船造り終了~アスナの防具更新まで
話は進まず。
原作ではキリト君がクリスマスを忘れていますが、廃ネトゲプレイヤーがクリスマスを忘れるわけがないと思うのでこんな感じに。
東の空から顔を出した太陽によって赤く照らされ、建物の色が白で統一された白亜の街は昼間のそれより暖かく感じる。
水面に輝く太陽と、水路両横の白い壁に反射した光を右手を目の上にかざすことで遮りながら、アスナは自らのものになったゴンドラ――ティルネル号――で西のメインチャネルを街の中央部に向けて進んでいた。
船体は艶やかな光沢のアイボリーホワイト、
これを作ってくれたロモロも、受け取りの際に「満足のいく船造りができた」とあごひげをさすりながら満足そうに語っていた。
残念なことに船を操作するゴンドリエーレが操船など経験したことがないであろう黒の少年であるため、乗り心地は最高級とはいかずに昨日乗ったNPCが船頭のゴンドラよりは若干揺れが大きいようにも思える。それでもアスナが楽しむには十分で、両手を広げて風を感じながら船の後方で
「気持ちいーい! このまま町の外まで行こうよ!」
「も、もうちょっと操船の練習させてもらってもいいですかね! このままだと事故る。マジで事故る」
キリトの操船は確かに
「何にせよ夕方には町の外まで行かないといけないしさ、もう少しだけ付き合ってください」
「うん。ゴンドラに乗ってるの楽しいから、多少時間かかってもかまわないわよ?」
<<昔日の
戦闘ということになれば当然船の上で戦うことになるだろうし、船同士で戦う可能性すらある。
その根拠となったのは、このティルネル号の船首水線下に取り付けられた衝角の存在だ。マグナテリウムの角を素材として作られたそれは完全に戦闘用の装備で、船のオプションとしての衝角が実装されている以上、船をぶつけてダメージ与えるような機会があるとしか思えない。
船首に取り付けられた衝角を活用するには敵に正面からぶつかる必要があるため、どうしても操船の技術がある程度は必要になるのだった。
それを理解しているのであろう、キリトは至極真面目に操船を行っている。しかし、慎重に
「ちょっと、そんなに眠いなら先に休憩してもいいんじゃないの?」
「ん? んー、そうだなぁ……。夕方までは時間あるし、その方がいいかなぁ……」
どうやら余程眠いのだろう、キリトの返答からは出航時にあった緊張が失せている。確かに、操船とはいえ前進しているだけなら
「その方がいいわよ、絶対」
「じゃあ、先に一休みしますか……」
アスナの勧めにキリトは素直に頷き、宿屋に向かうと決まったことで多少気が抜けたのか再びあくびをする。ゴンドラは水上を進んでいる以上ある程度の揺れがあり、その揺れがまた絶妙に眠りを誘う揺れなのだ。ロモロの家で三時間程度の休憩を取ることができたとはいえ、昨日のハードなスケジュールを考えるととても十分な休憩時間とは言えない。必然、アスナも睡魔に襲われて頭がふらふらと揺れてくる。
休憩を取れたアスナでさえこの状況なのだから、キリトの状態は推して知るべしというものだ。
どうやら船ができるまでの三時間、キリトはアスナが使っていた揺り椅子をずっと揺らしていたらしい。どうして寝なかったのかと言いたい気持ちもあるが、本来キリトと半分ずつ使う予定だった揺り椅子を独占してしまったのは自分である以上、怒るのはどう考えても理不尽な話だろう。もちろん、アスナとて寝返りを打ったのに気付いてすぐに起きようとした。しかし、それを止めたのは彼の行動が原因だ。
毛布を掛けるだけならまだいいが、あんな優しい声色で
自分はゴンドラに意識を全力で向けて思い出さないようにしているというのに、問題の少年はまるで何もなかったかのように操船練習中だ。
