シャドーの戦闘員 ハチマン   作:八橋夏目

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4話 結

 またしても。

 リザードンは取り上げられてしまっていた。

 なんでヘルガーだけは置いておくのか分からないが、シャドーへの忠誠の証みたいなものなのだろうか。ダークポケモンを持っている限り、俺は碌でもないトレーナーとしか認識されないからな。

 いやー、それにしてもフられたなー……………フられた、な…………。

 俺、フられたんだよな…………。

 リザードンがいなくなっていて自暴自棄になっているところにカオリちゃんが来て、なんか流れで告っちまったけど…………。

 

『ごめん、誤解させるような態度だったみたいだね。あたしは別にヒキガヤをそういう目で見たことないし、あんたと付き合うとかそういうのは考えたことない』

 

 だとさ…………。

 は、ははっ…………笑える。

 誤解されるような態度………つまりは俺の勘違いだったわけだ。手を振っていたのも、話しかけてくれるのも別に俺が特別だからってわけじゃなかった。

 俺も俺だ。

 今にして思い返せば、分かることだろうに。あいつは元々ああいう奴だったって。いつからか、そんな勘違いを抱いちまったが最後、意識し始め、それを好意と勘違いしてしまった。

 …………始まる前からそもそもが恋じゃなかったんだよ。

 

「…………童貞勘違い野郎がっ」

 

 ベットに転がりながら自分への苛立ちに強く拳を握りしめてしまう。

 痛い。

 爪が肉に刺さって痛い。

 だからこれは悪い夢でもない、まぎれもなく現実だ。

 現実で俺はバカなことをしでかしてしまったのだ。

 

「死にたい………」

「ライ………」

 

 もう、何にもやる気が出ない。明日からどうしようか。

 なんかもう、ここから出ることとかもどうでもよくなってきている。

 

「……………………」

「……………………」

 

 …………。

 

「お前、何でいんの?」

「………」

 

 チラッと視線を動かすと、ベッドの横に黒いポケモンがいた。

 名前は確か………あれ? なんだったっけ?

 まあ、とにかく俺のポケモンではない、ただの野生のポケモンではあるのだが、とある契約を結んだことで力を貸してくれるのだ。

 なのだが、今の今までシャドーに連れてこられてからというものこいつの気配を感じ取れなかった。

 

「目を合わせろよ………。今までどこ行ってたんだか………」

 

 元々野生のポケモンだし、どこか行ったんだとばかり思ってたのだが、何故か俺のところに帰ってきたみたいだ。

 夢を食いにでもほっつき歩いていたのだろうな。

 

「夢、か…………」

 

 まさか俺のこの忘れたい現実を夢にして食ってやろうと思って帰ってきたとかなのかね。そんなことを受信できるポケモンってなんなんだよ。

 色々と怖いわ。

 

「ライ………」

「ッ?! これ………は、ははっ。そういうことかよ」

 

 コトッと差し出してきたのはリザードンのモンスターボール。

 ボルグに奪われたものだとばかり思っていたが、どうやらこの黒いのが先に取ってたらしい。

 よかった…………。

 あ、でもそれじゃなんでもっと早く……………。

 

『コクハク、ココロノコリ』

「うるさいわ!」

 

 チッ、まさかこいつにまで踊らされるとは………。

 確かにもうここにいる理由はなくなった。というかここにいるのが辛いまである。だからと言ってここから脱出する気力もないんだが……………。

 

「………そういや影に潜れたよな………」

 

 旅をしていた時は基本的に俺の影の中に居たはず。

 つまり、こいつは影の中に入るコトができる能力を持っているということなんだから、俺も一緒に影の中に入れるんじゃないだろうか。そして、そのまま外に出てしまえば万事休す。

 

『シカエシ』

 

 ああ、そうだな。

 リザードンをダーク化された仕返しをしてないな。

 でも俺にはいい方法が思いつかない。

 

「せめて、エンテイ辺りを奪えればいいんだけど………」

 

 ダキムが連れているダーク化したエンテイ。俺がここに来る原因にもなった伝説のポケモン。奴辺りを奪えれば、ダキムに、シャドーにとって痛手になるはずだ。仕返しとしては充分。

