指揮官の死亡。
現代の軍隊においては明確な階級が設定されており、最上位のものが死んだ場合は次席が、そのものが死んだらさらに次の階級のものが指揮を引き継ぐ。その制度が明確になっているため、多少の混乱はあろうとも統率が一瞬で取れなくなるということはないだろう。
だが、このSAOには階級など存在しない。
リーダーが死んだら、それで終わりなのだ。
複数のギルドが参加しているのならば、レイドリーダーが死んでも別のギルドの統率者が指揮を引き継ぐ。こういったことが可能であったろう。
しかし、この第一層攻略レイドのリーダーはディアベル一人のリーダーシップによって統率されていた。つまり、ディアベルが死んだ場合の指揮を引き継ぐ人間がいないのだ。
まとまりの取れない集団など、烏合の衆に過ぎない。戦線は一瞬で崩壊した。
うわあああ――誰かが恐怖の声を上げると、恐怖は伝染し、周囲から悲鳴が次々と上がる。
間の悪いことに三体のセンチネルがRepopし後衛に襲い掛かった。あれほど楽観的に行われていた攻略が、一瞬にして絶望的な戦いに転落した。イルファングは再び部屋の奥に戻り、
ボスを止めなければC隊は全滅する。取り巻きは現在三体、両方ともにHPはグリーン。取り巻きはもう一匹がRepopしても二隊当てれば何とかなる。
「E隊は引き続き取り巻きを! G隊も戻ってこい! 後方はキバオウさんまとめてくれ! B隊は俺に続け、C隊を救うぞ!」
全力で思考を回転させ、判断を行い指示を出す。誰も指示を出すことができない以上、黙っていることなどキリトにはできなかった。
後を頼まれた。ボスを倒せと願われた。
自分が死して尚、ディアベルは撤退ではなく継戦を望んだ。
その願いに反することはできない。自分たちはまだ戦える。必要なのは明確な指示と戦う意思だけ。そしてキリトには、レイドリーダーとしての指示を出すことができるだけの経験と知識があった。
指示は出せる。ならば、戦意はどうするか。
それは自らの戦う姿をもって、取り戻させるしかない。
蛮勇であった。
周囲がついてきてくれるのか、キリトには判断できなかった。もしかしたら誰もついてこず、一人で突っ込み、死ぬことになるかもしれない。だが、それでもいい。
今はただ、死ぬまで戦い抜いた英雄の最後の願いを叶えることに全力を尽くす……!
C隊の残りに攻撃を加えるべく、イルファングはこちらに背中を向けていた。
「こっちを向きやがれええええええええ!」
キリトはそこに、片手剣ソードスキル<<スラント>>を叩き込んだ。背中を斜めに切り裂き、最後のHPゲージを3%ほど削り取る。
イルファングは前方に吹き飛ばされ、同時にC隊へのルートが開けた。
「B隊は一人ずつ担いでC隊を後方へ! D隊、HPがグリーンになったら前線へ! それまでは俺が抑える!」
背後は見ない。自分の指示に従ってくれているのかどうか、キリトにはわからない。だが、ここでキリトがボスを止めなければ、レイドは崩壊する。それだけは分かっていた。
イルファングの持つ刀が光る。ソードスキルの発動を予告しているそれに、キリトは先に刀を弾くことで発動をキャンセルしていく。十秒、二十秒、三十秒……。ひたすらにボスの攻撃を弾き続ける。ソードスキルを弾きながらも衝撃を受け続けねばらならないキリトのHPは徐々に減っていき、HPゲージはイエローに突入した。しかし、止まるわけにはいかない。いまこの剣には後方にいる四十名、そしてあの少女の命がかかっている。
「……しまった!」
斜め上段から振りかぶられていた刀が突然停止し、直後下段からの斬り上げに変わる。攻撃を弾かれ続けていたボスが行動をキャンセルすることでフェイントをかけてきた。
振り下ろしに対処するために上段への突きを放っていたキリトは、その動きに対応できなかった。
回避行動もできず、キリトはクリティカルヒットを喰らうことになるだろう。HPは残り四割を切っている。追撃をもらえば一気にHPがもっていかれるに違いない。
イルファングの刀が光る。キリトの脳裏に浮かぶのは、ディアベルに止めを刺した三連撃ソードスキル<<
防御も回避もできない。突きによって右手を伸ばしきった状態から、ソードスキルを弾けるような攻撃を繰り出すことも不可能。初撃をクリティカルでもらってしまえば
――ここまでか……!
