球磨川禊の憂鬱   作:いたまえ

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二十四話 オーバーテクノロジー

 

 

 

 23時45分に校門前へ集合。ハルヒちゃんを除いたSOS団員に課されたブラック企業……ならぬブラック部活動全開の待ち合わせ時間。いくら世界が造り変えられるとはいえ、そんな深夜に高校生が外出したら補導されること間違い無しだよ。

 僕としては当然のように一旦仮眠を挟んでから向かう算段なのだけれど、そんな時間に起きれるのかという問題が一つ。それともう一つの問題は学校へ向かう途中で警察官に職質されてしまわないかだね。【斉木楠雄のΨ難】でお馴染み麻生先生が昔描いていた読み切り漫画【勇者パーティ現る】でも、警察が敵として出て来たくらいだし。お巡りさんに遭遇した瞬間、僕は世界の命運を他の団員に託すしか無くなっちゃうぜ。

 

 自宅のベッドでアラームをセットし、僕は眠る体勢につく。目を閉じて、夕方のみくるちゃんの話を思い出す。未だに半信半疑だよ、本当に今日が地球最後の日ってわけ? 安心院さん問題が未解決な以上、僕としては大人しく消えてあげるつもりも無いのだけれど。大嫌いで大好きな幼馴染とも負完全燃焼のままお別れしているし。

 よく聞く言葉で、【今日が人生最後の日だと思って悔いのない行動をしよう】なんてものがあるけれど……人生最後の日に悔いがない行動が出来る時点で、元々その人はそこそこ満たされていたんじゃないのかな。満たされない人生を送って来た僕は、例え今日を何回やり直そうと全ての【悔い】は無くせそうにない。せめて【人生最後の10年】くらいの猶予はくれたって誰も文句は言わないよ。

 

 ハルヒちゃんが世界を造り変え、SOS団員が阻止する。この構図を安心院さんが見ようものなら「くだらねー」と吐き捨てちゃうんだろうなぁ。

 ハルヒちゃんが勝ったら実質ゲームオーバーだし、コンティニュー画面で安心院さんに会えるかな? なんて考えていると、いつの間にか僕は眠りに落ちていた。

 

「……ぉきて…………さぁい」

 

 僕を起こす誰かの声。お母さんでは無い女性の声だ。ユサユサと身体を揺すられる。

 

『んぅ……あと5時間……』

「目覚まし時計をセットした時刻より遅いですよ!? それだと」

 

 僕がこの世で最も嫌いな事の一つが、アラームよりも早く人に起こされる事。好きなジャンプアニメのオープニング曲に起こしてもらう筈の目覚めが、誰かの肉声と共に身体を揺すられる最悪の寝覚めになってしまってご機嫌斜めだよ。ただでさえ僕って朝に弱いのに。いや? 今回は22時30分に起きるつもりだったから夜にも弱いって感じかなっ。

 ひょっとして無意識にアラームを止めていた僕は寝坊してしまい、造り変えられた世界で存在しなかったお姉ちゃんにでも起こされたのだろうか。薄目を開けて様子を見ると、部屋はまだ暗いまま。新しい世界だと人類は夜型になった、とかじゃなければまだアラームが鳴る前みたい。

 

 薄暗さに段々と目が慣れてきて、僕を起こした不届者が鮮明になってくると。

 

「ぉ、……ぉはよぅ……禊ちゃん」

 

 僕はまだ夢でも見ているのだろうか。

 大人版のみくるちゃんが、裸エプロンで僕を起こしてくれていた。

 

 この光景が意味するところは一つ。

 

『そっか……。やっぱり世界は造り変えられたんだね』

 

 なんてこったいハルヒちゃん。君には僕の願望を伝えていなかったというのに……まさか実現させてくれるだなんて。正真正銘の神様すぎるんじゃないかい? 

 ということは残念ながら、有希ちゃんや古泉君は惜しくも世界を守ることに失敗したようだね。今からでも僕のスキルでどうにかならないかとか、打つ手はありそうなものだけれど……。

 裸エプロンの大人版みくるちゃんが起こしてくれる生活。こんなものを見せられては、今更世界を元に戻す選択肢なんて選べるわけないってば! そこらじゅうにタコ頭の宇宙人が溢れていても、充分お釣りが来る。

 

「ち、違いますよぉ……。まだ世界は元のままです」

 

 モジモジしつつ、両手でエプロンの裾をおさえながらみくるちゃん(大)が頬を染める。

 

『へぇ』

 

 えっと……そうなの? それならそれで、逆に大丈夫かい?? ほのかに漂う事件の臭い。

 