 それで気持ちが晴れるかといえば、難しいところではあるが。

 幾らかの憂さ晴らしにはなるだろう。

 

「何か…………、あいつからエンテイを奪う何かがあれば…………」

 

 何かあるはずだ。

 人のポケモンを奪うことのできるものが。

 俺はそれを以前、どこかで目にしている。実際には使ったことがない。必要なかったから。役割としても俺は裏方。表に出ることもないから必要がない。確か、そんな感覚を抱いたはずだ。

 何か、何かあったはずだ………。

 思い出せ。

 思い出すんだ。

 こうなってしまった以上、俺はここにいる理由がない。

 だからと言って仕返しをしないで出るのは俺の気持ちが晴れない。

 告白とか、ドン底とか、違う………。そういうのじゃない。そこは今はどうでもいい。

 もっとこう機械的な………。

 オリモト…………、いや、普段のあいつはつけていない。

 ………つけていない?

 ああ、そうだ。身に付けるものだったはずだ。

 こう、ポケモンを捕まえるのだから、当然ボールを投げるから…………腕だ!

 腕、腕、腕……………ッッ!?

 

「あっ、た………」

 

 見つけた。

 だが、どこにある?

 俺は結局持っていない。

 今更オリモトのところにもいけない。

 だからといって他の手がかりもない。

 考えろ、思い出せ。

 

「…………………影………」

 

 今からこいつの影を使ってこの研究所内を探索するか………?

 やったことはない。だが、初めてこいつと出会った時に影の中に連れて行かれたような気もする。

 だからできないことではない、はず。

 

「な、なあ………、スナッチマシンってのを探したいんだが…………。影の中から探せるか?」

「ライ………」

 

 そう言うとブワンと黒い穴を作り出した。

 これに、入ればいいのか………?

 

「いけるのか。だったら頼むぜ」

 

 可能であることが分かれば、ためらう必要もない。

 せいっと黒い穴に身を落とす。

 

「暗………」

 

 当然、中は真っ暗である。

 

「おっ………」

 

 するとポウッとおにびが灯され、揺らめく炎に外の映像が映された。

 何それ、そんなことまでできるのかよ。

 

「まずは一部屋一部屋探していくか」

 

 手っ取り早いのは隣のオリモトの部屋であるが。

 いなかったらないだろうし、いたらいたで大問題だ。それ以前に、今は彼女を目にしたくない。結構フられたショックがでかくて、心が苦しいまである。

 なんだこれ。

 

「………いっそ、ボルグの部屋……いや、あの隠し部屋の方がいいか」

 

 行き先を教えると俺の知ってる道順でボルグの部屋の隣の隠し部屋まで向かってくれた。この間、他の団員や研究員が彷徨いていたが、一切バレることがなかった。

 すごいな、この影。

 

「よっと、…………そうだ、ここも暗いんだった」

 

 忘れていたが、この隠し部屋も電気がない。

 どうやって明かりを用意しているのかは知らないが、明かりがないということは誰もいないという証でもある。

 くまなく探してやろうじゃん。

 

「お、すまんね」

 

 黒いのがまたしてもおにびで明かりを用意してくれる。

 

「そういや、ダークポケモンのファイルがあったな」

 

 思い出しついでに、棚に並べられたダークポケモンのファイルからエンテイとスイクンのを抜き取った。

 

「……………特に昨日と違いはない、か……」

 

 まあ、この一日で書き換えられるデータが出てくるとも思えないしな。

 

「あ、ライコウ…………やっぱりライコウだけは行方知らずなのか」

 

 伝説の三体の内ファイルのなかったライコウについても少しだけ書かれていた。二つのファイルで違いはないが、やはりライコウはまだ見つかっていないらしい。

 となると、恐るべき相手はダキムとヴィーナスか。ボルグは手の内が分かった。人となりも相成って危険ではあるが、単純な力では二人の方だな。

 でも俺はそのうちの一人からポケモンを奪おうとしてるんだから、バカだとしか思えない。

 

「ははっ、バカ、か…………」

 

 去り際に言われたセリフ。

 まさに今の俺はあの少女の言葉通りの大バカ野郎である。

 

