IS学園での物語 作:トッポの人
昨日は久々にゆっくり寝れたのとまともな食事が取れたおかげか、普段の六、七割くらいまで体調も良くなっていた。
完調とは言い難いが、これなら今日のIS実習も問題なく出れそうだ。
『でも生憎のお天気だねぇ』
しかしミコトの言う通り、昨日に引き続き晴れという予報は外れて、分厚い曇に覆われた空。今にも雨は降りそうではあるが、一応は降らないという予報らしい。その予報を信じて実習は予定通り行うが、雨が降り次第即刻中止との事。
今日の実習内容はIS装備試験で、専用機持ちに至っては専用パーツのテストだ。各国からやれと言われているだろうし、まぁしょうがないだろう。
「春人ー!」
集合場所である今回の試験用に借りたビーチに到着すれば、一夏を筆頭に直ぐに皆が俺の元へ小走りで向かってくる。こっちは逃げもしないのに。
嬉しそうに肩を組んできた一夏を除いて不安そうな表情を浮かべる面々を代表して簪が訊ねてきた。
「春人、もう大丈夫なの?」
「……ああ、すまない。心配掛けた」
「良かった……」
俺の返答に深い溜め息が聞こえると、不安で暗い表情から一転して明るい表情に変わった。
疑っている訳でもないが、簪から本当に心配してくれていたのが声音で伝わってくる。
「……すま、っ」
「うおっ」
だから改めて謝ろうとした時だった。突然シャルが体当たりのように勢い良く抱き着いてきたのは。慌てて一夏が飛び退いた。
「…………シャル?」
『あっ、これやばいですよ』
何事かと呼び掛けてみればこれまた勢い良く顔を上げる。その目に今にも溢れそうな大粒の涙を貯めて。一杯に貯まったそれが決壊するのは直ぐだった。
「うぇぇぇ、お兄ぢゃん元気になっで良がっだげど寂じがっだよぉぉぉ!」
「ごめんなさいすみませんでした俺が悪かったです許してください」
「うぇぇぇ!!」
「おお、物凄い勢いで謝ってる」
「あいつって早口言えるのね」
一気に頭が真っ白になり、条件反射で捲し立てるように謝る俺を一夏と鈴の二人が感心したように眺めているのが視界に入った。
こんなん早口にもなるわと言いたいところだが、マイシスターが泣いてて今ちょっとそれどころじゃない……。
「シャルロット、安心したのは分かったからそろそろ落ち着け。春人がさっきから困ってる」
「うぅ……うん……」
「よしよし。ほら、春人」
「あ、ああ」
と、テンパっているとシャルを落ち着かせる箒も参戦。未だしゃくりあげているが、促されるまま髪を撫でていると一頻り泣いたのもあって少しずつ落ち着いてきたようだ。
一向に離れようとしないのも困ったものだが泣かれているよりは大分ましだろう。
「はるるん、前にも言ったけど頑張り過ぎるのは良くないよ」
「その通りだ。今度からはちゃんと夫に相談しろ。夫婦は支えあってこそだ」
「…………ああ、次は頼む」
「うんっ。いつでもおっけーだよー!」
「ふっ、任せておけ」
まぁ、さっきみたいにテンパってなかったらだけど。あれだけ泣かれるともう本当に何も出来なくなるから仕方ない。
「さてさてー。落ち着いたところで無事元気になった春人くんに重大なお話があります」
「……何でしょうか」
「んふふふー」
扇子に書かれた『お知らせ』という文字を見せびらかすようにしている楯無さん。
反応すれば小気味良い音と共に閉じられて、隠れていた口元が明らかになる。ニヤニヤと浮かべる小悪魔なような笑みに嫌な予感しかしない。
「実はおねーさん達、昨日の海で遊んでないの」
「…………はい」
「春人くんの事をどうしようか皆で考えていたのもそうなんだけど、そもそも水着を買ってなくって」
なるほど、そういう事か。確かにあれだけの騒ぎがあったのだから買えなくても当然だろう。だが本題はそこではないはずだ。
何が出るのかと警戒しているところへ素敵な笑みのセシリアが話を続ける。
「わたくし達の彼氏として是非とも春人さんに見ていただきたく思いまして」
いや、何でだ。
「…………彼氏はあの日だけじゃないのか」
「あの日は仕方ないとはいえ中断となりましたから」
「買い物の約束も彼氏として行くって約束もまだ果たしてないのよねー」
「……むぅ」
楯無さんの指摘に思わず唸ってしまう。そこを言われると非常に弱い。
「お嬢様、春人くんも病み上がりなんですからあまり変な事は……」
「でもそういう虚ちゃんだって本当はさぁー……」
「いえ、そんな事は……!」
「お姉ちゃん顔真っ赤っかー」
