シャドーの戦闘員 ハチマン   作:八橋夏目

1 / 5
ところどころで話に出ていたシャドー編です。

ようやくあの方も出てきます。


1話 起

「こ、こは…………?」

 

 目が覚めると俺は知らない天井の下で寝ていた。

 何ならベットまで知らない感触である。見もしないうちから高級なものであることが分かるくらいの肌触り。

 やべぇ、気持ちいい。

 

「よお、ようやく起きたか。カントー10代目チャンピオン」

「ッッ!?」

 

 野太い声での方向を見ると、これまた筋肉ムッキムキの服がパッツンパッツンになってる………おっさん? って程もいっていないと思われる男がいた。

 

「その様子だと自分がどこにいるのかも分かってねぇようだな」

「………誰、だ…………?」

「はっ、このオレさまを知らないとは罪なやつだな! 重罪だ! だが、オレは心が広い! 特別に教えてやろう」

 

 えっ?

 なにこの人。

 超ウザいんだけど。

 

「オレさまの名はダキム! ダキムさまと呼べ!」

 

 うわー。

 自分で『オレさま』とか言う奴、ほんとにいたんだ。

 

「お前は今日からオレさまたちの手足となって働いてもらう」

 

 あっ?

 何言ってんの?

 イミワカンナイ。

 

「………」

「ありがたく思うことだな。本来なら殺されてもおかしくないんだ、お前は。それをオレさまたちが生かして使ってやるっつってんだ! だからありがたく思えっ!」

「………や、まずここどこだよ」

 

 いろいろ言ってくるが、まずは場所の把握とか俺の身辺状況を確認させろよ。

 

「入りますわよ」

 

 答えが返ってくるより早く、部屋に女の人が入ってきた。

 メルヘンみたいな人だな。

 

「ようこそヒキガヤハチマン君………あら? あらあらあら、まあまあまあ! 何この可愛い子! もらった情報と全く違うじゃない!」

 

 ッッ!?

 ヤバい、この人なんか危険な匂いがする!

 本能的に身体が拒否反応を起こしてるぞ。

 なんかまだこのマッチョの方がいいかもしれないと思ってしまうくらいには恐怖を感じる。

 

「………お前の目がどうかしてるのだ、ヴィーナス」

 

 どうしようか、この変なキャラの人たち。

 脳筋バカとおばさ「首を刎ねられたくなければ、その先を考えちゃダメよ?」…………何これめっちゃ恐怖。

 

「ダキム、わたくしにこの子をくださいな」

「あっ? 何抜かしたこと言ってんだ。こいつはこのオレさまが使いっ走りにするんだ! 邪魔をするな!」

「きぃー! なんでそんな上から目線で物を言われなきゃいけないの!? ただの脳筋バカに命令されたくないわ!」

 

 バカ二人が揉め始めたんですけど。

 今ならここから抜け出せたり?

 そう思い至るとそーっとベッドから立ち上がり、足音を立てずに扉の方に向かう。拘束されてなかったのが仇となったな。

 ーーーよしよし、気づいてない。

 自分の影の薄さにほくそ笑んでいると、まだ開けてもいない部屋の扉が勝手に開いた。

 

「えっ?」

 

 突然のことでぽつりと声が漏れ出てしまう。

 そのことに大人二人は気づいていない様子。

 だがもう一人、扉を開けた張本人がこっちを見下ろしていた。

 

「わっはっはっ、お前ら喧嘩してる間になに子供に逃げられようとしてるんだ? そんなことでは降格だぞ」

「「ボルグ!?」」

 

 ボルグとかいう目の前の眼鏡は軽い口取りで冗談とも取れない言葉を紡いでいく。

 また何か新しいのがきたんですけど………。

 

「悪いがこいつの面倒はロッソに見てもらうことになった。お前らはとっとと仕事に戻れ」

「はーい」

「チッ、オレさまの暇つぶしを奪いがやって」

 

 おいこらマッチョ。

 俺をどうする気だったんだ………?

 そしておばさ………お姉さん。目の笑ってない顔で手を振りながら睨まないで。超怖い。

 

「………お前も逃げようだなんて思わないことだな」

「………どういう意味だ」

「お前のリザードンはこっちで預からせてもらってるからな。これじゃ、逃げるにも逃げられないだろ?」

 

 ッッ?!

 かっかっか、笑いながら眼鏡をくいっと掛け直す男をキッと睨みつけた。

 

「………今なんつった」

「だからお前のリザードンは人質になってるのさ。下手なことは考えない方がいいぜ」

「テメェ!」

 

 リザードン!?

