Re:SAO   作:でぃあ

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誤字報告いつもありがとうございます。
UA15000超えました。皆様に感謝を。

昼食~木箱セクハラ事件前まで

古戦場の後は春イベとか聞いてませんよぉ~
今回もオール甲で頑張ります


第二十二話

 アツアツの蟹肉山盛りのグラタンをスプーンいっぱいに掬い、頬張る。

 現実世界で出来立てのグラタンを口の中に放り込めば、口の中がやけどを通り越して(ただ)れる可能性すらあるだろう。しかし、このソードアート・オンラインの世界では口の中を火傷する心配はない。蟹肉とクリームが生み出した旨みと、その旨みを損なわない程度の温かさが口の中を埋め尽くす。

 相棒が言うとおり、この蟹グラタンはアスナの味覚を十分に満足させる味だった。もぐもぐごくんと飲み込んだ後、ふぅと一息吐いて一言。

 

「幸せ……」

 

 アスナの様子をテーブルの向かい側から見ていた少年が苦笑いをしている。確かにちょっとはしたなかったかもしれないが、今のアスナにはどうでもよいのだ。昨日の晩御飯にパニーニを齧ってから何も食べていない。腹ペコなアスナにとって最も重要なのは、目の前の蟹グラタンを口の中に放り込む作業に違いなかった。

 

「結構当たりだろ? このレストラン」

 

 キリトの言葉に大きく頷く。

 料理の味もさることながら、このレストランは街中の隠れ家といった造りで、アスナにとっては珍しくまた好ましい雰囲気だった。

 

「ベータの時は疑問に思ってたんだ。周りはからっからの砂漠なのに、なんで魚介中心のメニューなんだろうって。その疑問がやっと解けたよ」

 

 肉厚の貝――ハマグリに似ている――を口に入れたキリトの表情がほにゃりとした笑顔になる。一緒に歩いているときや戦っているときは年上のような凛々しい雰囲気なのに、ご飯を食べているときはとても幼く見える。その笑顔は女性から見てもかわいいと思えるものでアスナの顔が熱を持ちそうになるが、蟹グラタンを頬張ることでごまかすことに成功する。しかし、彼が無防備な笑顔になるのも無理はない。本当に美味しいのだから。

 

 蟹グラタンはもうすぐ半分食べ終わる。その後は、貝の蒸し煮だ。

 

 レストランに入る前にキリトからおすすめのメニューは蟹グラタンと貝の蒸し煮だと聞いていた。流石に一人で二品を食べるには量が多いため、どちらにするべきかとメニューを見て唸っていたアスナに、一個ずつ頼んでシェアしようとキリトが提案してくれた。持つべきものは優しい相棒だわぁとありがたくその提案に乗り、蟹グラタンを半分おいしく食べ終えたアスナの前には同様に半分ほど残された貝の蒸し煮が置かれている。

 

 自分が食べていた蟹グラタンはキリトの前に置かれ、たった今スプーンで掬ったキリトが一口目を頬張ろうとしているところだ。よし自分も食べようとアスナも貝の蒸し煮をスプーンで掬ったが、そこでアスナは気づいてしまった。

 

 自分は今、とても大胆なことをしているのでないかと。

 

 アスナは目線を下に向ける。そこには美味しそうな貝の蒸し煮がある。

 アスナは目線を正面に向ける。そこには美味しそうにグラタンを咀嚼している相棒の姿が。

 再びアスナは目線を下に向ける。そこには先ほどまで彼が食べていた貝の蒸し煮がある。

 

 ボッとアスナの顔が沸騰する。

 これは、これはどう考えてもあれではないか。大変なことをしてしまったという焦りと、それに気づいてしまったことによる恥ずかしさで、アスナの思考がぐるぐると回転しだす。

 

「アスナ? 急に固まってどうした?」

 

 その言葉にはっとして視線を向ければ、キリトが怪訝そうな顔をしている。手を前で振りながら「な、なんでもない」と答えるが、どうやら彼の不審を除くには不足だったらしく、目線が動くことはなかった。

 

「そ、その……」

 

「その?」

 

「……っ! やっぱりなんでもない!」

 

 そう、なんでもないのだ。そういうことにしておくしかないのだ。

 

――間接キスだなんて、言えるわけないでしょう!

