IS学園での物語   作:トッポの人

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わい生きてました。


第58話

 今日もやはり何故か俺の部屋に集まるというので、その前に箒と鈴を呼んで今後の一夏への対応について話し合おうとしていた。

 

「言っても無駄だろうけど言うわよ! 何で嫌なのに嫌って言えないのよ! このむっつりスケベ! ヘタレ!」

「……男は皆スケベだ。あとヘタレじゃない」

「そっちはいいのよ、むっつりヘタレ!」

 

 略すなよ。ヘタレじゃないからむっつりスケベだけでいいだろ。

 

 予定よりも早く鈴が来たかと思えば開口一番これだ。言ってるのは恐らく最近始めた訓練の事だろう。相変わらず心を読むのが凄い的確だ。その能力を一夏相手にも生かしてほしい。

 さて、それはともかく箒が来る前にこの思いっきり毛を逆立たせている猫を落ち着かせないと。いきなりこの状態では競争相手の箒も困るだろう。という訳で。

 

「……落ち着け、鈴」

「は?」

「……ほら、いい子だな」

「……」

 

 舌を鳴らしながら指で招くと本当に大人しくなった。いつだったか猫のようだと思った事もあったが、まさかここまで同じだとは。

 続けていると鈴は黙ったまま、ふらふらとこちらへ寄って来た。指に顔を近付けていき、そして────

 

「うにゃー!」

 

 思いっきり噛まれた。

 

「…………痛い」

「人を猫扱いするからでしょ!」

「……すまない」

 

 いや、でも自分からうにゃーって言いましたけど。ノリがいいのか素なのか分からん。

 ともかく今のは最悪の一手だったらしく、状況は悪化。思いっきり歯形を付けられた指を擦り、ほとほと困り果てていた。

 それを察したのか、態とらしく大きな溜め息を吐くと乱暴に椅子に座る。

 

「で、そこからどうすんの」

「?」

「あんた困ってるんでしょうが。どうすんのよ」

 

 まぁ困らせてる私が言うのも変だけど。おどけながら最後にそう付け加えた。

 少し雰囲気が穏やかになったが、向けられるのは相も変わらず鋭い目付き。この問い掛けを間違えたらまた怒られるだろう。慎重に考えなければ。

 

「……ふむ」

「……」

「…………んー」

「…………」

「…………うーん」

「────ふっ」

 

 鈴が鼻で笑うと同時に何処からともなく聞こえてくる何かが切れる音。何かと音のした方である鈴へと顔を向けた。

 

「あんたってやつはー!」

「えぇ……」

 

 勢いよく立ち上がってシンみたいなキレ方してきた。しまった、穏やかなのも今の質問も時間制限があったらしい。

 

「簡単な事でしょ!? あんただけじゃ出来ないなら誰かに助けてもらいなさい! あんたがいっつもやってる事でしょうが!」

「い、いや、それは考えたが」

「何よ」

「ひ、人には得手不得手があるから誰に相談したものかと……」

 

 怒りながら詰め寄ってくる姿にたじたじになりながらも必死に弁解していく。

 ただ俺も何も考えなかった訳じゃない。その手段は考えていた。だがそもそも相談したところで手伝ってくれるかも分からないんだから別の手も考えておかないと。

 

「そんな下らない事考えてる暇あるならとりあえず皆に言いなさい。まぁ、あんた口下手だから出来ないだろうけど」

「…………むぅ」

 

 酷い言われようだが事実だから言い返せない。唸る事しか出来なかった。

 畳み掛けるようにこちらへ手のひらを上にして差し伸べると続けた。

 

「だから代わりに手を伸ばしなさい。それなら出来るでしょ」

「……いや、それだけじゃ分からないと思う」

「私は分かる。あと本音もね。それにね……」

 

 こちらに差し伸べる手が指差すように変わると鈴はこう言った。自信満々な表情を浮かべて。

 

「私が惚れた男、舐めんじゃないわよ。それで充分伝わるわ」

「……信頼してるんだな」

「当たり前よ。昔から一夏は私のヒーローだもの」

「…………そうか」

 