 くそ、これじゃそう簡単に逃げ出せねぇ………。リザードンの居場所を突き止めて奪取からの逃亡とかなんて無理ゲーだよ。

 しばらく時間がいるな………。

 

「お前はこれから戦闘員としてその実力を発揮しろ。隠すことはない。お前のことは全て把握している。でなければ、あいつの首が飛ぶと思え」

「俺からリザードンを奪っといてよく言う。ポケモンもなしに実力を発揮しろとか、他に何しろってんだよ」

「わっはっはっ、その鋭い考察力。よもや子供とは思えないな。いいだろう、お前にはポケモンを一体貸し与える。ロッソ」

 

 豪快に笑い飛ばしたかと思えば、リザードンの代わりを用意するとか言い出してきた。代わりをもらったところで実力が出せるはずもないんだがな………。まあ、ある意味その方がいいかもしれない。どんなにヘボなバトルをしたとしてもポケモンが違うから実力を発揮できないって言い訳できるし。それでリザードンに変えてもらえると一番いいんだが………。

 

「はっ、失礼します」

「後の世話は任せたぞ」

「了解しました。来い」

 

 入ってきた謎の赤いスーツの奴に顎で指図された。サングラスみたいな黒い眼鏡………眼鏡なのか? をつけているため顔がはっきりと認識できない。だがここで逆らってもいいことはないので仕方なく従っておく。

 くそっ、何だって俺たちがこんな目に遭わなきゃならねぇんだ。

 リザードン、待ってろよ。何とか抜け出す隙を作り出してみせるからな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「入って」

 

 ん?

 声が変わった?

 

「……………」

 

 ロッソとかいう赤装束の奴についてきたかと思えば、俺の隔離部屋なのか、そこに入れられた。

 中は一応、白いベッドと机と椅子があるが、あるのはそれだけ。

 窓もないとなるとここは地下………なのか?

 

「ふう………、あんたも災難だったね」

「えっ?」

 

 女………の、声………?

 振り返ってみるとそこには赤い眼鏡のようなものを取った女の子がいた。

 

「お前………」

「あたしはオリモトカオリ。ここじゃロッソって名前で通ってるけどね」

「………しょ、そういうの、俺に見せていいのかよ」

 

 噛んだ………。

 

「別にー、みんな知ってることだし。ただ仕事の時は女よりも男でいる方が嘗められないからそうしてるだけ」

 

 ………男装、してるってことでいいのか?

 その方がしやすい仕事なんて………、まあ見るからにここはいかにもな所だし………。

 

「…………」

「色々聞きたいんでしょ。いいよ、答えてあげる」

「……………きょ、ここは、どこ、なんだ………?」

 

 もうお家帰りたい………。

 帰って布団に包まりたい。

 

「オーレ地方、そしてここはシャドーっていう、まあさっきので分かっただろうけど、そんないいことをしてるような組織じゃない」

 

 シャドー。

 それがこの組織の名前か。

 

「…………」

「ま、なんのために連れてきたのかは知んないけど、囚われ姫の部屋はここってわけ」

 

 囚われ姫ね。

 それだと、最後は誰か助けに来てくれる王子様でもいたりすんのかね。

 

「…………にゃ、何をしているんだ……?」

「ぷっ、あんた噛みすぎ………。ウケるんだけど………」

「いや、ウケねぇよ」

 

 もう、ほんとやだ。

 今になって自分のコミュ障が嫌になってくる。

 

「……名前は?」

「ひ、ヒキガヤハチマン………」

「自分の名前ですら噛むってマジウケる」

「………やめてくれ………」

 

 もう、これ以上、コミュ障の俺をなぶらないでくれ。

 

「あ、先に言っておくけど、あたしバトルは強いから。変な気は起こさない方がいいよ」

 

 急に空気を変えてきやがった。

 なんだよ、そんな脅し文句、俺に聞くとでも………?

