Re:SAO   作:でぃあ

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ご感想、誤字報告ありがとうございました。

第二層完結まで。

難産でした、とても難産でした……
遅くなって申し訳ない


第十三話

 戦況は一転した。

 

 来るだろうとは思っていた。

 しかし、彼がこの階層攻略のキーパーソンになるとはだれが想像しただろうか。

 

 「迷宮区の前で一人不安そうにしてたから連れてきタ」とはアルゴの談で、ネズハの<<投剣>>とアルゴの<<隠蔽(ハイディング)>>を巧みに利用し、高速で駆け抜けてきたらしい。

 

 <<投剣>>と<<体術>>の複合によって使用することができる<<チャクラム>>。

 本来ナックルとしても使うそれは、投擲すると使用者の手元に戻ってくると言う性質を持っていた。

 

 鍛冶師から純粋な戦闘職(ソードマン)になったネズハは、トーラス王が身に着けている王冠の下、弱点である額に命中させることで、遠隔攻撃(ブレス)の発生をことごとく潰している。

 

 それによって、強力なただのトーラス族の一体と化した王の攻撃を、バラン将軍に対することで攻撃パターンに慣れた攻略レイドの面々が的確に捌いている。

 

 未だ回復しきっていないHPゲージを視界の隅に置き、ボス部屋の壁に寄りかかりながら休憩していたキリトは、左腕に心地良い重さを感じつつそれを観戦していた。

 

 尤も、それはある種の現実逃避、いや現実を直視することによる逃避なのは疑いない。

 

 今キリトが置かれている状況は、ボス攻略の戦闘中でなければ盛大に狼狽えるか、カチコチに固まっていたことは間違いない。事実、キリトはボス戦闘という現実の問題を見続けることによって、心の動揺を抑えようとしているのだから。

 

 

 

 アスナという、自らの相棒(パートナー)であり、自分が知る中で最も美しい女性が、何故か自分の左腕に体を預け、目を閉じている。

 しかも、電車の中で寝てしまった女性が隣に座っていた見知らぬ人に寄りかかってしまった、という類のものではない。

 隣に座っている少女は間違いなく覚醒状態であり、彼女自らの意思で、隣に座っているのがキリトであるとしっかり理解しているのに、身体を預けてきたのだ。

 

 アスナに問われたことを、キリトは改めて考えてみる。

 

 トーラス王の雷ブレスが来る、それは着地前に理解していた。

 着地してすぐに回避行動、横っ飛びなどをすればキリトはブレスの射線外に退避することができただろう。命がかかったこのゲームで、最優先するべきは自らの命。つまり、自らのHPゲージであることに他ならない。

 

 あの時、キリトのHPゲージはグリーンであったが、限りなくイエローに近いグリーンだった。しかも、雷ブレスの直撃を食らえばどれくらいの体力を持っていかれるかわからない以上、必ず回避しなければならなかった。装甲が低めのキリトにとって、ボスの攻撃の直撃を食らえば一発で体力の半分が持っていかれる可能性は決して低くないのだ。

 

 だが、キリトはアスナの元に走った。

 

 結果的にキリトのHPはレッドまで落ち込んだものの、全損は避けることができた。

 しかし、物の見事に五割近い体力を持っていかれ、麻痺の状態異常も点灯した。あのまま王の追撃を貰っていたら、黒鉄宮(こくてつきゅう)の自分の名前に二重線が引かれていたであろうことは間違いない。そして、恐らくは自らの腕の中にいた少女の名前にも二重線が引かれていただろう。

 

 少し考えれば分かることだ。

 キリトは、自らの命のために、アスナを助けに行くべきではなかった。

 

 しかし、身体は勝手にアスナの元に駆けた。

 遠隔攻撃(ブレス)が来ると理解した瞬間、キリトが考えたことは彼女のことだ。

 

 位置を確認し、指示を出し、抱えて飛んだ。

 

 その時のキリトの頭の中には、自分の命のことなど欠片も存在しなかった。

 その思考の全てが、アスナに対して向けられていた。

 

 その理由が、キリトにはわからなかった。

 

 徹底した利己主義を貫かなければ、このゲームを生き残ることなどできない。

 だが、あの時のキリトは間違いなく、他者の為に動いた。

 

 今までも、彼女の命を救ったことはある。

 だがそれはあくまで、助けられるから助けただけだ。

 

 助けることでキリトが失うものもなく、自らの生存には全く関係ない。

 モンスターに囲まれた彼女を助けに入ったこともあったが、あれとて死ぬ可能性は低いと判断したからだ。キリトは徹底して、自分の命を最優先で動いてきた。

 