女性にとって頭を撫でられる、髪を触られるというのは非常に重大な出来事であるはずなのだが、彼の様子を見ていると本当にそうなのかと自分の認識が揺らぎそうになる。別に彼に撫でられるのが嫌なわけではないけども、こうまで平然とされると嬉しいやら恥ずかしいやらで盛大に揺さぶられている自分が馬鹿らしくなるではないか。恨み言の一つもぶつけたくなるが、起きていたことも気にしていることもばれてしまう。そうなると何故寝たふりをしていたのか説明しないといけなくなるため、こちらからは何も言えない。完全に手詰まりの状態であった。
――なんか、ものすごく悔しい。
結局できることはキリトを睨みつけることしかなく、中央広場の船着き場に着くまでの数分間、アスナは悔しさを視線に込め続けることでキリトを怯えさせ続けた。
中央広場の船着き場にティルネル号を係留したキリトは、迷っていたことを相談すべくアスナに声をかけようとしたのだが、ここまで移動する途中に急に不機嫌になった彼女を前に尻込んでいた。思い当たることは精々が居眠り運転寸前の状態でゴンドラを操船していたくらいだが、その程度で彼女が不機嫌になるとも思えない。
「……何?」
怖い。とても怖い。何が怖いって目が怖い。
アスナから向けられる視線の鋭さに冷や汗を流すキリトであったが、話の内容は二人で決めるべき内容だ。
「い、いや、船が作れるって情報をアルゴに送ろうか迷っててさ……」
「……まだクエストの途中だけど、中途半端に情報出しても意味がなくない?」
「んー、それはそうなんだけどさ。次の街に移動するには必ず自分の船が必要な感じだし、この先のクエストをやるやらないは別としても、船を作れるって情報だけは流してもいいかなと思ってさ」
少なくとも船があれば迷宮区に近づける。単純に攻略だけを考えるならば、船を作ってしまえばそれ以上は不要という考え方もできる。自分たちの船はすでに完成しているし、素材をロモロに渡してから完成するまでに三時間という時間がかかることから、早めに情報を流すに越したことはない。キリト達は一隻でもいいが、攻略を担うDKBやALSは複数隻の船が必要になることは間違いないのだから。
「ん、じゃあ休憩する前にアルゴさんに情報送っちゃいましょ。……先にエギルさん達にも情報流しちゃう? あの人達もボス戦参加するだろうし、ギルドの人たちより先に作ってもらったほうが揉め事も無さそうだけど」
「あー、そうするか。じゃあ、アスナはそっちにメッセージ打ってくれ。俺はアルゴに送っとくよ」
数分の後、メッセージを送り終えた二人は昨日休憩を取った宿屋へと向かうべく、転移門広場を横切る。アルゴからの返信はまだ来ていないが、本日中には間違いなく道具屋に情報が載ったガイドブックが設置されることになるだろう。
「ちょっと長めに休憩取りましょうか。何時集合にする?」
「あー、十時……いや、十一時で……。ふわわ……」
「今からだと五時間か……。わたしはいいけど、君はそれで疲れ取れそう? もう少し伸ばしてもいいんじゃない?」
完全に気が抜けたせいか、今までのものより大きな欠伸をしてしまう。涙目になりつつ横を見れば、アスナが心配げな顔でこちらを見ている。キリトの眠気は完全に自業自得だというのに、それでも心配してくれるアスナに感謝しつつ軽口を叩く。
「大丈夫大丈夫。まぁ、時間に遅れたら叩き起こしてください」
「遅れるの前提なら伸ばせばいいじゃないの、全く」
彼女の心配そうな表情はあまり見たくないのだ。アスナの表情が心配から呆れに変わるのを見て満足しつつ、二人は宿屋の中に入った。
<<ロービア>>の南東エリアは様々な商店が水路に軒を連ねる商業エリアだ。
NPCのゴンドラで移動する場合は、一回一回乗り降りせねばならないしその度に料金がかかるため事前にある程度目星をつけて移動せねばならなかった。しかし、ティルネル号という自分たちのゴンドラを持った今、寄り道はし放題だ。船を停泊させて陳列棚を覗いてみたり、気になる店があれば桟橋に船を止めて店内に入ったりとしていれば時間はあっという間に過ぎていく。