 鈴にはその時が鮮明に見えているらしく、一夏ならそうすると信じて疑わないようだ。昔に何かあったのだろう、そう想像するのに難くない。

 

 おうおう、女の子からここまで言われるなんてさすがだねぇ。一夏の罪が止まらない。加速してる。その内、極限進化加速形態にでもなるんだろうな。

 

「下らない事考えてないで返事する」

「…………分かった。覚えておく」

「よしっ」

 

 俺が返事をすると鈴は屈託のない笑顔を向けてくる。一先ずはこれで終わりのようだ。

 

「ところで今日何処行ってたのよ」

 

 と、思いきやそれとはまた別の追及が始まる。今日はミコトが修理中というのもあって訓練は参加していない。

 では何をしていたのかと言うと、RPGと恋愛ゲーを足したものの続編が発売されたのでそれを買いに行ってたのだ。

 

「…………新作のゲームを買いに外に行ってた」

「あ、もしかしてこの袋? 中身見ていい?」

「っ、待てっ」

 

 しかし、こちらの制止も空しくベッドに置かれていた袋から取り出される。

 もう表面から痛々しい雰囲気満載のパッケージだが、鈴はそれを興味津々に眺めていた。感慨深げな声が聞こえてくるのも気のせいではないだろう。

 

「…………何も言わないのか?」

「別に。人の趣味をとやかく言うつもりはないわよ」

「……この前は言っていたと思うが」

「それは相手が一夏だから。もし二次元に恋してる、三次元はいいなんて言われたら焦るでしょ。はい」

「…………それもそうか」

 

 ソフトを手渡ししながら言ってきたが確かに一理ある。ずっと好きだった相手が再会したら三次元に興味ありませんなんて事になったらああもなるか。

 

「あんたもそういうのやるのは構わないけど、他の皆にはバレないようにやりなさい」

「……何でだ?」

「何でもよ。また恋愛ゲームしてた時みたいになってもいいならいいけど」

「…………了解した」

 

 言われて苦い思い出が甦る。かつて恋愛ゲームで痛い目にあったあの日の事を。あれはもう勘弁してくれ。

 という訳でそそくさと買ってきたソフトと袋を引き出しの中に隠す事に。これで大丈夫だろう。

 

「はぁー……何か喋りすぎて喉乾いたわ」

「……何か飲むか」

「烏龍茶お願い」

「……待ってろ」

 

 リクエストに応えるべく買ったばかりの冷蔵庫を開く。皆が持ち込んだ飲み物やらが大量に入ってる中にお目当てのものを見つけた。

 

「……ほら」

「ん。ありがと」

 

 並々とグラスに注がれた烏龍茶を一気に半分まで減らしていく。余程喉が乾いていたらしい。いい飲みっぷりだ。

 俺も喉が乾いているが、欲しているのは暖かいお茶。この時期にエアコンの効いた部屋で飲む暖かい飲み物がいいんだ、これが。

 

「…………む」

「どうしたの」

「……茶葉がない」

「買い置きもないの?」

「……勿論、買ってある」

 

 しかし、いざ用意しようと茶筒を見ると茶葉がない。そういえば前飲んだ時に補充しなきゃとか考えてた気もする。

 だが俺はこんな事もあろうかと抜かりなく新しい茶葉をストックしておいたのだ。今こそ使う時。

 

「…………」

「今度は何で困ってんのよ」

「…………いや、何処に置いたのかと」

「何でそこ忘れんの……全く」

 

 買ったのは思い出したけど、何処へやったのかは覚えてないっていう。

 鈴も一緒になって台所周りを手当たり次第に探していると部屋の扉が開いた。来訪者はもう一人の待ち人だと容易に想像がつく。

 

「ただいま」

「…………おかえり」

「ああ、ただいまっ」

 

 何故か自分の部屋じゃないのにただいまと言ってきた箒に突っ込みたいところだが、一応返事をしたからかやたら嬉しそうにしているから野暮だし、それよりも優先すべき事がある訳で。

