球磨川禊の憂鬱   作:いたまえ

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十話 密談

 古泉君との、ドッキリ閉鎖空間観光ツアーから一夜明けた今日この頃。僕はハルヒちゃんが持っているらしい、何やら凄いと噂のスキルについて調べる気満々で、なんとか歯を食いしばりながらも辛く苦しい学業に勤しんだ。

 昨日。古泉君の口からは神であるかのように説明された我らが団長様だったけれど、出会ってから日が浅いとはいえ、僕個人としては少なくとも神っぽさをハルヒちゃんから感じた事はない。一度しか無い青春時代を、よりによってオカルトなんかに費やしてしまう残念なJ Kという印象でさえある。彼女の何処に古泉君が絶対的な信頼を置いているのか、それこそが謎と言えるぜ。だって、神様が不思議を探すっておかしいじゃん。不思議だと思う事象を持つ存在を神と呼ぶのは違和感バリバリって感じ。自分で創造したんじゃないの?って言いたくなるよ。

 いや、ひょっとするとそれこそが暇を持て余した神々の遊びってやつなのかもしれないけれどっ!

 

 兎にも角にも、ハルヒちゃんの持つスキルが嘘偽り無くそれ程大それているならば、土日を費やしてまで不思議探索をする必要は無いわけだ。セルフサービスで、どうぞお好きなだけ不思議を生み出してくれていいのだから。ましてやほら、僕って土日は家でゆっくりとジャンプを読み返したい人種じゃん?数年分のジャンプは自室のクローゼットに保管しているのだけれど、アトランダムに選んだ号からおもむろに読み返す行為程の高揚を、西宮市を散歩する活動からは感じられないと思う。連載が終了してしまった漫画や、今やジャンプの柱となっている漫画の、冒頭部分の手探り感を読むのって、タイムスリップでもした気分になれておトクだよね。絵の上達具合を再認識できるのも面白いし。

 と、これは当時の僕の考えだけれど、今現在の僕ももちろん同じ気持ちさ。……何が言いたいのかというと。みくるちゃんや有希ちゃんがそれぞれ違った方法でタイムトラベルないしタイムリープしていた事がある。これで、過去に遡ってジャンプを読み放題じゃん?と、普通は考えるよね。でも。その遡った時間平面上には今現在のジャンプは当然無いわけで。過去に飛んで過去のジャンプを読んでも、それは単にその時代での最新号を読んでいるに過ぎないってことさ。

 最新号が出ているこの時点で、過去の話を読むから良いんだよ。つまり……未来人だのタイムリープだのに、僕はあんまり魅力を感じないかな。

 

 でも、まあ。

 

 みくるちゃんに初めて彼女が持つ秘密を明かされた時には、ワクワクしなかったと言うと嘘になるけども。タイムマシンがあるのなら、現実に未来からトランクスがやってくるかもしれないからね!

 

 ◇◇◇

 

 古泉君プレゼンツ、閉鎖空間ツアー翌日の放課後。僕は急ぎ足でハルヒちゃんとついでにキョン君がいる教室へ向かっていた。

 

 同じ学年である為、教室はすぐそこ。教室に入るなり、クラスメイトが見守る中ハルヒちゃんに『ハルヒちゃんって神様なんだって?』と聞こうと試みた僕に。ついてない出来事が目の前で起こった。

 

「ほらキョン!グズグズしてる暇は無いわよっ」

「おい、ハルヒ!今度は一体何を思いついたんだっ!?」

「い・い・か・ら、ついてきなさい!」

 

 団長と団員その1が、ネクタイを引っ張り引っ張られ、僕が来た方向とは逆の廊下へ旋風を残しつつ消えていってしまったのだ。

 

『あ、あー……』

 

 木の葉の黄色い閃光を連想させる速度で二人は消え去った。僕も、大きな声を出せば引き留められたとは思うけれど、どうせこの後部室で会う事を考慮すれば。何もここで声帯に負担をかけてまで呼び止める必要は無いと判断した。

 ハルヒちゃんとキョン君が、このまま体育倉庫にでもいって、閉じ込められイベントが発生しなければだけど!

 やっぱり、高校生の男女が高確率で遭遇するであろう体育倉庫イベントって予約制だったりするのかな?僕が読んだ恋愛漫画では殆どの主人公達が経験してるのだけれど、あれってやっぱり作者さん達の実体験でもありそうだよね。でもないと、赤の他人である大勢の作者さん達が同じような話を書くわけがないもん。作品を書く上で、きっと自身の恋愛経験から話を作ってるに違いない。僕も恋人が出来たあかつきには、その娘と二人で体育倉庫に閉じ込められないとダメなのかな。いわゆるお約束ってやつ?暗黙の了解?

