Re:SAO   作:でぃあ

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遅くなりました大変失礼を。
ご感想、誤字報告毎度ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

お風呂~武器強化まで

二回目のオーディナルスケール見てきまして、入場特典の公式ネタバレ本貰ってきました。SAOの書き手さんはぜひ確保するのがよろしいと思います。設定って大事。


第十五話

 風呂が用意されている天幕の外、その入り口の前でキリトは座り込んで、入浴中であるアスナの護衛のようなものを行っていた。

 

 じっと目を閉じ座り続けているキリトであるが、その心は大いに揺さぶられていた。

 

 しゅわん、しゅわん、ちゃぽん、はぁ……、という四連撃はキリトの精神を大いに削りはしたものの、そのゲージを空っぽにするには至らなかった。

 尤も、ゲージが空っぽになった後に起こるであろう事態は、視界の左上にあるもう一つのゲージを空っぽにすること疑いない。

 

 今キリト達がいるダークエルフの野営地は<<圏外>>。クエスト進行時に発生する<<一時的空間(インスタンス)>>であるため、パーティー外のプレイヤーと遭遇することはないものの、攻撃を受ければ当然のように体力は減っていく。

 

 キリトは今入浴中の少女をオレンジ(犯罪者)プレイヤーにしないためにも、天幕の中から聞こえてくる精神攻撃に耐え続ける必要があった。

 

 日は完全に落ち、天幕の前に設けられた篝火(かがりび)が野営地を照らしている。その規模はさして大きいわけではないが、NPCが生活する天幕の他に、道具屋やプレイヤーの装備を修理するための店がしっかりと設置されている。

 

 当分はここが拠点になるだろう。ベータテストの知識では、主街区<<ズムフト>>よりも腕のいいNPCがそろっているし、ポーション類もここで購入できるもので十分賄える。

 

 問題は入浴中の少女と一つ屋根の下で泊まることになるわけだが、彼女がいいというのだから気にする必要はないのだろう。

 

 ふぅ、と一息吐く。

 

 天幕の中から聞こえてくる精神攻撃は留まることを知らず、無理矢理別のことを考えていたキリトの頭に水音や機嫌の良さそうな鼻歌を届ける。

 

――辛いです。

 

 キリトの現在の状況は、この一言に尽きた。

 しかし、悶えるわけにもいかず、キリトは座禅のようなポーズをとることで精神の集中を行おうとするも、当然それは不可能であった。

 

 キリトに対する精神攻撃は、天幕の中からの問いかけがあるまでの二十分間、続くのであった。

 

 

 

 午前二時。大体七時間は寝たことになるだろうか。

 

 すぐ隣で寝ている相棒(パートナー)を起こさないように注意しつつ、キリトは身体を起こした。

 細剣使い(フェンサー)の少女はぐっすりと眠れているようだが、その更に奥、天幕のストーブの傍で寝ていた家主のキズメルがいないことに気付いたキリトは、物音を立てないように注意しつつ天幕を出た。

 

 夕方に聞こえたエルフの兵士たちの声や鍛冶屋の鎚音(つちおと)は聞こえず、耳に届くのはかすかな虫の音だけだ。

 

 さてキズメルはどこだろうかとキリトは周囲を見渡すも、動いているのは二人の歩哨だけ。

 天幕の外の篝火(かがりび)はほとんど消されているため、天幕の中に入るわけにはいかないだろう。ならばと、キリトはこの野営地でまだ確認していない場所である、司令部天幕の更に裏手の空き地に向かった。

 

 しかし、ベータテストの時はただの空き地であったそこには三つの墓標が並べられており、その墓標の一つの前に、キリトが探していた人物が座っていた。

 

「キリトか、しっかり休まないと明日が辛いぞ?」

 

 すでにキリトに気付いていたのだろう。キズメルが肩越しに声をかけてきた。キリトは数秒迷ってから、キズメルの横まで進んだ。キズメルの前の墓標には<<Tilnel>>という文字が刻まれているのがわかる。

 

「ティルネル……さん?」

 

