戦闘シーンが難しい。多少オリジナルを加えたからさらに難しい。
ボス戦開始~見つめ合うキリアスまで
巨大なハンマーによる三連撃。
第二層ボス取り巻きである<<ナト・ザ・カーネルトーラス>>、通称ナト大佐が繰り出した連撃を大柄な四人の男達が武器で受け止める。そして三連撃の最後の一撃を武器で大きく弾き返したのを見て、キリトとアスナはその両横から、がら空きの胴体目がけて勢いよく飛び込んだ。
左からは細剣突進系五連撃技<<シューティングスター>>。
右からは片手剣連撃技<<バーチカル・アーク>>。
その全てが完璧にナト大佐の真っ青な胴体に吸い込まれ、三本あるHPゲージの内、三分の一ほど残っていた一本目のHPゲージを削り切る。
しかしその直後、高く打ち上げられたハンマーに稲妻が走る。
「<<ナミング>>来るぞ! 総員後方にジャンプ!」
キリトの指示で、ナト大佐を囲んでいたキリト達G隊六名が後方に飛びあがる。
振り下ろされたハンマーは地面に大きく叩きつけられ、ハンマーから発生した細いスパークが放射状に広がる。
皆と同様にジャンプしていたキリトは、スパークがぎりぎり届かない位置に着地する。左足のつま先にピリッとした感触が走るも、そのデバフ範囲からは完全に出ているため問題はない。
「
動きが一時的に止まった瞬間を見逃さず、キリトは即座にスイッチの指示を出す。
その指示を受け、オルランドの掛け声と共にブレイブスの五名が前線に上がり、キリト達H隊六名はポーションによる回復時間を得ることになる。
「順調ね」
もはや定位置となっているキリトの左側からのアスナの声に、キリトは「ああ」と頷きながら前線で戦っているブレイブスの動きを注視する。
ボスの取り巻きであるナト大佐は攻撃力・HP共に通常の牛男の比ではないものの、その行動パターンは通常のそれとさして変わらず、トーラス族特有のデバフ付与特殊攻撃<<ナミング・インパクト>>にさえ気を付けていれば、特に手こずることのない相手であった。
事実、今戦っているブレイブスも体力を大きく減らすことなく攻撃を受け止めながらHPバーを削っている。この調子ならば、ナト大佐は大して時間はかからないだろう。よって、問題はあちらだ。
キリトはボス部屋の最奥部で交戦中の三十六名と、階層ボス<<バラン・ザ・ジェネラルトーラス>>、通称バラン将軍に視線を向けた。
ナト大佐の約二倍、五メートル近くの体格を持つバラン将軍は、黄金のハンマーを前衛を受け持っているプレイヤーたちに振り下ろしている。
その足元で戦うプレイヤーたちの恐怖は想像を絶するだろう。振り下ろされるハンマーのヘッドだけでもプレイヤーより大きいのだ。当然その威力は極めて大きく、金属防具で盾持ちの前衛がしっかり防いでも体力が目に見える程に減っているのがわかる。
救いは攻撃間隔が長いことだが、攻撃力が高いことだけがバラン将軍の恐ろしさではない。
大きく振り上げられたハンマーの打撃面にスパークが発生する。
それを見たレイドリーダーのリンドが即座に回避命令を出し、
直後、地面に叩きつけられた黄金のハンマーからスパークが発生し、ナト大佐の<<ナミング>>の二倍近い範囲に電撃が走った。
バラン将軍の特殊技<<ナミング・デトーション>>。発生こそわかりやすいものの、その広大な範囲によって的確な回避命令が出たにも拘らず、二名がそのデバフ効果範囲に取り残される。
<<デトーション>>による
必死の思いでその三秒を生き残っても、試練はまだ続く。
二回連続でデバフを食らってしまえば、攻略会議で説明した通りに致命的な状態異常<<麻痺>>になってしまう。
自然回復で十分以上。当然待っていられないのでポーションを飲むことになるが、麻痺に陥った本人はポーションを飲むことすら
幸い動くことができるプレイヤーが麻痺したプレイヤーを回収することで、バラン将軍の追撃である
――やはり、ぶっつけ本番は難しいか。
