Re:SAO   作:でぃあ

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ボス戦どころか前日にすらいかなかった


第三話

 スイッチとPOTローテ。

 

 今まで一度もパーティーを組んだことがなかったアスナには、初めて聞く言葉だった。

 

「様子を見る限り経験はなさそうだね。……明日はその練習に充てたいけど問題ないか? 早朝だけど、練習にちょうどいいクエストを受けれるんだ」

 

「かまわないわ。どうやら基本的なことみたいだし、今後パーティーを組む機会があるかはわからないけど……覚えておいて損はなさそうだし」

 

 今回のボス戦で初めてパーティーを組んだが、このボス戦が終わった後は当然ソロで活動するつもりだ。

 だが、ソロで動くつもりであっても一時的な共闘等はあり得るかもしれない。ありがたいことに、目の前の少年は練習に付き合ってくれるという。この機会を逃す訳にはいかないだろう。

 

「オーケー。じゃあ明日はそういうこととして……、これからどうする? 今日中に動き方やらクエストの内容やらの説明しておきたいし、その辺の酒場で打ち合わせでもしないか?」

 

「……あまり人目に付きたくないわ」

 

 ソロで活動することが前提なのだから、誰かと一緒にいるところをあまり見られたくなかった。

 この人と食事すること自体は、別に嫌ではないのだが……。

 

「じゃあ、どっちかの宿とか? 鍵とかかけれるし」

 

「絶対ごめんだわ! 何するつもりなの!? いやらしい!」

 

 前言撤回。こんな狼と一緒に食事なんてできない。

 アスナは全力で拒否し、自らの宿に戻っていく。

 

「ちょ、ちょっと待って! そういうつもりじゃなくて!」

 

 後ろから慌てたような声が聞こえるが、気にしない。

 いきなり宿に連れ込もうとする男の言葉に耳を貸す気なんて、アスナにはさらさらないのだ。

 

「ほら、うちの宿なら、一泊八十コルで格安だし! 部屋も広いし、牛乳も飲み放題!」

 

 宿の問題じゃない、一緒に泊まる人間の問題なのだ。

 

「あとはあんまり使わないけどお風呂とかもあるし!」

 

 瞬間、アスナは踵を返し持ち前の敏捷さで一気に少年の胸倉に掴み掛る。

 

「ヒイッ!」

 

 少年が怯えた顏をしているが、そんなことは今のアスナに関係なかった。

 

「お風呂……あるの?」

 

 お風呂に入れる。アスナの頭の中はそれでいっぱいだったからである。 

 

 

「わぁああ……!」

 

 アスナの目の前には、小さいながらしっかりしていて、お湯がなみなみとたまっている浴槽があった。

 

「食事はお風呂に入ってからにしよう。では、ごゆっくり……」

 

 少年が浴室の扉を閉める。

 

――鍵はついて無さそうだけど……まあ、大丈夫よね?

 

 少年の顔を思い浮かべ、問題ないと判断したアスナはメニューから武器防具全解除を選択する。

 続いて衣服、下着、髪型を全解除し、生まれたままの姿になったアスナはそっと浴槽に足を入れる。

 

 一か月ぶりのお湯の感覚に、アスナの身体はビリッと震える。

 

「ぁ……っ……」

 

 声にならない音がアスナの口からこぼれる。

 足をお湯に入れただけでも、張りつめていた精神が緩んでいくのを感じる。

 

 給湯口から流れ出るお湯を、アスナは頭から被る。

 

――温かい。

 

 SAOに囚われて一か月。口にするのは安物のパンと水のみ。

 安宿に籠った後は、薄暗い迷宮区に籠った。

 アスナはこの一か月、この温かさと全く無縁の生活をしてきたのだ。

 

 アスナは後ろから浴槽に倒れこむ。

 

 アスナの全身が温かいお湯に包まれる。

 もう、我慢できなかった。

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 緊張とは無縁の声がアスナの口から発せられた。アスナの心も身体も、お湯の温かさで溶けきってしまったのだ。

