Re:SAO   作:でぃあ

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ついにボス戦
あとで修正いれるかもしれない


第四話

 ウィンドフルーレ。

 

 第一層のクエストボスからドロップする細剣であり、この階層では最も軽く正確な攻撃を放てる武器だ。敏捷性や正確な攻撃によるクリティカルを狙うプレイヤーにとって、この武器を入手できるかどうかで初期レベリングの効率は大きく変わる。細剣使い自体の数が少ないため市場に出回ることは少ないが、第一層の細剣カテゴリの最上級に位置する武器は、間違いなくウィンドフルーレであった。

 

 今、その珍しい細剣使い(フェンサー)であるアスナの腰には、ドロップ後強化されたウィンドフルーレ+4が差されている。

 

 

 本日早朝、アスナはパーティーの少年とクエストボスの討伐を行った。その内容は、彼曰くちょうどいいクエストであったわけで、アスナは存分にスイッチの練習を行うことができた。

 自らが可能な限り攻撃を行い、敵攻撃を誘い出してから交代。その動きをひたすらに続ける。これまでのアスナは攻撃の回避に徹していた。攻撃を回避することで敵の隙を作り、そこに攻撃を加えていた。しかし、ただ攻撃を回避するだけでは行動停止時間が短く、急造のパーティーではスムーズな交代が難しい。よって、敵の攻撃を防ぐか弾くかしなければならないのだが、これが意外に難しかった。

 敵の攻撃を受け止める筋力を持たないアスナは、必然的に攻撃を弾く選択肢を取らざるを得ない。敵の攻撃を弾くには、向かってくる敵の武器に対して正確なクリティカル攻撃が必要になる。動きを止めている相手に対してクリティカルを打ち込むことは、今のアスナには難しいことではなかった。しかし、それなりの速度で動く敵に対してクリティカルを打ち込むには、アイアン・レイピアでは少々正確性が欠けた。尤も、ウィンドフルーレを手に入れたことで正確さは比較的解消されたので、問題はなくなったわけだが。

 

 今まで初期装備のままで走り続けたアスナにとって、武器を変えることによる変化は驚愕に値するものだった。

 自分の思う場所を突くことができ、その鋭さも増したことでダメージ量も大きく上昇した。

 

 これならば、足手纏いになることはないかもしれない。 

 レベリングを開始するのが遅かったアスナは、無茶なレベリングによって最低限のレベルを確保しているものの、それでも明日ボス攻略に参加するプレイヤーの中では最下層に位置するだろう。パーティを組んだ経験もなく集団戦の経験も初めてだ。予期せぬ事態で動けなくなることは十分にあり得た。

 

――命がけの戦いで力が足りず、自分だけが死ぬならばいい。でも、足を引っ張り周囲の人間を巻き込むことだけは避けたい。特に、今自分の前を歩いている少年だけは、絶対に……。

 

 昨日の夜、彼に言われた言葉が脳裏によぎる。

 死んでほしくない、生きていてほしい。

 アスナの心に深く刻まれた、二度も命を救ってくれた彼の言葉。

 

 死に場所を探し無茶な戦いに挑んでいた自分を、危険を承知で助けてくれた。現状に絶望し、現実での死を訴えてもなお、生きてほしいと言ってくれた。彼に命を助けてもらったおかげで、自分は走り出すことができた。

 

 アスナはこの少年から与えられてばかりであることを自覚している。

 

 今腰に差しているこの剣だってそうだ。本来なら、自分は店売りのアイアン・レイピアでボス戦に挑むことになっただろう。しかし、今アスナはウィンドフルーレという強力な武器を使うことができる。強化することができたのも、余ったお金で防具を整えておくというのも、皆彼の助言だった。

 このままでは彼に追いつくことなんてできないだろう。一方的に与え、与えられる関係。そんな関係が長く続くわけがない。彼と共にありたいならば、自分と共にいるメリットを彼に与えなければならない。

 

――彼と共に? ……何を考えてるの、わたしはいつか死ぬというのに。

 

 足が止まる。アスナは自らの感情が制御できていないことを理解していた。この葛藤がどういった感情から来るものなのか。ただ、悪感情からのものではないことだけはわかっていた。

 

「急に止まってどうした? ラグったか?」

 

 足を止めたアスナに気づいたのか、前を歩いていた少年から声がかかる。

 