 

「何をしているのだ?」

「……以前買った茶葉を探している」

「何処に置いたか忘れたんですって」

「ああ、それならここにあるだろう。ほら」

「…………そうか」

「あんた……」

 

 箒が開けた棚を覗けば俺が欲してやまない茶葉が。横からあんたそこ見てたじゃんと言いたげな鈴の呆れた声と視線が向けられる。

 

 あらやだ。

 

「…………ありがとう」

「どういたしまして。すぐお茶淹れるから座っててくれ」

「……いや、しかし」

「いいからいいから」

 

 無理矢理椅子に座らせられると手際よく準備を進めていく。さっきの茶葉といい、まるで自分の部屋のように何が何処にあるのか完全に把握しているようだ。

 まぁ、ここに自分の部屋なのにまるで分かってないやつがいるのですが。

 

「お客さんにお茶を用意させるのってどうなの」

「…………言わないでくれ」

「────♪」

 

 鈴からの手痛い突っ込みに返す言葉もない。静まった部屋に上機嫌そうな箒の鼻歌がよく聞こえる。

 全員着席したし、用意してくれたお茶を飲みながら気を取り直して対一夏の話をしよう。

 だがその前に。

 

「…………箒、出来れば向かいに座ってくれないか?」

「な、何でだ!?」

 

 お茶を俺と自分に配ってくれた箒は当然のように横に座ったのだが正面にいてくれた方が話しやすい。というかそこまで驚く必要あるのかと。

 

「……そっちの方が話しやすいと思う」

「で、でも……」

「あー、いいわよいいわよ。時間が惜しいわ」

「……了解した」

 

 やたら渋る箒に鈴が呆れがちに言った。そこまで押している訳でもないが、強敵である一夏への対策を考えると時間はあるに越した事はない。

 

「……いい加減、一夏も昼時に皆と食事出来ないのを怪しんできた」

「まぁ……そりゃねぇ」

 

 ほぼ毎日やられていれば無理もないが。むしろよく今日まで出来たものだ。

 

「……という訳で本日を以て、二人きりの時間を増やしてじっくり攻めよう。通称恋しましょう粘りましょうは一時凍結とする」

「そんな名前だったのか……」

「本当にセンスないわね」

 

 うっせ。

 

「……だが二人とも何度かやった手作り弁当は折りを見てやろうと思う。鈴、メモを見せてくれ」

「はい、これ」

 

 鈴から出されたメモに目を通していく。書かれている内容は先程話したお弁当について。ここから今後のお弁当をどうするのか考えようという訳だ。

 ちなみに箒に関しては全部俺が一度試食しているというハンデがあるので今回は鈴にだけアドバイスする事に。

 

 ふむ、鈴は中華料理のみか。というか酢豚多いな。味噌汁の代わりに毎日作るって言ったくらいだし、余程気に入ってるのだろう。

 そして恐らく何を作っていたのか気になって横から箒が一緒に見ていた。

 

「……中華料理ばかりだな」

「まぁ前にこっち来てた時は中華料理屋やってたしね」

「……そうか」

「悪くないが、たまには和食とか他のジャンルを作ってみるのはどうだ。意外性を出せるぞ」

「んー……なるほどねー……」

 

 えっ、いや、いいんだけど……えっ?

 

 親身に一緒になって箒が恋敵に塩を送っているので困惑している俺。鈴もまるで当たり前のようにしているから困惑は深まるばかり。

 それに気付いていないのか、二人がこちらへ顔を向ける。

 

「春人はどうだろうか」

「ていうかどうしたの。黙っちゃって」

「…………いや、箒はいいのか?」

「何がだ?」

「…………鈴にアドバイスしているように聞こえるが」

「あー……」

「ん? ああ、ふむ……」

 

 やはり二人とも気付いてなかったようなのでその事を口にすると、箒が腕を組んで考え始める。しかし、それも僅かな間だった。

 

「しまったー。ついついアドバイスしてしまったー。鈴にハンデを与えてしまったなー。これでは公平でなくなってしまうなー」

 

