球磨川禊の憂鬱   作:いたまえ

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『結局地球は生命体なのか、宇宙船なのか、興味津々でたまらないよ』






十八話 ツアーコンダクター

 

 

 有希ちゃんの脳内設定その全てが事実だと仮定すると、既に地球外には人間以外の知的生命体が存在していることになり、かねてより人類の目標である種の存続も現実味を帯びてくる。わざわざこちらから宇宙へ行かずとも、有希ちゃんのような美少女アンドロイドをあちらから送ってきてくれるのだから親切この上無いよ。しかも一体だけじゃなく何体も同時に送り込んでくれるだなんて、宇宙人ってヤツはよっぽど気風が良いみたい。情報統合思念体がどんな形状、どんな規模、どれくらいの知能なんだかはつゆ知らないけれど、ハルヒちゃんを人質にしておけば取り敢えず人間を滅ぼそうとは考えないっていうんだからまさに至れり尽くせりだ。

 宇宙人の干渉無くこのまま人類が活動を続けていけば、そう遠く無い未来に絶滅するのは間違いないけれど。ディープエコロジスト達が言うように、国が政策として国民を間引き、世界の人口を6億人程度まで減らそうとする健気な作戦も、有希ちゃんのお陰で避けられるかもしれないね。ま! この球磨川禊がいる時点で間引かれる60数億人はエリートから順番になっちゃうのは国も想定してはいないだろうけれど。つまり、二重の意味で国は有希ちゃんに頭を垂れた方が良いってことさ。

 

 ん? 古泉君理論だと、情報統合思念体って存在もハルヒちゃんによって3年前に生み出されたと言えなくも無い? けど、有希ちゃん的にはその情報統合思念体は、逆にハルヒちゃんを進化の可能性程度として考えているんだっけ。ここらへんはちょっとお互い意見が食い違っているから、今度僕が中立の立場をとった議論の場を設けてあげた方がいいねっ。ただ、宇宙人と超能力者では合意形成は図れなさそうだから、ジャン=ジャック・ルソーには止められちゃうかもしれないぜ。

 

 ここまででいまいち影が薄いのは未来担当のみくるちゃんだな。未来人達が3年前より昔に行けなくなったっていうのは僕からしたらどうでも良すぎるし、事実かも怪しい。いっそ僕を未来の世界に連れて行ってくれたのなら、少しは信用してあげるのに。

 

 というわけで。ある日の昼休み、僕は中庭で鶴屋さんとランチタイムなみくるちゃんに突撃して、未来に連れて行ってくれるよう直談判する。

 

『ねぇみくるちゃん。君が未来から来たのは信じるからさ、早く僕をタイムスリップさせて欲しいのだけれど! 出来ないのなら、3年以上前の赤◯ジャンプを保管していた有希ちゃんに時間的アドバンテージがあるぜ』

 

 時間超越枠は大人気だから、勿論競争だって激しいのさ。今のところは、有希ちゃんのほうがタイムトラベラーを名乗るに相応しい。

 

「ふぇぇっ!!? いきなり何を言ってるんですかぁ、禊ちゃん! 私、未来からなんて来てませんよっ??」

 

 小さな豆乳の飲料を両手で持ち、ストローを咥えていたみくるちゃんは顔を真っ赤にしながらもどうにか口内の液体を飲み干してから、慌てて否定してきた。隣にいる鶴屋さんの顔をチラチラ見つつ。

 

「おやっ! 禊君。君はいつもみくるをからかってるねぇ。お姉さんとしてはあんまり関心できないっかな」

 

 いつもみくるちゃんの隣を陣取る僕のお姉ちゃんたる鶴屋さんが、咽せそうになっていたみくるちゃんの背中を優しくさすった。

 えっと、二人は僕から見れば親友だと思っていたのだけれど。みくるちゃん、君は出会って間も無い僕にさえ明かした重大な秘密を、鶴屋さんには教えていないのかい?? もしかすると、君たちって見せかけだけの友達づきあいだったのかな。上部だけ仲良くしていたとなれば、僕的には結構ショックなのだけれど。

 

「あのっ!!! 鶴屋さん、禊ちゃんが言ってるのは冗談ですからね?」

「あははっ、みくるってば慌てちゃって可愛いなぁ。そんなに必死にならなくても、冗談なのはわかってるよっ」

 背中をさすっていた手が、今度はポンポンと優しく叩く。

 

 へえ? そう言うこと。二人は紛れもなく、美少女同士の大親友で。だとするならば、みくるちゃんは秘密を親友に隠していたのでは無く。その秘密とやらが、そもそも真っ赤な嘘でしかなかったんだね。朝比奈みくる、君もさては【大嘘憑き】ってことかい? 

