アニメキャラを呼び出して戦わせるマスターに選ばれた件 作:100¥ライター
彼を知り己を知れば百戦殆うからず…という言葉を知っているだろうか。
かの孫子による有名な言葉だ。孫子の凄さはあのジョセフ=ジョースターの策にも影響を及ぼしている程。念の為言っておくが、尊師とは全く関係はない。
そしてあの言葉には敵と自分を含め味方の情報を知り尽くしていれば百回戦おうが勝てますよという意味がある
しかし、現実だとそうはいかない。
七草香澄と七草泉美にケンカを売りました。正々堂々真剣勝負。
はっきり言おう。普通にやればまず勝てない。
ワールドトリガーのトリガーは熟知している。香澄と泉美のスペックも100%とはいかなくても大半は理解している。
その上で言おう。普通に戦えば何をしてもまず勝てないと。しかし僅かな希望さえあればいい。それなら俺の全てをかけてその僅かに差した光を目指すだけ。
〜
「ハウンド!」
まずは片方を落とすことのみを考えろ!切り札を切るとなればそれは必ず二人一緒じゃなきゃ機能しないから当面は一人を集中狙いするべきか。 弾丸は球体。ターゲットは泉美。
ちなみにどちらを先に落としても理論上魔法の得手不得手は一緒だから好戦的であるか否かぐらいの問題しかない。俺としては現状一歩引いた所から冷静に考えている泉美を先に落としたい。
「アステロイド!」
もちろん弾ごとにしっかり形状は変える。アステロイドはそのまま正方形で飛ばす!
「泉美!来ているよ!」
「えぇ、この程度。造作もありません」
プラズマで防御しつつ、反撃に転じてきたか。だか、威力はそこまででもないし、この程度では驚かない。
「メテオラ!」
メテオラは三角錐で飛ばす!先手が取れなかった以上、とりあえず場を撹乱させてから後ろに隠すようにハウンドも投げて一気に詰ませる!
「香澄ちゃん!」
「オーケー、泉美!」
「うぉっ!?」
香澄の手から放たれた風の刃が十字に飛び、メテオラは切り裂かれ、当たる前に爆発。その誘爆によって、後ろの追尾弾も全部おじゃんだ。
「つーか、それ人殺せないか!?」
あちらの世界のやつらは知ったこっちゃないが、俺なら間違いなく死ぬ。反則負けで終わっていただきたい。
「貴方のその体。トリオン体という仮の肉体だとマスターから聞いています。ならば…どんな技を撃っても命に別状はないはずですよね?」
俺のことを事前に知ってるやつ…か。にしても何故七草真由美の情報が漏れたのだろうか。
考えられる可能性は2つ。
まず京都にいた連中が俺の情報を売ったか。そこまで大きな声で言ってはいないが、つい東京行きの新幹線と言ってしまった。自身住所を仄めかすという俺がマスターをやってきた中で5本の指に入るような最悪のプレミである。それを辿って俺を特定してきたか。
2つ目はただシンプルに戦闘中に見つかったか。最近の戦闘スタイルはユウキ、俺、真由美、モモの遠隔部隊とシスティーナ、ルミア、アイリス、マシュの近接部隊。そしてフリーのモードレッドというスタイルで戦っている。真由美に関しては特に目立った立ち回りはしていないはずだが…
違うな。どちらも色々無理がある。両者共にここまで特定出来た理由が分からない。ん、待てよ…認識阻害を外した最中…?
俺の頭の中に新しい可能性が過ったが、今はこの戦いに集中しなくては。
「あとずっと思うんだがお前ら技名ぐらい言ってくれないか!?」
七草家の魔法師連中の特徴は『弱点がない』ということに尽きる。
言ってしまえば万能。だが、真由美に関しては好みの型があるため何をしてくるかは分かる。それがかなり強いんだから大したものだ。
しかし、この二人に関しては情報が少ない。俺が魔法科高校の劣等生に関してしばらく研究していなかったとはいえ、能力もデータとして頭に入っているだけで立ち回りもよく分からない。ほぼ理解しているだなんて随分慢心していたものだな…
おまけに魔法科高校の劣等生の魔法はぱっと見じゃ何をしているか分からない魔法が多すぎる。どうにかならないもんか。
「技名を言う?…まさか、一昔前の漫画じゃあるまいし!」
そうして二人から放たれたる無慈悲なドライ・ブリザード。
はぁ…技名言うのカッコいいと思うんだけどなぁ。俺は今軽くカルチャーショックに陥っている。だが、今は負けないために頑張らなきゃならない。
「メテオラ!からのハウンド!」
数が多すぎるのでまず大半はメテオラで相殺。撃ち漏らしはハウンドで撃ち落とす!
