IS学園での物語   作:トッポの人

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幼女の人気凄いなと思いました。


第8話

 試合開始から五分ほどが経過しただろうか。正直言って状況は芳しくない。せっかくの空にいるのに素直に喜べないでいる。

 と言うのも、唯一の武器である『葵』に飛ぶ斬撃があると知ったは良いものの、こっちの攻撃が全く当たる気配がないからだ。あんな見え見えの大振りの攻撃、当たる方がおかしいか。

 

「っ、そこですわ!」

「……甘い」

 

 そしてこちらは逆にたまにやってくるレーザーを何とか避けていく。今も放たれたレーザーを切り払い、また地面を蹴って方向転換と共に加速。オルコットの射線上から逃げ出した。

 たまにと言ったのは基本的に俺がオルコットの銃口の範囲外に逃げているからだ。今みたいにミスして撃たれる事もあるけど。

 

「また……!」

 

 さすがのオルコットも俺が滅茶苦茶に動いていれば当てられないらしい。出来れば後もう少しの間だけそうしていてくれ。

 そう、後少し……後少しだけでいい。そうすれば漸くこの呪縛から解放されるんだ。絶対回避の呪縛からな。

 

『――――♪』

 

 ていうかこの幻聴がヤンマーニなんか歌わなければ、俺は被弾しても良かったのに。被弾覚悟で斬り込めたのに!

 

 大体俺が振り切ると言った辺りから頭の中に幼い少女の歌声が響き渡っている。綺麗な声でとても上手いのだが、少なくとも今はその時ではない。落ち着いた時にゆっくり聞きたいものだ。

 だがそれももう少しで終わりを迎える。この曲は比較的短いので終わりも早い。終わったと同時に突撃だ。

 

『――――……♪』

 

 アリーナのシールドに張り付いたと同時、曲が終わりを迎えた。オルコットもまだ銃口をこちらに向けていない。タイミング的には最高と言っても良いだろう。

 さぁ、行くぞとオルコットへ踏み込もうとした瞬間。

 

『――――♪』

 

 俺の頭の中に独特のバックコーラスが流れ始める。これは間違いなく、先ほども聞いていたヤンマーニ。俺の呪縛はまだ解けていなかった。

 

 あ、アンコールだとぉぉぉ!?

 

「今度こそ!」

「……読めている」

 

 まさかのアンコールに動揺しているとオルコットの銃口がこちらへと向けてきた。発射される前にそこから逃れる。距離を取ってまた作戦の練り直しだ。

 

 それにしても辛過ぎる。こっちはこのBGMが流れる限り、絶対に避けなくてはいけない。使命感という名のノリで。

 だが避けるのに意識を割きすぎて攻撃が散漫だ。向こうにダメージを与えられないが、こっちもダメージを受けない。妙な快感を覚える反面、酷く虚しくなる。

 

『仙水じゃん』

 

 ……歌が止まった。今がチャンスだ!

 

『あ、ちょ、春人ずるい!』

 

 幻聴の非難の声を無視して突撃準備。地面に足を叩き付けると共に再度オルコットへ。

 思わぬところで予想外の成果が出た。この歌さえ止まってしまえば特攻出来る。当たってもいいって素晴らしい。

 

「はぁっ!!」

「くっ!? 『ブルー・ティアーズ』が!?」

 

 人の死角である背後から襲い掛かるも、寸前で回避される。恐らくハイパーセンサーで全方位が視認出来るおかげだろう。

 しかし、その先にいたファンネルは避けきれなかったようで、通り過ぎ様に振るった『葵』の斬撃によって真っ二つとなった。

 ファンネルの残りは三基。素人にしては上出来と言っていいだろう。この調子でもう一度。

 

『――――♪』

 

 くそっ、またヤンマーニが始まったか。迂闊には攻められないな。

 

 三度目の歌が始まり、また絶対回避の呪いが掛けられる。厄介な事この上ない。

 しかし、そこでふと気付いてしまった。俺は一体、誰と戦っているんだろうと。目の前にいるオルコットではなく、自分の中の幻聴と戦っている気がしてきた訳で。

 

『昔から真の敵は自分の中にいるって言いますしおすし』

 

 えっ、そういうのって後々になって気付くものだろ。初戦でそれに気付くとか凄くね? 俺は闘いの申し子か何かなの?

