Re:SAO   作:でぃあ

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二十三日起床後~攻略会議終了まで

アスナさんの「シヴァタさんに、後で謝っておいて欲しい」というセリフから全力で妄想してみた、キリト君の嫉妬話。

第四層は書きたいことが多すぎて文字数が大変なことに。


第二十四話

 ゆさゆさと揺さぶられる感覚に意識が覚醒する。寝る前には掛けられていなかったはずの毛布が身体に掛けられており、目を開ければ明るい陽射しが窓から差し込んできている。左肩には誰かの手が置かれているようだ。

 

「おはよう、キリト君」

 

 左上から聞こえる目覚めの挨拶。ふわふわとした頭に届く彼女の穏やかな声は、キリトの意識を活性させるのを助けた。

 

――ああ、そうか。アスナの部屋で寝てたんだっけか。

 

 未だぼんやりとしている目をこすり視界をはっきりとさせた後、彼女がいるであろう方向を見上げ、キリトもまた挨拶を返す。

 

「おはよう、アスナ。よく眠れた?」

 

「うん。疲れなんて全く感じないくらいスッキリしてる。……ごめんなさい。こんなに長く寝ちゃって」

 

 現在時刻はもうすぐ午後一時といったところか。アスナが何時頃に起きたかはわからないが、そう長い時間は経っていまい。恐らくは十二時半頃には起きていたのではないだろうか。キリトが起きたのは十一時半であったことを考えれば、長く寝てしまったと謝られるほどの時間をキリトは待たされていない。そもそも、自分も二度寝に勤しんでいたのだから。

 

「謝る必要はないよ。俺も起きたの十一時半だったし、ご覧の通り二度寝してたからさ。あ、そうだ、毛布ありがとな」

 

「それはこっちのセリフなんだけど? この前といい、今日といい、君ってホント優しいわよね」

 

「そうか? 人が目の前で何も被らずに寝てて、手元に毛布があれば誰だってやると思うけどなぁ」

 

 毛布をストレージにしまい、揺り椅子から立ち上がる。ぐーっと全身の筋を伸ばせば、二度寝する前よりも身体が軽くなっていることを感じる。この世界に肉体の疲労を計測するようなステータスはキリトが知る限り無いはずであるが、睡眠前と後では明らかに身体の動きに差が出る。恐らくは休息を取ったことによって脳の活動が活性化されるのだろうが、もしかしたら隠しステータスのようなものがあるのかもしれない。

 

「よし、じゃあ行動開始としますか。アスナはもう身支度できてる?」

 

 揺り椅子の横に立っていたアスナに向き直り準備が良いか聞けば、すぐに頷きが返ってくる。昨日彼女は着替えることなくベットに突っ伏したから、当然と言えば当然だろう。

 

「じゃあ、まずはミーティングといきたいところだけど……先に飯でいいかな? 胃袋が悲鳴を上げそうだ」

 

「うん、わたしもお腹ペコペコ。ミーティングは食事しながらにしましょう?」

 

 食事とミーティングで一時間として、十七時から行われる攻略会議には三時間ほど余裕がある。フィールドボスを攻略すればそのまま次の街に向かうことになるだろうし、攻略会議の前の時間を使ってフィールドボスの偵察を行えばいい感じに時間が潰せるだろう。無論アスナに相談しなければならないだろうが、反論が出ることはあるまい。

 

 じゃあ行こうかとアスナに声をかけ、キリトは扉に向かう。昨日無理をした分、今日は比較的ゆったりとした一日になりそうだ。攻略を急ぐ必要はあるが、周りと足並みを整える必要は当然あるし、毎日毎日無理な攻略をする必要はないのだ。

 

――後ろの細剣使い(フェンサー)さんは、これを言ったら怒るかもだけど。

 

 「何怠けたこと言ってるの!」と怒り出す彼女の姿が目に浮かび、思わず苦笑いがこぼれる。今の表情をアスナに見られれば、また変なこと考えてると疑われかねない。キリトはいつもより少々足早に、宿屋の一階へと足を進めた。

 

 

 

 本日のランチに白身魚の香草焼きを選んだアスナであったが、注文を終えたというのにメニューを見ながらまだ悩んでいる。どうやら追加で頼みたいものがあるようで、チラとこちらに視線を向けメニューに戻し、またチラとこちらに向ける。

 

「ね、ねえ、キリト君。蟹グラタン……半分食べてくれる?」

 