キリトは再び、自らの担当であるナト大佐に顔を向ける。
まさに順調。POTローテが揺らぐことはなく、既にG隊の面々の体力はオールグリーンだ。
交戦中のブレイブスの面々も体力をイエローまで減らしている者はいない。時間的にはそろそろスイッチだろうが、それを行わなくても問題ないほどに安定していた。
「本隊はジリ貧だな、あれは」
エギルの言葉にキリトは頷く。
「ああ。だが、そろそろ攻撃パターンも把握できている頃だし、態勢も整ってくるとは思うんだが……」
キリトは素早く答える。しかし、その楽観的推測はアスナによって否定された。
「麻痺している人間が多すぎるわ。あれだと一時撤退の指示が出たときに全員脱出は厳しいんじゃないかしら」
確かにその通りだ。麻痺したプレイヤーを動かすのに最低一名必要。つまり、麻痺した人数の二倍の人数がボス部屋から脱出するまでの遅滞戦闘から離脱することになる。
彼らが戦っているのはボス部屋の最奥部。移動距離を考えても、これ以上麻痺者が増えるのは危険が大きいだろう。
ここから大声を出せば指揮系統が乱れる危険がある。ならば、直接リンドに提言するしかあるまい。そのためにはここの指揮を一時誰かに預ける必要があるだろう。
キリトは咄嗟に判断する。指揮を預かれるほどの判断力や、戦況への理解力、そして視野を持っている人間がすぐ横にいるではないか。戦況は安定している、経験を積ませることが今ならできるのだ。
「アスナ、ここの指揮を一時君に預けたい……頼めるか?」
キリトの発言に、アスナの顏が驚愕で染まる。ちらとエギルの顔を見れば、彼は頷き返してきた。
「こっちの戦況は安定しているし、抜けるのは大した時間じゃない。それにエギルさんもいるからな、経験を積める時に積んでおくべきだ」
アスナは一瞬迷いを見せたが、すぐに決意をした表情で頷いた。
「よし! リンドに進言をするため、対ナト大佐の指揮を一時アスナに預ける! すぐに戻るから、戦闘はこのまま頼む! 三段目ゲージに気を付けて!」
了承の声がG・H隊から上がる。それを聞いてキリトはリンドに向かって駆け出した。
「指揮預かります! <<ナミング>>クール時間解放まで残り二十秒! G隊は規定通り左右展開、<<ナミング>>後のディレイでスイッチします!」
後方から聞こえるアスナの指示は的確で簡潔だ。指揮を引き継いでも混乱することなく、即座に対応している。
剣術だけではない、恐らく彼女は皆の前に立つ素質がある。それを確信したキリトは、ボス戦中にも拘らず笑みを抑えきれなかった。
バラン将軍の正面、
リンドとキバオウ。リンドは戦闘指揮を出し、キバオウがその隙間を細かい指示で埋めていく。
指揮に関しては二人共まとめ役として中々のものを見せているが、撤退の頃合いを図るのはどんな人間でも難しいはずだ。まして、その判断にレイド全員の命がかかっているのだから。
「リンドさん」
キリトの声に、両名が振り向く。
リンドは一瞬だけナト大佐に視線を向けると、納得したようにキリトに尋ねた。
「そっちは順調みたいだな、どうしたんだ?」
「アスナからの提言だ。これ以上麻痺者が増えれば、一時撤退を考えたとき全員脱出が厳しくなる。……一回仕切り直すべきじゃないか?」
リンドは麻痺者の人数、前衛の様子、そしてボスの体力を確認していく。それに釣られてキリトも同様に視線を動かす。バラン将軍の体力は五段あるゲージの内、三本目が半分を切っている。
「残り五割だ、ここまで削って引く必要はあるだろうか……」
リンドが苦々しさを滲ませている。確かに、惜しいと思ってしまうのはわかる。体力が危険域に落ちた者もおらず、与ダメージのペースも良い。このまま押しきれる可能性は決して低くないのだ。
「ボスの対応は二班でいける。そのバックアップに二班。……もう一人麻痺者が出たら引く、それでどうやろか。麻痺者が六名、その支援に六名。大佐が倒されればさらに二班余裕ができる。一時撤退も十分に可能になるはずや」