迫りくる刀をキリトは見続ける。例え回避できずとも、キリトは自身の命を刈り取るだろうそれを見続けた。
――瞬間、後方から閃光が走った。
その閃光は、キリトに吸い込まれるはずであった刀を大きく弾き、キリトの真横に着地する。
キリトを助けたその人物は、赤いフードを被り、右手に持つ輝く細剣ウィンドフルーレはわずかに震えている。
「一人で格好つけないで。パートナーでしょ?」
上からかけられた声に、キリトは顔を上げる。そこには閃光――<<リニアー>>を放った少女、アスナが立っていた。
初めて人の死を見た。
ディアベルがポリゴン片になって散っていく姿を見たアスナは、衝撃で動くことができなくなった。
その死はあまりにも一瞬だった。碌な言葉も、身体すらも残すことはない。
その死はあまりにも簡単すぎた。アスナが日々倒してきたモンスターと変わらない、安っぽいエフェクト。
その死はあまりにもむご過ぎた。こんなの……人間の死に方じゃない。
周囲から恐怖の叫びが上がる。
無理もない。こんな死に方を見せられて恐怖しないものなんていない。事実、アスナは腰が抜けたように座り込んでしまっていた。
誰も動けない。皆自らの武器を固く握りしめ、足が震えている。
順調に行き過ぎたボス攻略。このまま何事もなく終わると思っていた直後に、嵌ることになった落とし穴。底まで落ちたディアベルは死んだ。そしてその落とし穴は、自ら穴を広げ自分たちの足元に迫ろうとしている。
アスナは真横に立っている少年を見上げた。
きっとこの少年も恐怖に震えているのだろう。剣を握りしめている右腕が震えている。周囲に目線を向け、周りの人間がどう動くかを確認しているのだろう。
アスナは少年に声をかけようと腕を伸ばした。撤退しよう、そう言うつもりだった。リーダーが死んだ以上、まとめ役を欠いたままでは各個撃破されかねない。このままこのボスと相対すれば、無駄な死者が出てしまう。アスナは少年の左腕をつかもうとした、その時。
「E隊は引き続き取り巻きを! G隊も戻ってこい! 後方はキバオウさんまとめてくれ! B隊は俺に続け、C隊を救うぞ!」
少年は全員に聞こえるほどの大声を出し、ボスに向かって走っていく。
咄嗟に出された指示に、誰もすぐに反応はできなかった。
少年は振り返らない。まるで自分のことなどいなかったかのように、一人でボスと剣を合わせた。
イルファングが持つ刀が光るのを見てアスナは立ち上がる。
ソードスキルが発動されれば、あの少年がディアベルの二の舞になるかもしれない。今すぐにでも少年の元に向かい、援護をしなければならない。
しかし、アスナは動けなかった。あれほど望んできた死が間近にあるというのに、肝心なところで足が
青いポリゴン片に変わる自分の身体。誰かに生きた証を遺すこともできず、言葉も伝えることができない。
その絶望的な事実が、アスナの動きを縛った。
刀が光を放ち少年に向かって放たれる。まともに食らえば間違いなく死ぬ、必殺の一撃。
その一撃を少年は、ソードスキルすら使わず弾き返した。
弾かれた刀は光を失う。再び上段に構えられた刀が光を放って振るわれるが、再び弾き返される。
それを何回繰り返すのか。
少年はボスと単独で渡り合う。発動されたソードスキルを弾き返すことでキャンセルし、時間を稼いでいく。アスナは――いや、その場にいた全員が、少年の姿に目を奪われていた。
少年の剣技は全く無駄がない。最小限の動きで敵の動きを潰し、次を予想して攻撃を放つ。未来が見えているかのようなその動きは、片手剣戦闘の完成形と言われても誰も疑わないだろう。
「っ! B隊前に出る! C隊抱えて下がるぞ!」
「E隊! センチネルを自由にさせるな! あんなん長くもたん! 急いで取り巻き削って援護や!」
その剣技を目にし、冷静さを取り戻した者たちが動き出す。
前衛後衛それぞれに指示が飛び、戦場は冷静さを取り戻していく。
絶望的な状況で、ただ一人だけ冷静に指示を出し、先行しボスに向かった。
周りが動くかどうかなんて、彼にもわからなかっただろう。それでも彼は動いた。
仲間を助けるために、自ら最も危険な場所に飛び込んだ。
アスナは彼の背中から目を離せない。周囲が動き出してもなお、アスナは彼の背中に、彼の戦いに見入っていた。
結果的にそのおかげで、アスナは異変にいち早く気付くことができた。
瞬間、アスナは最前線に向かって駆け出す。死の恐怖や、怯えなどすべて吹っ飛んだ。
アスナの眼には、少年が繰り出した突きがボスのフェイントによって外されているのが映る。
――速く、もっと速く……!