 

 それにしてもまじで何なんだろう、この幻聴。今更だが、どうしていいか分からない。相性的には凄い良さそうなんだけど、幻聴ですし。

 ええい、細かい事は気にするな。今はただ斬る事のみを考えろ。

 

「せぁっ!!」

「それでしたら避けられますわ!」

 

 歌も止まったし、アリーナのシールドから地面に降りた際に離れたオルコットとファンネルそれぞれへ向けて『葵』を全力で振るう。

 幾つもの斬撃が襲い掛かるも、その場から離れる事であっさり避けられた。オルコット、ファンネルの順番で。

 

「……やはり、か」

 

 だが俺が見たかったのはそんなお手本ではない。どう避けるのかを見たかったのだ。

 というのも思うところがあって、さっき斬り掛かった時に何故オルコットは避けられて、ファンネルは避けられなかったのかと。

 突然だったからファンネルの制御が間に合わなかったのかも知れない。それでも少しくらいは動いてもいい気がするが、一切動かなかった。

 そして今。ほぼ同時に仕掛けた攻撃をそれなりの距離があったにも関わらず、同時に避けなかった。今回は制御が間に合わなかったでは説明出来ない。

 

『つまり?』

 

 オルコットは自分かファンネルかのどっちかしか動かせないんだと思う。よく考えれば同時に攻撃もして来なかったし、可能性は高い。

 

『じゃあ、確認してみようよナルト』

 

 春人だっつうの。俺は忍者じゃないんだってばよ。

 

 幻聴も俺の考えに賛同してくれたようなので、オルコットとファンネルの位置が直線上に重なるようにアリーナを飛び回りながら調整。予想通りならこれでまたファンネルを一基撃墜出来る。

 

『今だよ!』

「そこだ!!」

「きゃ!! ま、また……!?」

 

 合図に従って突撃すれば当然のようにオルコットが回避。その影にはやはりピクリとも動かないファンネル。どうやら俺の読みは当たっていたらしい。

 自分かファンネルかのどちらかしか動かせないのなら、同じパターンでファンネルを落としていけばいい。そうしてがら空きになったところで近接戦に持ち込めば勝ちだ。

 

『こいつ……近距離パワー型かっ』

 

 いや、確かにそうなんだけど、なりたくてなってる訳じゃない。俺だって遠距離攻撃が欲しいんだ。これ終わったら絶対装備しよう。

 

 とりあえず確認もしたし、オルコット攻略のプランも出来た。だったら後は――――

 

「駆けろ、ラファール! その名の如く!」

「まだ速くなるんですの!?」

 

 ――――ノリノリで行くだけだぜ!

 

 ずっと言いたかった台詞の一つを口にして、更に速度を上げていく。立ち止まって斬撃を飛ばすというのもやめて、ただただ先ほどの戦法を繰り返すのみ。

 

『ねっ、ねっ、歌っていい?』

 

 おう、歌ったれ歌ったれ。ノリノリなやつ頼むぜ。

 

『かしこまり!』

 

 もう普通に会話してるのに何ら違和感も感じなくなってきた。きっと疲れているんだ。ストロベリーサンデーでも食べて早く寝るとしよう。

 

「…………ん?」

 

 実はあまり気にしないようにしていたが、足場を蹴る度に各部がメキメキと言っているのは何なのだろうか。速度を上げた瞬間、それがより一層大きくなった気もする。

 

『それ実力が付いてきてる音だから大丈夫、大丈夫』

 

 実力付くのってこんなに分かりやすかったのか。知らなかったぜ。

 

 そんなこんなしてる内に気付けばファンネルも全部斬り捨てて、残るはオルコットのみとなった。

 こうなれば真正面から行っても大丈夫だろう。ファンネルの弾幕が怖かったがそれもなくなったし、手持ちのライフルは威力と射程を重視しているのかそんなに連射性能もない。

 

「このっ!」

「……温いな」

 

 俺を迎撃すべく放たれたレーザーは刀の前に霧散。既にオルコットにかなり肉薄している。もう目と鼻の先と言ってもいいだろう。次弾が来る前に近接戦に持ち込める。

 勝ちの目が濃厚になった時、オルコットの目が鋭くなった。それはまだ勝つのを諦めていない目。

 

「この距離、この『ブルー・ティアーズ』ならどうですか!?」

「っ!」

 

 腰部のアーマーが展開し、何かが打ち出された。いや、オルコットの言葉を信じるなら、これも『ブルー・ティアーズ』なのだろう。

 だが先ほどのとは違い、レーザーを放つ事もなくただ真っ直ぐ俺に向かってくるだけ。

 