「…………俺を知ってる奴が今の俺を見たらどういうかね」

 

 特にコマチとか。

 ああ、そういやコマチとずっと会ってないんだよな………。

 コマチ………。

 ごめんな、こんなお兄ちゃんで。遅くなっちまったが、今から帰るからな。

 

「ライ………」

「なんだ……ッ?!」

 

 これ………。

 無性にコマチに会いたくなっていると肩を叩かれた。

 振り返るとぐいっとグレーの機械を差し出してくる。

 これだ。俺が探し求めていたのは。後はボールの方だが、すでに一つだけ機械の腕に付けられていた。試作品、だろうか。

 まあ、何だっていいさ。使えるのならそれでいい。

 俺は黒いのからスナッチマシンを受け取ると服を脱いで左腕に装着していく。

 左利きではないからボールを上手く投げられるか心配だが、そこは機械が補正してくれることを祈ろう。

 装着した感触をグーパーを繰り返して確認し、問題なさそうなのでスイッチも入れてみた。ちゃんと起動したし、こちらも問題なさそうだ。

 

「さて、一発暴れるとしますか」

 

 もう、これで準備はできた。

 決意も固まった。

 心残りは無くなった。

 俺は、家に帰る!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 まずはダキムを探さないとな。

 この研究所にいるのか、それともアンダーの方にいるのか。あるいはそのとちらでもない場所に行っているのか。

 普通に歩いている方が声もかけられやすい………、この際だ。取られたままのリュックとかも全部返してもらおう。

 となるとダキムの部屋に行った方がいいな。

 今度は影に潜らず、ダキムの部屋に行くことにした。堂々と。

 

「暇だなー」

「平和な証拠さ」

 

 なんて会話が聞こえてきた。

 堂々と歩いていれば普通にすれ違っても怪しまれない。

 というか気にも止められなかった。

 シャドーの制服さえ着ていれば、他人はどうでもいいのだろう。

 実質俺がそうだったからな。

 

「と、ここか………」

 

 ボルグと同じく、ダキムの部屋も必要以外では来たことがない。

 何が楽しくてこんな幹部さまの部屋に来なきゃならんのだよ、といつも来るたびに嘆いていたのも懐かしいくらいだ。

 

「すー…………はー………。なあ、黒いの。バトルになったらハッタリを効かせるためにも俺自身が戦う。手助け頼むわ。代価はいつもので」

 

 そう呟くと、すっと俺の体が黒いオーラに包まれた。

 お願いだからいてくれよ。

 二度手間とか面倒でしかないからな。

 しなくてもいいことをやろうとしてるんだし、一度で終わらせてしまいたい。

 深く深呼吸して態とらしく扉をノックする。

 

『おう、入れ!』

 

 いた。

 これで終わりにすることができる。

 怖いけど、これもけじめをつけるためだ。

 

「よお」

 

 自動で開いたので中に入った。

 中にはソファーで机に脚を組んで寛いでいる筋肉バカがいた。

 

「お前か」

「なあ、突然だが俺のリュック返してくれねぇか?」

「はっ?! リュック?! あー、んなのもあったな」

「どこだ」

「返すとでも思ってんのか?!」

「返す気がないなら奪い返すまでだ」

「ほう、このオレさまとやろうってのか?! ああっ!」

 

 ちょっと挑発ですぐに乗ってくる単純バカ。

 ただまあ、凶相が怖いので大声を出されるだけで、内心震え上がってるのが現状である。俺も昔と何も変わっちゃいないんだな。

 

「ああ、そこか」

 

 ごちゃっとした一角に見覚えのあるリュックを見つけた。懐かしい、俺のだ。

 

「バクーダ、かえんほうしゃ!」

 

 はっ、自分の部屋で暴れ出すとは。さすが脳筋野郎。

 

「ふんっ」

 

 だが、俺にほのおタイプをぶつけるとかバカだろ。

 俺が長年使ってきたのはリザードンだぞ?