このままでは、あの少年はディアベルと同様に死ぬ。自分を二度も助けてくれた少年は、今度はこの部屋にいるプレイヤー全員を助け、その代償に自分の命を捧げようとしている。
こんなことで死なせない。あの少年だけは絶対に守ってみせる。
敏捷性をレベルの限界まで高めているアスナは、間合いに入った瞬間に<<リニアー>>を放つ。
目標はボスの刀。下から降り上げられているそれが少年の身体に吸い込まれる前に、アスナは渾身の一撃を叩き込む。その<<リニアー>>はまさに閃光。十分な加速から繰り出された一撃は刀を弾くだけではなく、その衝撃でボスを部屋の奥まで吹き飛ばした。
――間に合った……!
ボスが部屋の奥に吹き飛ばされていくのを見ながら、アスナは少年の横に着地した。
「一人で格好つけないで。
少年を助けることができたと確認した直後、身体に震えが走る。恐怖が消えたわけでもない。先ほどの光景を忘れたわけでもない。しかし、アスナは今初めて自分以外の誰かのために命を懸けた。弾くことに失敗すれば少年と共にソードスキルの直撃をもらう可能性があった。それでもアスナは、この少年のために命を懸ける選択をしたのだ。
「ありがとう。助かったよ」
少年は立ち上がり、アイテムポーチから回復POTを取り出すと一息に飲み干した。
「C隊後退完了! B隊前に出るぞ! これ以上ダメージディーラーに
「E隊G隊で取り巻きの対処安定や! あんたら一回戻ってこい!」
「A隊オールグリーンまであと六十秒!」
「F隊回復完了、前衛の援護に向かう!」
後方から続々と状況報告が飛ぶ。
全てをこの少年が動かした。
失った戦意を取り戻し、プレイヤー達は敵の前に立つ。
「よく支えてくれた、感謝するぜ。とりあえず俺たちに任せてくれ、一度後退を」
両手斧を持った大柄な青年、B隊のリーダー――確かエギルという名前の――が後退するよう勧めてきた。
「頼む。前衛は包囲は禁止! 全方向攻撃が飛んでくる! 無理にスキルを迎え撃たず、防御に徹してくれ!」
了解! という声を聞き、アスナは少年と共に後方に下がる。
今前衛を務めているB隊の援護には火力担当のF隊が付く。部屋の奥から突進してきたボスをB隊が受け止め、弾き返したところを左右からF隊が攻撃を加える。後方を開けることで全方位攻撃を防ぎつつ攻撃を行うことで、攻撃の手段を狭められたイルファングはHPをじわじわと減らしていった。
戦況は明らかに、再び攻略レイド側に傾いていた。
キリトは後退し、E隊のリーダーであるキバオウのそばに駆け寄る。
「アンタ、ようやってくれた。アンタが動かんかったら、何人死んだかわからん」
「博打には勝てたみたいで助かったよ。今C隊の状況は?」
「ポーション飲ませて休ませとる。ショックは大きそうやが、体力はイエロー止まりや。後2分もすればオールグリーンまでは回復するやろ」
「そうか……ちょっと話してくる。全体見といてくれ」
キバオウが頷いたのを確認し、キリトはC隊のもとに駆け寄る。
C隊の面々は床に座り込み、体力の回復を待っている。表情こそはよくはないが、戦意があることは皆の眼を見る限り間違いないだろう。
キリトはディアベルとよく話していたシミター使いの青年――確かリンドと言ったか――に声をかけた。
