アニメキャラを呼び出して戦わせるマスターに選ばれた件   作:100¥ライター

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76話 終戦

何が起こったか分からなかった。

 

 

「嘘よ…そんなはずは…そんなはずは!!」

 

 

システィーナが見た光景は地に伏した仲間達だった。

 

 

トールと名乗るドラゴンが人間の姿と化した瞬間、皆をいとも容易く爪で切り裂き、炎で焼き払った。

運良く…いや、一瞬で彼女の攻撃を見切ったハヤトも彼女のマスターが駆使する『ラセンガン』なる忍術によってやられてしまった。

退場こそしていないが、マスターが負けた様を見たことないシスティーナにとってこの光景は衝撃的だった。

 

『シス…ティーナ…さん…残念なが…ら…』

 

 

「ちょっと!モモさん!?モモさん!!」

 

 

システィーナが悲痛に叫ぶも助けに来てくれる仲間はいない。

 

 

「この勝負…私達の勝ちです。無様ですね。満身創痍で地に伏して…実戦なら我がマスターは手加減していません。そこにいる津島隼人はとっくに死んでましたよ」

 

 

「あぁ…あぁ…」

 

 

「大人しく降伏してください。誰も退場させませんし、もちろんマスターの命は取りません。そういったルール…ですからね」

 

 

「覚悟しなさい!!私だって…」

 

 

「システィーナさん。何故津島君は貴方に比較的容易な役回りのみを与え、重要な役割は他のメンバーに任せていたか分かりますか?」

 

 

「なっ、何を言ってー」

 

 

「貴方は逆境に対してとてつもなく弱い」

 

 

「…っ!!」

 

 

「彼は情報を聞く限り格上に対しても果敢に挑める。むしろ奮い立つ方ね。プレッシャーなんかを力に変えられる。だから格上相手に戦えない貴方ははっきり言って邪魔。1つの失敗が仲間全員の死に繋がるこの戦いで貴方の紙メンタルは致命的。その不確定要素を取っ払いたいからこそ津島君は貴方に荷が重いことはさせていない」

 

 

「そ、そんなことは…」

 

 

だが、今までの戦いを振り返るとたしかにおかしな点はあった。システィーナのデビュー戦は快勝だった。他のメンバーでも可能だったはずなのにあえて私を多用した上で。

 

 

次からだ。マスターは他のメンバーよりも過保護な扱いをし始めた。最初は私が身体能力の面で劣っているからだと思っていた。でもそれは…

 

 

「そう…津島君は貴方のことなんてこれっぽっちも信用していない。津島君はもう諦めているはずよ」

 

 

「う、嘘よ…ハヤトがそんなこと思っているわけ…」

 

 

「その証拠に今貴方はトールは愚かマスターである私とすら一人じゃ戦えない」

 

 

「っ…」

 

 

(今の貴方はマスターに対する不信感と自分の無力さに痛感して揺れている。といったところ…かしら。演技とはいえ、悪いことをしたわね… でも、仲間がこの様子じゃ津島隼人も思ったよりは大したことないわね)

 

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

 

バチィ!

 

 

『土遁!土流壁!!』

 

 

「あら、まだ立っていられるのね」

 

 

「ちっ、土遁まで使えるのかよ」

 

 

螺旋丸しか見なかったし、あってもナルトと同じ風遁だけだと思っていたが。

 

 

いや、それよりナルト世界において土遁は雷遁に弱いはずだが…

魔術に関しちゃまだまだ修行不足ってことか。

 

 

「こう見えても五大性質変化は全て使えるの」

 

 

お前三代目火影に謝ってこいよ…何でこんな隠れた実力者がいるわけ?

