5:00
「マスター、解体手伝うぜ」
「モードレッドか。助かる」
早起きした俺は屠殺した肉牛を解体する作業に取り掛かっていた。肉を食べるという事は動物の命を奪う事と同義である。だが、そうしなければ人は生きていけない。『動物の肉を食わないで野菜を食べろ!』と声高に叫ぶ馬鹿もいるが、悲しい事に人間は「動物性タンパク質」を摂取しなければ肉体に充分な力が漲らないと言われている。
「マスター、手伝いに参りました」
「ガウェインか!手伝ってくれ!俺とモードレッドじゃ手に余る」
ガウェインも途中参加し、血抜きなどの解体処理を手伝ってくれた。3人で皮剥ぎ・頭部切除・内臓搔き出し・洗浄などの処理をして、それぞれに一応BSE検査(検査役ダ・ヴィンチ)を行った。
すぐに結果が出たが…GOサインで安心した。
完成品はガラティーンを使って真っ二つに解体し枝肉にして冷蔵室に入れ熟成させる。ホントはもう少し長く熟成させたいが彼奴らも早く食いたいだろうから我慢だ。因みに帰りにアルトリアとすれ違ったのだが、スキップしていた。相当テンションが上がってるな。
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22:00
「だいぶ……動けるようになりましたね…!」
リハビリを終え、全身汗塗れのたマシュはスポーツドリンクを一口飲みながら、自分がやや空腹である事に気付いた。
「少しくらい……いいですよね?」
実は、マシュは休憩所にある上の棚の中にスナック菓子を隠し持っていた。疲れた体に染みるしょっぱいチーズを挟んだクラッカー…それを食べたくて彼女は棚を開け、目の前を通過する物体を見た。それはサーヴァントでしか認識出来ない速度であったが故に彼女はそれを見てしまった。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
それは太古の昔から存在し、人類が知能を持っていた頃から忌むべき魔物として全世界共通認識している究極の人類悪………。
“ゴキブリである”
22:10
「何があった!?」
マシュの悲鳴に過剰反応したダ・ヴィンチが鳴らした警報により飛び起きた俺は、円卓の騎士団を召集して急ぎ現場に急行した。寝惚け眼を擦りながら歩いていた時、正面を突破せんと走る何かを発見した。その瞬間
円卓の騎士団、全員シェーのポーズで脇に避ける。俺、何も反応出来ずにそいつを素通りさせる。
「………」
『───』カサカサ
「「うわぁああああああああああああああああああああああ!!!」」
か、カルデアにゴキブリだとぉおおおおおお!?
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「是はカルデアを救う戦いだ。全員参加でゴキブリ狩りをしろ」
「全力で断ります!!!」
「断固断ります!」
「───スヤァ」
「……流石にアレを捕まえるには勇気が必要です」
「マスター……無理なモノは無理なんだって」
「チクショウ!全会一致で否決しやがった!!!」
「言い出しっぺもかよ!?」
皆揃ってゴキブリが苦手とはなぁ…。
「兎に角、肉を守りましょう!」
「バカ!ゴキブリは虫だ!気温が低いから入ってこねぇよ!」
「ゴキブリは1匹見つけたら100匹居ると思え、日本の格言だそうです」
「ヒィッ!?」
「おいお前ら一旦黙れ。兎に角対策を考えるぞ!」
取り敢えずホワイトボードを運び、殴り書きで「ゴキブリ対策案」という文面を書いた。
「意見ある人は挙手!よし、ベディヴィエール!」
「部屋中を殺虫剤で充満させましょう!」
「俺らが死ぬわ!却下ァ!次、ガウェイン!」
「ゴキブリが変温動物なのでしたら室温を──」
「話聞いてたよな!?死ぬんだって俺ら!次、トリスタン!」
「───1度掃除しましょう。洗剤が苦手と聞きます。掃除中に見つけ次第、洗剤をかけて殺すのです」
「トリスタンを見ろ!すぐに優良な対策案を考え出したぞ!よし、アルトリア!」
「あちこちにストーブを置き、その上にヤカンを置き温めましょう。熱湯にも弱いと聞いております。それを掛けて即死させるのです!」