 しかもここに来てからもヘルガーを使っていたんだ。専門タイプを言えば、俺はほのおタイプなんだよ。

 右腕で炎を横に切るような動きをすると、黒いオーラがそれを切った。

 

「なっ?! ………今のは、まさか…………」

「ダークオーラ、ってか。なわけねぇだろ!」

「チッ!」

 

 今度は上から叩きつけるように腕を振るった。

 すると黒いオーラが刃となり、ダキムに襲いかかる。

 これはおそらくあくのはどうだな。波導の形を変えて、攻撃してるようだ。

 

「変な力を手にしやがって! 出てこい、エンテイ!」

 

 きた。

 ようやくきたぜ。

 八ヶ月ぶりじゃねぇか。なあ、エンテイ。

 

「エンテイ、だいもんじ! バクーダ、かえんほうしゃ!」

 

 バカの二つ覚えが。

 さっき、炎が効かなかったのを理解できなかったのかよ。

 

「ふんっ!」

 

 だいもんじには大の字型の黒いオーラをぶつけ、バクーダには右腕を振り下ろしてでいた黒い刃を叩き込んだ。

 衝撃でバクーダは壁にクレーターを作ってめり込んだ。気絶したな。

 

「くっ」

「あんたがバカでよかったよ。バカは扱いが単純で助かる」

 

 大の字の炎を消すと、左手でボールを投げた。

 勢いはなかったものの、しっかりとエンテイの顔に当たり、開閉スイッチが開いて吸い込まれていった。ぶつかった反動で、意外にも俺の手元に戻ってくるというね。

 …………なんかね、俺初めてかもしれない。ボール投げてポケモン捕まえたの。

 リザードンはあんなの試されたみたいなもんだし、最初から俺にゲットされる気満々だったしな。

 ちょっと、感動。

 

「スナッチ、だと………」

「じゃあな。あんたにはもう用はない。二度と顔を見ることもないだろうな」

 

 ドキドキとハラハラと、なんか告白したことなんか頭の中から消え去るくらい、楽しくなってきている俺がいる。

 や、だって、こんな悔しがるダキムの顔なんて初めて見たからな。

 リザードンのことも許す気はないが、ちょっとはスッキリした。

 

「出てこい、エンテイ」

 

 スナッチに成功したボールからエンテイを出す。

 しっかりとダキムを敵だと認識しているようだ。

 それを確認できると俺はリュックを拾い上げてエンテイの背中に乗った。このまま地上まで一気に登るためだ。

 

「くそっ! くそっ!! お前ら、全員で叩き潰せ!!」

 

 手持ちの全てを開け放って、攻撃してきた。

 

「お返しだ。エンテイ、だいもんじ」

 

 ダキムの命令とは大きさも質も異なる大の字型の炎を作り上げ、壁にした。

 その間に部屋を出て地上へと向かう。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生!』

 

 館内コールに繋げやがったか。

 だが、今の俺は負ける気がしない。

 

「エンテイ、そのまま突っ走れ」

 

 出会い頭に団員たちが驚いて腰を抜かしているが、そんなことに目を向ける気もない。

 エレベーターだといちいち止まるので階段を駆け上がっていく。

 

「お待ちなさいな」

「待てと言われて待つ奴がいるかよ」

 

 地下二階に上がるとヴーナスが待ち構えていた。

 何でこの人はこう俺の行く場所が分かってるんだろうか。対応早くない?

 

「エンテイ………、ダキムから奪ったのね。きぃ、全く使えない筋肉バカね。いいわ、スイクン!」

 

 なんてタイミングのいい。

 リュックも戻ったことだし、中のボールを使ってスイクンも奪ってやる。

 

「ふんっ!」

 

 右手を振るい、黒い刃を飛ばす。

 その間に左手でリュックの中を探り、ボールを掴み上げる。まだあったことにちょっと驚き。あと、ちゃんと笛の方もあったわ。俺これで笛を二つ持つことになるんだけど。

 基本的に使わないのに。

 

「スイクン、ハイドロポンプ!」

 

 まあ、打ち消されるわな。

 

「な、なんなの、今の黒いの!」

「そらよ!」

 

 黒い衝撃波に驚いている間に、スイクンにもボールを投げつけた。

 開閉スイッチが開き、スイクンを吸い込んでいく。またしてもボールは手元に帰ってきた。もしかして、勝手に帰ってくる仕様なの? 捕まえたことないからさっぱりなんですが。