 

 

「まっ、三代目みたいに極めたとは言えないけどね」

 

 

お前はエスパーか何かか。

 

 

「あれは長かった…最初に来たミナト先生に頼み込んで人気がない山奥で修行を…」

 

 

「あっ、いや。回想とかいいんで。自分語りしないで?」

 

 

「えっ、気にならないの?」

 

 

「こちとらそれどころじゃねぇんだよ。…テキトー抜かしてんじゃねーぞ」

 

 

「取り消せよ。さっきの言葉…!!」

 

 

「さっきのっていうと…」

 

 

「こいつを馬鹿にしやがっただろ。許さねぇぞ」

 

 

「ハヤト!無茶よ。頼みのトリオン体はあのマスターの攻撃で散ったし、魔力もほとんど残ってない!おまけに身体は傷だらけ!!私のことはいいから…」

 

 

「いいから。俺はお前にありったけの魔力を回す。お前の強さを証明してやろうぜ」

 

 

「何を言うかと思えば…貴方はこの土流壁に傷一つ付けられなかった。それなのに…私を倒す?」

 

 

「あぁ、こいつならやってくれると信じている。ちゃんと取り消してもらうぜ」

 

 

「それに関しては断じて取り消すつもりはないわ。津島隼人。貴方は最初期からずっとこの戦いの上位層に君臨するも1番にはなれていない」

 

 

「貴方の編成はほぼ完璧よ。貴方が使う風刃と恐ろしく相性が良い真由美。回復魔法ならプロ級な上にサポートもこなせるルミア。優秀だけれどひ弱なオペレーターと見せかけて高い身体能力と多彩な技で不意を突くことも可能なモモ。手薄な防御面を補う守り特化のマシュ」

 

 

「これだけでも脅威なのにユウキ、アイリス、モードレッドと剣の天才が3人もいる。でもシスティーナはどうなの?」

 

 

「悪いことは言わない。今黙ればこの場は許してやる」

 

 

「そこまでスキルは高くないし、他のキャラと比較してアドバンテージを取れる要素が少ない。おまけに扱いにくい性格をしている」

 

 

 

「まだ言うか…システィーナ、貫通力の高い黒魔【ライトニング・ピアス】を使え。安心しろ。土流壁は破れるだろうが、死にはしないと思う」

 

 

「マスター…大丈夫なの?」

 

 

「あぁ、任せる…俺はちょっと魔力欠乏症になりかけてる。任せたぞ」

 

 

「さぁ、撃たせてあげるわ。かかってきなさい。ゆっくり三節詠唱でもするといいわ。トール、貴方は下がっていて」

 

 

やっぱりロクアカもばっちり履修済みみたいだな。やりづらいったらありゃしない。

 

 

「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以って・刺し穿て》!!」

 

 

『土遁!多重土流壁!!』

 

 

マジか。多重土流壁…本当にちょっと修行した段階で扱える術か?

いや、これ壁の数によっては…

 

 

「ふっ、この壁を突破を突破するなんて不可能」

 

 

かもしれんし…

 

 

「そりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

スコーピオンを地面に潜行させた!システィーナにはちょっと悪いが先生よ、壁の前で踏ん反り返ってる場合じゃないぞ。

 

 

「いったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「…甘いよ、先生。実戦なら死んでる」

 

 

どうやら【ライトニング・ピアス】も貫通したらしい。先生にこれが直撃した以上、これで終わりだな。

 

 

「最後に一言だけ言っておく。完璧な編成なんてものは誰にも作れないし、存在すらしない。どんなに考えぬいても必ず不完全は生じる。そして…不完全だからこそ面白いだろ?俺はそう思うね」

 

 

「…って、聞いてないか」

 

 

なんかちょっと恥ずかしいな… ん?システィーナがこっちに詰め寄って…

 

 

「何でトリオン体が残っているんですか!?仙豆は残ってないはずだし、確かにラセンガンで破壊されたのを見て—」

 

 

「んなもん、螺旋丸で破壊される寸前にトリオン体を解除したからに決まってるだろ。先生程の実力者なら万が一にも俺を殺さないよう手加減すると踏んでわざと螺旋丸を受けた。かなり痛かったけどな」

 

 