 

 シェアすると言ったのは彼だが、様子を見るにこのような意図があったようには思えない。つまり、気にしているのはアスナだけということだ。自分だけが気にしているなんてばれたら、恥ずかしいどころの話ではない。穴があったら潜りたくなってしまう。

 

 目の前では、追及を諦めたのかキリトが再びおいしそうに蟹グラタンを食べ始めた。自分がこんなに動揺しているというのに、何故この男は平然としているのか。彼にとって自分は間接キスなど気にする必要のない相手ということなのか。

 

 それはそれで複雑だ。文句の一つでも言いたくなるが、口に出せば間違いなく藪蛇だ。

 今の自分はさぞ恨めしそうな顔をしているに違いない。その表情を彼に見せるのも悔しくなってきて、アスナは視線を下げる。アスナの持つスプーンの上にはぷりっぷりの肉厚の貝が乗っており、「はやく食べて」とこちらを誘惑している。

 

 意を決して、アスナは貝を頬張る。おいしい。

 

 先ほどまでの恥ずかしさはどこへやら、貝の旨みを感じたことによる幸福感が脳内を支配する。食い気は色気に勝ることを、アスナは身を持って知ったのだった。

 

 

 

 先程まで顔を赤くしたり、こちらを睨んだり、幸せそうな顔になったりと随分とせわしない表情をしていたが、食事を終えたことで彼女の百面相は終わりを告げたらしい。食後の満腹感と幸福感に包まれ、一緒に頼んでいたワインを飲みながら、キリトはアスナの様子を観察していた。

 

 ここが現実世界であったなら未成年がワインとは何事かと怒る人もいるのであろうが、この仮想世界では未成年飲酒を咎める法律は存在しない。現実世界では十四歳のキリトがワインやビールを頼んだところで何の差支えもないのであった。残念なことに飲酒による酩酊感を得ることはできないため、ベータテストでは成人したプレイヤーから「酔えない酒に何の意味があるんだ」という苦情が出たと聞いたことがあるが、楽しむ分には十分ということでそのまま実装されたのだろう。

 

――酒もいいけど、ジンジャーエールとかコーラも飲みたいよなぁ……。

 

 現実世界ではポピュラーだった飲み物が、この世界には存在しない。未成年のキリトにとっては、やはり酒よりも飲み慣れた炭酸飲料が飲みたいと思うのは仕方のないことだろう。上層に行けば出てくる可能性もあるし、なるべく早い段階で出てきてほしいものだと思いつつ、ワイングラスを傾ける。

 

 空になったワイングラスをテーブルに置いた後、対面に座っているアスナに視線を向ければ、彼女の前にはすでに空のグラスが置かれていた。食事中とは違い完全に普段の自分を取り戻したようで、クールな雰囲気の細剣使い(フェンサー)さんの表情に戻っていた。

 

 その様子を見て、キリトの親譲りの悪戯心が疼く。最終的に怒られるだろうが、これは(つつ)いていい話だ。この質問をしたらきっと楽しいことになるに違いないと直感的に感じたキリトは、顔がにやけそうになるのを全力で抑えながらアスナに問いかけた。

 

「なあ、アスナ。さっきコロコロと表情が変わってたけど、一体何考えてたんだ?」

 

「な、なっ!? なんでもないって言ったじゃない!」

 

 涼しげな顏が一瞬で真っ赤になる。

 これほど動揺するアスナを見るのは珍しいなと笑みがこぼれそうになるが、ここで笑ってしまっては意味がない。キリトは暗めな表情を作り、追い討ちをかける。

 

「いや、なんかこっち睨んでただろ? 食事時に睨まれるって余程だからさ、何か気に障ることしたかなって」

 

「ち、ちがっ! そんなことないわよ! ただ……」

 

 キリトの言葉を即座に否定したアスナであったが、やはり躊躇いがあるのか顔を赤く染めたまま俯かせる。

 

「ただ? 嫌なことじゃないんだったら、言ってほしい」

 

「……うぅ……」

 

 キリトが促すと、小さい声で唸る。

 普段はおっかないクールなお姉さんであるが、意外と攻められると弱いことをキリトは最近知ることができた。随分とかわいらしい姿だったが、アスナはそれから黙り込んでしまう。アルゴにからかわれていた時はひたすらに怒るだけだったが、キリトにからかわれるのはどうやら勝手が違うらしい。怒らせる前に切り上げよう、キリトはそう判断した。

 

「……そんなに言いにくいことだと思わなかったよ。からかってごめん」

 