 昨日アスナがダンジョンでスカットル・クラブからドロップした蟹肉を複雑そうな目で見ていたのをキリトは思い出す。味は極めていいが、あの見た目の蟹から拾ったものを口に入れていいのか。恐らくそんな葛藤をメニューを見ながらしていたのだろうが、どうやら勝ったのは見栄よりも食欲だったらしい。

 

 キリトも空腹であったし、何なら二品頼んでもいいかなーと考えていたところだったため、アスナの提案に否はない。キリトが頷けば、アスナの表情がパァッと笑顔になりNPCに追加注文を行う。最近気づいたことであるが、彼女は意外と食いしん坊な所がある。美味しいものを食べるためにここにいる訳じゃないと言っていたが、食事を楽しめる余裕が持てるようになったのは良いことに違いない。

 

 だが、とキリトは目の前でニコニコしているアスナを見ながら一つの疑問を浮かべる。昨日ここで料理を半分ずつ分け合った時、目の前の少女は顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。それなのに今日は彼女からはんぶんこしようと言ってくるとは、一体どういう風の吹き回しだろうか。

 

「なあ、アスナ。昨日の今日だけど、いいのか? 取り皿ぐらいは貰ったほうが……」

 

 下手をすれば藪蛇であるが、アスナが恥ずかしいと思うならそれは避けたい。キリトは躊躇いつつもアスナにお伺いを立ててみた。

 

「ああ、いいわよ別に。キリト君は気にしないでしょ? わたしも、もうキリト君ならいいやって」

 

「あ、そ、そう?」

 

 コクリと頷いたアスナがグラスの水を飲むのを見つつ、キリトは何とも複雑な気持ちになった。想像していた答えとは全く違う、あっけらかんとしたアスナの言葉。自分が気にしないのは事実だが、キリト君ならいいやとはどういうことだろう。それほど親しくなったことを喜べばいいのか、恥ずかしいと思うことすら馬鹿らしいと思われているのを嘆けばいいのか。

 

 心の中にもやもやとした感情が生まれるが、それがどういった方向性を持っているのかキリトには判断できなかった。間違いなく彼女の発言が原因なのだろうが、意図を聞いてみようにもどういう理由で聞いていいかわからない。

 

 キリトの視界には料理を持ったNPCがこちらに向かって来ているのが見てとれる。食事の前に結論の出なさそうな会話を振るのもばからしい話だろう。グラスの水を一口飲むことで、キリトは気持ちを落ち着けた。

 

 NPCのレストランでは、料理の待ち時間はほとんど無しに運ばれてくる。給仕NPCの手が足りてないときはその限りではないが、昼時も少し過ぎたあたりに入店したのでキリトとアスナ以外の客の影は見えない。そもそもが隠れ家的なレストランであるからプレイヤーの数は少ないし、これからクエストの情報の話をするので都合が良い。

 

 頼んだ料理がテーブルに並べられていき、キリトの目の前に置かれたイカと魚が入ったパエリアから発せられた匂いがふわりと漂ってくる。早速食べようとスプーンで一掬いし口に運ぼうとした直前、目の前に座るアスナの視線がパエリアに向けられているのをはっきりと確認する。

 

 パエリアの皿をテーブル中央に向けて軽くずらす。すると、アスナの顔がパッと笑顔になりスプーンでパエリアを一掬いし、もぐもぐと食べる。

 

――なんか、かわいいなぁ……。

 

 ニコニコとしているアスナを見て、心がほっこりと暖かくなるのを感じた。静かに黙々と食べるより笑いながら食事をしたい。この世界で一人になり団らんというものを感じることはできないと思っていたが、アスナとの食事は楽しみと癒しをキリトに与えてくれた。命がけの戦いで精神をすり減らしながらも前に進まなければならないキリトにとって、彼女との食事の時間は間違いなく貴重な時間になっている。

 

 一人では決して得ることができなかった時間を与えてくれたアスナに感謝してから、キリトも自らのスプーンを動かし始めた。

 

 

 

 情報の整理はスムーズに終えることができた。造船クエストからエルフのキャンペーンクエストに繋がることをアルゴに伝えるべきかどうかというのが一番の議論になったが、DKBもALSもキャンペーンクエストを第三層で放棄している。ならば、続くクエストの難易度が極めて高いと知れば無理に進めることはないだろうから、現段階で知る限りの情報を伝えてしまったほうが良いということになった。

 

 アルゴへのメッセージを作成し送信した後、レストランを出た二人はフィールドボスの存在する第四層のほぼ中央に位置する火山の火口に向かう。ベータテストでは大地の裂け目からマグマが見えるような灼熱の空間だったそこは、正式サービスでは満々と水をたたえたカルデラ湖になっており、その中央部を二つの頭を持った巨大な大亀がスイスイと泳いでいた。