キバオウが前衛から視線を逸らさずに言う。具体的な人数を出したそれは、キリトにもリンドにもわかりやすい。
「わかりやすい判断基準だ。……どうだろう、キリトさん」
リンドの言葉に一瞬だけ思考を巡らせ、頷いた。
リーダーとサブリーダーの認識が一致し、明確な判断が提示されたならば文句はない。
「了解。麻痺者があと一人出たら引く、だな。こっちも大佐の排除急ぐよ! 聞き入れてくれてありがとう」
「逆に提言感謝だ」
「そっちは頼むで!」
キリトは二人に言葉を聞いて、ナト大佐に向かう。
動きやすいと、キリトは思う。完璧とは言えずとも、戦闘中に周辺からの意見を聞く能力が彼らにはある。彼らが健在ならば、攻略隊の面々も動きやすくなるだろう。キリトはリンドとキバオウの評価を大きく上方修正した。
ナト大佐の体力は残り四割といったところだろうか。そろそろ最後のゲージに突入するだろう。現在はG隊が攻撃中で、ブレイブスのH隊はポーションにより回復中だ。
アスナはそのG隊の最後尾、エギル達四人の背後で攻撃機会を窺いつつ、戦況の確認に努めていた。
アスナは自らの
「パターンA! 初撃左からの横薙ぎ来ます! 左翼二名は防御、右翼二名は
体を捻じる様に振りかぶられたハンマーを見て、アスナは即座に指示を出す。
そして自身は、左二名の防御が抜ける可能性を想定して、前衛四名の中央にソードスキルを発動できる体勢を取る。
直後、ナト大佐が横薙ぎを繰り出す。
その強烈な一撃は、ブォンという風切り音と共に左にいた二名を襲うが、無事に攻撃を弾き返し、ナト大佐が大きく仰け反る。
そこにすかさず右の二名と、ハンマーの迎撃から攻撃に目的を切り替えたアスナがソードスキルを発動させた。
ナト大佐の二段目の体力ゲージが削られていく。しかし、ゲージの減りは二段目を削り切るまでに至らない。それを確認したアスナは続けて指示を出す。
「続いて右から横薙ぎ! 右翼防御、左翼は単発攻撃! これ入れるとゲージ三段目に入ります、特殊攻撃の突進に注意!」
「応!」という声が前衛の四名から発せられた。アスナは一瞬後方にいるブレイブス五名を確認する。体力ゲージはオールグリーン、いつでもスイッチ可能だろう。
右からの横薙ぎに対応したG隊によって、体力ゲージは三段目に入った。すると、ナト大佐が突如猛々しい声を上げ、角をアスナ達に向け身を屈めた。ガイドブックの情報通り、突進が来るのは間違いない。
「ッ! 突進くるわ! 頭じゃなく尻尾の向きを見て! その対角線上に来る!」
ぐるんと向きを変えたナト大佐が、前衛のエギルに向けて突っ込む。しかし、事前情報をしっかりと把握していたエギルは危なげなく回避。その背中に両手斧ソードスキル<<ワールウインド>>を叩き込んだ。そしてその奥から、黒づくめのプレイヤーが一人こちらに駆けてくるのが見える。
「スイッチ!」
反応したエギルが場所を開けると、黒づくめの剣士が<<ソニックリープ>>をクリティカルヒットさせ、そのままアスナ達に合流した。
「遅くなった!」
突進を回避された後強打を立て続けに叩き込まれたナト大佐は、状態異常の<<スタン>>を発生させ動きを止めている。それを見て、アスナは預かっていた指揮権をキリトに戻す。
「指揮戻します!」
「指揮受け取った! 時間十分ある、総員
G班の六名による全力攻撃はナト大佐の体力を大きく削り、ついに最後の一本のイエローゾーンまで突入させた。フルアタックを成功させアスナ達が距離を取ると、ナト大佐の全身の色が紫に変わり、先ほど以上の声を上げて怒り狂っている。
「よし、スイッチだ! ブレイブス前へ! G隊は突進警戒しつつ回復だ!」
スイッチ指示で完全回復済みのブレイブスが駆けていく。このスイッチが最後のスイッチになる可能性が高いからだろう、ブレイブスは大声を上げながら突っ込んでいった。
「キリト君、それで向こうはどうなったの?」
アスナは一息つくことなく、キリトに説明を求める。