 第四層来て彼女との距離が近づいた気がしたせいで、どうやら調子に乗ってしまったのだろう。からかうつもりで本当に不快感を与えてしまっては元も子もない。謝罪をしつつ軽く頭を下げ、チラとアスナを窺って見るがやはり彼女は黙り込んだままだ。これは本格的に怒らせてしまったのかもしれない。彼女が何か言うのを待つべきか、それとも話題を終わらせるために移動しようと言うべきかキリトは悩む。そのキリトの逡巡(しゅんじゅん)を察してかどうかはわからないが、先に動いたのはアスナだった。

 

「…………か……ったの」

 

「え?」

 

 ポソリと、アスナが呟いた。上手く聞き取れ無かったキリトは思わず聞き返してしまったが、それによって指先をもじもじとさせはじめ、先ほどよりも強烈なかわいさを発揮したアスナの姿に、キリトの思考が一瞬飛びそうになる。

 

「だから、恥ずかしかったの。男の人と食べ物をシェアするなんて、その……」

 

「あー……なるほど」

 

 しかし、続けられたアスナの言葉に飛びかけた思考は一瞬で正常に戻される。

 どちらを頼むか悩んでいたアスナに、半分ずつ食べようと提案したのはキリトだ。アスナも喜んでいたから問題ないと思っていたし、キリトもそういう意図があったわけではない。だが、キリトとアスナは間違いなく年頃の男女なわけで、キリトはともかくアスナからすれば看過できない事態だろう。それでも、キリトが気にせずに食べているのを見て、優しい彼女は嫌々ながらも食べてくれたに違いない。

 

 自分の気の利かなさに腹が立つ。これはもうひたすらに謝るしかないと、キリトは頭をがりがりと掻いた後、深々と頭を下げた。

 

「あまりにも不躾(ぶしつけ)だった。逆に気を使わせてしまってごめん、嫌だったよな?」

 

「べ、別に嫌だなんて言ってないじゃない。謝る必要なんかないわよ……」

 

「そ、そうですか?」

 

 こくんと頷いたアスナは、顔を赤く染めてはいても確かに嫌悪感を出してはいない。

 確かに、この仮想世界で食べかけだの使いまわしだのを気にしても意味がない。床に落としたお饅頭が三秒経つまで汚れない世界なのだから。

 

 キリトの気が利かなかったのは事実であるが、アスナ自身が嫌ではないと言っている以上、キリトが気にしすぎるのは逆に悪いだろう。そもそも、彼女が恥ずかしいと主張していたのは料理をシェアするという行動であって、キリトが気にしてしまったことは特に問題視していなかったのだ。

 

「今度からは俺も気を付けるよ。次にこういうときがあれば、取り皿か何かもらえるか聞いてみようぜ。……そろそろ行こうか。大型船とやらを探す時間だって必要だしな」

 

「……だから、別に嫌じゃないって言ってるんだけど……。まあ、いいわ。行きましょうか」

 

 立ち上がったキリトにアスナも続く。ちらとアスナに視線を向ければ、先ほどまで赤かった顔は冷静沈着な細剣使い(フェンサー)の顔に戻っている。買い物や食事という楽しむべき時間は終わった。これから始まるのはこの世界の本質、命を懸けた争い事の時間なのだ。

 

 

 

 (くだん)の大型船を発見したのは午後四時半頃のことだ。十五メートルほどはある青みがかった黒に塗られたその大型船には、シートがかけられた多くの木箱が載せられていた。十人乗りの観光用ゴンドラよりも大きいというのに、乗員はNPCが四名だけで全員が武装しているのが見て取れる。積み荷を終えたのだろう大型船は南東エリアから出航し、それを見失わないようキリトとアスナはティルネル号である程度の距離を保ちながら追跡を開始した。

 

 ティルネル号は鮮やかな白と緑で塗られた優美な船だ。カラーリングは緑十字をモチーフとしており、名前の由来となったダークエルフのお姉さんキズメルの妹、ティルネル氏の職業である薬師から連想したものだったらしい。衛生や薬の代名詞と言うだけあって、白と緑のカラーリングはとても清潔感があり見栄え良いものであったが、今回ばかりはこの色を選んだことを後悔するしかない。

 

 時刻は夕方となりあたりは暗くなってきているとはいえ、白い船体はどうしても目立つ。船頭たるキリトは初の圏外航行を気にする暇もなく、ひたすらに大型船との適切な距離を保つことに苦心し続けた。

 

 前を進む大型船はその巨体のわりに俊敏な動きを見せ、細い天然水路やその突き当たりにあった滝をものともせず航行した。当然キリトもそれに続くわけだが、滝をくぐった直後に出現した差し渡し四メートルはあるであろう大型の蟹型モンスター<<スカットル・クラブ>>との戦闘になり、足止めを受けている間に大型船を見失ってしまった。