 

『な……! みくるちゃん、あれだけ思わせぶりな態度で、二人きりの書道部室にわざわざ連れ込んでまで未来から来たカミングアウトをしていたのに……っ! 全て冗談だったと言うんだね!?』

 

 こんな幼気な男子高校生に嘘をつくだなんて……! 鶴屋さん、間違いなく被害者は僕だ。からかっていたのは僕じゃ無い、みくるちゃんだよ! 嘘の罰ゲーム告白よりタチが悪い。あ! 今にして思えば、僕の自宅付近に真ん中分けニヒル少年を仕込んでいたのもこの為なのかな? みくるちゃんの嘘を、より信じ込ませやすくするように。随分と手の込んだことをやってくれるぜ。

 

「えっと、えっと……そうじゃなくてね? 禊ちゃん、ちょっと場所を変えませんか?」

『またそうやって。あんまり僕を馬鹿にするのはやめてくれよ。SOS団での立ち位置や立ち居振る舞いで僕の好感度を上げておきながら、一気に地の底へ突き落とすだなんて。流石の僕でもダメージがデカいや』

 

 美少女に優しくされ、信用するよう仕向けられた上で奈落へ。こうした不条理も、明日になればきっと僕は受け得れる。けれど、この場において即座に消化しろというのも難しい。それだけ、球磨川禊らしくもなく、みくるちゃんに心を許してしまっていたのかもね。

 

「んーっ。この禊君の反応は、もしかしてからかったのはみくるの方だったのかい? 未来から来ただなんてドラちゃんみたいな設定で禊君をからかうだなんて、本当ならみくるも悪いにょろ」

「……そ、そうだね。禊ちゃん、ごめんね? いつも涼宮さんの不思議探索に付き合っているうちに、そういう冗談が言いたくなっちゃったの」

 

 みくるちゃんも、鶴屋さんには弱いようで。モジモジと人差し指を唇の下付近にあてつつ、伏目がちに謝ってきた。やれやれ! ハルヒちゃんも褒められたものじゃないね、こうなってくると。ハルヒちゃんの願望叶えるパワーでさえ、未来人は用意できなかったってことかな。となると、単なる女子高生に未来から来たって自称させるしかなかったわけか。ハルヒちゃんパワーによって、みくるちゃんは僕にくだらない嘘をつかされてしまったんだね。ともすれば、みくるちゃんだって被害者と言えてしまう。その割には設定とか結構凝っていた気もしなくもないけどっ! 

 

『や! 別にいいんだ。冗談だってわからずに未来へ連れて行けだなんて、あまりに僕も純真すぎたよ。つい最近セル編を読み返したばかりだったもんだからさ』

「うんうん。みくるも謝れて偉いし、禊君も許してあげて偉いっさ。仲直りの記念に、鶴屋お姉さんから禊君に購買で人気の焼きそばパンをプレゼントだよっ!」

 

 ガサゴソと、袋から見た感じボリューミーな焼きそばパンをくれる鶴屋さん。

 

『い、いいのかい!? 嘘を嘘と見抜けず間抜けに信じてしまったこんな僕に。鶴屋さんはまさかジャンヌダルクの生まれ変わりだとでもいうのかな』

「あっはっは! 禊君ってば、焼きそばパン一つで大げさなんだから。でもまあ、これに免じてあんまりみくるに怒らないでくれたら、お姉さんも嬉しいかなっ」

 

 可憐な、白魚のような指でピースする鶴屋さん。……しょうがないな。僕もみくるちゃんに騙された経験を今後に活かして、他人の嘘を見抜く力を身につけるとしよう。

 

 焼きそばパンを片手に去ってゆく僕を、みくるちゃんが何とも言えない表情で見続けて来たのは、きっと嘘をついた罪悪感に苛まれたからかな。

 

 -SOS団部室-

 

 さてと。こうなると、この団にはあと二人ほど僕に嘘をついているメンバーがいるんじゃないかって気になるよ。ちょっと腕力が強かったり、ちょっと赤くなって空を飛ぶスキルを持っているだけで、自分がアンドロイドだったり団長を神にしたり、話を盛ってる可能性がある人達が。