というかモードレッドやマシュがランスロットと因縁の対決をしてなきゃ即ベイルアウトで仕切り直しをしていたところだ。ベイルアウトしなかった時点で疑うべきだったな。

 

 

「で、どうやって攻撃したの?」

 

 

「地面にスコーピオンを潜行させて、足を刺した」

 

 

「さ…さい…最低最低最低!!貴方に魔術師としての矜持はないんですか!?というかあれは私とあの先生の勝負じゃ…」

 

 

「矜持だの何だの言うがな…ぶっちゃけお前らも目立つ魔法を撃つやつで視線誘導とかやるだろ?あれと同じだ」

 

 

視覚的に派手で目立つ技を撃つことで本来の目的を隠す。それはシスティーナ達の世界の魔術師はもちろん、あらゆる世界で使われている常套手段だ。これを卑怯だの言われる謂れはない。

 

 

「全然違うわよ!マスターは私に【ライトニング・ピアス】を撃てと言ったわ。それなのにマスターが茶々を入れるとか…」

 

 

「確かに今回はお互いのため命は取らず、誰も退場させないことを絶対のルールとした。しかし、システィーナと先生のあの戦いにはちゃんとしたルールは存在していなかった!つまり一線を超えさえしない限り勝てば卑怯な作戦も許される!私に刃向かうとこうなるのだ!!」

 

 

「卑怯な…作戦?あ、あの取り消せって言ったのは…」

 

 

「逆上し、冷静な思考が出来ない状態だと思わせるための罠だったが」

 

 

まさか俺が死ねば全てが終わるというこの戦いで冷静さを欠く訳にはいかんよな。

 

 

「…酷い!私への怒りも演技だったの!?」

 

 

「すまないな。ただあれ以上の侮辱をしたり、尊厳を踏みにじるようだったら冷静な対応が出来たかは分からなかった」

 

 

《残り1分です》

 

 

prrr…おっ、いいタイミングで電話か。てことは…

 

 

『モモだな?』

 

 

『はい、津島さん。無事ですか?』

 

 

『あぁ、そしてメッセンジャーサンキュな。いつも通りばっちりだったぜ。例の作戦も上手く伝わってたし』

 

 

『今お世辞は結構です。その様子だと勝ったみたいですね。』

 

 

『あぁ、先生を気絶させたから俺の勝ちだ。あとはこいつと今後の話し合いでもしようか。そしてさっきのはお世辞じゃなくて俺の本心だ。またな』

 

 

…さて、先生を起こす必要があるな。

 

 

しかし、もうそろそろトリオン体は限界だ。トールやミナトが強すぎる…リーナも不意をつけなきゃやられてたし、あいつらをまとめる優秀な指揮官もいたんだろうな…

 

 

「まだ…終わってませんよ」

 

 

「おいおい、トール。お前の大将はもう落としたぞ」

 

 

「えぇ、ですが…今回に限っては先に倒れたら負けだ。とは誰も決めていません。だから…お前も倒れて引き分けだ」

 

 

「っ…!」

 

 

至近距離から爪で引き裂きに来たか!!…だが、流石にもう身体が上手く動かな—

 

 

「はぁっ!」

 

 

髪の長い女子高生…だろうか。トールの爪を木刀で受け止めるとは…確かあの制服は…

 

 

「増援か。なら…!!」

 

 

ヤバい!この至近距離の炎は防げな—

 

 

「ライト・オブ・セイバー!」

 

 

「ちっ…」

 

 

よし!あのトールが一旦炎を中断して、引いた!