 だが、先ほどの行動は性質が違う。

 

 自らを盾にして、彼女をかばった。

 自らが死ぬ可能性が低くないにも拘らず、その行動をとった。

 

 死んでほしくないと思う。

 隣にいてくれるのなら、可能な限り守ろうと思う。

 だが、自分の命と引き換えにとまでは思っていなかったはずだ。

 

 決してしてはいけない行動だ。

 だが、身体は無意識にそれを選択し、その行動に対して後悔はなかった。

 

 麻痺もしているし、体力はイエロー。だが、彼女は生きている。そのことに安堵した。 

 

 アスナは変わらず、キリトの左腕に体を預けている。

 キリトもアスナも既に麻痺は回復している。動こうと思えば動けるのだ。

 

 しかし、キリトもアスナも今の体勢を崩そうとしなかった。

 

 キリトは、このソードアート・オンラインという世界の中で最も苛烈な戦場の片隅で、自らの左手から伝わってくる熱によって、安らぎを感じている。

 

 もしかしたら自分は、この安らぎを守るために、アスナの元に駆けたのかもしれない。

 

 彼女の横にいることで、何故このような感情を得ることができるのか。それはキリトにはわからなかった。しかし、極めて好ましいものであることは事実だった。

 

 

 

 右手から伝わってくる熱は、アスナの冷えた心を温めていく。

 

 あの瞬間、アスナの心は間違いなく凍りついた。

 

 バラン将軍に<<弦月(げんげつ)>>をヒットさせ、その反動で大きく上に跳ね上がったアスナが着地した瞬間に、右に跳べと叫ばれた。何故かは問わなかった。自らの目標である彼の表情は、あまりに切迫していた。指示に従う理由は、それだけで十分だった。

 

 高い位置からの着地の反動で、普段からは考えられないほどの力のない跳躍。

 

 どのくらい跳べばいいのかわからない。だが、その時の全力で踏み切ったのは間違いない。

 

 アスナが飛んだ後、キリトがこちらに駆け寄ってきた。自分に跳べと言っておいて、何故彼はこちらに向かってくるのか、アスナにはわからなかった。

 

 そして、アスナはキリトに抱きかかえられた。

 

 アスナの思考は驚愕と困惑に染められた。彼の表情は必死そのもので、その表情を見てさらに困惑した。一体何が起こっているのか、アスナにはわからなかったのだ。

 

 直後、アスナはキリトと共に閃光に呑まれた。

 

 アスナは彼に覆いかぶさるように倒れ込んだ。そこでやっと理解した。

 

 自分はこの少年に守られたのだ。

 

 それに気づいた瞬間、アスナの心は氷のように冷たくなった。

 

 どんな攻撃を受けたかはわからないが、何かしらの遠隔攻撃を受けたのは間違いない。

 

 バラン将軍に攻撃を加える直前、自分たちの体力はグリーンだった。アスナの体力はイエローまでは落ちているものの、二割程度しか減らなかった。しかし、自らをかばってくれた彼は体力を五割近く削られ、レッドゾーンまで減少していた。

 

 アスナとキリトの防御力は大して変わらないはずだ。つまり、本来ならアスナも五割近いダメージ受けていたに違いない。だが、キリトという障害物があったため、ダメージ量が軽減されたのだろう。

 

 アスナとキリトのHPゲージの横には麻痺の状態異常を示すアイコンが点灯している。

 体を動かそうにも動けない。攻撃が放たれた方向を見ることもできず、キリトの上に覆い被さるように倒れ込んだまま、アスナは時間が過ぎるのを待つしかなかった。

 

 その後、同じパーティーのエギルによって救出され、壁際に少年と並んで座らされた。

 

 アスナは彼に聞く必要があった。

 

 どうしてあなただけでも避けなかったのか。

 どうして自分の元に駆けてきたのか。

 

 どうして、わたしをかばったのか。

 

 アスナの何故という問いに、少年はわからないと答えた。その表情はごまかしているわけでもなく、本当にわからないのだという顔をしていた。

 

 嬉しいと、同時に、優しい人と、アスナは笑顔になった。

  

 感謝を言葉で述べるのは、少々恥ずかしかった。しかもまだ戦闘中なのだから、この後何が起きるかわからない。

 

 お礼を言うことは今すぐにはできないけれども、少なくともあなたのおかげでわたしは生きている。それを伝えるため、アスナはキリトの左手を握り、身を寄せた。

 

 

 

 一体どれくらいそうしていただろうか。

 