 なるほど、今度はファンネルミサイルか。まだ何かあると思っていたが、中々珍しいものを出してきたな。

 しかも空中で出せば足場を蹴っての移動が出来ない。とすれば当然、ファンネルミサイルの方が速い訳で――――ま、いっか。よっこいしょっと。

 

「なっ!?」

 

 一切減速する事なく、『葵』を振りかぶって斬撃を飛ばす。目標はファンネルミサイルではなく、オルコットだ。

 ミサイルに向けて斬撃を放てば、当然回避される。ならオルコットにやればどうなるのか。

 恐らくこのファンネルミサイルも結局はオルコットが指令を出していないと追尾して来ないはず。つまりミサイルに指令を出している暇なんてないようにすればいい。

 

「あっ……!」

 

 自分に専念させれば、ファンネルミサイルの真横を通っても大丈夫。追尾もしなければ、爆発もしない。自動追尾する普通のミサイルだったら危なかったな。

 さて、本丸落としと行こうか。オルコットの頭上を取った俺は刀を構えて真っ直ぐ降下。

 

「……終わりだ」

「ひっ……!」

「っ……!!」

 

 刀を振りかざした瞬間、オルコットの顔が恐怖に歪んだ。ハイパーセンサーのおかげでよく見えるその瞳には怯えが含まれ、華奢な身体は震えている。

 山田先生が言っていた。搭乗者は絶対防御というバリアで守られているが、絶対防御も完璧ではないと。攻撃されても命に別状がなければバリアは通るし、そのバリアを上回る攻撃を受ければ――――

 

「くっ……!」

 

 ――――最悪死に至る。

 違う。俺がISでしたかったのは人殺しなんかじゃない!

 

「ぐ、あああっ!!」

『あっ』

 

 俺にしては珍しい叫び声がアリーナに木霊する中、途中まで振り下ろされていた刀の軌道を身体を捻る事で無理矢理変更。オルコットを素通りして地上へ。

 

「オルコットは!?」

 

 着地と共に刀を横に振れば、漸く俺の攻撃は終わりを迎えた。急いで顔を上げれば怯えてはいるものの、無事なオルコットの姿。

 

「良かった……っ!」

「いや、いや……!」

 

 安堵するのも束の間、ロックオンアラートが鳴り響く。鳴らした相手はオルコットしかいないが、少し様子がおかしい。小さく拒絶の言葉を口にしながらライフルでこちらを狙っている。

 

「……だが、当たらな……ん?」

 

 移動のために地面を蹴ろうとした時だった。身体が異様に重く感じ、思うように動けない。さっきまでとは雲泥の差だ。これでは不安が残る。

 

「……ならば、えっ」

 

 それならと切り払うべく、刀を構えれば根元から刀身がすっきりなくなっている。

 何処へ行ったのかと探してみれば、先ほど横に振った先、アリーナの壁に柄のない刀が突き刺さっているという状況が。何故だ。

 

「いや!」

「しまっ、ぐっ!?」

 

 動揺している隙にオルコットは射撃。避けるも切り払うのも間に合わない。咄嗟に右腕を盾にすると、シールドを貫き、装甲を一撃で砕いた。破片が腕に突き刺さり、決して少なくない量の血が流れる。

 

 《櫻井春人、機体ダメージ超過。これ以上の戦闘は不可能。よって、勝者セシリア・オルコット》

「来ないで!!」

「ちっ!」

 

 思わず舌打ち。勝敗は決したとアナウンスが流れるも、今のオルコットには届かない。

 次々と放たれるレーザーに回避行動へと移るが、何とか当たらないようにするので精一杯だ。

 どうしたものかと考えていると通信ウィンドウが開かれる。相手は織斑先生だった。

 

 《試合は終了した。櫻井、撤退しろ》

「……撤退?」

 

 聞き返したのは意味が分からなかったからじゃない。分かりたくなかったから。

 

「……ですが、オルコットは」

 《現在、オルコットは恐慌状態にある。その原因であるお前がその場から離れれば正気に戻るはずだ》

 《千冬姉! あんな状態のクラスメイトを放っておけって言うのかよ!?》

 《織斑先生だ》

 《ぐっ……!》

 

 織斑先生の読みでは原因である俺がいなくなれば、時間は掛かるかもしれないがその内落ち着くとの事。それに歯向かうように織斑が食って掛かるも一言と睨みで黙らされた。

 

 なるほど、確かに放っておけばいいだけだ。そうすれば勝手に解決する。止めに行く必要もないから、誰も傷付かなくて済む。オルコットは除いて。

 