 

――もう、思い残すことは何もない。明後日のボス戦で死んだとしても……いや、最後に甘いものを食べたいな……。

 

 浴槽で存分に身体を伸ばしながら、アスナは思う。

 わかっているのだ。このお湯の温かさも、この満足感も、すべてはナーヴギアから発せられた電気信号でしかない。紛うことなき偽物なのだ。

 

 でも、この一回の入浴ほど、アスナの心を満たしたものはあっただろうか。

 

 現実ではとある企業の社長令嬢であったアスナは、毎日の食事やお風呂に事欠くことはなかった。

 食事はそれ相応の価格のものだし、お風呂も広く、二十四時間入ることができた。

 それは明日奈にとってはあって当然のもので、それに対して特別な価値を感じたことはないのだ。

 

――食事をしても、お風呂に入っても、満足感を感じることなんて今までなかった。でも、この入浴は今までのどんなものよりも貴重に思える。

 

 お風呂に入りたい。甘いものが食べたい。

 この感情はナーヴギアが作り出したもの。それは間違いない。

 

 しかし、この作り出された感情を否定することは、今のアスナには不可能だった。

 

 

 

 結局宿に連れてくることになった少女が浴室に入るのを見送り、キリトは窓際に備え付けられた椅子に腰かけた。

 

 扉一枚を隔てて美少女がお風呂に入っているという事実に、キリトは心穏やかでいることはできなかった。しかし、考えれば考えるほど落ち着かなくなることはわかっていたので、水でも飲もうとキリトはコップに入った水をアイテムストレージから取り出した。

 

 浴槽からちゃぷん、ちゃぷんと水音が聞こえる。

 この宿屋の周辺は牧場で、夜になると物音一つ聞こえない。

 鍵のない扉に隔たれた浴室から聞こえる音は、十四歳の少年であるキリトを大いに葛藤させた。 

 

――これは予想以上に辛い……。落ち着け、クールになれ。

 

 自制心を総動員し、キリトは心を落ち着かせる。

 たとえどんな理由であれ浴室の扉が開いてしまえば、次の瞬間、キリトは犯罪者収容施設の黒鉄宮(こくてつきゅう)行き間違いないのだ。

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 キリトはグラスを落とす。キリトの精神のHPゲージはイエローになっていたが、レッドには至っていなかった。

 キリトは自らのチキンハートに感謝する。

 

――はやく、上がってこないかなぁ……。

 

 自分の度胸の無さを褒めるという悲しい事態に心の涙を流しつつ、キリトは頭の中の邪心を抑えつけるのであった。

 

 

 コンコココンッ。

 

 唐突になったノックの音に、キリトは読んでいた逆さまの(・・・・)ガイドブックを落す。

 

――このノックの仕方はアルゴかな。

 

 扉を開けると、予想通り情報屋の少女アルゴが立っていた。

 

「珍しいな、あんたが直接部屋に来るなんて」

 

「いやなに、どこぞの剣士が少女を風呂で釣って宿に連れ込んだって噂が流れててネ」

 

「ま、まっさかぁ。そんなことあるわけないじゃないか。いや、途中まで一緒だったけど、もう宿に帰ったんじゃないかな?」

 

 アルゴの直球過ぎる指摘に、キリトは冷や汗を流しながら否定する。

 そんな噂が事実だと流れたら、自分はもう女性プレイヤーと話す機会はなくなってしまうだろう。

 

「ふーン。まア、この間の依頼の報告もあるんダ。お邪魔するヨ」

 

「あっ、こらっ!」

 

 アルゴは躊躇うことなく部屋に入っていく。

 部屋に入り早々に内装の物色を始めたアルゴを尻目に、キリトは頭を抱える。

 

「ン……、何だこの部屋……バスルーム? 情報通り風呂があるじゃないカ、キー坊」

 

 アルゴは当然のように浴室に気付く。

 

――まずい……!