 

「………リザードンがいないのにバトルなんてできるかよ」

 

 そもそもバトルなんてリザードンがいないんだし、意味がない。それじゃ、一方的にポケモンの攻撃を受ける拷問にしかならねぇよ。

 

「だよねー、それじゃヒキガヤのポケモンを選びにいこっか。まあ、どうせこっちで決めちゃってるだろうけどねー」

「………選ぶ権利もないよな…………」

 

 でしょうね。分かってましたよ。

 どうせさっきのボルグとかいう奴がすでに選んでることだろう。

 

「よっと」

「………それ、つける意味あんの?」

「オフじゃないからね」

 

 再び赤い眼鏡をかけたロッソーー元よりオリモトカオリは部屋の扉を開いた。

 あ、これただの俺の部屋への案内だったのね。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 俺の隔離部屋の横がオリモトの部屋だとかいう超どうでもいい情報を手に入れて、どこかの研究棟へ赴いた。

 俺、あの部屋に帰れるか心配になってきた。

 なんだよ、ここ。広すぎんだろ。

 

「ここ」

「仕事モードは口調も違うのね………」

 

 自動で開いたドアの中に入るとたくさんのモンスターボールが並んでいた。

 ポケモンをボールに入れて保管………してるのか?

 

「ヒキガヤハチマン………あった。これ………」

 

 ここはいいのか?

 声色戻ってるぞ………?

 

「もう用意されてるのか………」

「あんたがここに来た時点で、あるいは最初から決められてたのかもね」

 

 まあ、確かに。

 可能性としては考えられる。

 

「ねえ、バトル、してみる?」

「はっ? えっ? なんで?」

 

 い、いきなりバトルって…………。

 それにリザードンじゃないから………。

 

「いざ使う時にそのポケモンのこと分かってないとダメじゃん?」

「そ、そうかもしれないが………」

「んじゃ決まりね。ついてきて」

 

 なんなんだ、このグイグイくる感じ………。

 

「ここは………」

 

 言われるがままに奥に繋がる扉を開けるとそこは開けた会場になっていた。

 

「実験用のポケモンの試験場。たぶん、あんたはここでポケモンの育成をすることになると思う」

 

 バトルフィールドしかないが、それでも充分に広い。

 

「………はっ? 悪事用のポケモンを育てろってか」

「だね」

「イカれてやがる」

「あっはっは、ここは最初からイカれてるよ」

 

 そんなイカれたところになんでいるんだよ。

 なんて聞いても野暮って話だよな。

 

「んじゃ、やろっか」

 

 くっ、やるしかないのか………。

 なんで誘拐された場所でポケモンバトルに勤しまなきゃいけないんだよ。

 

「マグマラシ!」

 

 二人ともがフィールドに出て、定位置に着くと、オリモトカオリがポケモンを出してきた。

 マグマラシ。

 戦いの前には背中の炎で威嚇してくる、なんて話もあるやつだが………。

 してこないのな。

 どこかおかしい………のか?

 まあ、誰もがやるとは限らないしな。そういう時もあるさ。

 

「何が出て来るんだか……」

 

 俺も受け取ったボールを開いてポケモンを出した。

 

「えっと、ヘルガー………?」

 

 ダークポケモン、とか言われてたっけな?

 あく・ほのおタイプの四速歩行型のポケモン。奴の遠吠えは地獄の使者かってほど不気味なんだとか。

 進化前のデルビルは見たことあるが、ヘルガーは初めてだな。それをこれから俺が使うことになるのか。

 ……………リザードンと同じほのおタイプだから、なのか? だが、まあいい。こいつを育ててリザードンを奪い返してやる。

 

「いいねー、ヘルガー。あたしも同じほのおタイプ使いとして好きだよ」

「そう………ですか」

「んじゃ、やろっか」

「え、ヘルガーの技とか知らないんだけど………」

 

 早ぇよ。俺まだこいつの技とか知らないんだから、教えてもらうくらいの時間くれよ。

 そんなことを考えているとヘルガーが鬼火で揺らめく文字を浮かばせてきた。

 かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび………だけか。

 意外と少なかった………。

 

「いくよ、マグマラシ。ふんか!」

 

 一発目から大技かよ。

 背中の噴き出し口から炎を捲き上げ、地面に向けて落下してきた。

 

「っ!? ヘルガー、躱せ!」

 

 取り敢えず、あれを受けるのはよくない。何としてでも躱さなくては。

 

「かみつく!」

 

 躱した勢いをそのままにマグマラシに噛み付きに行く。

 

「でんこうせっかで躱して!」

 

 だが素早い身のこなしで躱されてしまった。

 

「そのままかわらわり!」

 

 腕を光らせるマグマラシに背後を取られたヘルガーはしっかりと技を受けてしまう。

 

「………早い、な………。ヘルガー、ほのおのキバ!」

 

 ならば、ともう一度仕掛けてみる。デカい牙に炎を纏わせ突っ込んでいった。

 