「……確かに合理的ですね」

 《ああ、その上簡単だ。お前が逃げればいいだけだからな》

 《春人まで……! なら俺が行って――――!》

 《やめろ、一夏!》

 

 俺と織斑先生の会話に苛立ちを隠しきれない織斑。今までそんな素振りを見せなかったが、どうも熱くなりやすいタイプのようだ。止める箒も大変だろう。

 

「でも俺は納得出来ません」

 《ほう、どうする気だ?》

 

 理解はした。その案が合理的だとも分かってる。でも納得しないし、したくない。

 何故ならこの案には人の暖かさがないからだ。血の通っていないような冷たさだけがある。それに目の前で困ってるやつを放っておくなんてしたくない。

 

『――――』

 

 俺の言い分は織斑先生の気を惹くのには充分だった。興味深そうに見てくるこの人に向けて、俺は続ける。

 

「……オルコットを止めます」

 《き、危険です! 櫻井くんのISは機能不全でスラスターも四割死んでて、シールドも張れないんですよ!? そんな状態で攻撃されれば……!!》

 

 山田先生は最後まで言葉にしなかった。だが、それまでの説明で続きは容易に想像出来る。右腕から流れる血が教えてくれた。

 

 ああ、だからさっきので装甲が破損したのか。なるほど、なるほど。

 

「……で、終わりですか?」

 《えっ?》

「……他にはないんですね?」

 《は、はい》

「……なら行きます」

 

 何故か大事に持っていた『葵』の柄部分を投げ捨てた俺は視線を上げる。真っ直ぐに、空中にいるオルコットへと。

 

 《……え、えぇ!? 私の話聞いてましたか!?》

「……はい」

 

 どんな事にだってリスクは付き物だ。ただ今回はそれが大きいだけ。他人にやらせるなら気が引けるが、自分のしでかした事だ。自分でやるのが筋だろう。

 

 《……く、くくく、はははっ!!》

 《ち、千冬姉?》

 

 突然織斑先生の笑い声がウィンドウ越しに聞こえてきた。普段のあの人からは想像もつかないような豪快な笑い声。

 

 《すまないな。まさかお前がそんな奴だとは思ってなくてな》

「……はぁ」

 

 ぅ、うん? これは褒められてるのか?

 

 《正直な話、私もあんな案は好かんさ。だが色々考えるとあんなのにも頼らなくてはならなくなる》

 

 まぁ作戦を考えている立場という事は他の人の安全に気を使わなくてはならないんだろう。

 

 《任せるぞ。やるからには後悔するような事はするなよ》

「……元より後悔する気なんてありません」

 《ふっ、上出来だ》

 

 笑みを深めて織斑先生は了承してくれた。少しだけこの人が分かった気がする。

 

 《ちょ、ちょっと待ってください! 櫻井くんのISは機能不全で……えっ、直って……?》

 

 最早行くだけとなったが、そこに待ったを掛ける山田先生の表情が驚愕に染まる。壊れていたものが直っていたのだから無理もない。

 だが何故直ったのだろうか。

 

『直ってはないよ。無理してるだけだから動かせるのは少しの間だけだし、シールドは展開出来ない。さっきみたいな移動方法したら即終わりだから気を付けて』

 

 飛べれば充分さ。

 

 それだけ心の中で呟くと、空へと飛んだ。思った通りに動けるし、さっきみたいな身体の重さも感じない。これなら行ける。

 

「落ちなさい!」

『発射まで三、二、一、来るよ!』

「そこかっ!」

 

 無数に放たれるレーザーを掻い潜り、その距離を縮めていく。今も暴れるお姫様との距離を。

 幻聴が教えてくれるタイミングがあまりに的確な事に驚きだが、好都合だ。このまま行かせてもらう!

 

『三、二……』

「オルコット!!」

「ひっ!」

『っ! タイミングが!』

 

 距離が近付いたから名前を呼んだのが間違っていた。そのせいで幻聴が教えてくれていたタイミングがズレてしまった。

 だが、もう目の前まで来ている。ここまで来れば後はこの一撃をどうにかすればいいだけ。

 

「来ないで!!」

「おおおっ!!」

 

 叫びと共に思いきり左腕を叩き付けて、俺へと狙いを定めていたライフルを払い除ける。逸らされた銃口は明後日の方へと向けてレーザーが放たれる。

 その隙を逃すまいとオルコットの右腕を掴み、こちらに引き寄せた。必死に腕を外そうと、離れようともがくオルコット。

 

