「ただいま~っと」
男は誰もいない部屋に帰宅のあいさつを済ませると、部屋の電気を着け、パソコンの電源を入れる。
「提督が、鎮守府に着任しました!これより、艦隊の指揮を取ります!」
「……これ聴くのも何回目かねえ」
日課となっているブラウザゲーム『艦隊これくしょん』を触りつつ、知る由もない疑問を呟く。もっとも男は答えを期待しているわけでもないが、仕事疲れからか独り言をつぶやかないとやっていられないのである。
面倒くさそうな顔を浮かべつつ、男は誰に頼まれたわけでもなく淡々と決まった任務や演習をこなしていく。
(なんで、こんなことやってるんだっけ)
ゲーム性は面白いし、好みの艦娘も一定数いる。期間限定のボイス追加も楽しみだし、改二情報が来るとわくわくする。だが、こうして機械的にこなしているとこういった疑問も出て来る。男自身は小さなころから大のゲーム好きだし、他にも好きなゲームはあるが、年を重ねるにつれてやる気も無くなってくるし、何より翌日も仕事だ。そこまで没頭してしまうと支障が起こりかねない。
こう考えると短い時間で手軽に楽しめる、ブラウザゲームやスマホゲームが向いていると思われるが、当然飽きもあってどうも続かない。唯一この『艦隊これくしょん』だけは約1年ほど続けているのだ。
(艦これも、止め時かなあ)
特にこれといった趣味を持たない男は、朝起きて出勤し、仕事から帰ってきたら寝る、といった淡々とした日々を送る中、『艦隊これくしょん』だけが彼の唯一の趣味である。もっとも彼は今、このたった一つの趣味に疑問を抱いているのだが。
任務用のバシー・オリョール周回が終わると、遠征要員のキラ付を行っていく。次のイベントはいつだったか、資材はどれくらい必要だろうか……などと考えていると、また面倒臭くなってくる。「あれ、今何回目だっけ」などと呟きながら作業している彼は、傍から見ても無気力そうに見えた。
「提督さん……あんま無理しちゃダメだよ?」
男は秘書艦のボイスで我に返り、結構な時間思考に耽っていたことに気付く。いつもの就寝時間はとうに過ぎているようで、あわてて残った作業に取り掛かる。艦娘の補給や入渠を済ませ、ブラウザを閉じようとすると、聞いたことのない独特なエラー音から見たことのないメッセージボックスが現れる。
『艦隊これくしょんは、楽しいですか?』
「は?」
奇妙な現象に驚いた男は、メッセージを読むと思わず声を出してしまう。
(なんだこれは……、D○Mのいたずらか?まだ3月だし、エイプリルフールには早いぞ?)
選択肢の『はい』と『いいえ』の存在を確認し、どうすれば無難な処理ができるかと考え込んでしまう。
(こんな現象、掲示板でも見たことないぞ)
まさかコンピュータウイルスか何かだろうかと疑い始めていると、突然、パッ、っと画面がブラックアウトする。
「え、っちょ」
男が呆気にとられていると、続いて部屋の電気が消える。彼は視界が暗くなると同時に、意識が徐々に遠くなってくのを感じた。
人の気配が無くなり、暗くなった男の部屋は、外の月の光だけが見つめていた。
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