「もう一度でんこうせっかで躱して!」

 

 今度も同じように躱してきたので、本命を発動。

 

「ふいうち」

「マグマラシ!?」

 

 攻撃技を誘き出しての身を捻って掬い上げる形で攻撃を成功させた。

 

「オッケー、マグマラシ。もう一度、ふんか!」

 

 投げ飛ばされたマグマラシが起き上がるのを見て、オリモトカオリは仕切り直してきた。

 

「躱して、かみつく!」

 

 ダメージが入っている分、ふんかの威力は弱まっているため、さっきよりも躱しやすい。

 そのまま噛み付くことにも成功した。

 

「うっそ、もう動きにキレが出てきてる………。マグマラシ、でんこうせっか!」

 

 後ろに滑っていくマグマラシが踏みとどまり、加速してきた。

 あっちもギアを上げてきたって感じか。

 

「ほのおのキバ!」

 

 今度はデカい牙を閉じて壁を作り、突進を防ぐ。

 牙にぶつかったマグマラシは勢い余って前宙。

 

「かわらわり!」

 

 だが、その身軽な身体を生かして体勢を整えると、腕を光らせて突っ込んできた。

 物の見事に効果抜群の技を二回も受けてしまった。こりゃ致命的なダメージになってるに違いない。

 吹き飛ばされたヘルガーは威嚇するようにマグマラシを睨みつけている。そしてふらふらと起き上がったヘルガーは雄叫びを始めた。

 

「ルガァァァァアアアアアアアアアッッッ!?!」

 

 地獄の使者を彷彿させるような禍々しい雄叫び。

 

「………ヘルガー………?」

 

 一瞬で目の色が変わった、ように見えた。気のせいか………?

 

「やっば、ハイパーモードに入った!? マグマラシ、かえんほうしゃ!」

 

 しかし、気のせいではなかったらしく、オリモトが焦り始めた。

 ヘルガーのこの違和感に心当たりがあるらしい。

 咄嗟にかえんほうしゃを放ち、マグマラシも威嚇するが炎が全く効いていない。

 まさか………、特性がもらいび、だったのか………?

 

「えっ? 効いてない?! ま、マグマラシ、躱してかわらわり!」

 

 見たこともない青黒いオーラに包まれるとヘルガーは突進していき、それをなんとかマグマラシは躱した。そしてすぐに振り返り、光る腕を叩きつけるがバク宙で躱され、逆に攻撃を食らった。

 あれはふいうちだ。

 

「あーもー、仕方ない。マグマラシ、ダークラッシュ!」

 

 えっ?

 マグマラシもヘルガーと同じ技を使ってきた?!

 いや、同じというか同じ青黒いオーラを纏っているというか。元々の技がかえんぐるまっぽい。どういうことだ?

 ヘルガーは様子がおかしくなってから使っていたが、マグマラシは素で使っていたぞ?

 何がどうなっている…………。ここは一体なんなんだ………? 何を企んでいる………。

 ゾゾゾッ背中に寒気が走るのが強く感じられる。鳥肌も立ってるし、震えが止まらない。

 俺は一体…………。

 

「ヒキガヤ!」

「あっ………」

 

 あ、ああ………、今はバトル中だったんだっけな………?

 げっ、いつの間にかヘルガーが戦闘不能になってるし………。

 

「あんた大丈夫? 顔色悪いけど」

「えっ、あ、しゅ、すまん………」

 

 こんな時でも噛むのかよ。

 

「………怪我はないみたい、だね」

「……………」

「もう分かっただろうけど、あれがシャドーの実態。闇のオーラを人工的にポケモンに取り込ませ、より強化された技を使うことができるの。通称、ダークポケモン。ただし、反動で自我を忘れることもある。いわゆる暴走。あたしらはハイパー状態って呼んでるけど」

「……………」

 

 ………人工的に闇のオーラを取り込ませた、か。

 つまり、あれは生体実験のなりの果てってか。いや、成功例といった方がいいのか。

 どっちにしろ、こんなポケモンを作り出してる時点で、この組織は狂っている。

 

「………ごめん、今日はもう部屋でゆっくりしてた方がいいかも」

「あ、ああ………」

 

 早く、早く逃げ出さなければーーー。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 俺はオリモトに言われたように、マジでポケモンたちの育成をさせられることになった。ただし、普通のではなく、ダークポケモンを。これ無理だろ。

 

「こいつらを見て何も思わねぇんだな! やっぱりお前はこちら側の人間だぜ!」

 