小物やアクセサリー類を売っている商店にはアスナも目がないようで、瞳をキラキラと輝かせながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。これもまたアスナの本来の姿なんだろうなぁと、後ろから見守りつつキリトも陳列棚に目を向ける。その品揃えは水の街らしいと言うべきか、アクアマリンやサファイアといったゲームでは水属性が与えられるような宝石が用いられたアクセサリーが多く、その効果もAGIやDEXの補正がかかるものがほとんどだ。
キリトは視界の端にある現在時刻に視線を向ける。十二月二十二日午後一時。明後日には世間ではスパイスの効いた揚げ鳥とケーキを食べる日になる。この世界でクリスマスと言う概念があるかどうかはわからないし、そもそもこの階層は砂浜でヤシの実にストローを刺して飲んでいる方が様になる程度には南国的な世界観だ。せめて雪の一つでも降ってくれればとは思うが、この気温ではそれを望むべくもない。
確かにクリスマスと言うには雰囲気はない。だが、世話になっている相棒にプレゼントするくらいなら許されるだろう。指輪はエルフクエの報酬ですでに一つ装備しているし、買うならネックレスかイヤリングだろうか。
キリトは視線をアスナ、自らの所持金、目の前の陳列棚の順に動かしていく。
キリトの所持金はこの階層にしては破格の六桁に近いコルが貯まっていた。キリトがメインで装備している皮装備はドロップ品が手に入りやすいし、フィールドボスや階層ボスのラストアタックボーナスによって数層上のステータスを持った装備も確保している。武器や防具の強化素材は狩りで手に入るため、実質的にコルを使う機会が消耗品の購入と手数料その他程度に限られる。軽金属装備を取ったアスナは防具の更新をしていかねばならないが、キリトは防具に金をかける必要が現状ないため、資金面でかなり余裕が生まれるのであった。
ラストアタックやドロップ品はアスナの協力なくして確保できない。パーティーとは共助共援である以上、キリトだけが得をしてはいけないのだ。
キリトは再びアスナに視線を向けた後、陳列棚に戻して商品の価格を確認していく。
目を付けたのは雫型のサファイアの飾りが付いたイヤリング。性能はAGI+5。値段はアスナがもらったクエスト報酬の指輪の効果は、確かAGI+1だったはずだ。値段は一万コルをちょっと超えるくらいで、強化済の軽金属装備を一部位くらいは買えるかもしれないが、クリスマスプレゼントに「鋼鉄製ブレストプレートの+6です、受け取ってください」等と言われるのは流石に嫌だろう。性能優先のキリトとて微妙な気分になるのは間違いない。
それに、せっかくのプレゼントだ。頻繁に変えねばならない防具よりも、長く使ってもらえる物の方が良いだろう。このイヤリングをアスナが気にいるかどうかは不安ではあったが、イヤリングを装備したアスナを頭の中で軽く思い浮かべ、まあ似合うだろうと判断する。アスナがこちらを見ていないのを確認してから、陳列棚をタップし売買ウィンドウを出して目的のイヤリングを購入する。チャリーンという音と共にキリトの所持金から代金が引かれ、ストレージにイヤリングが収納される。
やるべきことが終わり、さてとアスナに目を向ければ相変わらず陳列棚の前をウロウロとしている。その様子は随分と熱心に見えたが、何かを買おうとしているようには見えない。
「アスナー、そろそろいいかー?」
「あ、うん、今いく」
店を出て桟橋に係留したティルネル号に乗り込んだ後、前の座席で周囲を見渡しているアスナに疑問に思ったことを投げかける。
「なあ、アスナ。随分と熱心に見てたけど、ああいう宝石系が好きなのか?」
キリトの質問にアスナは一瞬キョトンとしたが、すぐにふふっと笑って答えた。
「うん。女の子は誰でも……とは言わないけど、アクセサリーが好きな人は多いんじゃないかな。宝石自体にはそれほど興味はないんだけど……青い宝石って綺麗だから、結構好きなのよ」
