るにどうやら虚さんは何をしているのか分かっているようだ。溜め息と頬に触れる手から見るに呆れるような困ったような思いがあるらしい。

 

「……これは何をしてるんですか?」

「補給してるみたいなんだけど……この子何度言っても補給する部分に顔を入れるのよ。ちゃんと背中にISと同じ規格のものがあるのに」

 

 何だそれ。というか顔からエネルギー補給出来るのか。

 

『本人に聞いてみればいいじゃん。じゃんじゃん?』

 

 それもそうだな……オッケー、分かったじゃん。

 

 しかし、ミコトとの会話を聞いていたようでこちらが訊く前にまた器用に前足を使ってスケッチブックに何かを書いていた。

 

「む? 何々……」

「背中から補給するのは味気ない……?」

「……口からの方が美味い、らしいです」

「何よそれ……」

 

 三人で読み上げるとウサギさんが前足を掲げてきた。スケッチブックを捲ると親指を立てている絵が描いてある。これを真似ているようだ。

 

 いや、普通に読んじゃったけど何処のガンマックスなんだよ。そもそもエネルギーに味なんてあるのか。

 

『同じ飲み物でもグラスによって変わるでしょ?』

 

 ようするに気分次第ってことか。まぁ分からなくもない。

 

「お疲れ。またそいつ来てたんだ」

 

 声に振り向けば一夏と楯無さんがいた。遅れて他の皆もこちらへ来ている。あれだけ騒がしかったアリーナも今はとても静かだ。

 

「……お疲れ。もう終わったのか」

「今日は最後にちょっと大変なのがあるから軽めなのよ」

「……大変なのって何ですか」

「ひ、み、つっ」

「…………分かりました」

 

 嫌な予感に従って聞いてみるも楯無さんは教えてくれない。

 

「ごめんね」

 

 しかも通り過ぎ様に何処か申し訳なさそうに謝ってきた。そんな態度を取られれば余計に気になってしまう。

 

 大変なのって何だろう……。

 

『そりゃあもう仮面ライダーみたいな厳しい訓練がですね……』

 

 いやいやいや、無理無理。俺鉄球生身で受け止められないって。

 

『何でそこは知ってるの……?』

 

 えっ、他に仮面ライダーの話したっけ?

 

 嫌な予感に加えてミコトとの会話で謎も深まった。しかし、それらも一夏のおかげで直ぐに霧散する事となる。

 

「なぁ、最近千冬姉の機嫌がコロコロ変わるんだけど何か知ってるか?」

「……さぁな」

「そっかぁ……春人に聞けば分かると思ったんだけどなぁ……」

「…………何でだ」

 

 残念そうに言ってるけど何で俺に聞けば分かると思ってたんだ。逆に俺が聞きたいくらいだよ。

 

「織斑先生も女性なんだから色々あるのよ」

 

 話を聞いていた楯無さんが虚さんとの打ち合わせを終えてこちらへやってくる。

 

「そうなのかなぁ……でもあんな千冬姉初めて見るんですよ?」

「そうなの。というか、一夏くんは気にしすぎ。それじゃシスコンって言われてもしょうがないわよ」

 

 何だ今の凄まじいブーメラン。

 

「いや、俺シスコンじゃないですよ」

 

 一夏も楯無さんには言われたくなかったのか、珍しく少しだけ表情がむっとしている。

 しかし、それが楯無さんの心に火を点けたらしくにやにやと実に楽しげな笑みを浮かべ始めた。からかう気満々だ。

 

「えー? でも今の聞く限り一夏くんシスコンだと思うんだけどなー?」

「だから違いますって」

「……楯無さん」

「なぁにっ?」

 

 ダメだ、名前を呼ぶも楯無さんは止まる気配を見せない。それどころか笑みは深まるばかり。だがそれも続く一夏の発言であっさり止まってしまった。止めようとした俺さえも。

 

「だって千冬姉がシスコンじゃないって言ってましたから」

「そ、そうなんだ……」

「ん? 俺変な事言ったか?」

「…………いや」

 

 それぐらい今の発言は中々強烈なものがあった。分かりやすく言うと『でも僕はシスコンじゃないってお姉ちゃんが言ってた』である。

 

『あかん……』

 

 やはり箒と鈴の最大の敵は織斑先生の可能性が……。どうすればいい……。

 

 最大の壁を再認識していると漸く一夏と楯無さん以外も到着。何故か当然のように俺の側にやってくる皆様。話は変わり、今度は先程のプレゼントについてになる訳で。

 