「本音!」
いつも楯無さんの手綱を握る虚さんも楯無さんと本音のペアには勝てない。すっかり二人のペースに呑まれていた。
はてさてどうしたものかと周りを見れば提案してきた二人だけじゃなく、全員が俺の回答を今か今かと期待で待ち焦がれているようだ。一夏と鈴はそれとは別に面白そうという感情もありそうだが置いといて。
「……分かりました。やらせてもらいます」
「ありがとうございますっ」
「うんうんっ。ちゃんと約束守ろうとする男の子っておねーさん好────」
「……それで良ければ皆で海に行きませんか?」
「────き、よ……?」
さっき俺のせいで遊べてないと言っていた。それならお詫びを兼ねて俺が海へ誘うべきだろう。
出来れば織斑先生や山田先生、束さんもお世話になったし来てもらいたい。あとで皆の予定を聞いておこう。
『春人しゃん、春人しゃん。その前に皆を見た方がいいよ……』
様子がおかしいミコトに言われて見てみれば大半がこちらを見ながら目と口をぽかーんと大きく開けて呆けている。
こちらも様子がおかしい。まるで何かを見てしまったかのような反応は訊ねるには充分過ぎるものだった。
「…………どうしたんだ?」
「昨日も言ったろ。笑ってたって」
「…………そうか」
「いい顔で笑うじゃない。出来るんならこの前撮った写真もそれくらい笑いなさいよ」
「……すまない」
恐る恐る訊ねると一夏と鈴から返ってきたのは何とも言えない答え。そういえば昨日一夏も全く同じ事で驚いていた気がする。
というか待て。思わず素っ気ない返事をしてしまったがとんでもない事なんじゃなかろうか。どうですか、ミコトちゃん。
『幼妻のミコトちゃんからしても二回しか見た事がないので、一〇〇〇%ありえないという皆の反応は仕方ないかと』
桁違いじゃん。俺ってそんな風に思われてたの?
「よし、全員揃ったな。各クラス毎に並べ!」
「皆さーん、並んでくださーいっ」
気合いの入った織斑先生の号令にはっとしたのも束の間、続く山田先生の間延びした声で何となく落ち着く。
一旦別れて並ぶ途中、織斑先生と目が合った。ほんの少し、それも一瞬だけだったが口元を緩めた。全く、心配掛けさせて。そんな意味があったと思う。
「それでは各班毎に振り分けられた装備試験を行うように。専用機持ちは専用装備のテストだ。全員、迅速に行え」
「よろしくね、春人くん」
「はるるん、よろしくー」
「……よろしくお願いします」
説明も終わり、専用機持ちの枠組みに入る俺のところに虚さんと本音がやって来た。
二人とも俺の専属メカニックだからと言っていたが生憎俺のラファールに新しい専用装備なんてのはない。
「じゃあ、装備変えるから春人くん展開して」
「…………新しい専用装備あるんですか?」
「勿論だよー」
「今回のは本音が一から考えた装備なの。私が言うのもなんだけど、凄く出来がいいから使ってみてあげて」
「えへへー、褒められちゃった」
「……良かったな」
「うんっ。早く取りに行こっ」
褒められたのがそんなに嬉しかったのか、本音にしては珍しく照れている。それを隠しそうと腕を引っ張られて新しい装備の元へ。
虚さんが褒めるほどの装備を見てみたいと思い、自然と俺も足早になる。
用意されていたコンテナを開けるとそこには両肩に着けるだろう追加装甲ユニットに、背中に鳥の頭を模したような装甲と大型のスラスター、そして脚部にもスラスターが追加とこれを装備するところを想像するとラファールは随分と大型化するだろう。
「高機動型強襲用パッケージ『アルストロメリア』。可変機構があるパッケージなのよ」
「俯せになって頭に機首が付くだけなんだけどねー」
「……なるほど」
とは言うが通常時でも白式と同等かそれ以上の速度となり、変形すれば更に速く長時間航行出来るとデータ上ではなっている。
引き換えに小回りと俺の生命線である近接戦は装甲が干渉してしまい、あまり満足に戦えない。普通に動く分には問題ないため、これは仕方ないだろう。
「……強襲というから何か武装があるんですか?」
そう問い掛けるのも無理もなかった。見たところ立派な名前にしてはただ装甲とスラスターがあるだけ。出来て装甲と速度を生かした体当たりくらいだろう。
二人は問い掛けに対し、当然とも言えるがある意味で驚愕の答えを口にした。本音は不思議そうに、虚さんはそんな妹に困ったような笑みで。
「武装ないよ?」
「ええ、全くないの」
「えっ」
それでいいの?