 麻痺はすでに解け、HPももうすぐ七割に届こうとしている。

 ポーションの回復量から考えると、恐らく時間的には二、三分のことなのだろう。隣に座っているアスナの体力はすでに全快しており、あと一分もすれば、キリトも前線に戻っても支障がない体力まで回復するはずだ。

 

 前線では王のHPゲージの一本目が削り切られようとしている。単体相手となったボスに対して、常に三班が対応し、それ以外のものが休めている状況。<<ナミング>>の回避も皆慣れたのかスムーズになされており、雷ブレスはネズハによる遠隔攻撃が完全に抑えている。

 

 完全にパターンが確立されている。あとは暴走モード次第ではあるが、四十八名中三十名がバックアップに回れるこの状況ならば、そう簡単に崩れることはないだろう。

 

 キリトの体力が八割を超えた。エギルには少し休んでいろと言われたが、体力が回復しているのに休んでいては文句の一つも出てくるに違いない。

 

「アスナ、そろそろ行こうか」

 

 キリトは左腕に寄りかかるアスナに声をかける。

 

「うん、そうね……」

 

 キリトの声に目を開けたアスナが、身体を元に戻す。

 左腕が軽くなり寂しさを感じるが、左手から感じる熱はまだ続いている。

 

「アスナ」

 

 左手の力を緩める。それに気づいたアスナも右手の力を緩め、一度手をほどくとキリトは立ち上がった。

 アスナも同様に立ち上がり、チラとキリトを見てから、ボスに向かい歩き出す。

 

「キリト君」

 

 それに続こうとしていたキリトは、前を歩くアスナの声に再び足を止めた。

 

「ボス戦が終わったら、話したいことがあるの……聞いてくれる?」

 

「ああ、実は俺もあるんだ。話したいこと。……ボスを倒して、三層に行って、そこで話そう」

 

 こちらを向かずにいうアスナの言葉に、キリトも同様の内容で答える。キリトもアスナに、アスナもキリトに話したいことがある。

 内容は、なんとなくわかる気がした。恐らく彼女も、キリトの話したいことがわかっているかもしれない。だが、すべてはボス戦の後だ。

 

 第三層に行けば時間の余裕ができる。

 第二層の扉の前で話したように、ゆっくりと話すことができるだろう。

 

 キリトの言葉に頷いたアスナが、再び歩き出す。キリトもそれに続いた。とにもかくにも、ボスを倒さなければ、何も話すことはできないのだから。

 

 

 

 戦線復帰したキリトとアスナを待ち受けていたのは嫉妬に狂った男たちの声だった。

 

「ボス戦中にいちゃつくとは……流石ブラッキー先生」

 

「噂はやっぱり本当だったのか……」

 

「リア充爆発」

 

「ボスよりあの黒いの倒した方がいいだろ……」

 

「いい情報が手に入っタ。ありがとナ、アーちゃん」

 

 攻略レイドの紅一点、美少女細剣使い(フェンサー)を少しの時間ながら独占したことは、独り身の男たちの怒りを買うに十分だったのだろう。

 

 同じパーティーのエギルも「休めって言ったが、ご休憩って意味じゃねぇぞ」と笑いながら言ってきたので、先ほどの光景をしっかりと見られていたことを認識したキリトは顔を赤くする。軽口を叩く余裕があるのは良いことなのだが、その矛先が自分たちだとそうも言っていられない。

 

 こんなに冷やかされてアスナは大丈夫だろうかと、キリトは定位置に戻って再びフードを被っている彼女の表情を窺った。

 

「……」

 

 アルゴにしっかりとからかわれたアスナの顔は真っ赤ではないにしろ、そこそこの赤さだ。口元に力が入っているので、何か言いたいことがあるのだろうが我慢しているのだろう。

 

 キリトの視線に気づいたのか、アスナがこちらを向く。その眼は中々の鋭さを持っており、藪蛇を恐れたキリトはサッと視線を逸らし、何事もなかったようにボスに視線を向けた。

 

 戦況は順調。前衛の体力も万全。体力ゲージも二段目がもうすぐ五割といったところだ。

 

 前衛がこれほど耐えることができるなら、POTローテの時間も十分だろう。指揮する側もかなり気が楽なはずだ。

 キリトはその前衛の要を担っているブレイブスに視線を向ける。デバフ耐性がついた装備で、王の<<ナミング>>をものともせず、ひたすらに攻撃を加えている。強力な武器から繰り出される攻撃は、着実にボスの体力を削っていく。攻撃隊よりも壁隊の彼らの方がダメージ量が多いという時点で、その異質さがわかるだろう。

 

 惜しいと、キリトは思う。

 

「結局戦線を支えているのは彼ら……カ」

 

