Grand Order Of Fate   作:レモンの人

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キャメロット編が終わったので、後は懲りずにコメディ調で行きます。もうシリアスなネタは出てこねぇ…(土下座)






閑話休題13 迷探偵モーさん

「立香〜!遊びに来たぜ〜!」

 

突然扉が開いたと思ったら、モードレッドが入って来た。格好は赤いジャケットとホットパンツという活発そうないつもの私服。が…さっきからアホ毛が気になる。アルトリア譲りのそれを見る視線に気付いたのか、モードレッドはアホ毛を指で弄った。

 

「やっぱ気になるよなぁ。でも、このアルトリウムが無きゃ武装の大半が使えねぇからな。必須アイテムなんだ。」

「アルトリウムって言うんだな」

「変だよな!アホ毛はアホ毛なのによ」

 

少し互いに見つめあい…俺はモードレッドの隣に座った。エルサレムでの戦いで彼女は一度死んだ。だが、こうして戻って来てくれた。俺にはそれがとても嬉しかった。

 

「そうだ!立香!大事な情報を教えるのを忘れたんだ!」

 

そう言うとモードレッドは、ジャケットから一枚のディスクを取り出した。

 

「魔神柱を取り込んだ時に手に入れた記憶をデータにして焼いてみたんだ。見てみようぜ!」

「おう」

 

早速、ノートパソコンに挿入して動画を再生してみた。曰く、黒ジャンヌの発案だそうで、レイシフトで帰還した際に脳が情報過多でショートしそうになった事で『記憶を別の媒体に移す』という方法で解決したのだ。

 

「よし、起動した」

「うわ、何だこれ」

 

そこに映ったのは何処かの世界だった。古い格好をした男達が一人称の魔神柱(?)に対し土下座し敬う様子が見える。こいつは偉い奴だったのか?また暫くすると、今度は歴史上ではよくある風景が見えた。迫害・差別・飢餓・略奪……人間の醜い映像ばかりが映った。その時、声が聞こえた。

 

 

 

──私は見逃す事が出来ない このまま見過ごす事は出来ない 彼の王の悪行を 彼の王の残忍を 多くの哀しみを見ていながら、何もせず、薄ら笑いを浮かべていた、あの悪魔を………

 

 

「ポップコーン食うか?」

「いつの間に作ってたのかよ!?…まぁ、食うけど」

 

 

シリアスな空気にいたたまれなくなり、俺はアルコールランプと三脚台をコンロに即席で作ったポップコーンを丼に入れて塩をかけた。

 

 

──どのような時代、どのような国であれ、人の世には多くの悲劇があった。我が子を殺すもの、我が子に殺されるもの…恋を知らぬもの、恋を捨てるもの……

 

「美味っ!?どこの塩を使ってんだ?」

「フランスの岩塩だ。良い味が出るんだよなぁ〜フランスは」

「こいつにキャラメルソース絡めようぜ!」

「ちょっと待ってな!すぐ絡めてやる」

 

砂糖をコトコト煮込み、さらに美味くする為にバターも加える。そして出来上がったキャラメルソースを半分取ったポップコーンに絡めて別の丼に盛り付けた。

 

「さっ、続きだ続き」

「あ、途中止め忘れた。まぁいっか!」

 

 

──なんと醜く悲しい生き物なのだろう。只人はそれでよい。

 

人間は万能ではない。皆苦しみを飲み込み、矛盾を犯しながら生き続けるしかないのだ。

 

されど万能の王であれば別だ。彼にはそれを解決する力も、手段もあった。

 

過去も未来も見通す千里眼を持ち、この世の全ての悲劇・悲しみを把握していながら その上で何もせず笑うだけの王が居た。知っていないのであれば良い。だが、知った上で笑い続ける王が居た。

 

──それを知っていながら何もしないのか!この悲劇を正そうとは思わないのか!

 

──私の問いに王はこう答えた。

 

 

“いやぁ、まぁ、別に、何も?”

 

 

──この男を許してはならない!私たちの誰もがそう思った。

 

神殿を築き上げよ、光帯を重ね上げよ。

 

アレを滅ぼすには全ての資源が必要だ。

 

アレを忘れるには全ての時間が必要だ。

 

終局の特異点への道を探せ、そこに魔術王の玉座がある。

 

その宇宙の名はソロモン…終わりの極点。時の渦巻く祭壇、始源に至る希望なり…

 

 

「あ、終わった」

「オチ無しかー」

「だが、黒幕に繋がる貴重な手掛かりは見つかった。そうだ!これ見ながら作戦会議しようぜ!おやつ沢山作ってさ!」

「よし来た!頭使うのは下手だが飯作るなら俺の専売特許だぜ!取り敢えず1日だけ時間寄越せ」

 

俺は早速、スイーツ専用のレシピブックを手に食堂へと向かった。

 

 

******************

 

次の日、ブリーフィングルームはいつも違った趣となっていた。農業プラントから持ってきた観葉植物やオシャレな椅子・テーブルが置かれ、テーブルには和洋のスイーツが並べられている。

 

「よく来てくれた。今回は趣向を凝らしてみた。遠慮せずに食ってくれ」

「すごいです!先輩!これ全部先輩が?」

「流石に幾らかはアルトリアにも手伝ってもらったが、そのおかげで2倍多く作れちまった。まだ余ってるからな」

 

スイーツが食べられるという事でスタッフや農作業中のサーヴァントも一時中断してブリーフィングルームに入って来た。

 

「因みにオススメはなんだ?」

「このシュークリームだな。皮をクッキー生地で作ってるんだ。札幌のとある田舎町で食ったシュークリームが気に入ってさ」

「上下で皮が分かれてるな。どうやって食うんだ?フォークとナイフで食べ辛い形状してるんだが」

「手で食うんだ。ちょっと下品だけどこうやって…上の皮でクリームを掬って一緒に食べるんだ。やってみ?」

「美味ッ!?」

 