 

 <<双頭の古代亀(バイセプス・アーケロン)>>と名付けられたそれは、その名の通り頭を二つ持つ大亀だ。キリトは(かい)を倒してティルネル号で静かに近づいてみると、即座に反応したアーケロンがこちらに向かってくる。動きがあまり早くないのを確認したキリトは、アスナに合図してから亀に接近していく。

 

 すると、今まで別々の方向を向いていた二つの頭が急にティルネル号を捉える。直後、キリトの項がチリチリとし出した。

 

「右に旋回するぞ!」

 

 キリトは叫びながらあらんかぎりの力で(かい)を倒し、全速で右に回頭、アーケロンの正面から離脱する。そして数秒後、旋回する前にティルネル号がいた場所目がけて、アーケロンが猛烈な加速による突撃を繰り出していた。

 

「あ、あんなの直撃したらひとたまりもないわよ!?」

 

 急旋回による遠心力を船首の(へり)に掴まって耐えていたアスナが、目を一杯に見開いて叫ぶ。

 水没ダンジョンを攻略中に、モンスターがプレイヤーではなくティルネル号に対して攻撃を行うということがあった。確認してみれば、ゴンドラにも耐久力があり船着き場などに係留している時は破壊不能オブジェクトになるが、こうして航行している時に攻撃を受ければ耐久力にダメージが入る。当然耐久力が0になれば船は破壊されてしまうだろう。

 

 船を破壊されれば、重い装備を纏ったまま水に放り出されることになる。浮き輪を持っているとはいえ、突撃による衝撃を受けた状態で咄嗟に装備できるかと言われると難しいものがある。

 

 ありがたいことに突撃自体はしっかりと注意しておけば回避しやすいので、これだけを注意しておけば問題ないはずだ。

 

「頭が同じ方向を向いてから突撃発生までに結構時間あるから何とかなると思う! 今度は近づいて近接攻撃のパターンも見てみよう!」

 

「了解!」

 

 キリトはティルネル号をアーケロンに近づける。キリトが操船を担当しているため、攻撃や防御は全てアスナに任せなければならなかったが、それに関してキリトは全く不安を持っていなかった。彼女は自分の命を預けるに値するだけの努力をしているし、実力を持っているのだから。

 

 接近したアーケロンは噛み付き攻撃やヒレで水面を叩くといった攻撃をしてくるが、近接攻撃の威力は大したことがなく、アスナの細剣によるパリィでも十分過ぎるほどに弾き返せることが分かった。最終ゲージの暴走モードになればどのような攻撃をしてくるかは分からないが、少なくともそれまでは突撃のみを注意していれば問題なさそうだ。

 

 そう結論付けたキリトとアスナは、カルデラ湖を離脱し主街区へと帰還した。主街区で修理や補充を行い少々休憩を入れた後、そろそろ十七時というところで会場である北東エリアの広場へと向かう。

 

 開始ギリギリ前に無事に広場に到着した二人は、いつも通り会場の端に腰を下ろす。広場の中央にはすでにリンドとキバオウが立っており、キリト達が広場に入ってきた時には視線をこちらに向けたものの、その後は前を向いて開始時間を待っていた。

 

 午後十七時となり、会議が開始される。参加しているのは見慣れた面々であるが、四、五名見たことがない顔が加わっているのがわかった。

 

「第四層フィールドボスだが、ベータテストとあまりにも環境が違うため、当然と言うべきかフィールドボス自体にも変更があった。ベータでは火山の火口の傍にでかい亀が居座っていたらしいが、正式サービスでは火口がカルデラ湖となっており、ボス自体も変更されている」

 

 会議の前にアルゴに送った情報をリンドがそのまま読み上げた。こうして攻略会議が開かれているということは、DKBもALSも攻略組全員が乗る船を調達する目途が立っているということだ。しかし一隻作るのに三時間かかるため、一隻分の材料を集める度にロモロに船を作ってもらわなければならない。恐らく会議が終わった後も彼らは船の材料集めに奔走するのだろう。

 

 アーケロンの突撃に対する注意と、転覆した際の対応についての周知が行われ、攻略会議は一時間かからずに解散することになった。階層ボスならばもう少しかかるのだろうが、今回はフィールドボスだ。初のレイドでの水上戦闘であるから多少戸惑いはあるかもしれないが、まずはやってみなければどうしようもないというところがある。

 