 アルゴの言葉に、頷く。

 ブレイブスの面々は気持ちのいい奴らだった。共に戦うに申し分なく、十分な連携を取れる者たちだ。だからこそ惜しい。

 

 このボス攻略が終わると同時に、彼らの攻略組での短い活躍は終わりを告げるのだから。

 

「B隊後退! G隊前へ!」

 

 リンドの指示と共に攻撃隊のスイッチが行われ、キリト達が王の左側から攻撃を開始する。

 

 王の真正面でターゲットを取り続けているブレイブスは、体力はじわじわ削られているものの、その減少速度は他の(タンク)部隊とは比べ物にならないほど遅い。

 

 一方、王の体力ゲージはキリト達が前衛に出ることで減少速度を加速させる。

 この調子ならば、スイッチがあってもあと二回。それで、ボスの体力を削り切ることができるだろう。

 

「このまま終わると、癪ね」

 

 別の攻撃隊にスイッチし、ポーションを飲んで一息ついてから、アスナが話しかけてきた。

 確かに、このままでは王との戦いでいいところがまるでない。ネズハもブレイブスの一員だとすれば、戦線を支えているのもブレイブス、ブレスの妨害もブレイブスと、完全に良いとこ取りされてしまう。

 

「タイミングにもよるけど……少しだけ、抵抗してみるか」

 

「抵抗?」

 

 キリトの言葉に疑問を浮かべたアスナがこちらを見る。

 

「と言っても、派手に見せるだけなんだけど」

 

 キリトはにやりと笑うと、アスナのフードを少し持ち上げ、その奥の耳に(ささや)いた。

  

「ふふ、乗ったわ」

 

 キリトの提案を聞き、アスナはにっこりと笑うとフードを直した。

 アスナの答えにニヤリと笑う。スイッチのタイミングが良ければという条件が付くが、狙ってみるのも悪くないだろう。

 

 

 

 しばらくして、機会は訪れた。

 

「G隊前進! 終わらせてくれ!」

 

「なんや! またあいつらに持ってかれるんか!」

 

 リンドとキバオウの声に、G隊が前進する。

 二人が狙うはただ一つ、ラストアタックボーナスだけだ。

 

 王の体力は最終ゲージの残り一割を切っている。暴走モードに入りその攻撃は荒ぶりを見せているが、攻撃回数は多くなった分単調になった。

 王の左側面に回ったキリトとアスナは接敵後即座にソードスキルを発動、一撃を与える。その後の腕の振り下しをスイッチで前に出たエギル達が受け止めた。右側面、そして正面でもソードスキルがヒットしており、王の体力は残り数ドットというところまで減っていく。

 

「よし、アスナいくぞ!」

 

「了解!」

 

 決めるべき時が来た。

 キリトはアスナに合図し、一気に王の真下に入り込む。そして二人は飛び上がり、全力の突き上げを王の喉仏に叩き込む。

 

 弱点ではないものの、顔を突き上げるような一撃に王はたまらずノックバックする。そして、王の額が完全に無防備になった瞬間を狙い、突き上げられた王の顔近くまで飛んでいた二人は<<弦月(げんげつ)>>を繰り出す。

 

 王の足元では地上にいる者たちがソードスキルを繰り出している。そのおかげで王の体力は残り数ドット。しかし、空中に浮かんだキリトとアスナが、弱点に対して追撃を行えるわけがないと、誰もが思っただろう。だが二人はこのためにソードスキルを残しておいた。

 

 空中で再び予備動作を取り、突進系ソードスキル<<ソニックリープ>>と<<シューティングスター>>を発動させる。

 

「これで!」

 

「終わりよ!」

 

 二人の狙いは一つ。大きく仰け反った王の喉仏のその先、弱点である額に向かって、二人は空中で急加速した。強烈な一撃と神速の五連撃が王の喉仏を貫き、額に到達する。

 

 直後、突然の登場で攻略隊を絶望に突き落とした<<アステリオス・ザ・トーラスキング>>は、大きな破裂音と共に、ポリゴン片となり爆散した。

 

 

 

 第三層に向かう螺旋階段。

 階層を繋ぐ塔の外周に設けられたそれを、アスナは塔にしっかりとくっつきながら歩いていた。

 

 高いところが苦手というわけではない。だが、この階段は明らかに悪意があった。

 高所でありながら外に露出しているため風が強い、それなのにこの階段には外周に手すりがないのだ。もし強風に煽られ落下死などしてしまったら、先ほどまでの命がけの戦いはなんだったのかという話になる。

 