「アンタたちは、まだ前衛に出れるか?」
まだあのボスの前に立てるか。パーティーメンバーが死んだ状況で、まだ戦い続けることができるか。戦意があるのは理解している。ならば、それを言葉にし行動に移すことができるのか。キリトは青年に問いかける。
「やれるさ……! このまま黙っているわけにはいかない! ディアベルさんの仇を討たなければ……!」
リンドの言葉に、C隊の面々が頷く。戦う覚悟はできているのは間違いない。ならば、キリトのやることは一つだった。
「わかった、なら俺と相棒が強打を叩き込む。リンドさん、アンタたちはラストアタックを狙え」
「……いいのか? ラストアタックはレアアイテムが手に入るんだろ?」
ラストアタックボーナス。ボスモンスターの止めを刺したプレイヤーが得ることができる権利で、その階層で手に入るものより高い階層のアイテムや、ワンオフの貴重品がドロップするというものだ。
確かに、ラストアタックを取るかどうかで今後のレベリング効率が変わる可能性は高かった。しかし、今のキリトはそれにこだわることはしなかった。第一層のラストアタックはディアベルに捧げられるべきだ。それが、このアインクラッド初のボス攻略レイドのリーダーに対する敬意だと、キリトは考えたからだ。
「構わないさ。ま、あんたらが取り逃したら遠慮なくもらうことにするよ」
「ふっ、それは渡せないな。……HPがグリーンになった。準備完了だ」
C隊の面々が立ち上がる。
キリトは先ほどから横にピタリとついている少女を見て、拳を突き出す。
「付き合ってもらうぜ、相棒」
「ええ、任せておいて」
キリトと少女の拳が合わされる。
準備はできた、後はこの戦いを終わらせるだけだ。
「C隊が前に出る! B隊、F隊はスイッチ用意!」
キリトは相棒の少女、C隊と共に前に駆ける。敏捷が高い二人が一気に前に出たところで、キリトは最後の指示を出す。
「B隊が武器を弾いたところにソードスキルを叩き込んで一気に後方に抜ける! C隊はその後フルアタック! いくぞ!」
キリトは剣を前に突き出し、ソードスキルを発動させる。発動するのは片手剣突進技<<ソニックリーブ>>。その威力とスピードは、ボスを削りラストアタックのお膳立てをするに申し分ない。
「スイッチ!」
B隊の面々がイルファングの刀を弾き返し、両横に飛びのく。
その隙間を、二本の線が突進していく。<<ソニックリーブ>>と<<リニアー>>。左右からイルファングの脇の下をすり抜けるように放たれた二つのソードスキルは、ボスの胴体にクリティカルヒットし体力ゲージを大きく削った。
突進技を放った二人はそのままボス部屋の奥まで突き抜ける。
後方では、C隊が残りわずかとなったゲージを削り切るために攻撃を加えている。残りゲージは一割弱。
あとはこのまま待機していれば、問題ない。
キリトは戦況を見守る。
センチネルは完全に対応されており、指示するキバオウに慌てた様子はない。後方に下がっているB隊F隊も完全に下がることができている。前衛のC隊のすぐ後ろには
さすがに勝ったか……。
そう思った直後、キリトの
HPは5%を切った、攻略組全体の体力も布陣も問題ない。このまま押し切れる、普通に考えれば間違いない。なのに何故、こんなに嫌な予感がするのか……!