「ああ、双子の妹だ。先月、この層での戦いで命を落とした」

 

 その言葉は、キリトを困惑させた。 

 先月。つまりキリト達が第一層で戦っていた時に、キズメルの妹は命を落としたということだ。

 

 キズメルの妹のティルネルは薬師だったという。後方部隊で支援を行っていたが、森エルフの鷹使いに急襲され命を落とした。

 

 困惑で立ち尽くしていたキリトに座るようすすめたキズメルは、地面に腰を掛けたキリトに革袋を差し出した。

 その栓を開け一口(あお)り、革袋を返す。革袋を受け取ったキズメルは、曰く月涙草(げつるいそう)のワインであるらしいそれを、キズメルが目の前の墓標にかけていく。

 

 あまりにも具体的な説明。そして、横の女性の表情と行動。

 まるで本当にあったかのように語られる出来事。今キリトが話しているダークエルフの剣士はNPCのはずだ。なのに、何故彼女の話に、このように感情を揺さぶられるのか。

 

 城から隠して持ってきたのに、結局一口も飲ませてやれなかったと、キズメルが膝を抱えながら言った。

 

 キリトにはもう、目の前の女性がNPCには見えなかった。

 彼女は問いに定型文で答えるような、従来のNPCではない。この世界で生き、戦い、そしてその結果の妹の死を(いた)んでいる。それはどこからどう見ても、自分たちと同じ感情を持っているように思えた。

 

「ところで、昨日何かあったのか? 食事の後天幕に戻ってきたとき、アスナと微妙な雰囲気が流れているように思えたが」

 

 だからだろうか、彼女のこの問いに、キリトは素直に答えてしまった。

 

「昨日、アスナに『ずっと一緒にいてくれるの?』って聞かれたんだ。それに、俺は何も答えられなかった」

 

「……そうか」

 

 そう、キリトは答えられなかった。

 彼女の言うずっとがどういう意味を持つのかはわからない。ただ、それなりに踏み込んだ質問であることは間違いなかった。

 彼女の言う目標が達成されるまで一緒にいるということなのか。それとも、これからもパーティーを組み続け、共に戦い、クリアするその日まで一緒に居ようということなのか。

 

 前者ならば、すぐに答えられた。しかし、もし後者ならば……。

 

「……人族も、厳しい戦いを続けていると聞く。我らと同じように、お前たちも明日生きているかわからない。そのような状況に置かれているのだろう」

 

 キズメルの言葉に、キリトは黙って頷いた。

 明日生きているかわからない。茅場晶彦によって作り出されたデスゲームに囚われた者たちは、皆等しく死の淵に立っている。自らの力で進もうとしている者たち――特にキリトやアスナのように最前線に立ち続ける覚悟を持った者たちは、常に死と隣り合わせなのだ。

 

 だからこそ、ずっと一緒にいるという言葉に答えることはできない。

 例え一緒に居たいと言っても、次の瞬間に離れ離れになる可能性があるのだから。

 

「お前の考えも、何故答えられなかったかも大体は理解できる。だが……」

 

 キズメルはそこで言葉を止め、キリトに視線を向けた。

 その表情は真剣で、そして悲しげだった。

 

「伝えたいことは、伝えたほうがいい。……伝えられなくなる、前に」

 

「そう……だな」

 

 その通りだと、キリトは思う。

 死んだ者に想いを伝えることはできない。どれだけ感謝したくても、どれだけ寂しいと言いたくても、それを伝えることはできないのだ。

 それをキリトは身をもって理解していた。

 

「彼女と……アスナと出会って、まだ半月しか経ってないんだ」

 

 たった半月。アスナと話すようになって、まだそれしか経っていない。

 

「でも、死なせたくない。アスナは恩人なんだ。孤立する道を選んだ俺を見捨てることなく、ついてきてくれた。俺といれば不利益になるはずなのにな。……甘えかもしれないけど、一緒にいてほしい。だけど、彼女を守りきると言えるほど、俺は強くない」

 

