Grand Order Of Fate   作:レモンの人

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今回はいよいよオルレアンを舞台にした物語……なのだが…?






邪竜偶像戦争オルレアン
オルレアンにて…1


「3、2、1、キュー!」

 

パチンという乾いた音が響き、黒装束の女が本を読みながらゆっくりと歩き出す。

 

「──よく来ました。我が同胞(サーヴァント)たち。私が貴方たちのマスターです。召喚された理由は分かりますね?破壊と殺戮、それが私から下す尊命(オーダー)です。春を騒ぐ街があるのなら、思うまま踊りなさい。春を謳う村があるのなら、思うまま歌いな─」

 

「ジャンヌ、台詞を間違えておりますぞ」

「あ///…コホン!テイク2は?」

「残念ながら訂正する時間がありませぬ…」

 

顔を赤らめる女は後ろを向き、一通り早口言葉を話し続けてから前を向いた。

 

「どれほどの邪悪であれ、どれほどの残酷であれ、神は全てをお許し下さるでしょう。罰をお与えになるならば、それはそれで構いません。それは神の実在とその愛を証明する手段に 他ならないのですから。」

「少し早口気味ですぞジャンヌ」

「うるさいわね!召喚された瞬間に台本覚えろって無理ゲーじゃないの!!!」

「まぁまぁ、貴女は聖女であり謂わば『アイドル』。アイドルも役者として役を演じる必要があるのです…!」

「あ…そうなの。じゃあもう少し頑張るわね」

「私もプロデューサーとして最善を尽くしましょう!さぁ、次の台詞をどうぞ!!!」

 

──────

 

「はっ────夢か」

 

夢から醒めると、そこはいつもの部屋だった。隣にはモードレッドとアルトリアが気持ち良さげに惰眠を貪っている。しっかし…変な夢だったな。

 

「朝だぞ、起きろ」

「むにゃ……!スマン!寝過ぎた!」

 

彼女の頬を突きながら朝を告げると、彼女は慌てて飛び起きた。別に急いではいなかったが彼女はスルスルと脱皮の如く着替えを済ませて俺が着替えを終えるのを待っていた。一切裸が見えなかったが多分素性隠しの過程で編み出したのだろう。

 

「こいつは起こすか?」

「当たり前だろ?父上〜!起きろ〜!!!」

「むにゃぁ………はっ!?」

 

覚醒したアルトリアは慌てて飛び起きた。親子共々同じ顔してたな…。

 

「取り敢えず、身支度を済ませてから飯にするぞ。今日はブーディカが朝を作っているらしい」

「りょーかい」

「はぃ……ぅぅ…二日酔いが…」

「しっかりしろ、俺が平気なんだからサーヴァントなら余裕だろ?」

「いや…その後……あぁ///なんでもない!!!ちょっとブーディカの手伝いやってきまーす」

 

すまん…俺ホントに記憶無いんだ。何をやったんだ…俺。

 

 

 

 

 

「昨晩はお楽しみだったね、ぐだ男君」

「ブッ飛ばすぞ」

 

管制室に入った瞬間にロマンがニヤニヤしながら宣ったので相応の返事を返した。一旦落ち着いてから、ロマンが改めてシリアスモードで話をする。

 

「レイシフトしてその時代に跳んだ後のことだけど。霊脈を探しだし、召喚サークルを作ってほしいんだ。ほら、冬木でもやっただろう?冬木のときと違って念話連絡程度ならこのままでも何とかなるけど……補給物資などを転送するには、召喚サークルが確立していないといけないからさ。」

 

なるほど、冬木のあのベースキャンプの話な。

 

「前と同じように、私の宝具をセットすればそれが触媒になって召喚サークルが起動します。そうすれば先輩も自由にサーヴァントを召喚出来ます。恐らく、召喚されるのはその時代や場所に近しいサーヴァントが主になるでしょう」

「じゃあ早速行くか!特異点修正の為に!現地で美味い飯を食う為に!」

「先輩、遊びじゃ───行ってしまいました…」

「ところでマシュ、お鍋の蓋を握ってるのは大いに結構だけど盾は?」

「あ────」

 

ぶっちゃけ、盾あればいいから勝手に持ってくぞ…ってさっき言ったんだが話聞いてたかな?マシュの奴。

 

「先輩のばか〜!!!!!」

 

 

**********************

 

フランス ドン・レミ

 

「よし、モードレッド!アルトリア!レイシフト成功!これより早急に拠点制圧に向かうぞ!」

「先輩〜!置いてかないでくださ〜い!」

 

マシュを置いて行こうとした所、やはりレイシフトして追いかけて来た。正直、アルトリアとモードレッドという強キャラ枠の所為で使い物にならないんだがなぁ。

 

「よし、行くぜ父上!オルレアンにブリテンの旗を立てるんだ!」

「はい!フランスをブリテンの国にしましょう!」

「略奪の時間だ!ヒャッハー!!!」

「駄目です!歴史の修正に来たんですからね〜!」

 

俺から盾をもぎ取ったマシュはやや駆け足気味に俺達の前に出た。と、俺達の死角から聞き慣れた声が聞こえた。

 

「フィーウ!フォーウ、フォーウ!」

「フォウさん!?また付いて来てしまったのですか!?」

「フォーウ……ンキュ、キャーウ……」

 

フォウ…よく分からん謎の生き物である。アルトリアも完全スルーしている辺り、アーサー王伝説では無さそうだ。ただ、単独で顕現出来るぐらいすげぇ淫獣の香りがする。

 