 

 その扉を開けられたら、キリトの運命は牢獄行き一択だ。

 

「ちょっ、待て!」

 

 扉を開けようとしたアルゴを押さえにかかるも、アルゴは身体を回転させひらりとかわし、逆にキリトの足を引っ掛ける。顔から床に突っ込むことになったキリトには、アルゴが扉に手をかけるのを止める術はなかった。

 

「さて、ご開帳ー……こりゃ驚いたナ」

 

 浴室の扉が開かれた。

 キリトは浴室から白い湯けむりが流れ出てくるのを確認する。

 

――終わった。

 

 キリトはそーっと顔を上げた。

 

 少女がこちらを振り向いている。

 茶色の髪からは水しぶきが飛び、傷一つないきめ細やかな肌色の上には、たった今装着したばかりであろう――おそらく初期装備の――白い下着。

 突然の出来事に呆然としている彼女と、同様に頭の回らないキリト。

 

「えっと……そこも初期装備……なんですね?」

 

 直後、キリトは自分に向かってくる流星を見た。

 

 

 

 しばらくしてキリトは目を覚ました。床に転がったままであったので体を起こす。

 

 部屋の中には椅子に腰かけたアルゴ。そして、ベッドの上には丸い物体が毛布を被っていた。

 茶色の髪がはみ出しているため、細剣使い(フェンサー)の少女であろうが、先ごとの出来事もあってか声をかけることもできなかった。

 

「いやぁ、とてもいいものを見せてもらったよキー坊。こんな場所で痴話喧嘩を見れるとは思わなかったヨ」

 

 痴話喧嘩という単語に、ベッドの上の物体がピクリと反応する。

 しかし、反論すると墓穴を掘ると思ったのか、また動かなくなった。

 

「勘弁してくれ。流石に黒鉄宮行きを覚悟したぞ今回は。それで、報告があるって言ってたな。さっそく頼むよ」

 

 キリトは右手で頭をかきながらアルゴの座っていた椅子の対面に座る。

 

「ン? いいのかいキー坊。ここで話しても」

 

 アルゴはベッドに視線を向ける。確かに、今から話す内容はビギナーに聞かせるには少々問題があるかもしれない。しかし、どうせ明後日のボス戦の後にはすべてが明らかになるのだ。あらかじめ知っているならばこの少女も口を出すことはないだろう。

 

 この少女が薄汚いベータテスターと深く関わっている。

 

 そんな噂が流れるのを、キリトは是としなかった。そして恐らく、対面に座るアルゴもそう考えているのだろう。だからこそ、キリトとこの少女が一緒にいるこの場所にわざわざ訪ねてきたのだろうから。キリトは黙って頷き、アルゴに話を促す。

 

「……わかっタ。では手短に報告するヨ」

 

 ベータテスターのこの一か月の死者は約三百名。公式サービスのベータテスターログイン率の予測から、損耗率の推計値は40%前後。ビギナーの約二倍。

 

 アルゴはこの事実を淡々と口にした。

 

「……予想より多いな」

 

「ベータテストとの差異はほんの少しダ。実際に配布しているガイドブックの情報である程度は通用しタ……それを当然と思っているベータテスター以外にはナ。武器が違ウ、使う技が違ウ、モンスターpopの間隔が違ウ、本当に少しの差異がベータテスターには落とし穴になル」

 

 当然と思っていた知識から、少しの違いで落とし穴に嵌る。そして、その落とし穴にすぐに気づけなかったものは代償を支払うことになる。命という名の代償を。

 

「ディアベルは、この情報をお前に聞いたか?」

 

「……その情報は百コルだヨ、キー坊」

 

 アルゴの返答が遅れる。ということは、そういうことなのだろう。

 ディアベルは現状のベータテスターとビギナーの確執を、はっきりと認識している。

 

 あの始まりの街でのデスゲーム宣言を聞いた直後、ひたすらに前に走り続けた。

 数少ないリソースと……より良い武具、効率の良い狩場を求めて、ベータテスターたちは前に前にと走り続けた。剣を振ることすらおぼつかないビギナー達を置き去りにして。

 