『なるほどね。なら、みくるちゃんは年下男子高校生の自室に不法侵入し、裸エプロンを身につけている痴女ってわけだな』

「痴女!? ちがっ。これはっ! 世界の為なんです」

 

 もう、顔が赤くなりすぎて頭が沸騰しそうなみくるちゃん。

 

 世界の為。

 

 ふむふむ、みくるちゃんの裸エプロンはそれはそれは世界平和に繋がるほどの破壊力ではあるものの……だとしたら動画配信とかで広くワールドワイドに知らしめるべきだと思うのだけれど。僕だけで独り占めするのは勿論優越感も凄いと同時に、勿体無いって感情が大きいかな。どちらかといえば! 

 

「いえ、そうでは無くて。……こんな姿になったのは、貴方にお願いがあるからで……」

『あ、なーんだ。それなら早く言っておくれよみくるちゃん。確かに以前言ってたっけ、僕に一度だけ言うことを聞かせる方法をっ!』

 

 焦って、余計な勘繰りしちゃうじゃないか。最近はジャンプも規制が緩くなってきたのか、このくらいのお色気シーンなら誌面に載せられるちゃうわけだしさ。いや、巻頭カラーにだって出来ちゃうよ。

 でっ! 未来から遥々やって来て、僕の部屋に侵入して、羞恥に悶えながら裸エプロンに着替えてまで……僕に何をさせたいって言うんだい? 

 

 みくるちゃん(大)の裸エプロンは、未来勢がこの僕を味方につけるための最終手段。効果は一度きり(多分)。なら、きっとここでのお願いは一撃必殺級のものなはずだ。聞く僕としても、流石に寝たままじゃなく姿勢を正さないとね。

 僕が上半身を起こすと、みくるちゃんは更にガッチリとエプロンをおさえつける。その恥じらい、嫌いじゃないぜ。

 

「球磨川さん。貴方が消してしまった本物のキョン君を、長門さんなら元に戻せるみたいなの。ただし、それには球磨川さんの協力が必要よ。つまりね? 長門さんに、貴方が【スキル】と呼ぶ不思議な能力について教えてあげたり、キョン君を戻すのを手伝ってあげて欲しいの」

 

 本物のキョン君、ねぇ。

 

 どうやらキーパーソンであるところの彼を復活させるための裸エプロンだったようだ。言うまでもなく、裸エプロンはただ裸体の上にエプロンをつければ良いってものじゃあない。バックボーンによって魅力が増したり、反対に色褪せてしまうものさ。みくるちゃんが裸エプロンへ至ったプロセスは、ハルヒちゃんを止める為。つまり、世界平和のための裸エプロンといえる。

 

 ……美しく、尊いぜ。

 

「ど、どう……ですか? 裸エプロンも着てみたのよ」

 

 僕に本物のキョン君を戻すようただ頼んでも、断られてしまう可能性が高いと未来人は判断したみたいだな。うん、その予想は当たっているよ。

 けれど、残念だったね。むしろ裸エプロンで頼まれたとしても、まだ僕には心が二つある。

 

『うん、よく似合っているよみくるちゃん』

「これを似合っていると言われるのも複雑だけど、じゃあ長門さんに協力してくれるのね?」

『……いや、それはやっぱり待って欲しいかな』

「なんでですかっ!? 球磨川さんが言ったんじゃない。裸エプロンでお願いしたら、なんでも聞いてくれるって」

 

 言ったとも。しかし、このままお願いを聞き入れてしまったのなら……未来での僕の評価は【裸エプロンに弱いやつ】ってなっちゃうじゃない? それはちょっと格好悪い。情報統合思念体にだってバレてしまうだろうし、古泉君の機関にも気取られる恐れがある。すると、僕は今後アラームで起きる事なく、日替わりで裸エプロンの団員達に起こされお願いを聞く羽目になちゃうよ。おっと! その場合、団員の機関枠は古泉君じゃない女性メンバーへのチェンジをお願いしたいけれど! 

 しかし、有希ちゃんの裸エプロン……か。無表情で恥じらいも無いのだけれど、ただ思念体から命じられてよくわからないまま裸エプロンさせられる美少女アンドロイド。

 やっぱり、未来人からの評価なんかのために保留するのは悪手かな? 

 

「……わかりました」

『なにがっ!?』

 

 無感情裸エプロン有希ちゃんの魅力がかい? 