「先輩か私のコフィンに忍びこんだのでしょう。幸い、フォウさんに異常はありません。どちらかに固定されているのですから、私たちが帰還すれば自動的に帰還できます。」

「じゃあ、フォウのためにも無事に帰らないとな。ま、その前にお前らを安全に帰してやるぜ!ハハハ!」

「きゃっ」

「マスター!いきなり抱きつくな!」

「(イラっ)」

 

アルトリアもモードレッドもまだやりたい事が沢山残っている筈だ。色々見聞させて楽しませてやらないとな…。

 

「先輩。時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です。現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです。」

「休止期間?」

 

首を傾げるとマシュが解説してくれた。

 

「はい。百年戦争はその名の通り、百年間継続して戦争を行っていた訳ではありません。この時代の戦争は比較的のんびりしたものでしたから。捕らえられた騎士が金を払って釈放されるなど日常茶飯事だったそうです」

「勉強になるな、よし行くか!」

『よし、回線が繋がった!画像は粗いけど映像も通るようになったぞ!取り敢えず、まずは霊脈を探そう!』

 

空に浮かぶ光輪が気になったがまぁいっか。今は霊脈探しが先だ。

 

「ドクターの言う通りです。周囲の探索、この時代の人間との接触、召喚サークルの設置……やるべきことは山ほどあります。一つずつこなしていくしかありません。まずは街を目指して移動しましょう、先輩。」

「待て、フランスの斥候部隊を見つけたぜ!」

『なんでこっちのセンサーより早く見つけるんだチクショウ』

 

モードレッドの直感をナメてはいけない。あいつの感は中々だ。冬木の時は調子が悪かったが、アルトリアと和解して以降はメキメキと才能を開花させている。

 

「取り敢えずコンタクトをとりましょう。私に任せてください」

「頼むぞアルトリア」

 

ドゥン・スタリオンに乗るアルトリアは、野原を駆けて斥候部隊に声を掛けた。

 

「Bonsoir」

 

ペラペラと現地の人と会話する事2分。彼女は一団に持ち物だった乾パンの入った布袋を土産物に渡して戻って来た。

 

「話が見えてきませんね…」

 

アルトリア曰く「竜の魔女というアイドルが現れ、招待を拒否すれば殺される」という呆れた内容だった。竜の魔女?アイドル?…なんかデジャビュ。

 

「よくわかんねぇ…」

 

そう思っていたその時、上空から何かが飛来して来た。それは、緑色の鱗を持ち、大きな翼を発達した脚を持つ竜…ワイバーンだった。ワイバーンは斥候部隊達を煽るように旋回すると背中に括り付けられたビラを撒いて去って行った。堪らず俺達も彼らの方に向かった。

 

「大丈夫か?」

「───おしまいだ」

 

ヨヨヨと泣き出す彼らを慰めながらビラを読んでみると、そこには呆れた内容が書かれていた。

 

“竜の魔女ライブ開催! 3日後、領民全員を同伴の上、ラ・シャリテにお集まり下さい!

 

曲目

●私、恋は苦手なのよね

●Ja lala

●あぁ美しきかなオルレアン

●色彩(全員斉唱)

 

警告、期間内に間に合わなかった諸侯の領地は容赦無くデュへるゾ☆”

 

 

「ナメてんのかオラァン!!!」ベチーン

 

よく見ると活版印刷が無い時代だからか一枚一枚手書き。しかも、『可愛らしい黒装束の女の子がマイクを持って歌う』イラストが描かれている。

いや、なんで活版印刷が無いのにマイクを持ってんだよ。さてはアイドル系のサーヴァントか誰かの入れ知恵か?てか一部演歌臭いの混じってんぞ!?

俺だって一時期ダチの付き合いでアケビ48っていう森ガール系アイドルグループのCDを聴いてた事あったけどよぉ…流石に統一感はあったぞ?

 

「ドン・レミから向かうとなると3日では間に合わないぞ…」

「おしまいだぁ…」

 

途端にお通夜モードと化した斥候部隊を慰め、俺は解決策を考えた。その前に…彼らの状況を聞かねばなるまい。

 

「お前らの移動手段について聞きたい。どうだ?」

「馬が3頭残っているが、3頭ではとても…」

「何人が行けばいいんだ?」

「領民全員」

「ふざけてんのか!?」

「まぁ、前回出席を拒否した事でワイバーンを嗾けられ領民の殆どが死んだ…負傷者を併せて10人…だ」

 

酷ぇ事をしやがる。ジャイアンリサイタルもビックリのやりようだ。

 

「馬車は?」

「無い…が、残骸なら残っている」

「上等だ。車輪は丸盾で代用しろ。軸も槍の柄を使え。大工はまだ生きてるだろ?」

「あぁ、それには気付かなかった。助かる」

「早く行け!護衛は俺達に任せてくれ」

 

取り敢えず、指示を飛ばして彼らを送った。馬車を使えば間に合うだろう。

 

「アルトリア、折り入って頼みがあるんだが…」

「はい、何でしょう…?」

 

アルトリアは笑顔で聞き返した時、周囲の目線がドゥン・スタリオンに集まっている事に気付いた…。




フォウ
愛称:フォウ君・フォウさん・淫獣
概要:カルデアに住む謎の生物。狐と羊を足して二で割ったような外見で、作中ではリス、ネコ、ウサギなどにも喩えられる。ぐだ男からは「単独で顕現出来るくらいヤバい淫獣」と呼ばれている。マシュ共々空気気味だが、彼女の癒しでもある。

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