 

 

「お前は…」

 

 

この魔法…見覚えがある。それにあの紅い瞳。間違いなく…

 

 

「彼に手出しはさせないわ」

 

 

「無事ですか?ハヤトさん!」

 

 

「邦枝…!それにゆんゆん…だが、何で…」

 

 

「ずっとおかしかった。付き合っていると言っていた割にはドライすぎよ。本心じゃないことはすぐに分かったわ。でも貴方は脅迫されるような弱みを見せることはほぼない。…ならこの一連の戦いに限ってのギブアンドテイクだとしたら?そこからは私の独断で様子を見させてもらった。少し遅れたけど貴方が無事で良かったわ」

 

 

「邦枝…」

 

 

お前のそういう友達思いなところが良いんだよ…綾のやつを特に信頼している理由の一つだ。ありがとう、邦枝。

 

 

《試合終了!》

 

 

 

 

「はぁ…流石に戦力を大きく分断された上で4人のマスターを相手取るのは厳しいですね。せめて邦枝さんが最後に来なければ隼人さんを落とせた可能性が…」

 

 

「自身の戦いもあっただろうにわずかな気がかりのために主戦力の邦枝を寄越してくるんだぜ?綾め…お人好しにも程がある。だからこそ良いんだけどな」

 

 

「私のマスターをそこまでベタ褒めするなんてね…」

 

 

「あいつには言うなよ、恥ずいから。絶対だぞ」

 

 

もしこれを知られたら綾が調子に乗るかもしれんし、そうじゃなくてもからかってくる可能性があるからな。それはちょっと癪に触る。

 

 

「貴方、素直な方が友達出来るわよ」

 

 

「うっせ」

 

 

「ところでゆんゆん。お前のマスターは?」

 

 

「それは言えません。貴方にならこれだけで意味が伝わるはずです。…ですが、きっとすぐに言えると思います」

 

 

やっぱ言えないか。命令権による口封じ。だが、すぐに言える…?

つまりマスターが直接来るのか?

 

 

「津島君!先生と戦ったんだって!?」

 

 

「おう、綾じゃん。まっ、俺の圧勝だったがな」

 

 

「ははは…元気そうで何よりだよ」

 

 

「お前もな」

 

 

じゃあ、とりあえず。今連絡を入れるのは…

 

 

『おい、戦犯。何か言うことはあるか?』

 

 

『え!?隼人!?捕まってたんじゃ…』

 

 

『俺が捕まるとでも?というか情報流したって言ってたよな?詳しく聞こうじゃないか』

 

 

「俺が捕まるとでも?…ふふっ、津島君ちょっと傲慢すぎない?」

 

 

うるさいぞ綾。傲慢じゃなくて事実だ。

 

 

『だって…それを言ったら隼人の命だけは保証するって…本当にカメラに拘束された隼人が…』

 

 

『お前自分が今どれだけおかしな事言ってるか分かるか?何故その気になれば殺せる人間の情報…おまけに現在の居場所の情報まで欲しがるんだ?あと完全に無力化したなら俺は間違いなく本人を拷問するぞ。能力次第では間違いなくその方が効率も良い』

 

 

『えっ、そ…それは…私が今はグラウンドにいるはずって最初に…』

 

 

居場所はお前から言ったのか…

 

 

『まぁ、今回は実際捕まった映像もあったみたいだし、大事にならなかったから恐怖で思考が停止していたってことにしとく。あんま気にすんな』

 

 

「やれやれ…津島先輩を危険な目に遭わせておいて即見苦しい言い訳とは…とんだ地雷女ですね。如月美嘉。先輩を信用していればそうはならなかったはずです」

 

 

その女は長髪を結っていたヘアゴムを解くと銀髪を翻し、俺の前に現れた。

 

 

「これからは私を頼ってくださいね。先輩」

 

 

先輩…?

 

 

「えっ、出てきたの!?」

 

 

「酷いですよ、綾先輩。人を数十年ぶりにシャバに出てきた極悪人みたいな言い方しないでください」

 

 

「ご、ごめん…」

 

 

ほう、見た感じ綾と謎の後輩は知り合いなわけか。

 

 

「さて、これで全員揃ったわね。この学校にいる全てのマスターが」

 

 

この学校の全てのマスター。ということは目の前にいるこの後輩が先生の言っていた第四のマスターってことか。ってか先生復活早いな。

 

 

「とりあえず…近くに私の家があるからまずは全員で話し合いをしましょう」


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