「ここは……」
気がつくと俺は土で出来た住宅の中で寝ていた。ベッドとして敷かれていたのは柔らかそうな藁。そして、空気中にはグツグツと何かが煮える音と共にいい匂いが広がっていた。半身を起こそうとすると、全身をズキズキとした鈍い痛みが走り体調は著しく悪かった。
「良かった。目が覚めたようですね!」
何かを煮ていた人物はこちらに振り向くと笑顔を見せた。桜色の着物の上にエプロンを纏った少女は出来上がった物を皿に盛り付けて運んで来た。
「はい!こちらはマスターからのリクエストで『ご飯・味噌汁・大根と鶏肉の醤油煮込み』となっております。お口に合うかは分かりませんが……あ、卵も採れましたので宜しければどうぞ」
「マスター…?」
彼女が運んで来た物は美味しそうな煮物が目立つ和食だ。味噌汁は山菜を中心としており、苦肉の策とも見える。米も無く大麦を炊いて代用しているようだが、いい匂いを漂わせている。
「ところでお前は誰だ?」
「まぁまぁ、もう少ししたらマスターが来ますのでゆっくり食べながらお待ちください」
そう言い残し彼女は立て掛けていた日本刀を腰に提げ歩き去った。どうやら俺はもう1人の生存者とやらに拾われたらしい。情けない…助けに行こうとしたら逆に助けられるとは…あ、この煮物うめぇ。後で作り方聞こう。
そう思いながら卵かけ御飯を作り食べていると、あまり聞き慣れない足音が聞こえた。摺り足って奴か…?
「目覚めたようだな。人理継続保障機関の戦士よ」
「なっ!?」
そこに現れたのは、黒のメッシュが入った金髪の青年だった。全身を羽織袴で覆い腰には日本刀を提げた「乙女ゲームのイケメン武士」を体現したような容姿を持っている。目付きは鋭く、相当な死線を潜り抜けて来たのだろう…洗練された雰囲気を醸し出している。そして、1番気になるのは……羽織の色。
「その浅葱色のダンダラ羽織ってまさか…」
「自己紹介といこう。拙者、
「新撰組ィ!?」
まさかの新撰組のコスプレイヤーだった!?
「次に部下を紹介しよう」
外に目配せすると間もなく先程の少女と長身の青年が現れた。
「私はクラス《アサシン》の『沖田総司』。新撰組一の剣豪とも呼ばれております」
「クラス《バーサーカー》、新撰組副長『土方歳三』だ。3人しかいない新撰組の参謀を務めている」
マジかよ。沖田って女だったのか……まぁ、円卓もとい卓袱台の騎士団も2人程女体化してるしなぁ…。
「まず現状を知らせよう。沖田、例の地図を」
「はい」
3人は俺の向かいで胡座(沖田は正座)で座ると、地図を広げた。
「これがざっくりとした現状だ。東の平地には現在…人参が陣取り、西には『埃及』の王が陣取っている。現在位置である北には我々新撰組の他に回教の者が集落を築いている」
「???」
すまん、縦文字が多過ぎて分からないんだが………。
「すみません。私が翻訳しますね。えーっと…東には獅子王と呼ばれる白人がキャメロットという城を築いており、西には『何故か突然現れたエジプト』とその王オジマンディアスが座しています。北にはイスラム教徒の人間が集落を作っており、我々もここに所属しています。本当にすみません…マスターったら横文字が苦手で使いたがらないんです」
「獅子王!?」
どういうことだ…獅子王って事はあのアルトリアが城を築いたって事か!?でも何のために…?
「それだけでは無い。あの白亜の城に居る獅子王と騎士達は聖抜と称し集めた人間から優良種のみを選別し、残りを聖罰と称し惨殺している」
「なっ───」
どういう事だ…モードレッドが…アルトリアが……ガウェインが…虐殺を…?
「信用されないと思いますので、こちらで映像記録を撮りました。マスターが使いたがりませんのでこの沖田さんが撮影しました。どうぞ!」
ビデオカメラを開け、その様子を見させてもらった。正直……途中で見るのを止めてしまった。直視出来ない…選民主義に染まりきったアルトリアの冷徹な顔…平気で一般人に手を掛けるガウェインの姿を…。
「よく生きて帰れたな」
「気配遮断を使わなければ死んでいましたよ。あははは…」
「その中にはトリスタンやモードレッドも居た。回教の人間を次々と手に掛けていたぞ」
「嘘……だろ…」
どうしたんだ…何で……そんな事を。
「オイ!勝手に話進めんなバーカ!!!」
「モードレッド!?」
その時、大声が聞こえ俺のよく知るモードレッドが現れた。ただし、その姿は痛々しいものだった。現代装備が壊れ、肌身離さず持っている筈のクラレントは中程からへし折れている。あちこちに傷を付けているようだし…相当酷い事があったようだ。
「ん?この女子はお主の英霊であったか」
「女子じゃねぇ!モードレッドだ!っていうか、歳あんま変わんねぇだろうが!?」
「これは失敬、モードレッドとやら。しかし、その名はこの土地ではくれぐれも使わぬように。この回教の民は円卓の騎士を恨んでいる」
「マジか。じゃあ偽名考えとこうっと…」
良かった。モードレッドは悪い事をしていない。だが…他の皆はどうなんだ…?
「先輩、申し訳ありません。転送先を何者かによって意図的に操作されていたようで……」
遅れてマシュもやって来た。盾のおかげでダメージはしっかり軽減されているようだった。
「マシュ、お前ならどういう状況だったか分かっている筈だ。教えてくれ。転送直後に何があった…」
「はい、実は───」
(中略)
「いや、強過ぎだろ…」
たった3人で騎士団を一掃するとか反則レベルだ。っていうか!?このマスターまで日本刀で戦って分厚い甲冑の騎士を倒しまくったっていうのか…?道理で只ならない雰囲気が出ている訳だ。
「少数精鋭こそ劣勢の際には有効打となり得る。敵陣に飛び込み中心で暴れていれば援護を行いにくくなる。誤って斬る・誤射するといった危険性があるからな。乱戦の鉄則だ」
土方さんのありがたい解説を聞き、彼らの強さの秘密を理解した。モードレッドがやっている戦法を彼等は日常的に組み込んでいるのだ。
「まぁ、新撰組のメンバーが揃っていたら1人につき2、3人でリンチにするのが定番なんですがね…」
「流石新撰組、やる事がえげつない」
「薩摩さんの助けが無ければ今頃死んでいました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
もう1人のマスター…薩摩は俺の方を向いた。これからはこいつの傘下に入って戦うのか…カルデアの管理とかもやるのだろうな。
「マシュからは聞いている。藤丸立香…人数合わせで入った一般人とは聞いているが拙者はそうは思わない。5つもの特異点を制した実績は充分以上の評価に値する」
「止めろ!照れるだろうが…」
「我ら新撰組は藤丸殿の駒として戦おう。何なりを命令を」
「はいはい分か……は?」
あの…明らかに上のランクのマスターが俺の下に仕えるってどういう事ですかね………。
という事で第2のマスター、新撰組臨時局長こと『薩摩 隆志』でした。今回は沖田が最も活躍出来るアサシンクラスで現界しています。
「現場のリーダーには適しているが全てを総括出来る器ではない」という設定で、身体強化以外の魔術を一切覚えておらず、魔力をサーヴァントの供給と「身体及び振るう日本刀の強化」に全振りしています。そして横文字が苦手…(人の名前は流石に話せる)。