「大層な名前付いてるけどこれ、ただ速く飛ぶだけの装備だから」
「はるるん飛ぶの好きだから作りましたー!」
「……ありがとう」
『良かったね、春人』
ああ、本当に皆と会えて良かった。感謝してもし切れない。
「……これでどうでしょうか」
「ええ、充分よ。次は……」
「ウサリンとの合体だよー」
「……了解」
装備の入れ換え、軽い性能試験と終わったところでお次はウサギさんとの合体形態への移行試験となった。
ちゃんと部分的に格納するのが出来るかどうかの試験らしい。地上に降り立った俺は『葵・改』を取り出すと柄尻を押した。
《Max Hazard on!》
最早聞き慣れた機械音声と共に不要な装甲は量子となって格納され、残るのは素体のラファールのみ。今回追加したパッケージも例外ではない。試験的には充分だろう。
ここまでは順調だった。そう、ここまでは。
「…………?」
「あれぇ?」
「来ないわね……?」
合図は出ているはずなのに何故かウサギさんが来ない。いつもなら即座にやって来るのに。三人で首を傾げて待つも一向に影も形も見えて来なかった。
『もっかい押してみたら?』
「……ん」
《Max Hazard on!》
ミコトに言われて再度押してみるもやはり来ない。もしかして学園にいたままだから距離的に来れないとかあるのだろうか。
あとはウサギさんだけなのでもう目的は達成していると言ってもいいが、どうせなら最後まで行きたい。
「きゃあ!?」
「わっ!」
「っ!?」
と、思った瞬間、突然目の前の砂浜が盛り上がる。驚きの声をあげる二人を咄嗟に庇いながら様子を伺うと、砂を被りながらウサギさんが顔だけ覗かせてこちらを見ていた。『よっ』とだけ書かれたスケッチブックを手にして。
えっ、いつもは飛んで来るのに今日は何で地中から?
『チャンスだったから……』
何のだよ……。
《Are you ready?》
「……来てくれ」
《Over frow!》
毛に付着した水を払う犬のように身体を振るって砂を落としてからこちらに飛んで来た。突き出した拳に前足を合わせて問題なく合体形態へ。
《紅のスピーディージャンパー、ラビットラビット! ヤベーイ! ハエーイ!》
「形態移行も問題なし、と」
「すげーい」
『モノスゲーイ!』
語彙力無さすぎないかそれ。
最早この機械音声に何も思わなくなっているのか虚さんは淡々と、本音は機械音声に似た口調を呟きながら確認していく。夢で聞いたのにそっくりな気もするがまぁいい。
こうなってしまうと俺にやる事はなく、辺りを見てみると漸く装備付け替えが終わった班が大半で、専用機持ちはまだ専用パッケージへの換装途中だった。改めてこの二人が手際が良いのだと実感させられる。
「うん、一番の懸念事項は確認出来たからまた通常形態に戻って次の項目行きましょうか」
「……了解です」
指示に従って元に戻り、ウサギさんも加えたメンツで項目を確認していこうしたところで、彼方から砂煙を巻き上げて何かが接近してきていた。
「ちーちゃぁぁぁん!!」
「はぁ……」
「「えっ!?」」
思いっきり聞いた事がある声に織斑先生への独特な呼び方。間違いなく束さんだ。向かう先は勿論、織斑先生の元。
呼ばれた本人も気付いたらしく、溜め息と共に頭を抱えていた。一夏や箒も予期せぬ人物に驚愕している。
「いやー、こうして昨日に続けて今日も会えるなんていつ振りだろうね!」
「知るか。あとその呼び方はやめろと言っているだろう」
「ごっめーん。束さんったらうっかりー……許してヒヤシンスっ」
「うっかり殴られたいのか貴様……」
「ごめんなさーい!」
到底謝っているとも思えないふざけた態度による謝罪で怒りを買ってしまった束さんは再び砂煙をあげながら逃げるように箒がいるところへ。
「箒ちゃん、久し振りっ」
「その、久し振りです……姉さん」
「うんうん、久し……はぇ?」
周りからすると久し振りに再会した姉妹の会話のように見えるが、本人達からするとそうではないらしい。
姉さんと呼んだだけで顔を赤くして恥ずかしそうにしている箒に、そう呼ばれただけで鳩が豆鉄砲くらったように呆ける束さんを見れば分かるだろう。