 だからこそアスナはしっかりと塔に手をつきながら、絶対に離れないように階段をゆっくりと登っていた。そしてそれは前を歩く黒づくめの少年も同様だ。

 

 本来ならばボス攻略に参加した者全員で、次の階層の転移門を有効化(アクティベート)しに行くのだろう。しかし、今回は――いや、今回もというべきか――キリトとアスナが先行して第三層へ向かっている。

 

 原因はボス攻略後に行われたブレイブスの糾弾、そしてその被害の補償の為の突発的オークションが開催されたためだ。

 

 ボス戦攻略後、ネズハが自ら強化詐欺を自白したことで、当然のようにその賠償を求める声が上がった。その流れでネズハの処刑までいきかけた所を、ブレイブスの面々が関与したと自白し、同様に裁きを受けると申し出たのだ。

 ネズハ一人なら殺されていたかもしれない。しかし、一気に六人ものプレイヤーを処刑するわけにはいかず、リンドの判断によって金銭での賠償ということになり、彼らの装備や手持ちのコルなどを供出させた。

 

 結果的に誰一人死者も出ることなく問題は解決した。しかし、攻略レイドの中で一人だけ、妙に責任を問う声を出し続けていたものをアスナはしっかりと記憶した。

 何故ならその声は間違いなく、第一層ボスの攻略後に、今前を歩いている少年を<<ビーター>>として糾弾する原因となった男の声だからだ。

 

 その男はALSに所属している。最終的にはキバオウに威圧されて口を閉じたが、今後もああいった声を上げ続けるのであれば、キバオウやリンドにも一言伝えておいた方がいいかもしれない。尤も、彼らもすでに把握しているのであろうが。

 

 アスナは目の前の少年を窺う。

 黙々と階段を登っていくその後ろ姿を見ながら、アスナは先程の出来事を思い出す。

 

 ネズハが処刑されようとしている時、アスナはそれを止めるべく剣に手を掛けようとした。しかし、アスナの隣で黙っていたキリトがそれに反応し、剣に手を掛ける寸前に右手を掴んだのだ。

 

「君は動くな」

 

「何故? あなたはあれを黙って見てろと言うの?」

 

 アスナはキリトを睨んだ。

 そして、その右手が背負われた剣に手が伸びていることに気づく。

 

「動くのは、<<ビーター>>の俺の仕事だ」

 

 その言葉は重く、その表情はアスナを一瞬怯ませるほど冷たかった。

 

 結局キリトが動く前にブレイブスが動いたことで、キリトが動く必要はなくなったが、その手が剣から離れるまでアスナは心を落ち着かせることができなかった。

 

 <<ビーター>>の役割を、自分で納得した上でやっていると、彼はそう言っていた。

 

 しかしアスナは、それを少々疑問に思っていた。

 

 彼は本当に納得しているのだろうか、自分のためにやっているのだろうか。

 アスナはどうしても、彼が自己犠牲に走るきらいがある様に思えた。

 

 <<ビーター>>の汚名も、ネズハの処刑を止めようとしていた時も、そして、自分をブレスから庇った時も。

 

 彼は他者が動く前に自分が動く。自分のためという理由を盾に、誰にも反論させない。そして、結果的に自分を傷つける。

 

 アスナは彼に助けられた身だ。自身の短慮が原因で彼に汚名を着せた事実もある。彼を助けることもあったが、それでも受けた恩を返すには程遠いだろう。

 

 だからこそ、アスナは彼に聞きたいことがあった。

 

 彼は恐らく、これからずっと同じような行動をしていくに違いない。

 そのたびに彼は傷つき、疲弊し……いつの日か、擦り切れてしまうのだろう。

 

 精神を壊した人間がこの世界でどうなるか、アスナは嫌と言うほど理解していた。

 

 彼が死ぬところなんて見たくない。

 第一層で彼がアスナに言ったのと同じように、アスナもまたキリトに死んでほしくないのだから。

 

 第三層へ繋がる扉が見える。

 あれを開ければ、新エリアが目の前に広がっているだろう。

 

「よし、着いたな第三層。……この扉を開けて、景色を楽しんだら、少し話をしようか」

 

「……うん、そうだね」

 

 アスナが話したいことがあるのと同じように、キリトも話したいことがあると言っていた。

 その話の内容は、恐らく二人の関係に大きく影響するものだろう。

 しかし、一度話しておかねばならないのだ。パートナーとして共に戦ったこの十日間、その決算をしなければならない。

 

 キリトが扉を開く。

 アスナはそれに続いて、第三層に足を踏み入れた。




キズメルさんの出番を少なくすればきっと展開も早まるはず……!
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