なるほどとキリトが頷くと、アスナは「見る分にはだけどね」と最後に付け加えた。
どうやらサファイアはアスナの好みではあるらしい。ならば、サファイアのイヤリングはプレゼントとしては及第点にはなるだろう。安心したキリトはホッと一息ついた後、先ほどふと思いついたことを口に出す。
「そういえばアスナ、防具の更新はしなくていいのか? <<軽金属装備>>取ったんだし、スタテッドとかプレーテッドの部位をもう少し増やした方がいいと思うんだが」
「あぁ、そういえばキリト君、お勧めの防具屋が第四層にあるって言ってたわよね。ちょっと行ってみてもいい?」
第三層のエルフ野営地でスキルの相談をされたとき、確かにその話をした記憶がある。その時は青銅製のブレストプレートのみを購入するに
「ああ、もちろん。防具屋の近くにおすすめのレストランもあるからさ、防具の更新終わったらついでに昼飯にしよう」
ベータの頃に食べた蟹グラタンは絶品だったし、貝の蒸し煮も肉厚でとてもおいしかった。少なくとも魚介系の料理は外れることはないだろう。思考を食事に切り替えたキリトはゴンドラを操作しつつ、その味を思い出していた。
鋼鉄製のブレストプレート、鋼板を左右に縫い付けたレザースカート、平らなリベットを打ち込んだグローブとブーツ。一新された装備は重量を抑えつつ、防御力を大幅に向上させた。ほぼ全ての防具を更新したのは初めてのためどうしても新しく買った装備に目がいってしまう。
「随分と気に入ったみたいだな?」
「うん。金属の防具ってあんまり好きじゃなかったけど、いざ装備してみるとやっぱり安心できるわね」
防御力の数値はもちろんのことだが、やはり見た目の面でも金属の防具というのは頼りになる。目の前の黒い人は全身皮装備だが、そんなことを思ったりはしないのだろうか。
「キリト君は金属防具装備しようと思わないの? 装備して初めて思ったけど、皮装備だけってちょっと不安にならない?」
「んー。ラストアタックボーナスの防具を強化すると、下手な金属装備よりも防御力出るからなぁ。ただ、数値はともかく耐性面が不安なのは事実だな。特に
確かに彼の防御の数値は、金属装備をしているアスナよりも高いから驚きだ。全身がレアドロップで固められているが、その中でも<<肩>>部位の<<コート・オブ・ミッドナイト>>はフル強化され、この階層で販売されているプレート装備よりも高い防御力を持っている。布装備が主要金属防具より性能がいい時点で、階層ボスのラストアタックボーナスの異常さがよくわかるだろう。
アスナはほとんどの防具の更新を行ったが、やはりと言うべきかキリトはその必要はないらしい。
ならばこの近くにあるお勧めのレストランに向かおうと、キリトを促す。しかし、店を出た直後に聞こえたキリトの「そういえば」という声に足を止め、視線を向ける。
「金属防具あまり好きじゃないって言ってたけど、何か理由でもあるのか? 重くて動きにくくなるってのは確かにあると思うけど」
「物理的に重いってのもあるけど、それよりは心の面で……かな」
「心の面?」
「うん。君は笑っちゃうかもしれないけど……聞いてくれる?」
アスナの言葉にキリトが頷くが、本当につまらない理由だ。他人が聞けば、命がかかっているのに何を言っているんだと言いたくなるに違いない。だがそれでも、当時のアスナには譲れない理由だった。
「はじまりの街の宿屋に籠っていた時ね、完全に部屋に引きこもっているわけじゃなくて、パンを買うための外出だけはしていたの。その時に、金属装備をしている人をたまに見かけたんだけど、それを見て思っちゃったのよね。すごく、この世界に馴染んでるなぁって」
はじまりの街は中世~近世の大都市をモチーフにして作られている。そのせいか、ヨーロッパの騎士が身に着けていたような金属製の鎧が風景にマッチしていた。
