Grand Order Of Fate   作:レモンの人

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今回はネタに走るついでに前々回抜いてしまった部分を補足します







深層

「いて……ここは…?」

 

気がつくと、俺は巨大な肉の柱の前にいた。これは…昔目撃した魔神柱か!?

 

「───りつ…か…なんで…戻…って……!?」

 

よく見ると、その中央部にモードレッドが拘束されている。手足が肉の中に埋まっており、苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「お前を置いていけないだろ!今助けてやるからな!待ってろ!」

 

俺は手に唾を吐き肉の柱に触れた……瞬間、意識が暗転した………。

 

 

 

 

 

 

 

再び目を開けると、そこは戦場だった。無数の剣が大地に刺さり、多くの兵士が傷付き死んでいた。

 

「──よぉ、カルデアのマスターさんよ」

 

俺は目の前に居るモードレッドが視界に入った。腹にはロンゴミニアドが刺さっているが、彼女は全く動じていなかった。

 

「オレの名はモードレッド。アーサー王の嫡男にしてモルガンの子である」

「!」

 

いや、モードレッドとは全く違う。肌は死人のように白く、瞳は金色、顔には不気味な程に気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

「いや、自己紹介が遅れたな。オレの…いや、我の名は…ソロモン」

「ソロモンだと!?」

 

ソロモンって確か72の悪魔を従える王…だったか?

 

「カルデアは時間軸から外れたが故、誰にも見つける事のできない拠点となった。あらゆる未来───全てを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無惨にも。無益にも。決定した人類の滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな船だ。それがおまえたちカルデアであり、藤丸立香という個体」

「いきなり出て来て神様気取りかよ…!」

 

つまり、コイツが全ての元凶か…!口ぶりからして間違いない。

俺は目の前に刺さっていた剣を抜くとソロモンと名乗った者に斬りかかった。が、奴に届く事なく俺は弾き飛ばされた。しかし、モードレッドの為に負けられない!

 

「そら見た事か。ただのゴミが我と同じ地平に立てば、必然、このような結果になる」

「何が…!」

 

再び振るった剣は人差し指で受け止められてしまった。

 

「死ぬ前に1つ良い事を教えてやろう。七騎の英霊は、ある害悪を滅ぼすために遣わされる天の御使い。人理を護る、その時代最高の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。元々降霊儀式・英霊召喚とは、霊長の世を救う為の決戦魔術だった。それを人間の都合で使えるよう格落ちさせたものがお前達の使うシステム───聖杯戦争である。」

「!」

「さぁて、そろそろ…終わりにしようか」

 

ソロモンが指を押した瞬間、俺の持っていた剣は粉々に砕け散った。彼の手には逆に同じ剣が握られている。

 

「死ぬか…死ぬもんか!!!」

「ハハハハハ!!!人間らしい生き汚なさだ!精々足掻いてみせろよ!」

 

ソロモンが剣を手に走る。常人を遥かに超えた速度で走る彼に俺は対応出来ずに………。

 

「させっかよ!!!」

「!?」

 

その時、俺を庇い剣を自身の剣で受け止めたのはモードレッドだった。全身に剣が刺さっているが…間違いなく彼女だ。

 

「その傷は…!?」

「愚かな小娘だ。精神を犯し尽くしてもまだ抵抗するとは」

 

だが、その見た目に反して彼女の剣捌きは軽快そのもので、ソロモンの剣を押し返していた。

 

「立香!ここは魔神柱の精神世界だ。意思と想像力の強い奴が勝つ!負けると思ってちゃいつまでもあいつには勝てねぇんだよ!」

「でもどうやって!?」

「お前もさっきやってたろうが……例えば…!」

 

モードレッドは目を閉じると掌を開いた。と…その手にはいつの間にかモップが握られていた。

 

「こんな感じにな!」

 

突然現れたバケツにモップを突っ込み、ソロモン目掛けてモップに染み込ませた液体をぶっかける。水飛沫の先には、半壊したソロモンが立っていた。流石に3秒で完全再生したが奴はかなりキレている。

 

「おのれ…英霊風情が……!」

「立香!いけるな!」

「うーん…イメージ…イメージ…!」

 

俺も負けじとイメージを広げてみた。いかん…どうしても料理の風景に…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?貴様…ここは…!?」

 

いつの間にか、ソロモンは小さくなり、俺の手に握られたフライパンに転がっていた。これなら…!

 

「さぁ、クッキングタイムの始まりだ!」

「待て待て待て待て!何をする気だ貴様!まさか…」

「まぁずはぁ〜オリーブオイルでエステしましょうねぇ〜!!!」

 

ソロモンの絶叫をBGMに、俺が生み出した料理地獄を味わってもらう事にした。流石にモードレッドもドン引きする中、俺は先程の緊張感を返せと言わんばかりにお仕置きした。

 

 

******************

 

「ッ!?」

 

いきなり暗転したと思ったら、いつの間にか俺は魔神柱の前に戻っていた。

 

「ヤメロォ……ヤメロォ……ヤメロォ……」

 

ただ、魔神柱からは壊れたレコードテープのように同じ言葉ばかりが連呼されていた。どうやらコイツの意識の中に潜り込んでいたようだ。おまけにトラップはこれだけらしい。

 

「よし、今助けてやるからな!」

 

ようやく振り出しに戻ったばかりだ。早く助けださなければ…!