 

「へっ?! ちょ、あなた!?」

「あんたらがやってることをやったまでだ。こいつらを返してもらうぜ」

 

 フワンフワンボールが揺れているが、気にせず突き進む。

 突風で髪がなびいて崩れたことにきぃきぃ怒っているが、知るか。

 うるさいんだよ、おばさん。

 

「エンテイ、だいもんじ」

 

 他の団員たちも邪魔なので道を阻もうとする者は焼き払っていく。

 そうして、無事に地上までたどり着いた。

 結局ボルグはいなかったな。

 階段を上ってくる音が聞こえてくるので、研究所から離れることにする。

 どこに向かうでもなく、というかどの方向に何があるのかもよく分からないので、取り敢えずまっすぐ進んでいるとバラバラとヘリコプターと音が聞こえてきた。

 

「うわっ………」

 

 なんか色んな意味でうわってなった。

 見上げると『R』の入ったヘリコプターが。そのせいで砂が巻き上がり目に入ってしまったのだ。

 えっ? なに? マジで?

 

「ハチマーーーーーーーーーーーーーン!」

 

 あれ?

 この声、違うぞ?

 あ、いやでも知ってる声ではあるが。

 歳の割には野太い声。

 俺の記憶にある時点ですでに野太い声だった奴。

 太ったメガネの変なコートを羽織った…………。

 

「ザイ、モク……ザ…………?」

 

 そう、ヘリから飛び出してきたのはザイモクザヨシテル。スクールの同級生だった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「お前………」

 

 いきなりスカイダイビングしたかと思うと、ボールからレアコイルを出して、着地した。

 

「ハチマン!」

「いや、なにやってんの?」

「それはこっちのセリフである! ニュースでバトル山とやらを攻略した者が久しぶりに現れたとかってやってると思ってたらお主が映っているではないか!」

 

 久しぶりだが、やはりウザい。

 

「うん、まあ、それ俺だし」

「なんですと?! いや、やはりといった方がいいのか。まあよい。無事なのだな」

 

 懐かしい、このウザい感。

 

「まあ、こうして脱走してるくらいだし?」

「脱走?! ………そうか、よかった。間に合ったのだな」

「で、お前は何してんの? 俺の記憶が正しければ、あのヘリ、ロケット団のだよな?」

 

 ヘリというかサカキのバトルフィールドも兼ね備えた戦闘飛空挺。

 ヘリコプターと揶揄するのはバレたら怒られそうだしこれくらいにしておこう。

 

「うむ! なんか捕まった!」

「バカなの? というかおい! サカキ!」

「いいから、さっさと乗れ!」

 

 いつの間にか飛空挺の中から身を乗り出して俺たちを見下げているサカキの姿があった。

 なんでロケット団のボスがこんなところにいるんだよ。

 

「はあ…………意味分かんね」

 

 仕方がないので、エンテイに宙を走らせ、ザイモクザ共々飛空挺まで駆け上がった。

 

「マジでどうなってんの?」

 

 飛空挺に乗り込むとエンテイをボールに戻して、サカキに尋ねた。

 

「………オレはロケット団のボス、サカキだぞ? 我々より力を持つ組織を目の敵にしていても普通だろ」

「なるほど。ダークポケモンを知ってしまったってわけか」

「お主、此奴と面識があるのか?」

 

 普通にサカキと会話をしていたら、ザイモクザが驚いた顔で聞いてくる。

 

「ま、浅くはない間柄だな」

「そうだな。こいつを鍛えてやったこともあるくらいだ」

 

 うん、まあ、そうですね。

 おかげで一段とリザードンは強くなりましたとも。

 

「それで、ハチマン。お前はシャドーにいたようだが、ダークポケモンについては?」

「簡単に話すとでも?」

「ふっ、まあいい。これからまだやることがあるのだろう?」

「お気遣いどーも。アゲトビレジってところに向かってくれ」

 

 そう言うとサカキは目的地をセットした。

 