 何だろう、この酷い棒読み。しかも俺の方をちらちら見てくるし。ここまでされるとさすがに俺も分かる。

 

「…………分かった。また何か手伝う」

「ああ、頼むぞっ」

 

 求めていたものは合っていたようで、箒の声が棒読みから弾んだものへ。

 

「はいはい、話戻すわよ」

「……すまない」

 

 と、話が逸れてしまった。

 

「……俺も箒の案はいいと思う。和食じゃなくてもたまには違うのはどうだ?」

「確かに……なら多少は慣れてる和食でも作ってみましょうか」

「あとは何を作るか、だな」

 

 一先ず鈴が和食を作るので決まりとなった。とは言え、箒の言う通りまだ何を作るのかという問題がある。

 

「それも大事だけど、どうやってそれを渡すのかっていうのもあるでしょ。インパクトは大事よ」

「……この声は」

 

 三人で何を作ろうと悩んでいるところへ再び部屋の扉が開いたと同時に来客が。

 俺に続いて二人が扉の方へと向けばそこにいたのは────

 

「颯爽登場! 楯無おねーさん!」

 

 ────向けられた視線に応えるべく、バッチリカッコいいポーズを決めた楯無さんがいた。

 颯爽と言ったわりに普通に部屋に入ってきただけなのは気にしてはいけない。

 

「どうやって渡すかって……何かあるんですか?」

「ふっふっふっ……!」

 

 当たり前の質問に楯無さんは含みのある笑いをしてこう答えた。

 

「私にいい考えがあるわ!」

 

 何かダメな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってまいりました、お料理世界大会! 各国の専用機持ちが今日はISではなく、調理器具を手に戦います!」

『どんどん、ぱふー!』

 

 ミコトの口で発した効果音をBGMに楯無さんが言っていたいい考えである料理大会が開催された。

 ルールは簡単、これから発表されるお題の料理をそれぞれがこの場で作り審査員が食べて点数を付けるというもの。

 ただし、参加する箒と鈴は事前に何を作るか知っており練習を重ねていた。やらせと言われても仕方ない。二人のための企画なのだから。あとは審査員である一夏の好みに任せるだけ……のはずだった。

 

「…………何で俺もここにいるんだ」

 

 俺も審査員に選ばれるというイレギュラーがなければ。一夏と二人のための企画なんだからいらないと思うんだが。

 

「それ俺の台詞なんだけど」

 

 そりゃお前は今回の狩り(シカーラ)獲物(ラマタ)なんだからいなきゃダメだろ。

 

 疑問は残るがとりあえずもうギャラリーで逃げ場がないので大人しく二人仲良く首を傾げながら待つ事に。

 普通ならお腹痛くなりそうだったけど、毎度の如くミコトがカバーしてくれたおかげでへっちゃらさ。

 

『良妻であり幼妻ですゆえ』

 

 結婚申し込もうと思ったらもうしてたのか。残念だ。もうやる必要もないのか。

 

『今からでも遅くない、申し込もう!』

 

 申し込むのを推していくスタイルぅ。

 

「さぁ、では参加選手を紹介していきましょう!」

 

 さて、予定の時間になったので一人一人入ってくるようだ。専用機持ちと言ってたからある程度は予想出来るが誰が参加するのやら。

 

「まずはこの方、篠ノ之箒さん! 専用機持ちではありませんが、一般枠として参加しました!」

「…………」

 

 入ってくるなり所定の位置に止まると腕を組んで静かにその時を待つ。まるでこれから決闘に挑む侍のようだ。さすがミス・ブシドー。

 

「二人目、中国から凰鈴音さん!」

「ま、私の優勝間違いなしよね」

 

 次に現れた鈴は自信満々に明るく自身の優勝を宣言した。一夏の好みを把握しているのと、重ねてきた練習から来る自信だろう。

 

「な、なぁ一つ聞きたいんだけど……」

「……何だ」

 

 と、横から鈴が現れた時からそわそわしている一夏が話し掛けてきた。かなり珍しい姿だ。

 