「いや、いや!」

「……大丈夫だ」

「離して!!」

「……もう、大丈夫だから」

 

 決して荒々しく叫んだりしない。さっきので逆効果だと知ったからだ。だから子供に言い聞かせるように大丈夫だとなるべく優しく言っていると、徐々に大人しくなっていった。

 

「……落ち着いたか?」

「あの、わたくし……」

 

 震えも止まり、暴れる事もなくなったので腕を離す。念のため確認したが、もう大丈夫だろう。

 オルコットから距離を取ったその瞬間、ラファールが少しずつ光り始めていき――――

 

『春人さん、もう限界っす』

「……ん?」

「櫻井さん!?」

 

 そんな声と共に俺のラファールは一層強く光ると消えてしまった。正確には待機状態に戻ったらしい。見慣れない右腕の黒い腕輪がその証だ。

 

「…………ふぅ」

 

 ――――あらやだ。まだ地上に降りてないのに。参ったね、どうも。

 

 諦めて溜め息一つ吐くと、一瞬だけ落下する感覚に身を委ねるも直ぐになくなる。何故かというと――――

 

「櫻井さん、ご無事ですか!?」

「……ああ、助かった」

 

 オルコットが落下していた俺を受け止めていたから。脇の下から確りと。

 

 あ、あぶねぇ……あのまま落ちてたらまじで死が見えてたぞ。このグラウンドに真っ赤な花が咲く事になってたわ。最後に一花咲かせる事になってたわ。

 

『まぁ私が絶対させないけどね』

 

 えっ、どうやって?

 

「それにしても何故ISが強制格納を……? それに腕の怪我は……?」

「……それは……」

 

 右腕から流れる血に気付いてしまったらしい。ISも突然消えればそれは聞きたくもなる。だが問題として説明するのが面倒だ。どうしたものか。

 と、困っていたら織斑先生が

 

 《櫻井のISは限界だった。あの無茶苦茶な機動のせいでな。シールドも展開出来ない状態でお前を助けに行ったんだ。感謝しろよ》

「わたくしを……助けるために……」

 

 何かオルコットが言いたそうにしているがそれは置いといて、俺のあの動きが無茶苦茶だと言われてショックなんですけど。まじめに考えたんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治療も終えて格納庫に戻れば織斑が既に白いISを纏って待機していた。見た事もないそのISはカラーリングもあって聖騎士のような印象がある。

 織斑がこっちに気付いたらしく、顔を向けると近くにいた箒もこっちを向いた。

 

「お、春人。お疲れ!」

「怪我は大丈夫なのか?」

「……まぁ、な」

 

 実際問題、大した怪我ではなかった。派手に血が流れていただけらしい。早く治すために今日は風呂に入るなと言われたが。

 そしてその時一緒に来ていたオルコットがやたら見ていたが、負い目でも感じていたんだろうか。気にしなくていいのに。

 

 それにしても織斑がさっきから左手を上げたままにしているのは何なんだ?

 

「あ、ごめん。怪我してるからこっちか」

「……?」

 

 そう言うと今度は右手を上げた。相変わらずにこやかなその表情は何かを求めているように見える。

 

「んん? 春人、ノリ悪いぞ。こういう時はハイタッチだろ?」

「…………あ、ああ」

 

 言われて漸く何がしたいのか分かった。おずおずと怪我をしていない左手を上げると、そこに織斑の右手が重なるように叩く。格納庫に良い音が鳴った。

 

「今度は俺だな」

「……ああ」

「その、大丈夫なのか?」

「ほら、見てみろよ」

 

 不安そうに箒が訊ねる。さっきのはたまたま俺の戦い方が上手く噛み合っただけ。織斑の専用機がどんなものかも分からないのでは不安になっても仕方ない。

 

「これって……千冬さんの……?」

「ああ」

 

 しかし、織斑は自信ありとばかりにウィンドウを見せてきた。映し出された武装一覧には『雪片弐型』の文字。たしか織斑先生が現役時代に使っていた刀も『雪片』だったはず。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ。だから俺も俺の家族を守る。そのためにも強くならなきゃな」

「――――」

 

 織斑が笑みを浮かべて言ったその言葉に少し呆けていた。

 

 正直に言って、恥ずかしい奴だと思った。そんな事を平気で口に出来るのだから。でもそれ以上に――――。

 

「……頑張れよ」

「おう!」

 

 返事と共に織斑が行く。第二試合、織斑とオルコットの戦いが始まろうとしていた。

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