 思うところはある。というかそれしかない。ただ驚かないのは昨日の時点でオリモトから説明を受けていたからというだけのこと。

 けど、だからと言って今ここで俺が何か言ったところでどうにかなるわけでもないのだ。何かするにしても期が熟すまで待つしかない。

 

「それじゃ、まずはこいつらとバトルだな。倒れても倒れても叩き潰せ。這い上がる限り叩き潰すんだ」

「………起き上がらない奴はやる気がないってことだろ? そんな奴とバトルできるかよ。俺は強い奴としかバトルする気はない」

 

 ボルグとダキムにそう言ってやるとニヤリと不敵な笑みを浮かべてきた。

 多分、同類だと思われてるんだろうな………。だが、俺はお前らみたいに何も感じないわけではない。思うところがあるからこその従属だ。

 

「ロッソ、引き続きこいつの監視をしていろ」

「はっ」

 

 二人はロッソーーオリモトを残して何処かに消えていった。

 俺は今日もここでバトルをすることになるらしい。

 

「ふぅ………、あの二人がいると疲れるっての」

「…………男装は嫌い、なのか?」

「そりゃ嫌でしょ。面倒だし。えっ、なに? 女装いける派? ウケるんですけど」

「え、い、いやそんなことないじょ」

 

 まだ会話になれないというね。多分異性だからだな。うん、そういうことにしておこう。

 

「さてと、まずはエイパムからだね」

「エイパ」

 

 最初はエイパムか。

 

「エイパム、ヒキガヤをギャフンと言わせておいで」

「エイパ」

 

 トレーナーなしのポケモンを相手するのか。

 てっきりオリモトがトレーナー代わりに命令を出すんだとばかり思ってたぞ。

 

「ヘルガー、取り敢えずあのハイパー状態にならないようにな」

「ルガッ」

 

 オリモトとのバトルの後、ヘルガーからさらに新しくかみくだくとかえんほうしゃを使えるように特訓していたことを聞いた。

 どうやらここに連れてこられる前まで、その二つの技をものにしようとしていたらしい。

 ならば、と俺もヘルガーの技を完成させることにした。

 

「エイ、パッ」

 

 早速エイパムが技を撃ち出してくる。スピードスターか。

 

「おにび」

 

 鬼火で星型のエネルギー弾を打ち消す。

 

「エッパ!」

 

 今度はエイパムが攻め込んできた。

 両手の短い爪………、ということはみだれひっかき辺りか?

 

「ヘルガー、躱してかみつく」

 

 ジグザクに動いてエイパムに揺さぶりをかけたところに、勢いよく尻尾に噛み付いた。

 手よりも器用に扱える尻尾を捉えてしまえばエイパムの動きを封じることができる。

 

「エーイ、パっ!」

 

 だが、存外尻尾というのは器用すぎるようで。

 遠心力を使って振りほどいてきた。

 

「パム!」

 

 振り払うとその尻尾を光らせて突っ込んでくる。

 

「ふいうち」

 

 エイパムの方に向き直り、ヘルガーが突っ込んでいく。

 尻尾が叩きつけられる前に前宙して躱し、着地の力を使って、体当たり。

 だが、エイパムの攻撃は一撃ではなかったようで、背後を突かれながらも尻尾を回してヘルガーの顔を思いっきり殴ってきた。

 

「タブルアタックか………」

 

 エイパムがダブルアタックを覚えているということは進化も近いということか?

 いや、でも覚えた瞬間に進化すると言われているしな………。

 

「………ダークポケモンってのはね、進化できないんだよ。あたしのマグマラシとかもさ、進化できないんだ」

 

 俺の考えを察したのか、オリモトが割り込んできた。

 ふむ………、進化の力を押さえ込んでしまうような力。それがダークオーラというものなのか。あまりにも危険すぎるだろ。ポケモンへの負担も大きいはずだ。その副作用がハイパー状態だってのも、こうして理解してくると納得がいく。

 

「ヘルガー、ほのおのキバ」

 

 不意打ちの体当たりで吹っ飛んで行ったエイパムに、さらに追い討ちをかけるように炎を纏ったデカいキバで噛み付いた。

 

「イパァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 あーあ、来てしまった。

 エイパムがとうとうハイパー状態になってしまった。

 目の色が変わり、狙いをオリモトに変えやがった。バトル中だというのに。

 

「ヘルガー、おにび」

 