「いやだな、って思ったの。この世界に馴染みたくなんてない。わたしの本当の世界は、現実世界なんだって。……意地のようなものだったんだと思う。だから、わたしは皮装備にしたの。皮のジャケットとかなら現実にもあるし。本当に、つまらない理由。でも、自分には大切なことだった」
アスナが話し始めてから、目の前の少年は一言も発していない。それでも目線はこちらを向いていて、しっかりと聞いてくれているのがよくわかる。
「考えが変わったきっかけは第二層のボス戦でブレスを受けたとき。あの時は君が庇ってくれたけど、君の体力が赤くなっているのを見て、ゾッとしたわ。わたしがキリト君を殺しかけた。もしわたしの防御力が高かったら君は庇わずに回避を選択できたんじゃないかって」
「アスナ、それは……」
キリトが何か言おうとしたが、首を横に振ってそれを抑える。そんなことない、アスナに責任はないと彼は言うだろう。確かにあの時、アスナを庇った理由はわからないと彼は言った。恐らくそれは事実なのだと思う。だが、彼にその行動を取らせた原因は間違いなく自分にあるのだ。自分がトーラス王をしっかりと警戒していれば、遠隔攻撃を受けても問題ない程度の防御力があれば、彼は自分の命を懸けずに済んだかもしれないのだから。
「君とパーティーを組んでいたけれど、わたしは本当の意味でパーティーを組んでいなかった。自らの準備不足はパーティーメンバーの命を危険に晒すってことを、わたしはあの時まで理解できていなかった。それからは理性と意地の板挟み。頭ではわかっているのに心が拒否した。まあそれも、第三層の主街区で同じ部屋で休憩したときに君が解決してくれたんだけど」
無理に否定する必要はない、無理に折り合いをつける必要はない。その言葉を聞いて、アスナはこの世界のことを一か零かで考えるのをやめた。例え金属で全身を覆ったとしても、この世界の住人になるわけではないのだと考えるようにした。
この世界に馴染む必要はない。だが、やるべきことはやろう。自分のために、そして自分を助けてくれた彼のために。
話を一旦区切ったアスナは、本当に面倒な人間だなと自嘲する。アスナの表情は間違いなく苦々しくなっているに違いない。
「金属防具一つ装備するのにこんな理由が必要なんて、馬鹿らしいわよね。ごめんなさい、つまらない話をしてしまって」
苦笑いと共に、こんな話を真剣に聞いてくれていたキリトに謝罪した。結局は大事なものを失いかけるまで意地を張り続けてしまったという話なのだ。なんと愚かなことだろうと、アスナは顔を俯かせる。
「……つまらない話なんかじゃなかったよ。少なくとも、俺には」
お互いに無言な時間が十秒ほど続いた後に発せられたキリトの声は、アスナの自嘲を否定するものだった。
「その、今の話の内容だとさ、君が自分を強化することに、俺が少しは力になれたってことでいいのかな?」
力になったどころではない。凝り固まった価値観を変えてくれた張本人だ。だというのに、恐る恐る顔を上げたアスナの眼に入ってきた彼の表情は不安げで、言葉もたどたどしい。急に変わったキリトの様子に驚きつつアスナが頷きで返すと、それにホッとしたのかキリトの不安そうな表情が柔らかい微笑に変わる。
「なら、良かったよ。ベータテストの知識以外で、君の力になれているなら、良かった」
その言葉からは彼が安堵していることを感じとれる。だが、アスナは疑問に思った。彼が不安になるような話をしたつもりはない。むしろ、彼に対して感謝を伝えることができる内容だったはずだ。一体どのような理由から、彼は不安を感じたのだろう。
「……君は、いつもわたしを助けてくれてるよ」
こう返すのが精一杯だ。
何か誤解をされている気がしてならない。だが残念なことに、アスナは彼が不安になった理由の見当をつけることができなかった。
日に日にベータの知識が枯れていくのを不安に思っているキリト君と、ベータの知識以外の部分も頼りにしているアスナさんのすれ違い感を書きたかった。
この話は書き直しがあるかもしれません。