 しかし、校内全体のカップルやその手前の男女がイベントに遭遇しているとなると、季節問わず日替わりで閉じ込められていかないとスケジュールがパンパンにつまっちゃうと思わないかい?まさか、二組同時に閉じ込められるワケにもいかないし。そんなんじゃムードもへったくれもない。あるいは、先生の誰かが体育倉庫閉じ込め係みたいなものに任命されていて、監視カメラとかでカップルが侵入したのを見るや施錠しに向かっているとか!予約制のヨミが当たっていたとしたら、体育祭や文化祭などの行事がある日は、数ヶ月前から予約しておかないと即完売しちゃうだろうねっ。僕も、その頃には誰かしらとお付き合いが出来ていると予想して、今から職員室に予約しに行こうかな。なんてっ!

 

 ここで。

 

 寂しくハルヒちゃんらの背中を見送っていた僕に、嬉しいお知らせが。

 

「あ、良かったぁ。禊ちゃん、ここにいたんですね。もう部室に向かっちゃったかと思いました」

『おやみくるちゃん。君とは校内で高確率で遭遇するね!さては、僕をストーキングしていたりするのかな。だとすると、罰ゲームである可能性がかなり高いようだ。僕なんかをストーキングするのは、人生においてこの上ない時間の浪費だから、罰ゲームにはうってつけだもんねっ。鶴屋さんとの賭けにでも負けたのかい?』

「ふぇっ!?違いますよ、ストーキングなんてしてません!禊ちゃんと、少しお話しがしたくて会いに来ちゃいました」

 

 部室専用のエンジェル、朝比奈みくるちゃんの降臨だ。それも、僕と話がしたいという。ストーキングする罰ゲームを強いられていたわけじゃないようで一安心だけれど。……ええと、今度はみくるちゃんにラッセンの絵を売り付けられたりはしないだろうね。

 あと、出来れば僕をストーキングする事が時間の浪費ってところも否定して欲しかったかな。自分で言っておいてなんだけれどっ。

 

『僕と話がしたいの?わざわざみくるちゃんにご足労頂かなくても、部室で会えたのにっ』

「あ、えっと。部室だと長門さんや古泉君がいるから……」

 

 もじもじと、スカートの端をつまむみくるちゃん。

 

『つまり、その二人がいると出来ない話なのかな?』

「うん……。それと、涼宮さんにも聞かれたくない話なの」

 

 ふーん。ハルヒちゃんにも、か。しかし、古泉君曰くあの子は神様だから筒抜けかもしれないぜ

 

「えっ!?禊ちゃん、古泉君から涼宮さんについて何か言われたの?」

『まあね。ハルヒちゃんが神様とかなんとか。彼は新手の宗教に入信してしまっているようだから、付き合うときには一線を引いた方がいいみたいだな。出会ったばかりの僕にも理解を示す様促してきたし』

「それは……古泉君に悪気は無いと思うけど……」

『みくるちゃんこそ、古泉君の素性を知っていそうな口ぶりだね?なんなら、古泉君も君の隠し持った何かを知っていそうだったな。あ!もしかして二人は元恋人だったりするかな?かな?』

「え!え?そんな事ないですよぉ。私なんかと恋人だなんて、古泉君に失礼ですぅ」

 

 そうだろうか。みくるちゃんの見た目であれは、この世の大多数の男性は付き合いたいと考えると思うのだけれど。まあいいや。ハルヒちゃんとの直接対決を前に、少しでも情報が増えるのは望むところだよ。敵を知り己を知れば百戦殆うからずと言うからね。

 

『ま、二人の過去はさて置き。みくるちゃんの話とやらを聞こうか』

 

 ……僕と二人きりでしたいという話を。

 

「はいっ!あの、少しだけ場所を変えてもいい?」

『いいよ。遠慮しないで、少しと言わずだいぶ変えたって構わないぜ』

「じゃあ、書道部の部室までついてきて欲しいの。今日は部活がお休みで、誰も来ないから」

 

 書道部室、ねぇ。これはまた、随分と古風な。でも、どうして書道部の予定を把握しているのかな?

 

「ふふっ。こう見えて私、涼宮さんにSOS団に誘われる前までは書道部員だったのよ」

『なるほど、だからか。納得したぜ』

 

 書道部室はみくるちゃんが言うようにもぬけのから。僕たちは適当な椅子に腰掛けて向かい合う。

 

『勝手に、所属していない部活動の部室に入るのってなんだか背徳感があるね。』

 

 誰もいない部室で男女が二人きり。これは、体育倉庫イベントに並ぶ出来事じゃないかしら!

 浮かれる僕はお構い無しに。みくるちゃんはいつものポワポワした雰囲気を最大限に留め、真面目な表情をして語り出した。

 

「ねぇ、禊ちゃん。話をする前に聞きたいんだけど」

『ん?なんだい改まって。』

 

 声のトーンを何段階か下げたみくるちゃん。やっぱり君も僕に何かを聞きたいんだね。団員達との会話から予想はしていたけれど。

 

「私が未来から来たって言ったら笑う?」

『時をかける少女!?』

 











『今僕が欲しいのはマイフォークだ。スプーンはもう持ってるからね!』

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