 鬼火を飛ばしてエイパムを火傷状態にする。

 

「ほのおのキバ」

 

 痛みで勢いの落ちたところにもう一度噛み付いた。

 ようやく敵をヘルガーへと移し、距離を取ると飛び込んできた。

 

「ダークラッシュか………、躱せ!」

 

 青黒いオーラを纏っての体当たりをあっさりと躱すとエイパムが力尽きた。

 ふぅ………、なんというかダークポケモンを相手にするとスリルがあるな。こっちも同じダークポケモンだからより危険と隣り合わせ。

 だが、どこか……………いや、そんなことあるわけがない。

 

「二度目だから慣れてきた?」

「………慣れじゃない。ただ、早めに倒した方があいつにもいいと思っただけだ。バトルが長引けばそれだけあいつが苦しむことになるからな」

「ひひひっ、だよねっ」

 

 なんでそこで笑うんだよ。

 もう、ここの連中は一体何を考えているのかさっぱり分からん。

 

「エイパムお疲れー。それじゃ次はブーバーだよ」

「………まだやるのか………」

 

 休みなしの連戦かよ。

 

「ブー、バー」

 

 オリモトがエイパムをボールに戻すと、今度はブーバーを出してきた。

 ブーバーか。同じほのおタイプ。だが、こいつもダーク堕ちしてるんだろうな。

 

「ブー、バー!」

 

 げっ、最初からダークの力かよ。

 

「ヘルガー、ほのおのキバで受け止めろ!」

 

 エイパムとは格が違うな。なんというかあれは俺の準備運動の相手だったみたいな感じがする。

 あれ…………?

 もしかして俺が調教されてる?

 

「だいもんじ……。ヘルガー、飛び込め!」

 

 確かヘルガーの特性はもらいびだったはず。それならあの炎を有効活用させてもらおうではないか。

 

「ガーッ」

 

 よしよし、だいもんじの炎を手に入れたぜ。

 今ならあれも上手く使いこなせるかもしれない。

 

「ヘルガー、その炎を取り込め!」

「ルガッ」

 

 炎に食らいつき、飲み込んで体内に取り込む。

 これで体内にエネルギーが充満してることだろう。

 

「思いっきり撃ち出せ! かえんほうしゃ!」

 

 開いたヘルガーの口から勢いよく炎が吐き出された。

 ブーバーの顔面を焼きつくすほどの勢いである。

 それに怒ったブーバーが顔を左右にブンブン振り回すと、両手を振りかぶって突っ込んできた。

 

「おにびで気を散らせ!」

 

 ヘルガーはおにびを吐き出し、ブーバーの視界を奪うように取り囲み、その間に背後に回りこんだ。

 

「かみつく」

 

 よく分からないまま、両腕をクロスに振り下ろしたブーバーの背中に噛み付くと、唸り声を上げてきた。

 そして首を回して睨みつけるようにヘルガーを認識すると、口から青黒いオーラを吐き出してきた。

 えっ? 纏う以外にも技があるのか?

 

「今のはダークレイブ。ダークオーラを吐き出す技。かえんほうしゃみたいなものだよ」

 

 みたいなって………。

 禍々しくて全く並べられないんだけど。

 

「仕方ない、ヘルガー、ダークラッシュ!」

 

 この一撃で倒すしかない。

 渾身の体当たりを懐に入れ、ブーバーを壁に打ち付けた。

 これであっちは戦闘不能になっただろ………。

 

「ルガッ?!」

 

 えっ? これは………反動? こちらにもダメージを受けてしまう技なのか?

 なんて危険な技なんだよ、ダーク技ってのは。

 だから、さっきのエイパムも勝手に自滅したのか。

 やばい、ここにいたら絶対にやばいぞ。早く、早くリザードンを取り返して、ここからでなければ………。

 

「お疲れー、ブーバー、ゆっくり休みなよー」

 

 目を回しているブーバーをボールに戻すとオリモトがこちらに近づいてきた。

 

「どう、慣れた?」

「…………慣れるかよ。無理だろ、こんな危険なもん」

「でも強いでしょ?」

「強くてもリスクが高すぎる………」

「ふーん、つまんないなー」

 

 もう、ほんとにこの組織の人間はどうなってんだ……………。

 ほんと、早くここから出よう。

 

 

 

 

 なんて思っている時期が俺にもありました。

 それから半年。

 俺はどっぷりとシャドーの闇に浸かっていた。

 




本編は二週間くらい休みますけど、その分こっちをやっていきます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。