「ふぅ…」
合成弾使えるようになんなきゃなぁ…目指すは作成時間2秒。多分今の俺がやれは30秒以上かかるからこんな戦闘じゃ絶対に使えない。
「泉美、そろそろ終わらせない?」
「えぇ、これ以上何か面倒な作戦を立てられても困りますし」
「それじゃあ、行くよ!やるなら徹底的に!」
「はい、香澄ちゃん!」
あれは…
窒素の密度を上げて、相対的に酸素の密度を下げることで相手を低酸素症に追い込むっていうエグい技。
風が全方向から吹き付けてくるから逃げるのもままならない。このままでは1秒毎に打つ手と勝利への可能性がみるみる減っていく。
「ちっ…」
一時の応急処置として、地面に固定してシールドを張る。まさかここまでさせるとはな。面積的に背を低くしなければ有効な防御力を得られないため、身動きもほとんど取れない。さすがにやりたくはなかった。
「あら、逃げの一手ですか?どんな強敵にも果敢に挑む貴方らしくもない」
「へぇ、逆にお前は俺の何を知ってるか。興味あるなぁ」
それにどんな強敵にも…というのは間違い。俺は100%負ける戦いならしない。例えばお兄様や一方通行、悟空相手だったら時間稼ぎすら出来ずに死ぬだろう。
「ボク達が気流の流れを乱すまで待つっていうなら…計算違いも良いところだよ。間違いなく津島が張ったバリア内の酸素が切れるのが先のはず」
「…」
「何も言い返せなくなったのがいい証拠です。さぁ、そろそろ普通の人なら倒れて…いない?」
「あいつ、しゃがんだ姿勢のまま気絶しているんじゃないの?」
「えぇ、さすがにやりすぎましたね。申し訳ありまー」
よし、今だ!泉美の右足がわずかに上がった!ならその着地先にグラスホッパーを仕掛ける!
「きゃっ!」
「作戦成功。これでお前はこっちのフィールドに入ってきたから失格だ」
「っ…不覚…」
ちょうど今思いついたグラスホッパーの活用法。自分が踏めないなら相手に踏ませればいいじゃない。
「まだ…まだボクが残っているから負けじゃない!覚悟しろ!」
「じゃっ、こっちも終わらせるか!」
バリアを解除してすぐ両の手から出したトリオンを無数に分割し、大量の弾を用意し、射出した。形状は球体で。
「球体ってことは今まで何回か来ていた追尾弾!なら問題なく撃ち落せる!」
「ふっ、残念だったな。それはバイパー…追尾弾じゃない」
俺が初手にハウンドを撃った理由はファーストアタックとして印象付けるため。途中で確認させるためも含めて何回かハウンドを必要以上に撃った。そして球体で撃つ弾はハウンドだと騙した。結果はなんとか成功。
香澄を追跡する軌道から一転。香澄の周囲を囲うようにルートが変化した。撃つ前に軌道を決めたのならあとはその軌道通りに弾が曲がり、敵を追い詰めるこれこそバイパーの特徴であり、相手の周囲をバイパーで囲むのが…
「お前はもう鳥籠の中だ」
ワートリの世界でも使われるバイパーの応用『鳥籠』だ。その名の通り鳥をトリオン檻の中へと閉じ込め、蹂躙した。
〜
たった一手出し抜けたからなんとかなったものの、もし二人が油断せず、確実に追い詰めに来たり、真由美が誤審を取ろうとしたら確実に詰んでいた。
「はっ!お姉ちゃん、ここは!?」
「気づいた?」
香澄が目覚めたのは近くの公園のベンチに座っていた真由美の膝の上だった。香澄は無数のバイパーをよけきれず、気絶していたのだ。
「津島は!?」
「ここよ」
「はぁ…トリオン体は極端に酸素が減った状態でもある程度なら活動可能というのは分かりましたが…どうしてすぐそれを解除するのです?」
「ははっ、つい気が緩んじまった。だからこういう決闘方式はいけねぇ…」
勝ったはずの俺は泉美による
「これは貸しということで…」
泉美め、無駄に貸しを作りやがったな。この治療は真由美にも出来るのに…
「まっ、だけどこの戦いは俺の勝ちだな」
「ぐっ…」
「悔しいですが、私達の負けです。お姉様はしばらく預けます。ですが、次は油断しません。次に会った時は確実に貴方を倒します」
「そうかい、またな」
〜
お隣さんの如月さんへの手土産を買った後はすぐ魔術の修行に励んだ。
「はぁ…油断されなきゃ真っ向勝負で勝つ自信ないな」
やっぱり今すぐにでも魔術を覚えなきゃいけない。地味でもいい。殺傷力も必要ない。精度もある程度最低レベルあればいい。使えなければ策に組み込めない。0と1は違う。1であれば無謀な賭けだって出来るが、0ならそもそも戦うことすら出来ない。
「ふぅ…」
集中…呼吸を整え、平常心。そして一直線上にある空き缶を指指して…
「《雷精よ・紫電の衝撃以って・撃ち倒せ》ッ!」
バチィ!