 

「うわキモッ」

 

肉の気持ち悪さに顔を顰めながら俺は柱を登る。何て事はない。ガキの頃にやっていた木登りと同じだ。下を見ずに一気に登り詰めればいい!肉に指を食い込ませてドンドン登る事10分程…俺はついにモードレッドの前に辿り着いた。

 

「モードレッド!大丈夫か?」

「なん…とか……な…」

 

俺はポケットから作業用に使っているナイフを取り出すと肉を切り始めた。時間は掛かるがカット出来る筈だ。真剣に作業をしているとモードレッドから苦しげな声が漏れた。

 

「少し我慢してくれ。大雑把に切るぞ」

「立香…頼みがある……」

「なんだ?」

「オレの事…好きと言ってくれ」

「なっ!?いきなり何言いだすんだよ!?」

 

あぶねぇ…手を滑らせるところだった。

 

「オレ…今まで…立香ン事……付き合いやすいマスターだとしか…思わなかった……いや、今も……そう…思っている…かも…しれない……でも…立香は…オレの事を助けに…戻って…くれた………。こんな……面倒…見…いい…やつ…初めてだ………」

 

カットを続けながら俺はモードレッドの言葉に耳を傾けていた。焦点の合わない目で語り続ける彼女はかなりしおらしい。

 

「……オレ…やっと……立香が好きだ…って…気付けた……。最期に聞かせてくれ………立香…オレの事…好きか?」

 

これは明らかにLOVEの意味で聞いている。必死に意識を繋ぎ止めようとしている彼女に俺は心の中の正直な想いをぶつけた。

 

「当たり前だろ。俺はモードレッドを愛している。そうじゃなきゃこんな危険な想いして戻らないだろ?」

 

モードレッドの頭を片手で撫でてやると、彼女はフッと微笑み…目を閉じた。

 

「ありがとよ…もう……心残りは………」

「モードレッド…それは一体どういう…!?」

 

次の瞬間、俺は何かに引っ張られるように吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間から消えた立香を見送ったオレは、叛逆と憎悪の記憶を無理矢理掘り起こした。あぁ……ムシャクシャする。全身が燃えるような感覚だ。解放出来るパワーは一度だけ、それに全てを賭ける!

 

「オレの最期の叛逆…受けてみろ!!!」

「ォオオオオオオオオオオオオオ!!!アツイ!アツイ!ヤメロォ!!!」

 

オレは自分自身を彩る負の記憶を燃料に魔力を完全解放した。その炎に焼かれて魔神柱の肉体が焼け始める。

 

「魔神柱……さっきのお返しだ。テメェを吸収してやる………魔力炉残して消え失せろぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

炭化し崩壊を始めた魔神柱から解放されたオレはその灰から醜く脈動する心臓を引き摺り出した。そして、その心臓を胸に当て自己改造を開始した。ぶっつけ本番だが、出来る筈だ!

融合を始め、崩れ始める自分の肉体を見ながらオレは最期に立香に想いを伝える事が出来た事に感謝した。

 

「いや…最期じゃねぇ……オレはもう一度会いたい……藤丸立香というオレが全身全霊を賭けて愛したい男の為に…もう一度!!!」

 

肉体が再構築を始めた。どうやら成功したらしい。もうじき、この混沌の空間を出る。その頃にはオレはオレで無くなっている。だが、どんな姿になろうと立香を愛するだろう……その為にオレは生まれた…今ならそう思えた……。

 

 

 

***************************

 

「藤丸殿!」

 

目を覚ますと薩摩達が駆け寄って来た。幸い、彼の采配のおかげで余程モタついた兵士でなければ死ななかったと言っていいほどに死者は少ないようだった。

 

「驚きました。龍が突然消滅しまして…貴方が倒したのですね?」

「倒した………そうだ!?モードレッド!モードレッドは!?」

 

慌てて飛び起き周囲を見回す。獅子王の軍隊達が屍となって転がっている。その中で…俺は、1人佇む人影を見つけた。あのシルエットは…?そう思った瞬間に俺の頭の中に電流が走った。

 

「あっ!?藤丸さん!まだ休んでいた方が…ごふっ!?」

「沖田は無理し過ぎだ。休むならお前が休め」

「はーい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佇む人影…そのシルエットが徐々に明らかになっていく。その正体に俺は何となく察しがついていた。だからこそ呼ぼう。あの名を!

 

 

「モードレッド!」

 

 

シルエットは夕陽に照らされ、その姿を映し出した。

 

 

「ただいま、立香…」

 

 

 

もう一度会いたかった少女の頭には一本のアホ毛が生えていた………。




モードレッドの頭に遂にアホ毛が生えてしまった回。因みに、もう1人のモードレッドの正体は魔神柱。「個人的に最も厄介と感じたモードレッドを吸収して仕留めよう」としたのだが、彼を待っていたのは「モードレッドに単独行動出来る能力を与える程の魔力炉へと改造される」悲劇(笑)的な結末であった。

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