「最近、鈴が春人の部屋によく行ってるみたいだけど……その、何してるんだ?」

 

 恐る恐る小声で何を聞いてくるのかと思いきや鈴の動向について。

 何をしていたのかと言えば、箒と鈴の二人でひたすら今回のお題の練習していただけなのだが変な誤解を与えてしまったらしい。幾ら一人部屋で都合がいいからといってもやっぱりやめた方が良かったな。

 

「……すまない、それは鈴との約束で言えない。だがお前にとっていい話だ」

「俺にとって?」

「……ああ。それも昨日で終わったがな」

「そ、そっか」

 

 そう言うと安心したように溜め息を吐いた。

 というか箒もそこにいたのにそれはいいのか。勝ち目がどんどんなくなっている気がする。

 

「三人目、日本から更識簪さん!」

「頑張る……!」

 

 小さく胸のところで拳を作ってやる気をアピールする簪。こういうのには出ないと思っていたから意外だった。

 

「四人目、イギリスからセシリア・オルコットさん!」

「わたくしの優勝に揺るぎありませんわ」

 

 歌劇にあるようなポーズと共に優勝宣言。前の経験から少し嫌な予感がするが気のせいと思いたい。

 

「五人目、ドイツからラウラ・ボーデヴィッヒさん!」

「嫁に出来る夫だと示すいい機会だ。ちゃんと見てるんだぞ」

 

 腰に手を当ててふんぞり返る夫の姿に一抹の不安を覚えてしまう。別の意味でちゃんと見なければ。

 

「六人目、ブラコンからシャルロット・サクライさん!」

「ぼ、僕はブラコンじゃないよ! ね、お兄ちゃん!」

「…………そうだな」

「だよね!」

 

 俺の妹が国とか一般枠とかじゃなくてブラコン枠で参加してる件について。

 何故か必死にこっちへ訴えかけてくる姿に思わず同意してしまったが、やはりブラコンだと思う。

 

「七人目は我らが生徒会長にして今回の発案者、更識楯無さん!」

「おねーさんも頑張っちゃうぞ!」

 

 いや、何でだ。何でこの人も参加してるんだ。箒か鈴が優勝するようにって計画なのにその考案者まで来ちゃダメでしょう。

 

「八人目、同じく生徒会から布仏虚さん!」

「勝負となれば幾らお嬢様達と言えど手は抜きません」

 

 いつもはストッパーの虚さんも参加してらっしゃる。しかもかなり真剣な眼差しで。何があったんだろう。

 

「最後はこの人です。IS学園教師、山田先生!」

「先生もいいところ見せますねー」

 

 ……えっ、山田先生までいるの。いや、別に参加するのはいいと思うし、いいところ見せるのはいいんだけど何故ここに。

 

「参加される方は以上です。続きまして、作っていただくお題の発表をしましょう!」

「お題はこちら、肉じゃがです!」

 

 予想外の参戦者に驚くのも終わり、プロジェクターで全員が見れるようにしてお題が明かされた。

 たまに食堂のメニューにもあるので全く分からない事はないだろうが、それでもセシリアやラウラは難しい表情を浮かべている。シャルは料理部だから自信あるようだ。

 

 それにしても何故こんなにもやる気があるのだろう。何かあるのか。

 

「優勝商品である審査員のどちらかとの一日過ごす権利を目指して頑張ってもらいましょう!」

「えぇっ!?」

「…………何でだ」

 

 解けてしまった謎に一夏は驚愕し、俺は頭を抱えてしまった。優勝商品なんて打ち合わせにはない。ましてや俺まで対象になる必要あるのか。

 

「……勝つ!」

「違うわ。負けるのよ、私にね」

「ううん、負けない……!」

「申し訳ありませんが、優勝はわたくしがいただきます」

「夫婦はそんなのあって当たり前なのだから別に欲しくもないが……勝つぞ」

「お兄ちゃん、僕勝つからね!」

「んふふー。さぁさぁどうなるかしらっ。ねぇ、虚ちゃん」

「しょ、勝負ですから。何が掛かってようと真剣にやるだけですから」

「先生、頑張りますっ」

 