「あと一人麻痺したら撤退。ということで一致した。尤も、あれを見る限り問題はなさそうだが……」
アスナは部屋の奥に目を向ける。
麻痺者は先程から減って四人。前衛の体力ゲージも緑を維持しており、ボスの体力も最終ゲージに入っている。
ボス担当のプレイヤーたちが声を上げており、士気も高い。このままいけば攻略は時間の問題だろう。
「なあ、一ついいか?」
しかしエギルの言葉を聞いて、安心しかけていたアスナは寒気に襲われた。
「第一層は<<
部屋の奥から歓声が上がる。
どうやらボスの体力がイエローゾーンに突入したらしい。
そして、それをきっかけとしたのか、部屋の中央の床が動き出す。
声が出ない。
この部屋の中央、下からせり上がってきたであろうプレートの上に乗っていたそれは、六段のHPゲージを携え、アスナを、いや攻略レイド四十七名全員を希望から絶望へと叩き落とした。
<<アステリオス・ザ・トーラスキング>>。
この階層、真のボス戦の始まりだった。
キリトは止まった思考を即座に回復させた。
ここにきて追加ボス。ならばやることはただ一つ、目の前の体力の少ない敵を倒し、頭数を減らすしかない。
「ッ! G隊H隊
キリトがナト大佐に突撃していく、それに一瞬遅れてアスナが、そしてG隊の面々が続く。
軽量装備のキリトは高く飛び上がることができる。キリトは全力ダッシュから二メートル近く飛び上がり、空中で<<スラント>>を発動、トーラス族の弱点である額に打ち込んだ。
弱点に強烈な一撃が入り、暴走モードに入っていたナト大佐の動きが止まる。
正面を受け持っていたブレイブスが各々最大の一撃を加え、それに続いて左右から駆け寄ったG隊の面々も攻撃を加える。
ナト大佐の体力は残り数ドット、しかし皆硬直で動くことができない。
ならばと、<<スラント>>の反動によってナト大佐の真上に浮き上がっていたキリトは空中で右足を動かし、あるスキルの発動モーションに移行する。
キリトの右足が光る。
ナト大佐の上空で発動された体術スキル<<
その強烈な一撃は体力ゲージを削り切り、ナト大佐はポリゴン片となって消えた。
キリトはモーションで半回転することで仰向けになり、そのまま背中から床に叩きつけられる。
「キリト君!」
アスナの心配したような声。それを聞いて一瞬、キリトは一つの考えに囚われた。
――今ならば、この少女を離脱させることができる。
キリトは身体を起こし、アスナに視線を向ける。
こちらを見返したアスナの表情は硬い。だが、そのヘイゼルの瞳は戦意を失っていなかった。
目を瞑る。
彼女をあの場に向かわせたくない。
だが、彼女がいなければキリトの背後を守るものは居ない。
「キリト君、行こう」
アスナがキリトに手を差し出した。
キリトはその手を掴み、立ち上がる。
左右を見れば、G隊H隊の面々が準備万端と並んでいる。そしてその視線はキリトに向いていた。
キリトは少々減ったHPゲージとラストアタックボーナスの表示に構うことなく、決意したように次の指示を出した。
「王が攻撃範囲に入るまでまだ時間がある、その間にG隊左、H隊右から突撃。バラン将軍を打ち取るぞ! 先ほどと同様に防御不要! 回避不要! 何が何でも削り切る! いくぞ!」
キリトの言葉を受け、全員が自らを鼓舞するように声を上げて部屋の奥に突っ込んでいく。
バラン将軍もすでに暴走モードに突入している。
体力はすでにレッド、全力攻撃を叩き込めれば十分に削り切れるはずだ。
ならば、今タゲを取っている前衛だけ残し、それ以外は王に向かわせるべきだ。
キリトは思考を全力で回転させ結論を出し、叫ぶ。
「ナト大佐排除! G隊H隊は将軍に
キリトの声に即座に反応したリンドは、全体に命令した。
「前衛、将軍のタゲ引きつけろ!
「攻撃が終わったらすぐに両翼に離脱や! ポーション飲むの忘れたらあかんぞ!」
リンドに続きキバオウが指示を出す。
キリトはその二人の横を駆け抜け、
――ならば……!