そこそこに賑わいを見せたブリーフィングルームで、改めてモードレッドはホワイトボードとペンを取り出した。

 

「じゃあ、こんなスイーツとは縁もクソも無いがまずこのビデオを見てもらうぞ」

 

DVDプレイヤーにディスクを入れて先程の映像を見てもらった。静かになる空気がしばし続いた後、モードレッドはホワイトボードにペンを走らせた。

 

「ここまでがオレの頭の中から取り出した魔神柱の記憶だ。これを見て思った事、心当たりのある奴は手を挙げて発言してくれ」

 

モードレッドは漉し餡団子を食べながら司会進行を行う。最初に手を挙げたのは薩摩だった。

 

「一人称が変わっているが不自然だ」

「正解、一人称が変わったって事は相当怒っていたとも推測される。恐らく『私達』が本来の一人称なんだろう」

 

次に手を挙げたのはダ・ヴィンチ。

 

「でも、それは不自然なんじゃないかい?普通自分の事を複数人では言わない筈…あり得るとしたら多重人格者であるくらいだ」

「そこなんだよ。でも、ここにはもう1つの不自然な点と繋がってくる…」

「そうだ!王の言葉の時に視点に彼の顔が映っていない!」

「バカッ!口に物入れながら叫ぶな!」

「あっ、ゴメンね」

 

なるほど、普通本気で訴えたい時は相手の顔を見る。あさっての方向から話す事は無い。

 

「そして、大事な事が1点。その王様の名前はソロモン王だ」

「えぇっ!?」

 

モードレッドが核心を突いた瞬間、自称ソロモン王ファンことロマンが椅子からひっくり返った。

 

「終盤のセリフにあった台詞と『過去も未来も見通す千里眼を持ち、この世の全ての悲劇・悲しみを把握していながら その上で何もせず笑うだけの王が居た。知っていないのであれば良い。だが、知った上で笑い続ける王が居た。』というフレーズから推測出来る。ソロモン王はかなりのクズ野郎とも見る事が出来るな」

「ひどいッ!ソロモン王はそんな悪い人じゃない──」

 

そう抗議しようとしたロマンは急に顔をズイと近付けたモードレッドに怯んでしまった。

 

 

「ソロモン王の雰囲気と魔神柱の独白…ついでにマシュの証言からテメェとの共通点も見つかってんだ。下手な嘘は吐いてねぇで本当の事を喋った方が懸命だぜ?魔術王殿?」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ブリーフィングルームがざわざわと騒がしくなった。それを手で制したモードレッドは腰に右手を当て、左手でコーヒーを飲んだ。

 

「具体的に言ってやろうか?魔神柱と精神世界で戦闘していた時に奴の伝説にある10の指輪が9しか無かった。しかも、その欠けた箇所の指輪を填めているとマシュから聞いている。ついでにソロモン王のあんな呑気な発言はテメェによく似てるんだよ!つか気になったから音声照合したらピッタリ一致したしな!どうだ、これでも違うと言い切るか?ん?」

「───ぅぅ。」

 

ロマンは周囲の空気に耐えられなくなり、萎縮してしまった。それを見たモードレッドはコーヒーカップを一度テーブルに戻した。

 

「まず、テメェには良い事と悪い事がある。どっちから聞きたい?」

「──取り敢えず、良い方から」

 

やっぱり、といった空気が漂う中でモードレッドはニッと笑った。

 

「ソロモン王はこの事件には関係無い。自分に出来る事をやって土地を治め、普通に死んだ王だからな」

「ホッ…」

「で、悪い方は…テメェがちゃんと魔神柱と対話しなかったからこの事件が起きたって事だ。そこはテメェの落ち度だ。反省しろ」

「───はぃ」

 

アルトリウムが生えてから急に聡明になったなぁ…モードレッド。今のお前は少し遠く感じるぜ。

 

「罰として、ロマンは魔神柱の正体と元凶についてたっぷり話してもらうとしよう。勿論、持論で良い。テメェの体からは何の魔力も感じねぇからな」

 

 

 

******************

 

ロマンの口から語られた内容を聞いた俺は頭を抱えた。そこまでの事情を抱えていながら何で相談しなかったんだという思いと本当の事を話してくれた事への嬉しさの両方が入り混じった複雑な思いで彼の肩を軽く叩いた。

 

「よく話してくれた。これで俺も敵の正体をハッキリと理解出来た。これでチャラとしよう」

「すまない…僕も隠していた事を話せてスッキリしたよ」

 

無事、ロマンとも和解出来た。最後は俺が〆にしよう。

 

「これで敵の正体が掴めた。敵の正体は生前のロマンが扱っていた魔術だ。魔神柱はその魔術そのものであり、恐らく意識の集合体も存在する。俺達は敵の名を『ゲーティア』と仮称し、そいつの痕跡から敵拠点を狙うものとする!」

「うんうん、らしくなったね。ぐだ男君」

「ロマンの作業の幾分かはサーヴァントを追加動員して負担を下げるものとする。これは人間としてのある程度の楽しみを謳歌してもらう為の俺からの提案だ。いいな?」

「分かったよ。僕も極力休むように心掛ける事にするよ」

「よし、シリアスな話はここで終わりだ!さぁ、ティータイムを楽しむとしよう!」

 

 

 

が、直後にナイチンゲールがティータイムに興じる俺達を発見。全員食後に彼女の目の前で歯磨きする事となりましたとさ。




以上、熱いネタバレ回でした。まだウルク編のストーリーが出来てないので閑話休題で暫しお茶を濁します

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