「ほ、箒ちゃんが私にデレてる!?」
「デレてる……?」
「いっくん、いっくん! これはどういう事!?」
「俺に聞かれても……」
「いっくんでも分からないなら……」
怒涛の展開に一夏や箒でさえ困り果てている中、束さんが俺の方へ向く。ついに矛先は俺へと向けられる……かと思っていた。
「ん、んん?」
「姉さん……?」
途中まで走り回っていた束さんは俺に近付くにつれてその速度を落としていき、段々とゆっくり歩くようになってやがては立ち止まった。
あまりの変わりように一夏と箒も困惑気味だ。かくいう俺もなんだけど。
「こ、こんにちはっ」
「……こんにちは」
「は、はるくんもう元気になったんだ?」
「……お陰様で」
「そっか。良かった……」
俺の返答で自分の事のように嬉しそうにはにかむ束さんに胸が高鳴った。この人も例外なく素材がいいのにそういう表情を向けられると困ってしまう。
「んんっ!」
と、短く態とらしい咳にはっとさせられた。発生源を見れば織斑先生が何やら厳しい目線でこちらを見ている。
「束、このままここにいるつもりならせめて自己紹介くらいしろ」
「むぅー……はーい」
織斑先生に対して若干不服そうに唇を尖らせていたが、直ぐに気持ちを切り替えてここにいる皆へと向き直った。
「はいはーい! 私が皆のアイドルにして、てぇんっさいの束さんだよ! ぶいっ!」
それまで向けられていた懐疑的な視線が一斉に驚きのものへと変わる。無理もない、今世界で最も有名な個人と言っても過言ではない人が目の前にいるのだから。
というかあのてぇんっさいって言い方流行ってるのか?
「もう少し真面目に……まぁいい、以上だ。作業再開しろ」
数度手を叩いて生徒達の意識をもう一度作業へと移す。まぁ完全にとはいかないがそれはしょうがないだろう。
「……あれ?」
「どうした」
「いや、ちょっと……」
ふと、こちらを見て束さんは首を傾げた。そのまま少しだけ近付くと一定の距離を保ったまま俺の周囲をぐるっと一回り。
「これ、新しい装備だよね?」
「……はい。この二人が作ってくれました」
「君達が?」
「は、はい」
「そうでーす」
「本音。今だけはちゃんとして」
「ふむふむ……」
ああ、なるほど。そういう事か。
いつもの態度を見せる本音、それに焦り緊張している虚さん。メカニックにおけるトップが自分達の作った装備をまじまじと見ているのだから無理もない。
「ちょっと見ていい?」
「ど、どうぞ」
了承の返事を言うや否や空中ウィンドウを幾つも展開し、流れるように出てくる膨大なデータを眺めていく。目の前にある玩具を前にした子供のように目を輝かせて。
「な、何かおかしなところでもあったのかしら……?」
「……大丈夫ですよ」
「そうだといいんだけど……」
「お姉ちゃん、りらーっくす」
そうとは知らずに虚さんはずっとお腹に手を当てているのが非常に痛々しい。もう少し本音の緩さがあればいいのにと思う。
幾つもあったウィンドウが同時に閉じると束さんは満足したと眩しいばかりの笑顔を二人に向けた。握手を求める手と一緒に。
「えへへー。久し振りにいいもの見ちゃったっ。ありがとっ」
「あ、はい……」
「君もありがとっ」
「いえいえー」
武装を一切持たず、ただ速く空を飛ぶだけの専用装備。束さんが願ったIS本来の使い方に一番近いと言っても過言ではないだろう。それを作り上げた二人に対して良くは言っても悪く言うはずなんてなかった。
今にも鼻歌を歌いそうなほど上機嫌な束さんは軽い足取りで今度は一夏の元へ。
「いっくんっ。白式みーせて」
「えっ、いいんですかね?」
白式も倉持技研が開発した最新鋭のIS……のはずだ。ブレオンだけど。幾ら束さんとはいえ簡単に見せていいのかと悩むところだろう。
「大丈夫、大丈夫。えいっ」
「あっ、ちょっ……」
しかし、問答無用と取り出されたコードが白式と接続。またもや現れた無数のウィンドウを束さんは一つも見逃すまいと目を通していく。
「ほうほう……面白い成長の仕方をしているねぇ。普通とはまた違う」
「そうなんですか?」
「うん、いっくんの影響を受けまくりんぐって感じ。束さんがいいねしました」