 キリトはアスナに救われた。自らのエゴで選んだ孤独から、無理矢理引っ張り出してくれた。

 その恩を返すために、彼女が望む限り一緒にいたいと思う。しかし、彼女と共に在るということは、これからも彼女が死にそうになる場面を見続けるということだ。そして、その最期の瞬間を見ることにすらなるかもしれない。

 

 そのような場面を作らせないための強さを、キリトは持っていなかった。

 

「……不器用なのだな、キリトは」

 

「あんまり、人付き合い得意じゃないんだ」

 

 キズメルの言葉に、キリトは苦笑いで答えた。

 どうしても、他人との距離感を掴むことができない。キリトは本音を口に出すことが苦手だった。自らが望むことを口にして、相手の迷惑になるのが嫌だった。

 

「強さが足りないのは仕方ない。だがそれでも、大切な人に大切だと言って罰が当たることはない。……アスナのことが大切なのだろう? キリト、お前はちゃんと伝えておけよ」

 

 そう言って、キズメルが立ち上がる。

 本来ならばキリトも立つべきなのだろうが、もう少しだけこうして座っていたい気分だった。

 

「大切……そう、アスナは大切な人……だな」

 

「ふふ、それでいい。ちゃんと伝えてやれよ。……私は天幕に戻る。まだワインが残っているから、これを飲み終わったら戻ってくるといい」

 

 キリトに革袋を渡し、キズメルが去っていく。

 

 大切だと伝える。今すぐそれを言う勇気を、キリトは持てなかった。

 

 情けないことだと、キリトは苦笑いする。

 革袋の栓を開け、ワインを喉に流し込む。そこそこに強い酒精が喉を焼くが、(むせ)るほどではない。ソードアート・オンラインで酒に酔うことはできないのだが、こういう気持ちの時に酒を飲むのは悪くない。

 

 晩酌とはこういうものかと感慨に浸りつつ、キリトは革袋を傾けた。

 

 

 

 天幕に戻ると、熟睡していたはずのアスナがフル装備で待っていた。

 

 何事だろうとアスナを見ると、顔を真っ赤にして後ろを向いた。顔を手で覆っており、つい最近見たような格好だ。

 その様子を見た――こちらも同様にフル装備の――キズメルがアスナに近寄り、コソコソと何か話している。

 

 本当に何がなんだかさっぱりわからなかったが、問題は解決したらしい。

 顔に赤さを残しつつも、アスナがこちらを向いた。

 

「キリト君、しっかり休めたから出発しましょう! 今は無性に暴れたい気分なの!」

 

 物騒なお姉さんだと思う。

 

 時刻は午後三時。夜はモンスターの強さが上がるため、本来ならばあまり活動するべき時間ではない。しかし、どうやらキズメルもついてきてくれるようだ。

 

 ならば戦力的に問題はないと、ストーリークエスト第二幕<<毒蜘蛛討伐>>の攻略に向かった。

 

 噛み付きによって<<毒>>の状態異常を与えてくる毒蜘蛛の巣に突入し、エルフの偵察兵の遺品を回収、キバオウ率いるALSのパーティーと遭遇しかけるアクシデントはあったものの、彼らを追いかけてきたダンジョンボスを撃破してクエスト要件を満たした。

 

「わたし、こういう天然系のダンジョン好きじゃないわ……。あの人たちもなんでこんな場所に来たのかしら」

 

 迷宮区などの人工的なダンジョンは各所に照明が設置されているためそれなりの明るさがあるものの、天然系のダンジョンは明かりがあってもせいぜいが固定された篝火(かがりび)。この毒蜘蛛の巣では蛍光コケがかすかに光っている程度で基本的には暗い場所が多い。

 

 必然明かりが必要になるため松明などを持ち込むことになるが、松明自体も装備品扱いになるために突発的な遭遇戦での対応が難しい。よって、クエストのキーポイントなどの理由がない限り天然系ダンジョンには入らないのが無難なのだ。

 

 それでもALSの面々がこの場所に来た理由、それは<<ギルド結成クエスト>>に関連しているからだ。

 

