この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
学校が始まって中々執筆できないのが難点ですが、頑張ります。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに装備を整え戦闘態勢で正門に集まってください!!』
突然の緊急アナウンスに救われた俺はウィズから逃げるように部屋へと戻りエリアルを取るとそのまま街の正門に向かって走り出した。
店の方からウィズの声が聞こえた気がしたが、無視して大きな正門を視界に捉え一気に
正門にはすでに結構な数の冒険者が集まっており、冒険者の間を縫うように歩いて奥へと進んでいくとカズマたちを見つける。
そのはるか奥。
正門の前にある小さな丘に立つ騎士を思わせる全身が真っ黒…漆黒。
「俺は先日、この近くの廃城に越してきた魔王軍の幹部の者だが…」
そいつは自身の頭を左脇に抱えて首から上がない馬にまたがって威圧するような低い声を放った。
デュラハン。
又の名をデュラハーン。
死者となって生前よりも遥かな力を得ることで神への反逆の意思を持ったモンスター。
最初こそ威厳のある低い声だったものの、徐々にその声は高く大きくなっていく。
左手に抱えられていた頭も興奮したように震え始める。
体から吹き出す瘴気を一際大きくしたアンデッドらしいその様子は恐るに値する。
「毎日毎日毎日…爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしいウィザードは誰だぁぁぁぁぁっ!!!」
やがて怒りが頂点に達したのか大声で俺たちに向かって叫ぶ。
魔王軍の幹部はそれはもうお怒りだった。
▼ ▼ ▼
魔王軍幹部であるデュラハンの怒りに満ちた声を浴びせられて若干恐怖に身を竦めた冒険者一同。
それは俺も例に漏れたものではなく、デュラハンから湧き出る禍々しい瘴気に当てられてしまっていた。
隣を見れば、冷や汗をかいているカズマと下を向いて震えるめぐみん。
爆裂魔法と言えばめぐみんしかいない。
それも毎日浮かれながら狂ったように爆裂魔法を放っていたではないか。
さぞ気持ちよかったことだろう。
めぐみんのことを知っている冒険者は一斉に本人を見つめる。
そもそもこの街に爆裂魔法を扱える冒険者などめぐみんくらいしかいない。
当の本人は『私そんなの知りませんよ』とばかりにすぐ近くにいたウィザードに視線を逸らす。
当然めぐみんを注目していた冒険者たちもその子に視線を移す。
濡れ衣を着せられたウィザードの少女涙目になって慌てる。
めぐみんも既に自分が原因だと気付いているのか冷や汗をだらだらと垂らしながら大きく深呼吸をしてから一歩前に出る。
それは自分がやりましたと宣言していることを示していた。
デュラハンとの距離は50mはないだろう。
だが、デュラハンほどの高レベルの使い手になればこんな距離などあってないようなものに違いない。
「我が名はめぐみん!!」
「めぐみんってなんだ。馬鹿にしてんのか?」
「違わいっ!!」
「まあそんなことはどうでもいい。毎日毎日ポンポンポンポン爆裂魔法を撃ち込みおって。ねぇどうしてくれんの? あそこ廃城なんですけどボロボロなんですけど魔王軍の幹部だからってすぐ元どおりには出来ないの。どうしてこんな嫌がらせするかな〜お前友達いないでしょ〜」
先ほどの威厳はどこへやら。
デュラハンは頭を抱えるなり隠していただろう本音をポロポロと零すとめぐみんを指差して友達いない宣言をした。
遠くから見ている俺たちからすればデュラハンの人が凄い困っているように見えているだろうが、ああみえて魔王軍の幹部である。
(魔王軍って…もしかしてあんまり怖くない?)
脳裏にお店でお茶でも飲んでいるだろう笑顔のウィズを浮かべながらそんなことを考える。
「ふ…ふっ! あなたの城に毎日爆裂魔法を撃ち込んだのはこの街にあなたを倒すほどの使い手がいることを知らせ、おびき寄せるための作戦。爆裂魔法を扱えるほどのアークウィザードなどなかなかいませんからね」
一瞬怯んだものの、めぐみんはドヤ顔してそれらしいことを語ると杖を構える。
めぐみんの性格を知ってる俺たちからすれば、やけに理にかなっている作戦であることが腹立たしい。
「その赤い目…貴様、紅魔族だな。めぐみんというふざけた名前もそれならば頷ける」
「おい私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」
「…まあいい。所詮は駆け出し冒険者の街。貴様ら弱者を屠る趣味は私にはない」
「何を今更…こうしてここにノコノコ出てきた時点であなたは消滅する運命なのです。先生、お願いします!」
めぐみんが先生と呼んだ人物を一体誰が予測できただろうか。
冒険者たちは『先生』と呼ばれた人物が誰かわからずあたりを見回す。
するとカズマの隣にいたアクアが満更でもない表情で溜め息を吐くと10mほど離れたデュラハンとめぐみんのもとへと駆け出していった。
そのまま手を翳し杖を出すと器用にクルクルと回しデュラハンに向けて構える。
「ほう、アークプリーストか。こんな駆け出し冒険者の街にも金の卵とやらがねむっているとみた。だが、そんな低レベルのアークプリーストに浄化される私ではないぞ」
アクアを値踏みするようにジロリと見たデュラハンはさらに瘴気を大きくする。
だが、何を思ったのかデュラハンは瘴気を一度小さくすると左腕へと凝縮させていく。
他の周りの瘴気は徐々に大きくなっていき、やがてその瘴気が髑髏を形づくる。
「…不味い」
「何がだ?」
呟いた俺にダクネスが問いかける。
(あれは…俺と同じッ!?)