「何をする気だ?」

「俺も何が起こるのは知らん。終わってからしか説明すらできない」

「……………」

「で、こいつを捕まえた理由は?」

「外でパソコンをいじりながらお前の名を叫んでいたからな。お前の名前は変わった名だ。他がいるとは思えん」

「まあ、ハチマンなんて名前の奴、そうそういないわな」

「……………わ、我としたことが………」

 

 別に何か脅されたとかじゃないらしい。

 情報の共有でも図ろうとしたのだろう。それほどまでには俺を探していたということか。目的は違うだろうが。

 

「それで、まだ言ってるのか? 俺をロケット団に引き込もうなんて」

「当然。お前のその高い実力を買っているんだ」

「………ったく、どうしてこうも俺は悪事を働く組織に狙われねぇといけないんだ」

「強い者が故の結末だ」

「嬉しくねぇよ。平和に過ごさせろよ」

「………着いたようだ」

「早ぇな」

「我がロケット団の研究力を持ってすれば容易いことだ」

 

 なんかあっという間に着いたようだが、……………ここ、空の上なんだよな?

 どうやって降りるのん?

 

「昇れたんだから降りられるだろ」

「マジか………。やっぱ常識の通用する奴じゃねぇ」

 

 なんでさも当然のように言うかね。

 そして、なんでお前はそんな準備がいいんだよ、ザイモクザ。

 

「はあ…………、なんかすまん。またよろしく。見返りは着いたらな」

 

 ボールからエンテイを出して、先に労っておく。

 途中で暴走されても困るからな。

 怒り狂うとかやめてね?

 

「んじゃ、いくぞザイモクザ」

「あいあいさー」

 

 …………というかね?

 どうしてザイモクザは平然とサカキについてきてたりしてたんだろうか?

 普通身の危険を感じるくね?

 バカなの?

 

「…………これからお主は何をするのだ?」

 

 スカイダイビングさながら地上に向けて降りているとザイモクザが訪ねてきた。

 

「ダーク化を解く」

「なぬ? 解けるのか?」

「知らん。ただバトル山の頂上でアゲトビレッジの祠に行けと言われた。そこはセレビィを祀るところであり、何か手がかりがあるのかもしれん」

「エンテイもダーク化しているのか?」

「ああ、だが俺の第一の目的はリザードンだ。あいつもやられた」

「………そうか。お主も大変だったのだな」

「ある意味、洗脳に近いものだったな。今にして思えば、色んな偶然が重なってではあるが、俺も一種のダーク化していた」

「………なんかかっこいい」

「おまっ! そこは思っても口にするなよ! そんないいもんでもないからな!」

 

 ほんとね。黒歴史しか作ってないからね。

 最初から最後まで。本当に。

 

「あそこだな」

 

 滝やら巨木やらが立ち並ぶ町の一角の、木の根元のようなところに洞穴があるのが見えた。

 エンテイにそのまま走らせ、洞穴の中に潜り込む。ザイモクザもレアコイルに乗ってついてきた。

 真っ暗というわけではなく先には灯りがあった。すぐに緑に覆われた石台のあるところへと出る。

 

「ここが…………」

「そうらしいな」

 

 確かに力を感じる場所ではある。

 だが、何もこんなところに来なければできないものなのだろうか。

 

「お前はここで待っててくれ」

「うむ」

 

 ザイモクザを洞穴の出口において、一人石台へと向かう。

 リザードンとヘルガー、それにスイクンもボールから出し、エンテイから降りた。

 リュックからはバトル山の頂上でもらった笛を取り出し、何度も指を当てて練習したメロディを奏でていく。

 すると石が光りだし、一瞬白い光に包まれたかと思うと、頭上にはセレビィがいた。

 初めて本物を目にする。当たり前か。相手は幻と言われる存在だ。

 

「セレ、ビィ…………頼む。こいつらのダークを何とかしてくれ」

「ビィ」

 

 リザードンもヘルガーも、エンテイもスイクンもまじまじとセレビィの行動を見つめている。

 

「ひでぶ!」

 

 ッッ?!

 ザイモクザ?