 なんでもない。と返し、アスナは再び歩き始める。

 明日のボス戦でこの葛藤は晴れるのだろうか。そんなこと思いながら。 

 

 

 

 路地裏に入ってすぐの壁に背中を預け、キリトはアルゴからの報告を待っていた。

 

 早朝からパーティーを組んだ少女とクエストを攻略し、彼女の武器の強化まで終わったところで予定が無くなった。

 予定がないのなら、買いたいものがあるので失礼する。と言う少女を見送ったあと、キリトはアルゴにとある依頼をした。

 

 昨日、宿屋で彼女が語った言葉。

 このままのペースではクリアする前に現実の身体がもたない。もう、帰ることはできない。

 

 キリトにはその言葉を否定することはできない。

 攻略序盤は安全マージンを手に入れるため、より長くレベリングをする必要があるのは理解していた。しかし、それでも一か月という時間はキリトには予想外だった。想像以上に被害が大きい。前線で戦うことのできる戦力がごろごろ消えていく。さすがに直近では死者の数は減ってきているようだが、それでもゲーム開始初期に前線に出ていた人間たちは今どれほど残っているだろうか。

 

 失った戦力は戻らない。この世界では人が減ることはあっても、増えることはない。戦力を増やすにはビギナー達の育成が必要だが、皆が皆戦う意思を持っているわけではない。仮に戦う意思を持ったとしても、最前線まで来るまでには膨大な時間が必要になる。しかもこの停滞した状況では、希望を持ち続けることは難しい。クリアできるという希望がなければ、人は前に向かって進めない。もし失敗すれば、フロントランナーに被害が出るだけではなく、この世界は絶望に染まってしまうだろう。

 

 だからこそ、明日のボス攻略は失敗するわけにはいかなかった。

 

――だが、もし失敗すれば……彼女はどうするのだろう。あの時のように死に急ぐような戦いをするのでは……。

 

 少女が死を求めているのは理解していた。

 キリトは不安になった。彼女が言う買い物というのは、死ぬための準備なのではないかと。

 

 細剣使い(フェンサー)の彼女が何を買いに行ったのか、調べてほしい。

 

 アルゴは程なくして戻ってきた。

 曰く、死ぬ前の人間があんなものは買わない、という。

 アルゴにしては抽象的な報告だ。しかし、アルゴがあの細剣使い(フェンサー)の少女を気にかけていることを知っているキリトは、それ以上聞くことはしなかった。情報屋としてのプライドを持つ彼女が言わないのであれば、それは聞かないほうがいい。

 

 キリトは指定された千コルをアルゴに送り、路地裏を後にした。

 

 

 

 ボス攻略当日。

 四十四名のボス討伐隊は列を作り迷宮区を歩んでいる。迷宮区のモンスター自体はもはやこのメンバーの敵ではない。popした瞬間に倒されてはポリゴン片に変えられていく。列から少し間を開けて、最後尾を歩いているキリト達には出番が回ってくることはなく、ただ黙々と歩き続けるのだった。

 

「……ねえ、アルゴさんの話をわたしに聞かせてくれた理由、教えてくれる?」

 

 ああ、そういえば約束もしたか。

 少女の突然の問いかけに、キリトは一昨日の会話を思い出す。アルゴから受けたベータテスターの損耗率と、ビギナーの損耗率との差。ビギナーよりも二倍の割合で、ベータテスターは死んでいった。数こそ少ないため、人数ではビギナーの方が圧倒的に多いが、それでも死者の中のベータテスターの割合は無視できない数であった。

 

「君も薄々感じてるとは思うが、ベータテスターをビギナーの間には深い亀裂がある。最初の攻略会議の時に、キバオウがベータテスターの追及をしたのがいい例だ。ビギナーの多くはベータテスターに強い不満を持っているんだ。自分たちを見捨てたとね。……そして、それは事実だ。多くのベータテスターは自らの利益のために、ビギナーを置いて走り出した。もちろん、俺も」

 

 キリトの脳裏にはデスゲームが始まる前に出会い、ほんの少しだけレクチャーをした青年――クライン――の顔が思い浮かぶ。

 茅場晶彦による<<チュートリアル>>が終わり、広場から出られるようになった瞬間、キリトはクラインを連れ出した。始まりの街周辺のリソースはすぐに埋まる。お前一人なら次の街まで連れて行けるからついてこい、と。