「春人……何でラウラにだけプレゼントするの?」

「……プレゼントとかそんなつもりはないんだが」

「お兄ちゃん……」

「いや、その……!」

 

 俺の手を取って切なげな瞳で見てくる簪の問いにしどろもどろになってしまう。続くシャルの追い打ちには何も言えなくなってしまった。

 答え方次第では二人の目から涙が流れてしまうだろう。これまでの経験と俺の勘がそう告げている。そう考えると汗っかきではないのに滝のように汗が流れて止まらない。

 

「ふっふっふっ、嫁としての自覚が出てきた証だな」

「「むぅぅぅ……!」」

 

 ラウラ、今その冗談はやめてくれ。俺に効く。

 

「二人とも落ち着いてください」

「……セシリア」

 

 そこに三人を宥めるべく、セシリアから助け船が。

 ほっと一安心して思わず名前を呟くとセシリアはにっこりと穏やかな笑みを浮かべてこう続けた。

 

「春人さんほどの素敵な殿方がラウラさんにだけなんてありえませんわ。わたくし達の分も用意してくれています」

「「っ……!」」

「えっ」

 

 セシリアの起死回生の一言は泣きそうだった少女二人を容易に救ってしまった。俺の動揺を犠牲にして。

 

「……おい、セシリア」

「あら、何か問題でも?」

「…………問題しかない」

 

 その場から離れて明るい表情になった二人には聞こえないよう精一杯小声で抗議するも、素敵な笑顔を浮かべるセシリアには通じそうにない。

 

「女性への贈り物を考えるのもレッスンの一環ですわ」

「……いきなり実戦のようだが」

「置かれた状況を最大限利用した結果です。多少は目を瞑ってくださいませ」

「……しかし、何を渡せばいいのか分からない」

 

 そう言ってこちらを伺いながらウィンク一つ。セシリアがやると非常に絵になる。

 だがそもそもラウラに渡せるかどうかもまだ怪しい段階だし、どんな武器を渡せばいいのかも分からん。

 

「それでしたらわたくしから少しヒントでも」

 

 と、待っていたとばかりにセシリアが微笑む。助かった、女神はここにいたのか。

 

「……ああ、頼む」

「お代はわたくしとのデートで如何でしょうか」

 

 この女神お代取るのかよ。ま、まぁ背に腹は代えられない。それにデートと言っても荷物持ちみたいなものだろう。

 

「…………分かった。頼む」

「はいっ」

 

 再度了承の返事にセシリアの笑みに更に喜色が宿る。

 

「実はわたくし達、春人さんから貰えるのでしたら何でもよいのです」

「…………おい」

「あら、嘘ではありませんわ」

 

 得意気な顔で何とも困る解答をしてくれた。

 ヒントにもならないヒントに再び抗議の視線と言葉を送るもただニコニコと微笑むだけ。

 騙されたとまでは言わないが、セシリアの作戦にものの見事に嵌まってしまったようだ。

 

「プレゼントも、デートも楽しみにしてますっ」

「…………分かった」

 

 結局向けられた笑顔に為す術もなく、はいと答えるしかなかった。その一言を聞いて途端に沸き上がるセシリアを含めたお三方。

 どうしようかと悩む暇もなく、背後からくすくすと笑い声がする。

 

「……何だ」

「相変わらず苦労してるなと思っただけだ」

「……良く分かってるな」

「ああ、良く見ているからな」

 

 笑い声の主である箒に訊ねれば、口元に手を当てたままそう答えた。嬉しそうに、楽しそうに俺をからかっている。

 やられてばかりはダメだ。こちらもお返ししよう。

 

「……そんなに見て俺に惚れても知らないぞ」

「ふふっ、随分と遅い忠告だな」

「……と、言うと?」

「もう手遅れだと言ってるんだ。責任はしっかり取ってもらうぞ」

「…………一夏に悪い事してしまったな」

「大丈夫だ。あいつなら祝福してくれるさ」

『ひゅーひゅー』

 

 ぬ、ぬぐぐぐ……!