「なるほどね。じゃあ下手に留まってると、ALSじゃなくてDKBの人たちとも会うことになりそうね。……面倒だから、さっさと戻りましょう」

 

 キリトの説明を受けたアスナは心底面倒といった体だ。

 尤もキリトも同じ意見であるため、早々に毒蜘蛛の巣を後にし野営地に戻った。

 

「派閥争いがあるのは、どこの種族も同じようだな」

 

「ってことは、やっぱりダークエルフにも?」

 

「ああ。私が所属している騎士団も色々とあってな。全く面倒なことだ」

 

 帰還の道中、キズメルとアスナが種族内の派閥争いについて語っている後ろで、キリトは遠からず結成されるであろう二つのギルドについて考えていた。

 

 キバオウが中心のALS――<<アインクラッド解放隊>>は、生存しているプレイヤー全員の底上げを狙う組織だ。一方、リンド率いるDKB――<<ドラゴンナイツ・ブリゲード>>は攻略に主眼を置き、自己の強化に重点を置く組織だ。

 

 遠からず、衝突するだろう。

 

 キリトはそう確信していた。

 思想があまりにも違いすぎる。手に入れた物を皆で分かち合うか、自己で確保するか。全体の生存という面ではALS、攻略という面ではDKB。どちらの言い分も正しいがゆえに、相容れない。キバオウとリンドの個人的な仲は悪くないようだが、組織のリーダーとしての話は別になるだろう。

 

――ベータテスターとビギナーの間の問題の次は、ギルド間の問題か……。

 

 キリトは溜息をついた。 

 人間三人いれば派閥ができるとは言うが、このゲームはどうも人間間の争いが多い気がしてならない。実際に命がかかっているのだから、ある程度シビアになるのは仕方ないとはいえだ。

 

 現状ALSとDKBの仲が悪いという話は出ていない。このまま上手くいってくれればよいのだが、もしダメなときは手段を講じる必要があるだろう。

 

 一番簡単なのは、第三勢力になれるような集団ができることなのだが。

 

「ちょっとキリト君」

 

 と、そこまで考えて、突如かけられたアスナからの言葉に思考を止める。

 

「溜息ついて難しい顔して、何が考えてたの?」

 

 アスナは(いぶか)しげな表情をしている。

 キリトは回答に迷った。そもそもがキリトの予想の話であるし、結論が仲良くして欲しいという本当につまらないものだ。

 

「キリト。下手に悩むよりは、話してみてもいいと思うぞ」

 

「そうよ。あなた一人で考えてたら沈んでいくタイプでしょ? いいから話してみなさいな」

 

 そう言われてもと、キリトは頬掻いた。

 

「いや、話すほどのことでもないんだがなぁ……」

 

 本当に大したことではないのであるが、どうやらこの返答は細剣使い(フェンサー)様のお気に召さなかったらしい。アスナの表情が険しくなっていくのを感じ、キリトは咄嗟に冗談を口にした。

 

「い、いや、その、お嫁さんにするならどっちがいいかな……なんて……」

 

 この世界にリセットボタンはない。

 キリトは数秒前の自分を殴りたい衝動に駆られるも、それは当然不可能である。目の前の女性二人は片や顔がどんどん赤くなっており、片や「ふむ」と考え込んでいるようだ。

 

「な、何言ってるのよバカッ!」

 

「それは女王陛下のお許しがないと難しいな」

 

 キズメルが何かしてくることはないと思ったが、<<リニアー>>くらいは覚悟した。しかし、どうやら人生のリセットボタンを押されることはないようだ。

 

 アスナは顔を赤くしたままずんずんと進んでいく。悪いことをしたなと思ったが、うやむやにできたのだから問題あるまい。いや、無くはないが、少なくとも今、ギルドがどうこうという必要はないのだから。

 

 キズメルがこちらを見て、やれやれといった体で一息吐いたが、何も言わずにアスナを追って歩いていく。

 プレイヤーの思惑を完全に見透かすNPC。恐ろしい。ひょっとして中に人でも入っているのではないかと思わないでもないが、自分たちの名前を伝えたときに発音の確認をしていたから、それはあるまい。