 

 クラインは拒否した。

 自分には共にSAOを購入した仲間がいる。見捨てるわけにはいかないと。

 

 それを聞いて、キリトはクラインを見捨てた。クライン一人なら何とかできる自信はあった。しかし、クラインの仲間までとなると、キリトの手には余る。

 

 連れていけない。

 

 そう判断したキリトは、一人で街を飛び出した。

 この時の判断によって、キリトはフロントランナーの中でもトップクラスの実力を得ることができた。ひたすらに先行することで、高い経験値、より良い装備を確保してきたのだ。

 

 だが、同時に思う。

 

 自分があの時、クラインの仲間と共に進む選択肢を選んだのならば……。

 ベータテスターがここまで憎まれることはなかったのではないだろうか。自分一人がビギナーと共に歩んだところで大した影響はないだろう。でも、もしかしたら、ビギナーとベータテスターの間の架け橋くらいにはなれたかもしれない。

 

 だが、キリトはその選択肢を選ばなかった。その結果が今の状況、この状況を作ったのは、間違いなく自分も原因の一つなのだ。

 

 少女はこちらを向いているが、言葉を発そうとはしない。

 それを確認してから、キリトは続ける。

 

「俺は最初の攻略会議で、ボスの仕様がテストから変わっているかもしれないと発言した。ディアベルもそれを認め、皆も認識した。でもね、誰か一人でも死んだらビギナーはきっとこう考える。情報は正確じゃなかった。ベータテスターの情報は信用できないってね。冷静に状況を考えれば分かることなんだ。テストと正式サービスは違うと。でも、そんな考えが通用しなくなってるくらい、ベータテスターに対するビギナーの不満は大きい」

 

 攻略が上手くいっていれば問題なかった。例え半分の人間が死んでも、定期的にクリアに近づけるのならば大きな不満が出ることはないだろう。進んでいるという実感があるのだから。

 

 しかし、今の状況は違った。デスゲームが始まって一か月何の進行もなかったのだ。そんな中でボス戦の情報が間違っていたらどうなるか。自分たちを見捨てたベータテスターは、攻略の邪魔をもしようとしている。なんて考えが出てきかねない。

 そうなれば、ベータテスター排斥の動きが必ず出てくるだろう。攻略に不可欠な、レベルが高く知識も豊富なプレイヤーを失うことになる。自分達の首を絞めるようなものだ。

 

「君に話を聞かせたのはこれが理由だ。正確な情報を知っていてほしかった。ボス戦の後どうなるかはわからない。だが、どんな結果になったとしてもどうすれば自分が巻き込まれないか、それは理解できたはずだ」

 

「何が起きても、被害者の振りして黙っていろ。……そういうことね」

 

 少女の答えにキリトは頷く。

 この少女は特殊な行動をしていたため、事情に疎い。ボス戦に参加するためにパーティーを組むのは仕方なかったが、それはつまりベータテスターと関わらせてしまうということだ。関わった以上、彼女にもヘイトが向きかねない。ならば事実と背景を理解してもらうことによって、問題に巻き込むことを避けてもらう必要があった。

 

「貴方は、自分が生贄になると確信しているのね」

 

 (さと)い人だ。キリトは素直にそう思う。

 求められるのは英雄と生贄。一人はベータテスターとビギナーの橋渡しになり、一人は他のベータテスターに向かう憎悪を一手に背負う。間違っても、情報屋の彼女が憎まれるようなことがあってはならない。

 

「……もうすぐボス部屋につく、前に追いつこう」

 

 少女の言葉に答えることなく、キリトは話題を終わらせるのであった。

 

 

 

 

 ボス攻略は問題なく進んでいる。

 

 事前情報と同じと判断されたボスに対して、各班は落ち着いて対応できており、このまま進めば誰ひとり死ぬことなく攻略ができるかもしれない。

 

 そして、自らに与えられた役割は取り巻き潰しだ。

 

「スイッチ」

 

 取り巻きである<<ルインコボルト・センチネル>>が持つメイスを弾き返し、細剣使い(フェンサー)の少女とスイッチする。

 ほぼ同時に発動された<<リニアー>>がセンチネルの弱点である喉元にクリティカルヒットし、HPゲージが大きく削れているのが見える。

 