 

 最初の蟹を倒したのが午後六時、そして現在、時刻は日付が変わり十二月二十三日午前零時過ぎだ。水路が張り巡らされたこの水没ダンジョンは、キリトの予想を大きく超え極めて巨大だった。大型船の手がかりを見つけることは未だにできず、休憩を挟みながらであるとはいえ、ゴンドラでの水路を移動や戦闘、水路の途中途中にある扉の先の探索と丸々六時間も続けていれば、流石に集中力が続かなくなってくる。

 

 街に戻るという選択肢もそろそろ出てくる頃であるが、舳先(へさき)に立って接敵したスカットル・クラブをレイピアで(つつ)いている相棒の動きは鈍っていない。だが、その覇気は少しだけ衰えているように思えた。

 

 それでも持ち前の俊敏さは健在で、大きなハサミによる攻撃を屈みこむことで回避し、逆にその隙を上段突き<<ストリーク>>で追撃し大きくノックバックさせる。相手が行動不能の状態で距離が開けば後は簡単だ。キリトは全力で(かい)を前に倒し、無防備となった蟹の腹に船首に取り付けられた衝角を突き刺す。火炎熊マグナテリオスの角で作られた衝角によるラムアタックの威力は強烈で、刺された所から発生する高熱は水棲モンスターの弱点らしく、半分ほど残っていたHPはあっけなく削り切られた。

 

 四メートルもの巨体がポリゴン片に変わった後、ドロップした蟹の脚肉や爪肉を何とも複雑そうな顔で見ながら、アスナは一言呟いた。

 

「この蟹肉だけは、プレイヤーに絶対売らない」

 

 気持ちはわかる。これからあの蟹グラタンを食べる時は、必ずスカットル・クラブの姿が思い浮かぶようになるだろう。それでも、美味しいものは美味しいのだ。

 

「グラタン美味しかったじゃないか。料理持ちが増えれば蟹饅頭とか蟹焼売とか食べれるようになるぞきっと」

 

「……食べたくなるからやめていただけるかしら?」

 

 間違いなく美味しいに違いない。食事を取ってからすでに十時間近く、空腹感も中々のものになってきており、いっそドロップした蟹肉を焼いて食べたいと思う程度には腹ペコだ。残念なことに相棒が全力で拒否するだろうからできないのだが。

 

 ふぅと溜息を一つついたキリトは、マップから現在地を確認する。ダンジョンの全体像はいまだ不明だが、もうそろそろ中枢部に到着しそうな雰囲気だ。蟹肉の味を頭を振ることで思考の中から追い出し、キリトは船を微速前進させた。

 

 

 

 アスナの左手がサッと上がり、静止せよという意味だと判断したキリトは水路の右側にあった小さい船着き場に船を止める。水路の奥に広い空間があり、そこから人の声が聞こえてくると伝えてきたのはそれからすぐのことだ。

 

 アスナの視線は水路の奥に向けられているが、残念なことにここから奥をはっきりと窺うことはできない。船着き場からは階段が伸びており、その先には扉が一つ。今までもこのような扉をいくつも見てきており、その都度奥を確認していったが大抵はクエストに関係ない枝道で、その奥には錆びた武具のようなお宝とは言えない物が入った宝箱が置かれているだけだった。

 

 重要度から考えれば間違いなく水路の奥の広間が格段に上のはずだ。しかし、キリトは妙にその右の扉が気になった。

 

「アスナ、奥の広間も気になるけど、先に扉を確認しよう」

 

 キリトの言葉に、アスナは意外そうな顔をこちらに向けた。

 

「扉の奥なんて、どうせ枝道か何かでしょ? 明らかに広間の方が重要そうじゃない?」

 

「ああ、それには同意する。でも、この水路は一本道だ。広間で不測の事態があった場合に、あの扉の先に逃げ込まなきゃならない可能性もある。退路の確認はしておくべきだと思う」

 

 なるほど、とアスナが頷く。それを同意と見たキリトは船首に収められていた(もや)い綱を引っ張り出し、先に船着き場へと飛び移っていたアスナに渡す。ティルネル号を係留したアスナは階段を登り、扉を音を立てぬようそっと引く。中は脇道ではなく広めの部屋となっており、壁際には様々な物品が置かれていたが、残念なことに宝箱のようなものは見つからなかった。

 