同じような魔法を使う俺にはわかる。
あの髑髏は間違いない。
「あいつ、死の概念を
「ッ!? 死の宣告か!」
「ダクネス!?」
ダクネスは魔法に気づくなりカズマの制止も聞かずめぐみんとアクアの下へと駆けていく。
流石は上級職のクルセイダー。
剣での攻撃はまったく当たらないがそのステータスは確か。
「汝に…死の宣告を」
凄まじい速さでアクアの前に立つとデュラハンが放った死の宣告をその身で庇う。
掌から放たれたのは魔力と瘴気でできた巨大な髑髏…死の概念。
庇うように手を広げて自ら死の宣告をその身に受けたダクネスは瘴気に覆われる。
髑髏は霧散し、瘴気はダクネスの身体の中へと吸い込まれるように侵入していった。
「ダクネス!!」
空間魔法でダクネスの下へと転移してデュラハンを睨め付ける。
幸い、即死の魔法とは違うようだ。
即死でないということは何か呪解する方法があるはずだ。
「その呪いは一週間の間身体を駆け巡る。貴様がボコスカボコスカ爆裂魔法を放ったせいで騎士を体現したようなクルセイダーは一週間で死ぬのだ。助けたければ城で待つ私を倒す他ない…」
嘲笑うように笑うデュラハンにめぐみんは顔を真っ青にして震える。
自分が何をしでかしたのか、ここにきて漸く理解したようだ。
だが全ては今更だ。
今更悔いてもどうにもできない。
待っているのは茨の道。
めぐみんを嘲笑うデュラハンだが、誤算があった。
自分の身体を抱くように震えるダクネス。
ダクネスは頬を紅潮させてデュラハンを見つめる。
「それは私を城へ誘拐して、私に言うことを聞かせると!そういうことなのだな!」
デュラハンの誤算…それはダクネスがドがつくほどのM体質だったことだ。
「…ふぁ?」
素っ頓狂な声をあげたデュラハンにダクネスはさらに頬を紅潮させ荒い息を吐きながら詰め寄っていく。
俺とカズマはその様子をポカーンとしてながら見つめる。
先ほど死の宣告を受けた人物とは思えない。
「城に囚われる女騎士とかっ!死の宣告を使ったプレイとかっ!ど、どどどうしようカズマ!」
「はいカズマです」
「あの兜の下のいやらしい視線!あの男間違いなく私に淫らなことをしようと企んでいるぞ!」
「「それはない」」
今にもデュラハンの下へと駆け出しそうになるダクネスをカズマと二人掛かりで抑える。
このまま放置しておいたら間違いなくこいつはデュラハンの下へと行く。
それも嬉々としてだ。
むしろ困るのはデュラハンの方だろう。
「と、ととにかくだ!そこの紅魔族の娘!これに懲りたら私の城にもう爆裂魔法は撃つな、いいな」
デュラハンの人は吐き捨てるように早口でそう言うと首から上のない馬の手綱を一際強く引いて去っていった。
ダクネスは『あぁ、そんな』と意気消沈しているがこれでよかったはずだ。
後ろに控えていた冒険者たちは急な展開についていけず、呆けた様子でただこちら側を見ていた。
こんな駆け出し冒険者の街で死の宣告なんてものは見ないだろう。
さらには魔王軍の幹部ときた。
頭の中がいっぱいだ。
それにしても死の呪いか。
どうにかして治すことはできないものか。
(時魔法を使って元の状態に戻してみるか?)
カズマとめぐみんを見れば、デュラハンの城に行く気満々な様子だが、デュラハンと真っ向勝負するのは願い下げだ。
先ほどの瘴気から見てもわかる通り、奴はアンデッドとして最上位のレベルに位置することは想像に難くない。
左腕を胸の高さまで上げて魔力を込める。
目には目を歯には歯を。
「概念には概念でぶつけてやる
青白い魔力が花開くように拳の前で輝くと時計を形づくる。
時計の針が高速で回転する音が鳴り響くのと同時にダクネスの身体から真っ黒な瘴気の塊が飛び出ていく。
その瘴気はダクネスの身体から飛び出すと髑髏の形に戻りそのまま遥か彼方、デュラハンが去っていった方向へと巻き戻っていった。
瘴気で出来た髑髏が見えなくなったことを確認し、しばらくしてから魔力を解く。
デュラハンの身体の中へと瘴気が戻っていればこれで巻き戻しは完了だろう。
もし瘴気が身体の中まで巻き戻ってなかったとしてもこれだけ離れていれば避けることができる。
「…こないな…これで成功かな?」
「うーん…一応巻き戻ったとは思うけど念の為私が呪解しとくわね。セイクリッドォォォ・ブレイクスペルッ!!」
遠くでカズマとめぐみんがデュラハンの城に攻め込む覚悟を決めたとき、俺の時魔法を確認したアクアが杖を天高く掲げて叫ぶ。
未だに不貞腐れているダクネスを透き通った水色の魔力が包み込むと極僅かな量ではあるが真っ黒な瘴気を浄化していく。
ここにきて初めてアクアが女神らしいことをしたと思ったのは決して間違いではないだろう。
「概念同士がぶつかり合うと引き分け。今のソラのレベルだと呪解…というか概念を巻き戻せただけでもすごいわよ」
魔力を消耗してヘトヘトな俺と違い、ケロッとした顔でサムズアップするアクア。
そんなアクアを遠巻きで見守っていた冒険者たちが歓声とともに囲う。
「おい、お前ら俺たちのやる気を返せ」
なにはともあれ、ダクネスの危機は去ったようだった。