 飛び込みの思いきりと、ソードスキル発動からダメージの発生までの速さが尋常ではない。アイアン・レイピアでも目を見張るほどの速さだったが、強化されたウィンドフルーレを持つことによってそのスピードは格段に上がっている。スピードと正確性は、今攻略に参加している中で最上位なのは間違いない。剣を使う者ならば目を離すことができない程に、その剣の速さ、鋭さは存在感を持っていた。

 

 彼女が今使っているのは<<リニアー>>だけ。

 今後使える技は増え、剣技は研ぎ澄まされていく。

 

 この少女がどこまで行くのか。どのような剣士になるのか。その成長を傍で見たいと思うのは、当然の欲求であるように思えた。しかし、キリトにそれは許されない。ベータテスターである自分が傍にいれば、この少女も巻き込んでしまう。未来を潰しかねないのだ。

 

「これで、終わり!」

 

 クリティカルで体勢を崩され、喉元に集中攻撃を受けたセンチネルがポリゴン片に変わる。

 順調だ。攻略は極めて順調だ。

 取り巻きの排除はRepopよりも早く進み、取り巻き対応の班はPOTで全回復できている。

 ディアベルからの指示があれば、即座にボスに向かうことも可能だ。

 

 部屋の奥では、HPゲージが最後の1本に入った<<イルファング・ザ・コボルトロード>>が武器を投げ捨て、腰の剣に手を伸ばしている。

 

「ボスの武器が変わったぞ! 範囲攻撃はもう来ない、取り囲むんだ!」

 

 ディアベル率いるC隊がイルファングを取り囲むように並ぶ。変更後の武器は曲刀だ、横薙ぎ攻撃はせずひたすらに振り下ろしの攻撃をしてくる。一発の火力は大きくなるが、範囲攻撃がなくなるためこちらの火力も大幅に上がる。はずだった。

 

――細い!

 

 頭の芯にピリッとする感覚を覚えたキリトは、武器の違和感にいち早く気付いた。テストでの武器はタルワール。すなわち曲刀カテゴリの大剣だった。しかし、今イルファングが取り出した剣は、あまりにも細すぎた。タルワールでは決してない、あれは……!

 

「刀だ! テストとは違う! 横薙ぎの範囲攻撃が来るぞ!!! 後ろに飛べぇ!!!」

 

 キリトが大声で叫ぶ。しかし、イルファングはすでにソードスキルの発動モーションに入っていた。

 

 刀専用ソードスキル<<旋車>>(つむじぐるま)

 

 ソードスキルが発動され、竜巻のような剣閃が取り囲んでいた全員を捉える。

 前衛を担当していたC隊全員のHPゲージが一気にイエローまで削られ、同時に一時行動不能(スタン)の状態異常が点灯する。前衛の戦闘力は、たった一発のソードスキルで奪われた。

 

 一撃で前衛の全員が戦闘不能、想定と違う武器、そしてリーダーのディアベルが指示を出せないことで、全員の動きが止まる。

 

「追撃が来る! C隊に援護を……!」

 

 一瞬遅れて、両手斧使いエギル以下のパーティーが援護に向かう。しかし、ボスはすでに追撃に移っていた。そのターゲットはボスの真正面で指揮を執っていたリーダー、ディアベル。

 

 イルファングは下段からの切り上げで、ディアベルの身体を空中に投げ出す。

 そして、止めとばかりに斬り下し、斬り上げ、突きの三連撃を繰り出す。

 

 その三連撃すべてが、空中で動きの取れないディアベルにクリーンヒットする。

 

 後衛のキリト達の傍まで吹き飛ばされたディアベルのHPゲージは、イエロー、レッドと減っていく。キリトが駆け寄りポーションを飲ませようとするが、手で制された。HPゲージが完全に無くなると、ディアベルの身体は白く光り始める。

 

「キリトさん、後は頼む。ボスを、倒し……」 

 

 キリトの目の前で、ディアベルの身体はポリゴン片となり、消える。

 誰も動くことができなかった。あまりにも順調だったボス攻略。その最初の落とし穴に嵌ったのは、レイドリーダーであるディアベルだった。

 




ディアベルはんが生き残ると、キリトとアスナが攻略レイドに入れない事態が普通に出てきてしまうので、原作通りに……

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