 フィールドボスの攻略は明日二十四日の午後三時から。出発は午後二時過ぎになるだろう。ならば、今日これからの時間と明日の午前中は主街区のクエスト消化ができそうだ。フィールドボス戦の前にレベルが一つ上がればいいなぁと思っていると、厚いプレートの鎧を着こんだ男が一人、DKBの集団の中からこちらに向かってくるのが見えた。

 

「あの、アスナさん。ちょっと時間いいだろうか」

 

 DKBの前衛パーティーの一人、確かシヴァタという名前だったはずだ。高い身長に短髪と、正しくスポーツマンといった体の彼は、ちらとキリトに目線をやってからアスナに声をかける。言葉的にはアスナだけに用がある感じだ。

 

 隣に座っているアスナを見れば、彼女もこちらに視線を向けている。恐らく自分には聞かせたくない話なのだろう。

 

「じゃあ、先に行ってるよ」

 

 キリトは立ち上がり、広場の外へと足を向ける。後ろからシヴァタの「すまんな」という声が聞こえたので、背中越しに左手をひらひらと振り気にするなという意思を表示する。二人が何を話すかはわからないが、パーティーを組むには相手への気遣いも大事なのだ。

 

 広場のすぐ近くの船着き場に留めたティルネル号に乗り込み、普段アスナが座っていない船尾側に付けられた椅子に腰を下ろしたキリトは何をする訳でもなくぼーっと水路を見る。大きな観光用ゴンドラや、複数名のプレイヤーが乗ったゴンドラが行き交っているが、稀に仲が良さそうな男女二人が乗った二人用のゴンドラが水路を進んでいる。北東エリアは劇場や公園などの観光できる場所が多いため、彼らのようなカップルのデートスポットとしてはもってこいなのだろう。

 

――デートかぁ……。

 

 女性に対する興味はあまり強くなかったキリトではあるが、人並みには女性とのお付き合いというものに憧れを抱いていた。現実世界でのキリトはパソコンおたくの根暗な人間という自覚があったし、周囲の人間にもそう思われていただろう。当然女性との関わりなどなく、この仮想世界でも女性と関わることなどほとんどないと考えていた。

 

 しかし、何の運命の因果かわからないが、キリトはこの世界でも最上級の美貌を持つ少女とコンビを組んでいる。彼女の美しい点など上げようと思えばいくらでも上げることができるだろうし、そこら辺で一度でもアスナの姿を見たことがある男に聞けば、魅力的な点を長々と語ってくれるに違いない。美しいだの、綺麗だのといった言葉がぽろぽろと出てくるのだろうが、最近キリトは彼女の別の面の魅力にも気づき始めていた。

 

 珍しいものを見てはしゃいだり、普段から考えられないような大笑いをしたり、意外と食いしん坊だったりと、普段の姿を見れば想像のできないものをキリトは何度も見ることができている。クールでミステリアスな少女は、年相応の子供っぽい一面も持っていた。

 

 その姿を見たことがあるのは、キリトと精々がアルゴくらいだ。そのことに若干の優越感を感じるが、キリトは先程の、恐らくこんなことを考えることになってしまった原因の出来事を思い浮かべ、溜息をつく。

 

 シヴァタというプレイヤーは、キリトが知っている限りサバサバとした、他人に嫌味を感じさせない男だ。外見も男らしく、学校等に通えばある程度女子生徒から人気が出そうな容姿をしている。DKBの中でもそれなりの位置にいるのは、実力も当然だが、やはり外見や性格によるものもあるのだろう。人に慕われるには、やはり外見というのは重要なポイントなのだ。

 

 そこまで考えて、キリトは自分の姿を見る。真っ黒だ。

 日も落ちてきており、辺りはどんどん暗くなっていく。そんな中でキリトのように黒い服で全身を揃えていれば、存在感などたちまち無くなるだろう。顏は悲しいことに女顔で、かっこいいというには程遠い。身長も低く、とてもではないが頼れる男性とは言えないだろう。

 

 キリトは再び溜息をつく。明日はクリスマスだ。その前日に男性が女性に声をかけるなど、用件は一つしかあるまい。現段階でアスナが明日の予定を入れるかどうかはわからないが、キリトを外させたということはそういうことなのだろう。予定では主街区に戻らずそのまま次の村に行くつもりだったが、主街区に戻って一晩明かすことになるかもしれない。多くのMMORPGで採用されているクリスマスイベントの一つでもあれば、一人でも時間を潰せそうなものなのだが……。

 

 もう何を考えても溜息が出る。なんと情けないことだろうか。

 コンビを組んでいる女性が他の男とクリスマスを過ごすというのは、何とも複雑な気持ちにさせられる。女性経験が豊富であれば、彼女を引き留めることもできようが、残念なことにキリトにはそれが成せるだけの知識も度胸も存在しなかった。

 

 アスナに対して恋愛感情があるわけではないはずだ。しかし、こういった状況に陥れば、この程度の葛藤は誰しもがするものではないだろうか。

 

――プレゼント、無駄になったかなぁ……?

