「…………んっ、……ん?」
意識が戻ってくるのを感じ、目を開けると白い蛍光灯の光が差し込んできた。
「うおっ、まぶしっ」
暗順応していた俺の目にはきつかったようで、とっさに声を上げて手で覆い隠してしまう。薄目で耐えていたが、徐々に明るさに慣れてきたみたいで、視界が良くなると同時に見知らぬ部屋の光景が俺の意識を覚醒させる。
「……ここは、どこだ?」
上半身を起こし、周囲を見渡してみる。自分が横たわっていた白いベッド、白い布で仕切られたカーテン。白を基調とした部屋に俺は医務室の類であると予想ができた。そもそもなんでベッドに寝転がっているのだろう?俺は家でパソコンをいじっていたはずだが……。っと混乱した頭で考えていると、部屋のドアが、ガチャ、と開いた。そこには中学生くらいの背丈の少女がおり、
こちらを見て驚いたような顔をしていた。
「はわわわ!目が覚めたのですね!」
綺麗な茶髪を後ろで纏めたその少女はこちらに小走りで近づきつつ、話しかけてくる。俺は突然の訪問者に驚きつつ、見覚えのある人物に無意識に呟く。
「……電《いなずま》?」
「い、電のこと、わかるのですか?」
驚いた。いや目が覚めてからずっと驚いているが、あの『艦隊これくしょん』にでてくる駆逐艦『電』が目の前にいるのだ。
しかも声まで聞き覚えのあるものだ。もう何が何だかわからない。
「その、司令官さん、大丈夫ですか?まだ顔色が悪いのです。」
全然大丈夫じゃないが、混乱した頭で状況を整理してみる。起きたら病室にいて、二次元の女の子が目の前で心配してくれている……。うん、これは夢だ。そうに違いない。きっと仕事疲れで精神がやられているだけなのだ。
「その、えっと、電、俺の頬を思い切り抓ってくれないか?」
え?え?と困惑する電は、俺の意図を察してくれたようで寝覚めの一撃を食らわせてくれた。予想していたが電の抓りは痛かった。本当に思い切りやっていたようで、自分の頬が少し腫れているのがわかる。なんてリアルな夢なんだ……って
「夢じゃない……?」
夢じゃないと確信して茫然としている俺とその様子をみてさらに困惑する電は、傍目から見たら非常にシュールであろう。今にも泣きだしそうな電を見ていたら軽く落ち着いてきた。俺は更なる状況整理をすることにする。
「その…聞きたいことがいくつかあるんだけど、いいか?」
「はい、なのです。」
少し、不安にさせてしまったのだろう、怖がった声で答えた。
「まずここは、どこなんだ?」
「ここは能登《のと》鎮守府の医務室なのです。」
能登鎮守府?能登鎮守府って言ったら俺の艦隊これくしょんサーバーの名前じゃないか。というか、俺、鎮守府にいるの?え?