 

 ベータテストとはあまりにも違う、いや、いっそ別物といってもいいAIだ。

 もうここまで来ると、ベータテストの時の知識がどれだけ通用するか怪しいものだ。

 

 実際、既に前提条件が違っている。

 キリトがベータテストでこのクエストを進めたとき、このキズメルと言う女剣士は最初の森エルフとの戦いで相討ちになるはずだった。しかし、正式サービスではこうしてパーティーを組み共にクエストを進めている。レベルこそキリトと同じ15ではあるが、彼女はエリートモンスター扱いのため実力はレベルよりはるかに上だ。

 

 そのおかげで、コンビでもサクサクとクエストを進めることができるわけだが、これがこのクエストの正しい挙動なのかわからない。今後キリトがわからない展開にもなる可能性はある。

 

 ストーリークエストはベータテストでは第九層までだった。正式サービスでも同じかどうかはわからないが、大きく変わることはないだろう。ならば彼女との付き合いは、長くても第九層までということだ。

 

――道が分かれるその時まで……なんて、格好つけすぎか。

 

 彼女をどうこうしようという考えなどキリトにはない。

 彼女は明らかにNPCを超え、個人的な感情を持っているかに思える。そして、キリトとアスナに対し好意的だ。ならば共に行動できる間はした方がいい。

 

 まあこちらは焦って考える問題ではないだろうと結論付け、前を進む二人の後に続いた。

 

 

 

 野営地でクエストの報告を行い、今までより容量の大きいベルトポーチを報酬として受け取った後、キズメルと一時別れたアスナはキリトと共に鍛冶屋の前に向かっていた。

 

 本来睡眠をとる前に武器の更新を行う予定だったが、素材を十分に集めてからにしようということで毒蜘蛛討伐のクエストを先に行った。

 クエストを終え野営地に戻った頃には夜もすっかり明け、朝日が照らしている。当然NPCも動き出しており、鍛冶屋の天幕からも鎚音が聞こえてくる。

 

 <<ウィンドフルーレ>>から次の武器へ。

 今の武器をインゴットにして次の武器の素材にするという話をキリトから聞かなければ、この更新を渋ったに違いないだろう。

 しかし、武器の強化が必須であることは理解していたし、アスナ自身も武器の貧弱さを自覚していた。

 

 武器に魂が宿るかはわからない。だが、共に戦ったことはアスナ自身が覚えている。きっと次の武器も自分を助けてくれると信じて、アスナはエルフの鍛冶師に武器を預けた。

 

 お願いしますと、相手がNPCだとわかっていてもあえて頭を下げた。それが今まで自分に尽くしてくれた武器への礼儀であり、またそれを扱ってもらう相手への礼儀だとも思ったからだ。

 

 <<ウィンドフルーレが>>炉に入れられ、インゴットに変わる。受け取ったそれを、狩りで得た素材と共に再び鍛冶師に渡して、武器の作成が始まった。武器の作成は失敗することはないと事前に聞いていた。しかし、どういったものになるのか不安であったアスナは、再びバフを求めた。

 

「キリト君、バフ頂戴」

 

 そう言って、アスナはキリトの左手を握る。

 右隣にいるキリトは一瞬だけアスナを見たものの、すぐに視線を鍛冶師に戻しアスナの右手を握り返してきた。何も言わずに握り返してくれたことにアスナは少しだけ笑みを浮かべるも、すぐに表情を戻した。

 

 振り下ろされるハンマーの回数はどんどん増えていく。二十回、三十回と回数を重ねていくにつれ、右手に伝わる力が強くなる。

 

 そして、四十回目が振り下ろされた後、光が収まっていき白銀に輝く刀身を持つ細身の剣が姿を現した。

 