 商品を見せられた事で各々の優勝への意思がより高まる。若干名俺狙いのようだし、俺も対象になる必要はあったようだ。要らない子だったらどうしようかと。

 

「みーんなー、頑張ってー」

「あれ、のほほんさんは出なかったんだ?」

「私は食べる専門だからー」

 

 いつの間にか俺の横に座っていた布仏が懸命に小さいお手製の旗を振っている。力が抜ける応援だと思うのは気のせいだろう。

 

「あーあ、俺も参加してればもしかしたら……」

「おりむーの料理美味しいもんねー」

「…………」

 

 横にいる一夏から中々恐ろしい内容が飛び出た。恐る恐る見ると実に残念そうな表情で皆を見ている。

 

 何言ってんだこいつ……。もしかしたらなんだ。参加してたらどうするつもりだったんだ。

 

『勿論、仲良く(意味深)なるんですよ』

 

 意味深はやめてくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば時間はあっという間に時間は過ぎ去り、全員が全員作り終えていた。こうなればあとは審査員が食べて評価を下すのみ。

 

 なのだが……。

 

「な、なぁ、これ……」

「…………言うな」

「いい匂いがするー」

 

 震える一夏の声が何を言おうとしたのか分かってしまったので遮った。それ以上はいけない。

 確かに布仏の言う通り、いい匂いはしている。肉じゃがには本来ない菓子のような甘い匂いが。見た目は普通なのに何でこうなるんだ。

 

「わたくしの料理を最初にお選びになるなんてお目が高いですわ」

「…………そうだな」

 

 この見た目は普通な肉じゃがを作ったセシリアが思わず見惚れるような笑みで微笑みかける。選んだのは目じゃなくて鼻だけど。

 危ない橋は最初に渡ろうという考えだったが、それでも踏み切れずにいる。

 

 これ実は俺の適合食材とかないかな。

 

『グルメ細胞ないから違いますね……』

 

 ですよねー……。無い物ねだりしても仕方ない、食べるとするか。

 

『春人に攻撃!』

 

 ライフで受ける!

 

「……行くぞ」

「えー……でも……」

「受け入れよ」

「いや、すげーいい声で言われても困るんだけど……仕方ないか」

「早く食べよー」

「……ああ」

 

 覚悟は出来た。何とか一夏も覚悟してくれたし、布仏も早く食べたくて仕方がない様子。布仏はともかく、二人の覚悟が薄れる前に一斉に口へと運んだ。

 

「「────」」

 

 食べているのはじゃがいもなのに口の中に広がる菓子の甘さ。同時にやってくる肉じゃが本来の味付け。

 

 何だこれ……何なんだこれ。肉じゃが食ったらお花畑が見えるよ。ふふふ、あははは。

 

『春人は何処に行きたいのー?』

 

 秩父山中……はっ!

 

 危なかった。何かこの肉じゃがのおかげで素敵な世界にトリップしていた。

 ふと、一夏が気になってそっちを見ると白眼を向きながらぼそぼそと何かを呟いていた。気になって耳を傾けてみる。

 

「そうか……余はこのために生まれてきたのだ……」

 

 やべぇ、変な電波受信してらっしゃる。

 

「おい、一夏!」

「うおっ!? えっ、な、何だ」

 

 肩を掴んで揺さぶりながら呼び掛けてどうにかこっちの世界に戻ってきた。しかし、これでまだ安心出来ない。

 一夏の反対に座る布仏が完食せんばかりの勢いで食べているのだから。

 

「…………布仏?」

「甘くておいしー」

 

 何とも幸せそうな顔で布仏は食べ続ける。逞しい事この上ない。

 そういえば布仏はたまに食堂のご飯を全部混ぜるという暴挙に出ていた。それで耐性が付いているのか。

 

『告。個体名櫻井春人は毒耐性を会得しました』

 

 やったでおい。

 