「なるほど。モードレッドは?」
「オレ?うーん…掃除機で吸ってパックに殺虫剤注入して殺す」
「それが1番現実的だな。幸いこっちには消音で掃除が出来る掃除機がある。コイツでヒュッと吸い上げようぜ。全員分ある。これでやるぞ」
そう言って配給していると、マシュがやって来た。
「先輩、私もやります」
「怪我人は無茶するな。俺達でやる」
「いえ、私も先輩のお役に立ちたいのです!」
「殊勝な心がけだ。じゃあマシュにはコイツを渡そう。洗剤とバケツ、そしていっぱいの水だ。これで廊下中を掃除してくれ。壁も天井もだぞ」
「はい!…………えっ」
「よーし!出撃だ!各自の部屋に殺虫剤を散布して燻り出せ!幸い体内に蓄積しないスプリンクラータイプをダ・ヴィンチが開発している。コイツを天井に貼り付けておけ」
「「はッ!!!」」
「酷いッ!?私怪我人ですよ!廊下全部掃除って………ハァ」
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「よーし、まずは燻り出すっと………」
モードレッドはアルトリアとの相部屋の天井に殺虫剤入りスプリンクラーを貼り付けるとスイッチを入れた。すぐにスプリンクラーが回転し、ミスト状の殺虫剤が散布される。急いで部屋を出ると鍵を閉め、一度換気口を閉じた。後で換気口にも散布して制圧する為取り敢えず閉鎖だ。
「効果が出るのは30秒…よし経った。開けるぞ……」
恐る恐るアルトリアと共に部屋を覗くと………
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」」
大量のゴキブリがひっくり返って死んでいた。
廊下
俺・黒ジャンヌ・ロマンはスイッチと掃除機を手にその時を待った。
「ロマン、廊下の壁に超音波を掛けてくれ。壁の中に隠れてる奴も居るだろ」
「任せて、侵入者への対策の為に超音波迎撃装置を壁の中に埋め込んでいるんだ。これを最小出力で使う。耳当ての準備はいいかい?」
ロマンがスイッチを入れると……耳触りな音と共に壁の中から一斉に奴らが飛び出して来た。その数は100を優に超える。
「ひっ!?」
「お、恐れるな!進め!!!」
黒ジャンヌはすごい顔芸を披露しながらも掃除機を振り回して次々とゴキブリを吸い上げていく。俺とロマンも掃除機を手に駆け回る。今回はスタッフも全員参加で掃除機を携えている。
「駆け抜けろ!!!追い立てろ!!!」
俺達は横一列になってゴキブリを次々と吸い上げていく。後ろには下がらせん!
そうして追い詰めるべく走り続ける事10分…ついに袋小路に追い込んだ。
「なるほど、こういう作戦だったのですね!先輩!」
袋小路とは……マシュが一生懸命床掃除をしているスペースだった。天井・壁・床に洗剤がたっぷり撒かれており、ゴキブリ達は通過する事が出来ないのだ。その隙にスタッフが後方にも洗剤をたっぷりばら撒き、挟み討ちの状態に追い込んだ。
マシュに掃除を全部やらせるつもりなど最初から無かった。全てはゴキブリを追い詰める為の策!飛ぼうにも超音波の効果で満足に動けまい!
「かかれぇ!!!」
決死の掃討劇は無事人類の勝利に終わった……。
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00:00
「お疲れ〜」
ナイチンゲールの手伝いもあり、全員の私室を掃除した俺達は1日の終わりを告げ、ベッドに入った。
なんだかんだみんな仕事をしてくれたおかげでゴキブリを無事殲滅出来た。これで安心して眠れる。マシュのリハビリも無事に進行しているようで次の任務の時には万全の状態で復帰出来るらしい。弄り甲斐のある奴が近くに居ると心も楽になる。
「さーて、もう寝る───」
「マスタァアアアアアアアアアアアアアアア!!!ベッドの下からネズミがぁああああああああ!!!」
「勘弁してくれぇええええええええええええええええ!!!」
掃除機で吸ってゼロ距離殺虫剤するのが効果的と内地の友人に聞きました。曰く「ファーストチュッチュの相手」らしい。合掌…