 まずは、確実にこの時間は部室にいるであろう自称宇宙人からあたってみよう。情報統合思念体が嘘だったら、僕が前半に語った人類の存続までもが怪しくなってくる。人類が滅ぼうが、特に興味は無いのだけれど。取り敢えず母数が多い方が安心院さんを倒しうるスキルホルダーが産まれやすいのも事実だし。有希ちゃんや古泉君は、一応はスキルを使用した上で嘘を盛っている分、全く材料が無い中嘘をついて来たみくるちゃんよりは良心的な気もするけれど。

 

 すっかり見慣れた部室のドア。中にいるのはどうせ有希ちゃん一人だし、中庭にいたみくるちゃんが着替えている筈も無いので僕は躊躇い無くドアを開けた。

 

 すると。

 

「……お久しぶりですね。【ミソギちゃん】」

 

『えっと……どちら様?』

 

 さっきまで中庭にいたというのに。みくるちゃんが成長したような姿で、そこにいた。

 

 身長が伸び、ボディーラインには更なる磨きがかかった歳上の朝比奈みくる。……歳上なのは元々かな。見る人が見れば、みくるちゃんのお姉さんかお母さんだと勘違いしてしまうだろう。けれど僕には、本人だとしか感じ取れない。彼女の目線、立ち姿、体幹、重心、あらゆる【弱点】が、あまりにも朝比奈みくると合致しすぎているからね。ほくろの位置や耳の形なんかで照合するよりも本人かどうか特定しやすいっていうのに、どうして皆んなは人を弱点で判断しないのかな。

 

『随分と伏線回収が早いじゃない? みくるちゃん』

 

 僕が疑った途端に証拠を提示してくれるだなんて。未来人達は仕事が早い。

 

「……ミソギちゃん、時間もないし単刀直入に言うね」

 

 大人版朝比奈みくるが、1メートルくらいの距離に近づいてきた。手には武器も無く、隠し持ってる感じもない。あまりにも無防備。

 ……なるほどね。過負荷に対して無防備とは。君は本当に未来からの客人らしい。

 

『おやおや。未来からせっかく来るのなら、もっと僕と君が暇なタイミングをめがけてくれよ。時間を操れるくせに時間が無いっていうのは、さては未来人ジョークかい?』

 

 ここにきて、みくるちゃん(大)の目に怯えの色が。それを見逃す僕でも無い。

 

「……貴方には、私と一緒に未来へ来てもらいます。拒否権はありません。……もう、それしか無いの」

 

 これぞ苦渋に満ちた顔です! って言わんばかりに、みくるちゃん(大)は美しい顔を歪ませた。涙まで浮かべちゃって。ちょっと待ってくれよ。僕がこの時代にいるみくるちゃんに未来へ連れて行くよう言ったから、君が代わりに来たんだろう? 僕の望みを叶えてくれるだけなのに、どうして苦しんでいるんだい。

 未来デパートでタケコプターが買えるのか、はたまたゾンビや大気汚染から身を守る為、超巨大シェルターに住むのか、大穴で地球外のコロニーって手もあるね。どれにしたって僕は楽しめるから、ツアーコンダクターであるみくるちゃんが苦しむ必要は無いんだぜ。

 

「…………ごめんなさい」

 

 朝比奈みくる(大)が、何か手に付けたブレスレットのような端末を操作する。えっと、流石は未来人。僕が武器と認識出来なかっただけで、君の時代はそれが光線を放つような科学力だったりするのかい? 

 愛すべきSOS団の女神、朝比奈みくるに殺されるならそう悪く無い。有希ちゃんに殺された時、女の子に殺されるのは悪く無いだろうって安心院さんが言っていたな。ただ、あれがタイムマシン説も否定は出来ない。

 

 にしても。端末を操作する手つきが辿々しすぎて、何やら朝比奈みくるにとってはそれが嫌な行いなんじゃないかって思う。

 

 我が子を見守るような心境で。端末を操作するみくるちゃんをやや眺めていると。まも無く、意識を保つのが難しい衝撃が僕の脳みそを襲った。

 僕が床に倒れる瞬間、部室のドアを有希ちゃんが蹴破ったのを認識する。そういえば有希ちゃんが部室にいないだなんて、珍しい事もあるものだね。大人しそうな見た目に設定されておきながら、誰も見てないとそうやってドアを開閉していただなんて。パンツの大切さを知らない情報統合思念体でも、ギャップ萌えの良さは理解していたらしい。











『有希ちゃんがドアを蹴破った時、スタジオジ◯リ作品なら絶対パンチラしていたよねっ!』

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