 ベータテスターはいち早く前線を経験することで、後続の者たちへ情報を残す。

 しかし、後続したビギナー達はこう考える。ベータテスターは自分たちを見捨て、旨みのある狩場を独占し、自らの利益のためにしか動かないと。

 ビギナーとベータテスターの亀裂は、修復不可能なまでに広まっていた。

 

 明後日のボス戦で一人でも死者が出れば、その不満は全てベータテスターへと向く。

 ビギナー達のベータテスターへの不信はもう抑えきれない。

 

「まあ、了解したよ。情報助かったぜアルゴ。また頼む」

 

 キリトはメニューを操作し、指定されていた金額をアルゴに送金する。

 確かニ。とアルゴが金額を確認し、そのまま立ち上がる。

 

「じゃあオレっちはもう一人の方に情報を伝えてくるヨ。またナ、キー坊。細剣使い(フェンサー)さんにもよろしくナ」

 

 アルゴが部屋を出ていくのを見送り、キリトは溜息を一つ吐いた。

 何とも気が重くなる話だ。かじ取り一つ間違うと、ベータテスターとビギナーの全面戦争だ。一度そうなってしまえば、負けるのは圧倒的に人数の少ないベータテスターの側。残されるのは情報源を失い、手探りで進まねばならないビギナー達。ゲームクリアなんて遠い夢、不可能になってしまうだろう。

 

――何とも気が重い話だ。

 

 この状況で求められるものがなんなのか、キリトは理解していた。

 一つは皆をまとめる統率力を持つ英雄。そしてもう一つは――

 

「ねえ。今の話、どうしてわたしに聞かせたの?」

 

 聞こえた声に、キリトは思考を一旦停止させる。

 

「わたしにはベータテスターもビギナーも関係ないけど、ああいう話をするってことは貴方はベータテスターなんでしょう? わたしにも隠しておいた方がよかったんじゃないの?」

 

 少女は起き上がり、ベッドの上からこちらを見ていた。

 こちらを必要以上に警戒しているという感じではないが、納得のいく理由が見つからないのだろう。その表情には明らかな疑念の色が広がっていた。

 

「その理由はボス戦の前にでも話すよ。ちょっと面倒な話になるしな。それより飯にしよう、腹減ったろ?」

 

 キリトは無理矢理話題を変える。

 実際に今話してもどうしようもないことであるし、話す内容にしても最低限のことしか話すつもりはなかった。

 

「……まあ、いいけど」

 

 少女はベッドから降り、先ほどまでアルゴが座っていた椅子に座る。

 キリトはストレージからパンを二個取り出すと、一つを少女に手渡す。

 

「一番安いパンだけど、結構うまいよなこれ」

 

「本気で言ってる? 味なんてほとんどしないじゃない」

 

「そのまま食べたらな。ちょっと工夫すると中々食えるんだ、一日一回は食ってるよ。……これ、使ってみてくれ」

 

 キリトはメニューから小さな器を取り出し、椅子の間にあるテーブルの上に置く。少女がその器を軽くつつくと、指先が光った。

 キリトはパンに塗るように促す。

 

「これは……クリーム?」

 

「騙されたと思って食べてみなよ」

 

 じっとクリームが乗ったパンを見ていた少女は、意を決して齧り付く。

 一瞬固まったかと思えば、一気にパンを食べつくしていく。

 

 よほど気に入ったのだろうか。

 このクリームをもらえる逆襲の牝牛というクエストは、手間の割に経験値やコルがおいしいクエストだ。一日ガッツリ周回したため、クリームの在庫にはまだ余裕がある。

 

「もう一個食べる?」

 

 キリトの問いかけに少女はびくりとしたが、一拍おいて拒絶した。

 

「……いい。美味しいものを食べるために、ここにいるわけじゃないもの」

 

「じゃあ、何のために?」

 