キリトは目を疑った。
包囲をされていないはずのイルファングの刀が横向きに構えられる。キリト達の位置はボスの索敵範囲のはるか外だ。範囲技が来るような間合いではない。つまり敵は前面だけ、それなのに刀が横向きに構えられた。
「横薙ぎの多段技が来るぞ! 全力で後方に飛べええええええ!!!」
キリトは力の限り叫んだ。
イルファングが発動したのは刀系ソードスキル<<
キリトの声に反応したC隊は即座に後方に飛び、A隊が即座に前に入る。重武装の盾持ちで編成されたA隊はHPを多少減らされはするものの、攻撃を何とか食い止める。
これ以上この戦いを伸ばすわけにはいかないと、キリトは決意した。ボスの攻撃が前衛の防御力を上回っている以上、長引けば長引くほど前衛の負担が大きくなり、そのうちPOTローテが回らなくなる。そうなれば、残り5%まで減らしたのに撤退する羽目になりかねない。
「ここでボスを倒す!
「ちょっと待って! 今ボスに近づいたら全方位攻撃が来るかもしれないわ! 下手に近づいたら……」
キリトはボスに向かい駆け出す。少女の声は届いている。一人なら無理だ。だが、この少女となら……やれる。削り切れる。キリトは確信を持っていた。
「ソードスキルが発動される前に削り切る! 来いアスナ! 君とならやれる!」
少女の眼に驚愕が映る。しかし次の瞬間には、キリトと共に駆け出した。
なぜ自分の名前を知っているのか。アスナは驚愕で一瞬思考が停止した。
しかし、次の瞬間にはボスに向かって走り出し、少年と肩を並べる。名前を呼ばれ、肩を並べた。この少年と共に戦っているという事実に、アスナは高揚した。行うことは先ほどと同じ。<<リニアー>>を少年の攻撃と同時に当てるだけだ。
「一瞬でいい! 奴よりも――速く!」
少年が叫ぶ。ボスの索敵範囲に入ってから、ソードスキルが発動するまでの僅かな時間。その時間内にボスの体力を削り切れば、もしくはソードスキルの発動がキャンセルされれば勝てる。必要なのはただひたすらに速いこと。それだけだった。
イルファングの刀が横薙ぎに振るわれる直前、アスナと少年は二本の閃光となり、ボスの背中にソードスキルを直撃させる。強烈な攻撃を受けたイルファングの体力は一気に減っていく。アスナはボスのHPゲージを注視する。ゲージがググッと減り始め、そのまま0になると思った瞬間、
――残った!?
HPゲージは削り切られることなく、数ドットを残して停止した。
アスナは油断していた。完全に体力を削り切れると思い、動きを止めてしまっていたのだ。
ボスの眼がこちらに向き、剣が横に振りかぶられる。ターゲットは間違いなくアスナに向かっていた。
防げない。アスナはそれを理解していた。
アスナの使う細剣は武器を受け止めるための頑丈さが足りなかった。動きを止めてしまったアスナは回避に移行できない。そして、剣を受け止めるという選択肢も取れない。つまり、何も手が打てない。
ボスの振るった刀が迫る。
「――どこ見てんだ?」
少年の声がアスナに届く。声が聞こえるのはボスの背後から。間違いなく、自分の反対側にいる少年の声だ。
「うちのお姫様に……色目使ってんじゃねぇぞ……ッ!」
白い筋がボスに走る。同時に数ドット残っていたボスのHPゲージは、今度こそ間違いなく空になった。
<<イルファング・ザ・コボルトロード>>がポリゴン片となり、散っていく。暴風のように刀を振るい続け自分たちを絶望に叩き落としたボスは、あまりにもあっけなく消え去ったのだ。
Congratulations!!
部屋が明るくなると同時に点灯されたその文字は、第一層のボスが攻略されたことを示していた。
――勝った……。
歓喜の叫びが部屋中から発せられる。
万歳をするもの、ハイタッチをするもの、歓喜のあまり抱き合うもの。この部屋にいるすべての人間が、歓喜し、喜びを分かち合っていた。
アスナはすぐ横に立っている少年に近づく。
自分に気付いたのか、笑みを浮かべ彼は手を上げる。
アスナは少年とハイタッチを交わす。少年が浮かべた笑顔を見て、アスナも笑顔を隠さなかった。
――やっと、終わった……!
厳しい戦いが終わったことを、アスナはその笑顔を見ることで実感できたのだから。
ボス戦が終わったので、第一層は次が最後ですが、ちょっと短くなるかも。
第三層くらいまではこんな感じで進めたいです。