キリトは空中で剣を構え、突進技<<ソニックリープ>>を発動させる。
キリトの身体は空中で加速し、バラン将軍の額の中心を綺麗に捉える。
それから少し遅れて、同様に飛び上がっていたのだろうアスナの<<シューティングスター>>が、仰け反ったバラン将軍の胴体に命中した。
その後、地上でG隊H隊の一撃が入る。しかし、再び体力ゲージが一、二ドット残る。
「またかよ……!」
キリトは<<
そして、突き上げられた蹴りと振り下ろされた拳がバラン将軍に吸い込まれ、将軍はポリゴン片と化した。
無事に将軍を倒した今、敵は王だけだ。指揮統制も取れている、交戦継続か撤退はリンドかキバオウが判断するとして、まずは王への対応が必要だろう。
空中で振り返り、王を視界に入れる。瞬間、キリトは目を疑った。
着地したキリトの背後、王が近づいてきていたが攻撃範囲にはまだ入っていない。だからこそ、王が上体をいっぱいに反らせ、その胸部が膨らんでいることにキリトは驚愕した。
――
まだ誰も王にダメージを与えていない以上、そのターゲットは最も近くの者達になる。王の正面にいたリンドとキバオウが最初のターゲットになっていただろう。しかし、彼ら二人と地上で攻撃に参加した者たちは、キバオウの指示で即座に左右に離脱している。
つまり、今この時
そして、キリトの右に着地していた、王に背中を向けている
「アスナ! 右に飛べぇ!」
キリトの声に咄嗟に反応したアスナが、床を蹴ろうとする。しかし、着地の反動を受けたままなのか、その動きは重い。アスナが射線から逃れる前に間違いなく、王が放つだろう
キリトはアスナに向け走る。
そして彼女の足が離れた直後、アスナに追いついたキリトはブレスから庇うように彼女を抱きかかえた。
「え?」
アスナの表情は驚愕、そして発せられた言葉は戸惑いを持っていた。
直後、キリトの視界は白色に染まった。
雷鳴のような衝撃音が部屋全体に轟く。
王の雷ブレスが直撃したキリトは、アスナと共に絡み合ったまま背中から地面に叩きつけられた。
ブレスの直撃により二人の体力はごっそりと削られ、アスナはイエロー、キリトはレッドゾーンまでHPが落ち込んでいた。そして、両者のHPゲージの横には<<麻痺>>のアイコンが点灯している。
「王をあの二人に近づけるな!
リンドの指示で前衛がターゲットを取ったのか、アスナの肩越しに見えていた王が止まったように見えた。
「すまねぇ、オレとしたことが
続いて近づいてきたエギルが、キリトとアスナを抱えて壁際まで運ぶ。
「すま……ん」
「気にすんな! お前らは頑張りすぎだ、ちょっと休んでろ!」
隣り合うように壁際に座らせたキリトとアスナに、エギルは麻痺回復と体力回復のポーションを飲ませ、再び前線に戻っていった。
ポーションを飲んだことでキリトのHPゲージがじわじわ回復している。麻痺の状態異常も、後六〇秒もたてば回復するだろう。
キリトは一息吐くと、左に座っているアスナを見る。すると彼女もこちらを見ていたのか、
「ねえ……なんで、来たの?」
その問いは恐らく、キリトがなぜ回避せずに、彼女に駆け寄ったのかということだろう。
キリトは着地する直前には、王のブレス攻撃に気付いていた。即座に離脱すれば回避することができただろう。
キリトだけは。
「なんで……?」
再びの問い。
なぜあの時回避をせず、彼女を抱えるという選択をしたのか。自分に問いかけても、答えは出なかった。
「……わからない」
だからキリトは、その一言だけ口にした。
その答えを聞いたアスナが笑みを浮かべる。とてもきれいな、優しい笑みを浮かべたその理由はわからなかったが、彼女は震える右手を動かし、キリトの左手を握った。
そして、目を閉じると身体をキリトの左腕に預けてきた。
どうして彼女がこのような行動をとっているか、どうしてこのような状況になっているのかキリトにはわからない。だが、一つだけしたいことを見つけそれを実行する。
キリトは彼女に握られた左手に、軽く力を込めた。
目と目が合う瞬間好きだと気づいてくれたら、私も楽だった
次回第二層完結