「自分が自分であるために。あの時貴方に助けられたとき、決めたの。最初の街の宿屋に籠って腐っていくくらいなら、自らの意思で戦い、戦い抜いて、そして……!」

 

「『満足して死ぬ』、か」

 

「そうよ。ゲームのクリアまで百層。なのに一か月かかっても第一層すら攻略できていない。単純計算で百か月、八年以上よ? ゲームをクリアする前に現実のわたしたちの身体がもたない。無理だわ、わたしたちはここで死ぬ。もう、帰れない」

 

 少女の表情には絶望と諦観がうかがえる。SAOに囚われた者たちが直面している現実。

 この少女が言ったことは的を射ていた。現状がこのまま続くようでは、ゲームクリアはおろか半分の五十層までたどりつけないだろう。攻略が長引けば、現実世界で体力のない者から徐々に脱落していく。最終的にはラスボスを見ることも叶わないまま、この世界の人間はいなくなるだろう。それほどに、ゲームの攻略は停滞し状況は切迫していた。

 

 それでもと、キリトは思う。

 自分のエゴなのは理解している。常に死の危険と隣り合わせのデスゲームで、こんなことを言うのは都合がいいとも理解している。この少女が死に場所を得ようとしているのも、今の言葉から明らかだ。しかし、キリトは言葉に出さずにはいられなかった。

 

「それでも俺は、君に死んでほしくない、生きていてほしいと思っているよ」

 

 少女が驚いたようにこちらを見る。

 

 彼女が青いポリゴン片になる光景だけは、見たくない。

 彼女の作る笑顔が砕けることだけは、決して許してはならない。

 少女の顔を見返しながら、キリトは心の底からそう思う。そして、自嘲する。

 

――共にいられるわけじゃないのに、何を都合のいいことを言ってるんだか。

 

 話は終わったと、キリトは立ち上がる。

 明日の朝は早い。クエストの関係上、七時にはここを出なければならないだろう。

 

「明日は七時にはここを出なきゃならないから、それまでに用意をしといてくれ。何かあればメッセージを飛ばしてくれ。部屋は隣だからすぐに来れるようにしておくよ」

 

 最後におやすみと言って、キリトは部屋から出る。最後に少女が何か呟いていたような気がしたが、何かあるならメッセージが飛んでくるだろう。

 つまらないことを言ってしまった。

 キリトは自分の部屋に戻る間に、軽い後悔で溜息を吐くのだった。

 

 

 

「なんなのよ、もう」

 

 少年が部屋から出ていくのも気にせず、アスナはそう呟いた。

 アスナの頭の中では少年が言った言葉が繰り返し流れていた。

 

 死んでほしくない。

 

 このデスゲームに囚われて、初めて言われた言葉だった。

 

 生きていてほしい。

 

 親にすら、こんなことを言われたことはなかった。

 

 両方とも、自らを気遣う言葉。

 あの少年は、アスナの命を気遣ってくれたのだ。

 

「なんなのよ、もう……」

 

 再び同じ言葉が出る。

 現状ではゲームクリアなんて不可能だし、遠からずみんな死ぬ。アスナはそれを口に出した。内容は間違っていなかっただろう。そのことはあの少年もわかっていた筈だ。

 

 それなのに、あの少年はアスナに生きてほしいと言う。

 

――そんなこと言われたら、簡単に死ぬなんてできないじゃない……。

 

 アスナは死に場所を探していた。

 自らが満足すれば、それでいいと思っていた。この世界に現実での知り合いなんていない。誰にも知られることがなくても、戦い抜いて死ぬなら満足できる、そう思っていたのだ。

 

 だからだろうか。

 少年の純粋に自らを心配する言葉は、アスナの心に深く突き刺さった。

 

 アスナは椅子に座ったまま、膝を抱える。

 

「ホント、なんなの……」

 

 膝に顔を埋めたアスナ。その頬が紅潮していることを指摘する者は、誰もいなかった。 

 

 

 




次は多分前日だけで終わる(確信

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