「はーい、入ってまー────って、うぇええええええ!? 誰だ君は!?ここは空き部屋だぞ、ボクのサボり場だぞ!?誰の断りがあって入ってくるんだい!?」
「はいはい、ちょいと休憩っと」
ロマ二・アーキマン…愛称Dr.ロマンは、突然自分の休憩所に入ってきた青年を見てビビった。相手を睨むような険しい目、ボサボサの黒髪、右頬には生々しい傷跡…どう見てもチンピラです本当にありがとうございました、な容姿をした彼は突然ポケットから箱を取り出して何か棒のような物を取り出した。
「こら!未成年は喫煙禁止だって学校で習わなかったのかい──んっ!?」
「ちげーよ、ココアシガレットだ。今は禁煙中だっての」
鬱陶しそうな顔をした彼は一本をロマンの口に突っ込んだ。ココアの苦味に一瞬顔が歪むがすぐに慣れた。
「ぷはっ!……っと言うより、君集会はどうしたんだい!?」
「バックれた」
「バックれちゃダメでしょう!」
「エリートの溜まり場だぜ?俺が居ると邪魔だろうが」
オマケに「負け犬」やらなんやら陰口叩かれて酷かったんだぜ、などと文句を垂れながらココアシガレットを愉しむ彼を見て、ロマンは急に青春ドラマに出て来る不良主人公を思い出した。
“主人公が悪友と共に屋上で喫煙しながらサボる。”
ベタだが面白い、そうロマンが含み笑いをしていたその時…。
───突然爆発音が響いた。
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。』
『中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。』
『繰り返します。中央発電所、及び中央―――』
「なんだなんだ!?!?」
突然の激震・火災警報その他諸々が流れる中、青年は一瞬ココアシガレットを取り落としつつもダイビングキャッチしてまで受け止めて口に咥え直した。この非常実態でも余程食い意地が張っているらしい。
「君の名前は!?」
「藤丸 立香。ダチからはぐだ男って言われてた」
「なんで!?」
「顔みりゃ分かるだろ。ダルそうな顔してるだろ?」
「よし分からん。それより、君は外に逃げて救助を要請して欲しい。僕はスタッフを召集して消火・復旧活動を行う!」
「了解」
青年は軽く敬礼モドキのようなポーズをしてから走り出し…思い出して振り向いた。
「あんたの名前は?」
「僕はロマ二・アーキマン。気軽にDr.ロマンと呼んでいいよ」
「よろ」
「絶対に寄り道するんじゃないぞ〜!」
そして、彼は一気に廊下へと走り出していった……。
*********************
中央管制室
「うへぇ…こりゃR指定間違い無しだぜ」
中央管制室の様子が気になりこっそり覗きに行った俺は、その状態に絶句した。いや、昔縄張り争いで全面戦争になった時にダチが相手の顔面を金属バットでフルスイングしたあの辺りでグロには耐性付いたんだけどな。もう肉片やら骨やらが飛び散って酷いものだ。
「生存者はいるか〜!」
試しにドラマみたいに大声で叫んでみたが…反応は無い……いや、あった。動くものが見えた。
「ネズミじゃなきゃいいけどな…」
そっと歩きながら俺は、生存者に向かった。
「せん…ぱい……」
「うわぁ…」
生存者はいた。いたはいいが、状態が酷い。上半身しか残っていない…そう、下半身は瓦礫で潰されてしまったらしい。辛うじてその髪と眼鏡で生存者が「俺を先輩認定している」マシュ・キリエライトという人物である事だけは分かった。
「大丈夫かお前」
「ぇぇ……でも…半身の感覚が無いんです。どうなってますか…?」
「うーん…いい報告と悪い報告があるがどっちがいい?好きな方を選べ」
「悪い報告から…」
「腰から下が無い」
「そう…ですか……」
「が、幸いにもローラーで轢かれたように潰れたから多分出血多量。これがいい報告。おめでとう、楽に死ねるぜ」
「全然…嬉しくないです……」
「他の奴は生きてるかどうかも分からん。すげぇ爆弾を仕掛けたみたいだな…全くよぉ……ん?」
ブツブツと呟いていると、マシュが俺のズボンを引っ張った。
「なした?これから救難メッセージを送信せにゃならんのに…」
「───手を…握ってください」
「手?それで死ぬ恐怖から逃げられんならお安い御用だ」
その通りに手を握ったタイミングで、瓦礫が崩れて出入り口が塞がれてしまった。
「謀ったなマシュ!」
「謀りません!というより、瀕死の人間にツッコミ役やらせないでください!」
「あーぁ…最後の晩餐がココアシガレットだなんて……」
口惜しげに短くなったココアシガレットを噛んでいると、アナウンスに不穏なワードが流れ始めた。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。』
『近未来百年までの地球において 人類の痕跡は発見できません』
『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』
『中央隔壁 封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』
「……隔壁、閉まっちゃい、ました……もう、外に、は」
「あー!!!最期に厚切りのバームクーヘンが食いたかったぞ〜!てか最期が駄菓子は無いだろ!駄菓子は!!!」
「あの…私にも一本……」
『コフィン内マスターのバイタル 基準値に達していません。レイシフト 定員に達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号48 藤丸立香 をマスターとして再設定します』
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。』
「───〜!!!あぁ分かったよ!ほら、一本」
「ありがとう…ございます……うわ苦ッ!?」
“レイシフト開始まで あと3”
“2”
“1”
『全工程 完了。ファーストオーダー 実証を開始します。』
俺達の視界は突然真っ白になった………。
以上、ぷろろーぐでした。モチベーションを維持しながら頑張っていこうと思います…。