 <<シバルリック・レイピア>>。強化可能回数がこの階層では脅威の十五回を誇るその武器は、鍛冶師の「良い剣だ」という言葉と共にアスナに手渡された。

 <<ウィンドフルーレ>>より明らかに重い。しかし、今のアスナにとってはまさにちょうど良いと思える重さだった。攻撃力や攻撃速度は<<ウィンドフルーレ>>の比ではなく、間違いなくアスナの主武器(メインアーム)として頑張ってくれるだろう。

 

主武器(メインアーム)完成おめでとう。<<ウィンドフルーレ>>はきっと、その中で生きているとは思うんだけど……」

 

「うん、わたしもそう思う。……ありがとう。この子となら、きっとまた戦っていけるよ」

 

 アスナはウィンドウを操作し、<<シバルリック・レイピア>>を装備した。すると、右側から「おお……」という声が上がる。視線をキリトに向ければ、腕を組み感心したようにアスナを見ていた。

 

「どうしたの、急に」

 

「いや、その……女の子にこんなこと言うのは失礼かもしれないんだけどさ……」

 

 キリトが頬を掻きながら視線を逸らした。失礼ならば言わなければいいのにと思わないでもないが、ここで止められては逆に気になるとアスナは視線で続きを促した。

 

「えーっと、その剣だけど……すごく、似合ってます。はい」

 

 言葉の意味を理解した瞬間、アスナの顔は赤くなった。

 

――この人は本当に、変な時に、急に素直になるんだから……。

 

 本当に目の前の少年は、アスナの心を簡単に揺らす。

 

 毒蜘蛛クエストに出発する前、キリトが天幕の外に出ていき、キズメルもいないことに気付いたアスナはこっそりとキリトの後を追った。

 追った先には墓場があり、悪いと思いつつも木の陰でこっそりと話を聞いていたが、その最後の一言はアスナを動揺させるに十分すぎる物だった。

 

 直球過ぎた。余りにも直球過ぎた。

 

――何? 何なの? た、大切って、急に、そんな……。

 

 嬉しいやら恥ずかしいやらでパンク寸前となったアスナは、混乱した思考のまま天幕に戻った。そして、何を思ったかいつも通りにしようと意識した結果、何故かフル装備で天幕の中に立っているという妙な状況になった。

 

 先に戻ってきたキズメルにくすくすと笑われ、次いで戻ってきたキリトを見た瞬間に先ほどの彼の言葉を思い出してアスナの頭が再沸騰しかけるものの、キズメルの「あまり過剰に反応してはバレるぞ」という言葉に多少は冷静さを取り戻した。尤も、何かしていないとまた沸騰しかねないと判断したアスナは、戦いを望み若干キリトを怯えさせたのはご愛嬌であろうか。

 

「あ、ありがとう……。その、君も今更新するんでしょう?」

 

 そういうわけで一旦治まったはずの恥ずかしさを隠そうと努力しつつ、アスナは話を進めた。

 

「ああ、ここで更新するよ。正直<<アニールブレード>>も最大強化すれば第四層くらいまでは通用するんだ。だからもうちょっと先延ばしにしようかとは思ってたんだけど、ちょっと早めに強い武器を持っておきたいってのもあってさ。それに……君の武器を見て、俺も武器の魂ってのを信じたいなって」

 

 キリトはアスナの腰に差されたレイピアに視線を向けた。それを見て、アスナは柄を軽く握る。

 

「そうね。実際にはそういったものはないのかもしれないけど、そう考えたほうが、剣のことを大切に思えると思うもの」

 

「大切……か。うん、そうだな」

 

 その言葉で決心したのか、キリトが鍛冶師に剣を渡した。アスナ同様に頭を下げて剣を手渡したキリトを見て、軽い嬉しさを感じながら、アスナはキリトの横に立ちキリトの左袖を軽く引っ張った。

 

「ねぇ、バフ……要る?」

 

 アスナの言葉を聞いて、キリトが無言でアスナの右手を握ってくる。キリトの頬が赤くなっているのを横目で確認した後、アスナはキリトの左手を握り返した。




次回はどこまでいくのかなぁ……

アスナさんの豊満なバストの記憶が残っている内にどんどん書こうと思います。
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