 ともあれ最難関は無事クリアした。あとの皆は調理過程を見る限り問題はなさそうだ。

 その時、扉が勢いよく開かれた。現れたのは我らが担任、織斑先生。

 

「何だこの騒ぎは」

「え、えっと……」

「これは、その……」

 

 何かお気に召さないようで一教師が放ってはいけないオーラを放ちながら実況の人に問い掛けていた。

 

「────という訳でして」

「なるほどな……」

 

 しどろもどろになりながらもどうにか説明を終え、織斑先生は顎に手を当て何かを思案。そして伏せていた視線をゆっくり上げていき、やがて一人の視線と重なった。

 

 えっ、何で俺。

 

「おい、櫻井」

「…………何でしょうか」

「お前に用事がある。ちょっと来い」

「……了解しました。すまない、あとは頼んだ」

「お、おう」

 

 親指でくいっと自分の後方を指す姿がやたら似合う。逆らうという選択肢はないのでこの場を一夏と布仏に任せ、織斑先生の後ろに付いていこうとしたら突然手首を掴まれた。

 

「…………あの」

「っ、急ぎなんだ。早く行くぞ」

 

 それだけ告げると何処に行くかも教えずに、こちらに顔を向ける事もなくずんずんと進んでいく。

 階段を登って、廊下を歩き、今度は階段を降り……何処に行くつもりなんだろう。精神と時の部屋かな。

 

 引っ張られるがまま付いていくと人気のないところに辿り着いた。部活やそうでない生徒は全員料理大会に夢中らしい。そこで不意に立ち止まった。

 

「その……すまない。急に呼び出したりして」

「…………いえ、気にしないでください」

「そ、そうか」

 

 壁に背を預けるようにして出た言葉は酷く弱々しかった。一夏が危ない目に遭う時のようだ。確かにさっきは危なかったけど。

 普段と違ってすっかり大人しくなったが、それでも掴んだ手だけは離さない。お互い何も喋らないまま時間だけが過ぎていく。

 

「皆の……」

「……はい」

「皆の作った料理は美味かったか?」

 

 目を伏せながら自嘲気味に笑う織斑先生。寂しそうな、羨ましそうな感じがした。

 

「……まだ一つしか食べていないので何とも」

「す、すまない」

「……いえ」

 

 それだけ答えるとまだ黙り込む。さっきと違うのは手首を掴んでいた手がゆっくり下がり、俺の指で引っ掛けていた。

 

「その、家事が一切出来ない女をどう思う?」

『お?』

 

 さ、さっきから何が言いたいんだ。

 

「…………俺も出来ませんから何とも」

「仮に……仮に男女として付き合うとしてもか」

「……共に学べる喜びが出来ますね」

「────」

 

 さすがにお互いとも出来ないのはどうかと思うから練習しないといけないが、それを好きな人とお互いのために出来るのは凄くいい事だと思う。

 

「……織斑先生?」

「ん、んんっ。何でもない」

 

 呆然としていたが、咳払いをするとさっきの弱気な態度も消えていつもの姿に。

 

「ここまで付き合わせてすまないが、用事が出来た。また今度な」

 

 それだけ言うと織斑先生は何処かへと行ってしまった。俺をその場に残して。結局俺の用事はなんだったんだ。

 

 ちなみに大会は鈴が優勝。狙い通りの展開だったが、箒には残念な展開になってしまった。

 

「どうだ、今度こそ美味しく出来たと思うぞ」

「……美味いが一夏の好みではないと思う」

「そうか……まだ遠いか……また頑張らないとなっ」

 

 はずなのだが箒はあまり気にしていないようだ。肉じゃがをまた作ってきて俺に試食させている。まぁ楽しそうにしているしいい、のか?

 

「春人、聞いてるのか?」

「…………ああ、聞いてる」

「ならいいけど……いいか、千冬姉はな────」

 

 そしてあの大会以降一夏の織斑先生推しが凄い。何か話してたみたいだけど何なんだろう。

 

 

 

 

 

 




本当はのほほんさんもちょっとおかしくなる予定でした。具体的に言えば博多弁になってました。

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