「おっ!」
確かに微弱な電撃が空き缶に当たった!おぉ!遂に魔術が使えるようになった!【ショック・ボルト】一つで大袈裟かもしれないが、これでやっと1になることは出来た。
「よし、よし、よし!あとは【フラッシュ・ライト】や【マインド・アップ】。あわよくば【グラビティ・コントロール】でも覚えればギリギリなんとかなる…いや、難しいか」
トリガーがなんとか使えているからわずかながら戦力になれているが、それを抜きにして正直低火力の魔術や搦め手、そして気休め程度の自己防衛魔法だけで戦うなんざジャイアント・キリングどころか時間稼ぎも難しいだろう。
おまけにこんな魔術学院の学生なら誰でも使える魔法を三節詠唱しか出来ない上に低火力とか泣けてくる。
「魔術を実戦で使えるようになるまでは遠いな…」
システィーナから多少基盤を教わっていたからこそここまで早く会得出来たのかもしれないが、まだまだ足りないものが多い。
「ねぇ、ハヤト。どうしてそんなにもいち早く魔術を覚えなきゃって思うの?」
窓の外から様子を見ていたシスティーナがこちら側にやってきて、質問してきた。
「ん?そりゃあ、使えるものは1つでも多い方がいいだろう。俺はいざって時に後悔したくない」
もし、ユウキやアイリスをはじめとした俺の仲間達の内、誰かを失えば俺は自分を責めずにはいられなくなることが容易に想像できる。たとえ自分のミスでなかったにせよ。
「…それはやっぱり貴方が戦う理由によるところが大きいの?」
「あぁ、俺はそれが達成出来なきゃ死んでも死に切れない」
絶対に勝つ。勝たなきゃ意味がない。俺は最も大切な人とその人と交わした約束を忘れてのうのうと生きていくことの方が死ぬことよりも怖い。
「貴方が強くなるのもいいけれど、あくまで戦闘担当は私達よ。あんまり神経張り詰めすぎないでね」
「気遣いありがとな。…でさ、何でこっちに来たんだ?」
「何でって…持っていくんでしょ?如月さんに手土産」
あっ、今日はそもそも真由美の案内はついでで渡す手土産を買うために出かけていたんだった。
〜
せっかくなので最初顔を合わせる時に会った真由美にも同行してもらい、如月さんの家にお邪魔することにした。
手土産は東京ばな奈でいいのだろうか。東京って名前入ってるし、白い恋人持ってきたっつーことは北海道民だろうし、レアな感じは出るか。よし、行こう。
「すみません、お隣の者ですが…」
「わざわざありがとうございまー」
『あ』
あれ?おかしいな。俺には目の前にいる人間が先程会った七草泉美に見える。
『!?』
俺と泉美は…いや、この場では真由美すらも動揺を隠せずに狼狽していた。ふざけんな。お隣さんがマスターとか聞いてないわ。
つーかあれか。真由美をお隣さんの挨拶の時に行かせてしまったから正体が割れたんだな。なるほど、合点がいった。次からは何が何でも俺が出ることにしようか。
「ねぇ、次会った時は俺を倒す時だーみたいな事言っておきながらその数時間後にまた会うなんてな。今どんな気分だ?」
「…そこまで言うのであれば今すぐ貴方を倒しにかかっても構いませんよ」
「ねぇ、何でそんなにも仲が悪いの?泉美ちゃん、落ち着いて?マスターも挑発しないで」
すまないな。やっぱりマスターとして舐められたら負けかなぁ…って考えが常にあって、それが敵対関係にある相手なら尚更張り合っちまうんだ。
「どうしたの?お隣さんの挨拶だけの割には時間がかかっー」
あれ?アスナ?何でアスナがここに?まさかあのアスナのマスターがやられたのか…?
「ユウキのマスター!?どうして貴方がここに!?」
お前んとこのマスターのお隣さんなんだよ。もうこの際早くマスターの顔見せろや。
「…何なのよ、アスナ。騒々しいわね…」
そしてとうとうマスターらしき人物までも出てきた。金髪ツインテールに青い目。そして14歳ぐらいだと推測するのが妥当な身長。
間違いない。こいつがマスターだ。なんかどっかで見た気もするが。
「は…」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」