 

「ッッ?! サカキ………」

 

 変な声がしたので振り返ると。

 サカキと、倒れ伏すザイモクザの姿があった。その奥にはリングマの鋭い爪を首にあてがわれた少女の姿もある。

 あいつ………。

 

「豪華なメンバーだな」

「おい、何している」

「ふん、これほどいい交渉材料はないだろう?」

 

 やはりサカキはサカキだったか。

 奴の言う通り俺を助けたのはロケット団に引き込むため。だが、それだけでは足りないと分かっているサカキはまさかの人質を取ってきたか。しかもなんでいるんだよ、お前が。

 

「ヒキガヤ、くん…………」

 

 名前は知らない。

 だが、俺は彼女のことを知っている。

 ド素人の侵入者の少女。

 帰ったんじゃなかったのかよ。

 

「こいつのことを知らないわけでもあるまい。ずっとつけられていたんだからな」

「……………チッ、何が目的だ」

 

 聞いたところで分かってはいる。

 

「ハチマン。俺の部下になれ」

「嫌だと言ったら?」

「この少女をお前の目の前で殺すまでだ」

「くっ………」

 

 この男ならやり兼ねん。

 

「オー、ダイル!」

「スピアー、ダブルニードル」

 

 少女が決死の覚悟で叫ぶとオーダイルが勝手に出てきたが、いつの間にかボールから出されていたスピアーによって倒されてしまった。

 一撃かよ。つか、オーダイル…………。

 

「何を企んでいる」

「今、ロケット団はオレがいない状態で活動している。幹部だったアポロを筆頭に活動している。だが、その活動はオレの意思に反するものだ」

「はっ? どういうことだ?」

「簡単に言うぞ、ハチマン。ロケット団を潰せ」

 

 おいおい、何を言ってやがる。

 ロケット団のボスがロケット団を潰せだと?

 俺に言うとか、そういうのを抜きにしても、この男は何を言ってるんだ?

 

「だ、ダメよ! ヒキガヤくん! こんな戯言に乗っちゃうぷっ!?」

 

 あーあ、勝手に騒ぐからリングマに口抑えられてんじゃん。

 ほんとド素人すぎるだろ。

 

「………つまり、今あるロケット団はあんたの作るロケット団ではない。だから俺に潰せと? そして潰れたら自分が再度ロケット団を作り上げる。そういうことか?」

「ああ、理解が早いのは変わりないようだ」

「それさえ呑めばそいつを離すんだな?」

「当然だ。こいつに用はない。使えるからこうして使ってるだけだ」

「いつにも増して汚いことをするな」

「シャアッ」

 

 お、リザードンが戻ってきたか。ということはセレビィがやってくれたのか?

 振り返るとエンテイもスイクンからも何も感じなくなっていた。

 成功したみたいだな。

 

「……………いいだろう。ただし、エンテイ、スイクン! お前らはライコウを探せ! シャドーから身を隠すんだ! ヘルガー、お前もエンテイたちについていけ!」

「………何の真似だ?」

 

 オレが命令を出すと三体は祠を駆け上がり、どこかへと行ってしまった。セレビィも役割を終えると時空の狭間へと姿を消した。

 

「やるのは俺とリザードンだけだ」

「ふっ、まあいい。交渉成立だ。ジョウトに帰ったら、早速動いてもらうぞ」

 

 リングマに合図を送ると少女を俺の方へと突き飛ばしてくる。

 

「ヒキガヤくん!」

「いいだろう」

 

 バランスを崩しながらやってくる少女を受け止めながら、俺も了承した。

 

「………なんで、なんで………」

「いや、何では俺の方だからな? 何でまだいるわけ?」

「だって、あなたを置いてなんて…………助けられたお礼も言えてないし……………」

「はあ…………、ったくド素人が」

 

 声が震えているため、そっと頭を撫でてくるとそれ以上は何も言ってこなくなった。

 あれ? なんかいつの間にかお兄ちゃんスキル働いてね?

 まさかこいつ、妹属性でも備わっているのか?

 まさか、な…………。

 

「結局、俺は裏社会から抜け出せないのか………」

 

 伸びているザイモクザをリザードンに回収させ、俺はサカキの後を追った。

 

 

 

 そして、この交渉こそが俺の通り名である忠犬ハチ公を定着させる原因でもあった。




取り敢えず、シャドー編は完結です。
次回から本編に戻ります。

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