「よーやく撤退したか」
/クラレントのビームによる薙ぎ払いで戦意を喪失した魔獣達を見送りながらモードレッドはプリドウェンを背負った。
「次の防衛戦線に行こうぜ、立香」
「おぅ、少し手薄になった箇所もあるみたいだしな」
「西の防衛戦線も大した事ないぜ」
『藤丸殿、北の防衛戦も終了した。如何なさいますか?』
「見張り番を置いて撤退だ。飯にしようぜ飯に!」
『承知』
「って事でよろしくな。見張り番」
「分かった。君達のおかげで戦線も少しずつ押し返せている。ゆっくり休んでいてくれ」
実際、機械化&魔神柱を取り込んだモードレッドの戦力はケタ違いだ。やや射撃戦の方が得意になったものの、精密射撃が特に上手くなっている。さっきだって、最前列にいた魔獣達を片っ端から狙撃してウルク兵達への接近を許さなかった程だ。
「この調子でミッションが終わればいいけどなー」
「な訳無いだろ。ここは神代だ。俺たちの理解し得ない領域の力だってここには飽和してんだ」
「だよなぁ…早くカルデアに帰ってやり残したゲームをやりたいぜ」
そう言いつつ、俺たちは今日一番のMVPの方へ振り返った。
「がふっ…!?はぁ……はぁ……」
「無理すんな愛識!死にそうなのに無茶すんじゃねぇよ!」
自陣全体に広がっていた魔法陣が消え、城壁の隅で固有結界を展開していた愛識が盛大に血を吐いた。病状は相当悪化しているらしい。進行こそ遅れているとはいえ、既に魂そのものが滅びかけているのだ。体に異常があってもおかしくはない。
「すまん……」
愛識を肩に担いで帰還した俺たちはこの日の戦闘を終えた。
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「愛識!やめろ!休んでいていい!」
「僕が……やらなきゃ……いけな…い……退け…」
朝起きると、愛識が勝手に戦場に出ようとしていた。引きとめようとしたが、満身創痍だろうと体は神性のサーヴァント…振り払われてしまった。仕込み杖にしがみつくように歩く後ろ姿を見送った俺は、モードレッドを起こし戦場に出る用意をした。俺達に出来る事はあの頑固者を少しでも楽にさせる事くらいだった。
「邪魔だ邪魔!モードレッド様のお通りだ!!!」
モードレッドがスプマドールを使った高速戦闘を仕掛け、片っ端からモルデュールと/クラレントで魔獣達を切り刻んでいく。下手すると魔獣達よりよっぽど魔獣らしいモードレッドの攻撃で統率を失った敵をウルク兵達が連携で倒す。これは自軍に加わっていたレオニダスというサーヴァントの恩恵に他ならない。
「安心しろ。お前の固有結界が無くても今は戦えるんだ」
「……」
が、彼は杖を地に突き固有結界の詠唱を始めた。
「話を聞いてんのか!」
「僕から生きている理由を奪うな。僕は戦える…戦えなければ僕の存在意義は無い!《星見の円規》!!!」
再び展開される固有結界、次々と魔獣達が魔力を吸い上げられ戦闘不能になる。感情が乗っている所為かいつも以上に吸い上げるペースが早い。
「良いから寝てろ!」
「がふっ…!?」
流石に腹が立ち腹パンを噛まして固有結界を解除させた俺は気絶した愛識を担いで帰還した。振り返ると魔獣達は撤退を開始していた。取り敢えず、今日も大丈夫だろう。
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「魔獣と云えど、断つ肉が在れば──!」
魔獣の跳躍しての攻撃を見切りつつ日本刀で前肢を斬り捨てた私は違える事無く心臓に刺突を放ち、倒した。
「誠の旗、散らせるものなら散らしてみるがよい!」
鬼神の如き奮戦で魔獣達を撃退し、腰に提げた竹の水筒に口を付けようとした時、1体の魔獣が襲い掛かってきた。すぐに水筒を捨て居合の構えをした……次の一瞬で、魔獣の横っ腹に1本の矢が刺さった。
「───切捨御免」
どの道間に合っていたのだが、全体重をかけた刀が魔獣の肉体を斜めに切り分けた。纏った魔力により刃毀れせず、強度と斬れ味のみを強化する…それが我が薩摩流の魔術。
「助太刀、感謝致す」
「要らぬ手助けだったようですね…」
矢を放った主は白銀の髪を持つ女武者であった。頭に生えた二本の角が人ならざる気配を感じさせる。
「拙者、薩摩と申す。故あって誠の旗を掲げ二騎の英霊を従えている」
「私は巴御前。弓兵の英霊です」
「そうか、巴御前…」
確か木曽義仲を愛した女であったか、その武勇はどんな男よりも猛々しかったと聞く。
「巴御前、其方ははぐれの身であるか?」
「いえ、この街の巫女により呼び出された身です。そして、1度散らそうと覚悟を決めた命を愛識殿に救われた身でもあります」
「そうか。今日はこれ以上敵は来ないと見える。よければ拙者と少し話でも聞かせてくれぬか?」
「それは……口説いているのですか?」
「そう解釈させてしまったのであれば申し訳ない。いや、実は拙者…義仲殿の武勇を聞きたくてな。西洋風に言えば…
「なるほど…それでしたら、今晩の酒盛に来ていただければ夜が明けるまで聞かせてあげましょう。それほどの長話になりますがよろしくでしょうか?」
「ははは…それは楽しみであるな!」
「マスターは何やってるんですかね!全く!女の子にナンパを仕掛けるなんて!」
「言ってやるな、局長も男だという事だ」
何も知らない2人の英霊はマスターに大きな勘違いをしたまま帰還するのであった。
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「おい、薩摩はどこ行った?」
「美人の女と飲みに行ったぞ」
「えぇ…」
全員で夕飯を食おうと決めて海鮮鍋を作って待っていたところ、あの硬派な薩摩がデートかよ。まぁ…ダメとは言わないけどさ。
「まぁいいや、飯にしようぜ!」
今日の飯は蟹らしき物・海老らしき物・大粒の貝を大量の蟹味噌で煮た海鮮鍋だ……まだ味噌が出来上がってないので取り敢えずこれでお茶を濁す。
「でも、意外とイケますよこれ」
「オレは美味けりゃいいさ!」
正直、オルレアンで見た海魔の類のような外見なので現物見せたら閉口すると思うぞ。
「愛識は食べるか?」
「……要らない」
「まだ拗ねてんのか。機嫌直せよ」
「僕は誰かの助けにならなきゃならないんだ。それを妨害したお前を僕は許さない」
「あー面倒くせぇ奴だなぁ!いいから食え!食わなきゃ元気にならんだろうが!」
無理矢理にでも飯を口に放り込み栄養を付けさせる。ロマンからの情報では、愛識はサーヴァントの肉を借りているとはいえ、生身の人間と殆ど変わらないらしい。だから食わなければ間違いなく明日ぶっ倒れる。そう説得すると、愛識は渋々飯を食べ始めた。
「……ところで、マーリンは?」
「ギルガメッシュ王と連絡を取り合ってるみたいです。円卓の騎士の練度も漸く実戦レベルにこじつけられたみたいで、明後日には参戦出来ます」
「そうか」
今回のミッションは時間との勝負になる。期限は後1週間強…それまでにこの事件を解決しなければ…!
簡単に言うと薩摩に恋(?)が始まったという話です。本編通りにするかはまだ考え中です。