「その……司令官さんは、鎮守府入り口前で倒れていたのです」
電は続けてこれまでの出来事について話してくれた。聞くに、倒れていた俺を医務室に運んで来てくれたらしい。外傷が見当たらなかったということで目立った処置はしなかったが、夜になって冷えてきたために毛布を持ってきたところで俺の意識が回復したらしい。
「本日、司令官さんの着任日で、電は初期艦として執務室でお待ちしていたのです。けど、いつまでたっても司令官さんが到着しないので、誰か来ていないか入り口まで様子を見に行ったら……」
「俺が倒れていたというわけか。」
「はい、なのです」
つまり、俺は自宅で気を失って、気付いたら鎮守府前で倒れていたということか。……ますます意味が分からない。
「次だ、今は西暦何年の何月何日だ?」
「えと、本日は、2016年の3月**日なのです。」
……2016年?大体一年前じゃないか!?俺はタイムスリップしたとでもいうのか!?ダメだ、もう思考が追いつかない。夢でないなら、これは巷で噂のVRか何かなのだろうか。ここまでリアルなVRは聞いたことがないぞ。それに俺はそんな機器を一切持っていないし、VRゲームが出たなんて情報もなかった。
「あの、司令官さん?大丈夫ですか?」
「あ、ああ、すまん、少し考え事をしていた。」
どうやら混乱し過ぎて凄まじい顔をしていたようだ。電の表情はさらに不安の色が濃くなる。考えていてもわからないので、俺は今ある情報から探ることにした。
「その、さっき司令官が到着しないって言ってたな。そいつは見つかったのか?」
「……ふぇ?司令官さんは司令官さんですよね?」
「……もしかして俺?」
「なのです。」
不安そうに頷く電。そうか、さっきから司令官と呼んでいるのは俺のことだったか。ということは俺は今日配属された提督ということに。
「ちょっと待ってくれ、俺がここの提督なのか?」
「そうなのです。大本営から何も聞かされていないのですか?」
「……人違いということは?」
「この書類に司令官さんの写真が貼ってあったのです。確かなのです。」
病室に置いてあったファイルを電は渡してくる。そこに入っていた書類に目を通すと、確かに自分の写真と名前が載った履歴書のようなもの、自分あての辞令があることがわかる。
「もしかして、司令官さんはどこか頭をぶつけてしまったのでしょうか?」
書類に目を通しながらうんうん唸っていると、泣きそうな声で電が呟く。いや、別に記憶喪失ではないが、ここに来るまでの記憶が一切ない。それに加え、過去の日付ときたもんだ。意識を失う前までの出来事を思い返し、ここまでの情報から、俺はある一つの仮定を立てる。
―――もしかすると、ここは俺の世界とは別世界?
漫画や小説じゃあるまいし、都合の良い考えというのはわかる。だが、そう考えるしかないのではないか。あのメッセージボックスは異世界からの招待状みたいなもので、何者かに俺は強制的に提督という地位に……そう考えるとだんだん腹が立ってきたぞ。せめて了承得ないか、了承を。
そう決めつけると、こんな幼気な少女に聞くのもなんだが、聞いてみることにする。
「電、俺はどうやらこの世界の住人じゃないみたいなんだ。その、悪いんだが、元の世界への帰り方はわかるか?」
俺の一言を聞いた電は、茫然とした様子で固まる。しまった、本当に頭のおかしい奴だと思われたか。ここでフォローしないと現状は悪化するばかりだ。今は、ここにいる電だけが頼みの綱なのだ。
「あ、えーっとすまない、今のはジョークだ。今記憶が混乱しててな?その、なんで倒れていたのかわからないんだ。」
「……司令官さんは、記憶喪失なのですか?」
呆気にとられていた電が恐る恐る聞いてくる。
「いや、大丈夫、少し頭を打ったみたいだがもう平気だ。」
手で自分の頭を叩くふりをして、若干の苦笑いで答える。電は、ほっ、と効果音が聞こえそうな様子で胸に手を当て、安堵する。とっさに大丈夫であると偽ったが、この困惑しきった少女を尻目に、年上である自分が我を忘れるわけにはいかない。それに、これ以上進歩の無い会話を続けていても何も解決するわけでもないので、現状把握はおしまいだ。考えるのは後からでも遅くない。今は、目の前の少女を安心させること、それが一番大切なのだと。
「電、俺はこの鎮守府の提督なんだよな?他にはいないんだよな?」
「はい、なのです。」
俺は、もう一度電に確認すると、大きく深呼吸する。覚悟は、決まった。うろ覚えで海軍式敬礼を行うと、身が引き締まった気がした。
「能登鎮守府提督、只今を持って着任いたしました!」
「……はい!なのです!」
こうして、俺の鎮守府生活が始まった。
能登鎮守府は現実にはありません、完全創作です。
提督さんに名前はありません。各々自由に想像してもらえればと思います。
※少し脱字修正しました 3/14