 キリトは<<索敵>>により部屋の中を確認するも、敵の気配も見当たらない。モンスターがpopしないとは限らないが、咄嗟に逃げ込んでも問題ない部屋であると判断しても良いだろう。

 

「キリト君、これ見て。この布、普通の布じゃなさそうよ」 

 

 キリトが索敵による警戒をしている間に、部屋の奥へと進んでいたアスナが一枚の布を抱えて戻ってくる。布と言うには少々大きすぎるサイズのそれは、銀色がかった灰色をしており明らかに普通の布ではない。表面を軽く叩き、表示されたプロパティ・ウィンドウに書かれた説明文を読んだキリトは驚きで思わず声を上げた。

 

「おいおい。何だこの布、この存在自体が隠蔽(ハイディング)が必要ですって言ってるようなもんじゃないか」

 

 <<アルギロの薄布>>と銘打たれたそれは、水中で暮らす蜘蛛の糸を用いて織られ、周囲を水で囲まれた場所ならばおおった物を見えなくするという代物だった。

 

「まーたスニーキング系なの? わたし、ホントこの手のクエスト苦手だわ」

 

 アスナの表情はまさにうへぇという感じだ。

 確かに気持ちはわかる。潜入系のクエストは正面突破も可能だが敵が強力なことが多いし、素直に潜入しても見つかったら敵に囲まれるような状況に置かれることが多いのだ。単純なモンスター討伐のクエストよりも、その難易度は高い。

 

「まあ、今回は<<隠蔽(ハイディング)>>スキルの必要がないだけマシってことで。この布を被せておけば、ティルネル号が見つかることはないってことだし」

 

「布があるだけマシ、か。まあいいわ、この布以外には目立った物はないし広間に行きましょう?」

 

 ティルネル号に戻り、広間手前まで足を進めた二人が見たのは積み荷の木箱を受け取るフォールンエルフ達の姿だった。ロービアに帰還するであろう大型船をアルギロの薄布を被ることでやり過ごした後、フォールンエルフ達が木箱を持って広間中央にある扉の奥へと入っていくのを確認する。

 

 クエストウィンドウを確認すれば、更新の表示は出ていない。どうやら木箱の中身をしっかりと確認しないといけないようだ。一つの区切りだと判断したキリトは、アスナに自分の考えを伝える。

 

「エルフクエに繋がっているとはな。木箱の中身を確認しないとまずいことになりそうだ。正直、ここで一旦区切って街に帰るのはありだと思うけど……どうする? アスナ、疲れてるだろ?」

 

「……うん、そうね。ちょっとだけ疲労感は感じてる。でも、もう一度ここまで来るのはさすがに手間だわ。わたしはこのまま行けると思うけど、キリト君から見てわたしは無理そう?」

 

 素直に疲れがあると申告したアスナを見て、キリトは思わず笑顔がこぼれる。自分の状態が悪いということを伝えるのは勇気が必要だし、信頼できない相手には言えるものではない。

 

「いや、俺も大丈夫だと思う。しっかりと隠れていけば、でかい戦闘になるようなクエストでもなさそうだしな。……じゃあ、このまま続行ってことで。もうひと頑張りしましょうか」

 

 キリトから見てもアスナが無理をしているようには見えない。自分の状態も悪くはないし、このままクエストを進めるべきだろう。アスナがしっかりと頷くのを確認し、キリトはティルネル号を広間中央の桟橋に横付けした。係留されたゴンドラは破壊不能になるため、奥に進んでいる間に帰る手段がなくなるということはないだろうが、念を入れるべく先ほど手に入れたアルギロの薄布で覆う。

 

「よし、じゃあスニーキング開始だ。迅速に、慎重に、で」

 

 キリトは頑丈そうに見える鉄扉を慎重に開けていく。物音は聞こえない。

 三センチほど開いたところでギギという金属が擦れる嫌な音が響くが、潤滑スプレーの類は持っていないため、キリトはさらに慎重に扉を開ける。ようやくできた隙間から覗けば、二十メートルほど通路が続き、奥では左右に分かれている。通路の中ほどにはこちらに背を向けたエルフの番兵がいるが、奥へと歩いて行っており、そのうち右の通路へと姿を消していった。

 

 番兵ならば巡回しているに違いない。ならば必ず戻ってくる。そう判断したキリトは、扉を人が通れる分だけ開けた後、アスナと共に通路へと飛び込んだ。




次の話でキリト君がアスナさんの豊満なあれを揉みます。許せない。もっとやれ。結婚しろ。

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