「はぁ……」
よく分からないと言いたげだ。だが端から聞いている立場からするともっと分からない。むしろ分かるのは実際に見ている束さんだけかもしれない。
「そのまま成長させてあげてね」
「えっと……頑張ります?」
「疑問系になるな馬鹿者。お前もほっつき歩くな」
「ぐえぇ」
追い掛けてきた織斑先生が一夏を叱っている間にまた束さんは歩き出そうとしたところで首根っこを捕まえられた。
「浮かれて見て回るのはいいが、その前に渡すものがあるだろう」
「そうだね……じゃあまずは箒ちゃんへの誕生日プレゼントから!」
「私に?」
そうか、箒のやつ誕生日だったのか。知らなかったとはいえ、何も用意してなかった。申し訳ない事をしたな。
誕生日プレゼントをどうするか悩んでいると空から降ってきたコンテナが着地する。
誰が操作するでもなく、独りでに開きだすとそこには紅のISが佇んでいた。
「これは……」
「じゃじゃーん! これが箒ちゃんの専用機、紅椿! 最新鋭、最先端のIS。完全な束さんオリジナル!」
手を大きく広げて見せてこれでもかと存在感を表す。そんな事をしなくても登場の仕方とあれだけの説明で皆の視線が外せなくなっているとは知らずに。
開発者である束さんが一から作り上げたIS。たったそれだけの肩書きで世界中が喉から手が出るほど欲しがるだろう。
「姉さん……その、ありがとう」
「えへへへっ、どういたしまして」
「でも、いいんだ。その気持ちだけ貰っておく」
しかし、そんな贈り物を箒は迷いなど一切見せずにあっさりと拒否した。
「えっ、何で何で?」
「以前なら欲しかったかもしれない。でも今は私が本当に欲しかったものがもうあるんだ。だからいらない」
「────そっか」
言い終えると箒は俺の方を一瞬だけ見ると柔らかい笑みを浮かべる。
その答えで納得したらしく、束さんもそれ以上は聞かない。代わりに良く似た優しい笑顔で短く応えた。
「じゃあ、続いてはるくんだね!」
束さんの言葉に応えるように再度空から飛来したもう一つのコンテナ。
中身に入っていたのは全身が黒に染められたISが機体と同等の大きな二枚の翼を休めている。いつかその翼で大空を存分に飛ぶために。
あれが、俺の新しい……。
「まだ未完成だけど、これこそはるくんの新しい専用機。ISの開発者である私が直々に空を冠する名前を分け与えた機体!」
『イル・サルヴァトーレ!』
今ザルヴァートルって言った?
『言ったけど言ってないよ』
うん……うん? うん、そ、そうだよな。言ってないよな。昨日操みたいなやつと話してたからか、てっきり俺の専用機ファフナーかと思ったぜ。しかも飛びっ切りやべぇやつ。
「その名もマークストラトス!」
「…………マーク、ストラトス」
いや、名前からしてもう完全にファフナー。やっぱり命を代償にするやつじゃん。こうなったらもうエインヘリアルモデルであるのを祈るのみ。
『いや、これザルヴァートルモデルの可能性ワンチャンあるで』
ヴぉぉぉい!?
『出たわね。心の中のスクアーロさん、出たわね』
「マークストラトスは単純な性能も凄いんだけど、何が凄いってハイパーモード突入率が常に九九%なんだよね」
「何の話をしている」
一人勝手に絶望していると束さんから説明をされるが、織斑先生も何の事か分からないらしい。まぁハイパーモード云々は冗談だとは思うが。だってギアの話だし。
「それでねー……」
「お、織斑先生!」
「これは……」
説明を続けようとする束さんを遮って、慌ただしい様子の山田先生がやって来る。
タブレット端末を見せられた織斑先生の表情が一気に曇ったのは気のせいで片付けられるものではなかった。
「全員注目! 今日の稼働試験は中止、各班ISを片付けたら旅館の自室にて待機だ!」
良く通る声が砂浜に響き渡る。山田先生の事もあり、何かあったのだと予想するには容易く、そして皆が不安となるには充分過ぎる内容だ。
「専用機持ちは全員集合しろ! 布仏姉妹も来い!」
呼ばれたほぼ全員がその表情を引き締める。その内に抱えている不安を押し殺して。
俺達の長い一日が始まろうとしていた。