 

 他にそういった関係の人間がいるのならば、キリトから贈られたアクセサリーなど喜ばれまい。自分が付けることもできるのだが、それはそれでとてもむなしい思いを味わうことになるだろう。

 

 結局、キリトにはアスナがどのような選択をしたのか知るまでは何もできず、彼女がティルネル号に戻ってくるまでの数分間を悶々と過ごす羽目になった。

 

 

 

 シヴァタ氏との会話は少々長くなってしまい、アスナは気持ち早足でキリトの待つティルネル号へ向かっていた。

 DKBとALSが合同でクリスマスパーティーを開くので、ぜひ参加して欲しいと誘われたのはシヴァタが初めてではなかった。フィールドボスの偵察のために主街区を出る前からピコンピコンと何度もメッセージの受信音が鳴っており、内容はその全てがクリスマスパーティーやるので参加してくれというものだった。

 

 クリスマスというものにいい思い出はない。現実世界のクリスマスは、いつも通りの夕食にケーキがついたものを一人で食べ、自室の机の上に母親が参考書が置いてあるというものだ。同級生たちはクリスマスを楽しみにしてたが、終ぞアスナはその感覚を味わうことができなかった。

 

 しかし、今はクリスマスに対する印象は少しだけ違った。この世界に来た当初はそもそも明日のことを考えることすら難しかったが、今では大分余裕ができてきたように思える。食事も、風呂も、この目に映す風景もアスナは楽しめるようになってきた。それも全ては隣に立ってくれている少年のおかげだと思っている。

 

 彼がクリスマスのことを話題にすることは無かった。常に事実を見据え続ける彼は、日々を生きるのに必死なこの世界で、クリスマスなどという行事に(うつつ)を抜かすなど馬鹿らしいと考えているのかもしれない。それでも、もし、叶うなら、大したものでなくても、彼とクリスマスを祝いたいと思ってしまった。

 

――そんなことしてる場合じゃないのはわかっている。でも……。

 

 何も無いだろうということは理解していた。明日、アスナはキリトと共にフィールドボスを倒し、次の街へと拠点を移す。ボスの討伐は午後からだから午前中は時間が空くが、恐らく主街区のクエストを消化するために走り回ることになるはずだ。クリスマスらしさを感じられることなど、きっと一つもない。

 

 寂しいと思ってしまうのは、アスナの心が弱くなってしまっているからだろうか。この階層に来てから、アスナはキリトに甘えっぱなしだった。無論、戦闘面で迷惑をかけたとは思っていないが、精神面では完全に彼に寄りかかっていたと言っていい。

 

 船着き場に辿り着き、ティルネル号の上で座っている彼の姿が見えた。水路を眺めながら何かを考えているように見える彼の横顔はとても大人びている。

 

 聞いてみようか、迷う。

 

 クリスマスパーティーの参加は断った。

 そもそもシヴァタ氏が直接声をかけてきたのは、参加要請と同時にキリトへの謝罪を頼むためだったのだ。ラストアタックを取り続ける彼への嫉妬から、<<ビーター>>を参加させたくないと強く主張した者がいたらしい。

 

 クリスマスパーティーには参加できない。ならば自分と……。

 

 そこまで考えて、アスナは首を振った。言えば、彼は快く受け入れてくれるだろう。しかしそれは、たった一日であれ彼の歩みを止めることになってしまう。ただでさえ甘えていると自覚しているアスナに、それは許容できなかった。

 

 クリスマスくらいゆっくりしようとは言えない。でも、プレゼントを贈るくらいは許されるはずだ。

 

 装備品やアイテムといったものは望まないだろう。そもそも彼の装備品は一級品だし、アイテムは消費してしまえばそれで終わりだ。可能なら、形に残るものを渡したい。

 

――裁縫スキルで、何か作れないか見てみようかな。

 

 裁縫スキルで作れるものならば、重量的にも軽いし、使い続けることができるはずだ。幸運なことに材料となる布地はある程度確保している。贈るものさえ決まってしまえば、装備制作でパッと作ってしまうことができる。

 

 何を作るかはまだわからないが、喜んでくれると嬉しい。寂しさが少し軽くなるのを感じつつ、アスナはティルネル号の上で待つキリトの元に向かった。




次回、ついにクリスマスだあああああ!!!!!!!!
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