 

「…………すまない、降参だ。からかうのはもうやめてくれ」

「む、からかってるつもりもなかったが仕方ない。ここまでにしよう」

 

 俺もからかおうとしたら余裕たっぷりに返されてしまった。向こうの方が遥かに上手だったらしい。

 観念して口だけじゃなく、両手をあげて降参のサインを出せば漸く終わり。それでも箒としてはまだからかいたかったようだ。残念そうな表情が何より物語る。そういうのは一夏にやってくれ。

 

『春人、春人! 女の子にモテる秘訣を教えて!』

 

 いや、そんなの俺に聞かれても――――

 

『わくわく!』

 

 途中まで言いかけて気付いた。これは真面目な問題ではなく、いつものおふざけであると。ならば俺だけ真面目に答えても仕方ない。

 

 ――――全く、しょうがないな。よぉく聞いとけよ。

 

『おお!』

 

 と言っても俺もモテる秘訣なんか知らないんだ。だから代わりに一つの真実を教える。

 

『何々?』

 

 訊ねてくるミコトの声にも期待が隠せなくなってきたところで答える事にした。折角の台詞だ、なるべく良い声で言うのは期待してくれるミコトへの礼儀だ。

 

 ――――本当に良い男ってのは女の方から来てくれるのさ。

 

『ヒュー!』

 

 ただし俺がそれに該当するとは言ってない。深い悲しみを背負った答えだったりもするのだ。

 

『えぇ……』

「さ、補給も終わったし、春人くんからプレゼント貰えるみたいだし……最後のやつやっちゃいますかっ」

 

 セルフでダメージを負っていれば、追い討ちをかけるように楯無さんがさらっと上機嫌にとんでもない事を言っていた。そして本日最後のメニューへ。

 溜め息を一つ吐くと楯無さんの表情が真面目なものへと切り替わる。

 

「防衛側と侵攻側に別れての模擬戦を行うわ。制限時間内にターゲットを守り切るか侵攻側を倒せば防衛側の、攻め落とせば侵攻側の勝ちよ」

「これがそのターゲットね」

 

 虚さんが端末機を操作して現れたひし形のターゲット。よくセシリアやシャルが射撃の的当てとして使っているものだ。

 

「今回の目的はゴーレム、VTシステムとやたら強いのが何度も来てるからそういうのがまた出てきた時の対処法と慣れましょってのが狙いよ」

 

 なるほど、二度ある事は三度ある。やらないよりはやった方が断然いい。ゴーレムこと元カノに関しては織斑先生もまた来ると言って警戒していたくらいだ。

 

 大半がこの訓練に納得する中でゆっくり手を上げるのと、それとはまた別に勢いよく手が上げられる。

 

「その、ゴーレムって何ですか……?」

「情報共有をお願いします」

「そっか……シャルロットとラウラは知らないんだね……」

 

 俺だけじゃなく簪も忘れていたようだが、そういえば元カノは二人が来る前の出来事だった。随分長い間一緒にいる気がしてたがそうではないんだ。

 

「ものすごーく簡単に言うとね、VTシステムより強いのが襲ってきたのよ」

「そ、そうなんですか!?」

「むぅ……」

 

 説明する傍ら、楯無さんが拡げた扇子には『ヤベーイ』と書かれていた。誰も突っ込まないし、あの音声に皆慣れつつあるのか。

 

『私が広めてきたおかげですね。むふーっ』

 

 ミコトちゃんが物凄く満足そうで俺も大満足。

 

「で、侵攻側っていうか敵役なんだけど……」

 

 さて、二人に説明を終えた事で危険性を伝えればあとはこの訓練における最大の難点、仮想敵をどうするかだけとなった。

 あれだけのレベルとなれば織斑先生に頼むしかないような気がする。誰がやるのやら。

 

『あのー、私分かっちゃったんですけど』

 

 え、嘘。じゃあ、とりあえずあの流れケイゾクするために色っぽく言ってみて。

 

『分かっちゃったぁ』

 

 あら、賢い。

 

「春人くん、敵役お願いね」

「「「っ!」」」

「…………ん?」

『やっぱりね』

 

 何かミコトとふざけてたら敵役俺にされてたでござる。しかもそれだけじゃない。あの言い方から察するに侵攻側は俺だけのようだ。

 それを抜きにしてもどうしても聞きたい事がある。

 

「…………あの、俺は防衛側にいなくてもいいんでしょうか」

「だって春人くんがいない時を想定してるもの」

「……なるほど」

 

 あー、なるほどね。『ただしその時櫻井春人はいないものとする』ってやつね、よくあるー。

 

『いや、ないでしょ』

 

 まぁ、仮になかったとしても言ってもどうにもならないからやるしかないんだけどな。

 


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