 

 みくるちゃん(大)は覚悟を決めた顔。ひょっとして諦めちゃったかな? 諦めたら以下略だぜ。

 

「奥の手を使うしか、ありませんね」

『へぇ、君に裸エプロン以上の手段があるわけ?』

 

 まだ手の内を見せ切ってはいなかったらしい。そうこなくちゃ。相手は僕を拉致って監禁する連中だし、油断は禁物だな。僕は布団の中で螺子を取り出して、いつでもみくるちゃんを螺子伏せられるよう備えておく。

 

「少しだけ……後ろを向いていてくれませんか?」

 

 背後から襲うつもりかな? 奇襲が狙いだとすれば、こちらもみくるちゃんの足元から螺子を伸ばして奇襲返しするだけだよ。

 

『仕方ないなぁ。特別だぜ?』

 

 未来人の戦闘手段には少しだけ興味があるからね。この前は現代に合わせた拳銃だったけれど……もしも安心院さんに効きそうな未来の武器でも取り出してくれたのなら、後ろを向くくらいはお安い御用さ。

 油断せず、聴覚だけでみくるちゃんの出方を覗っていると。

 

 スルスル……パサッ。と、まるでエプロンを脱いで床に落ちたような音が。えっと……もしかして、そういうバトルなのかい? いちご100%を参考にするのなら、この後の展開はジャンプでも描写出来ないよ。暗転の後、僕の家から帰るみくるちゃんの後ろ姿を微笑みながら見送るのが限度になっちゃうってば。僕はどちらかと言えばつかさちゃんに見送られる側を希望したいし。

 

 けれど。みくるちゃんは中々襲って来ず。エプロンを脱いだのかと思えば、今度は何かを着るような衣擦れ音を奏でた。

 これは、漫画やアニメの未来人が身につけてるようなピチピチの戦闘スーツへ着替えたパターンかな。なーんだ! ちょっとだけドキドキした僕の純情を返して欲しいよ。

 

「もう、こっちをむいて良いですよ」

 

 着替え終わったらしいみくるちゃんの、デュエル開始の宣言。未来人の戦闘服にだって、当然僕は好奇心が抑えられない。SFチックな衣装を身にまとったであろうみくるちゃんにゆっくり向き直ってみると。

 

『……未来人って、その格好で戦うの?』

「そんなわけ無いでしょうっ!?」

 

 上半身は裸で、胸を手で隠し。下半身にはジーンズを身につけたみくるちゃんがいた。

 

『わー、ここまでくると痴女なんてレベルじゃないね。ど変態じゃないかっ!』

「ど、ど変態……ですか。球磨川さんにだけは言われたくないわね」

 

 ええっ……。人の部屋でジーンズだけ身につけて手ブラしだした歳上女性に、なんで僕が変態扱いされるのさ! どう考えても被害者なのだけれど。とはいえ、何故だかこのみくるちゃんの姿に僕は惹かれるものがある。【小学生の時に読んだデスノート】くらいの情報量で脳が焼き切れてしまいそうなのだけれど、それがなんだか面白いものだってくらいは理解が出来たように。僕はこの手ブラジーンズとでも呼ぶべき格好が、とても素晴らしいものなんだっていうのだけはわかった。

 後数年……僕が高校3年生くらいになるまで研鑽を重ねれば、魅力の全てを理解出来そうだと直感でわかる。

 

『裸エプロンだけでは言うことを聞かなかった僕への、これが未来人なりの攻略法ってことだねっ』

 

 なんなら、数年後の僕がみくるちゃんに入れ知恵でもしたのだろうか。これはまさに、僕としては未来の武器で攻撃されたに等しいよ。

 

「……こんな格好、もう2度としませんからね」

 

 世界の危機を救うための、時空を超えた赤面手ブラジーンズ。これだけお膳立てされちゃったら、いくら僕でも首を縦に降らざるを得ないかな。

 

『しょうがないね。キョン君を戻す手伝いくらいは、君に免じてするとしよっか』

「ここまでしないとキョン君を戻そうとしてくれない貴方に驚きですよ、こちらとしては」

 

 未来からやって来た歳上お姉さんにすっかり歪まされてしまった僕は、この先真っ当に歩んでいけるのかな? 

 数年後、本来なら手ブラジーンズの良さに気がついて涙を流す場面があったとして、変わらず感動出来るのだろうか。

 

 その心配も、ハルヒちゃんに味方するかどうかで変わるのだから現時点で考えたって意味は無いのだけれどっ! 

 

『それじゃあみくるちゃん、僕はそろそろ学校へ向かうとするよ。みんなが待っているからね!』

 

 クローゼットにかけていたブレザーを羽織る。

 

「この世界を……頼みましたよ、球磨川さん」

 

 良い感じのお見送りセリフを紡ぐみくるちゃん。そんな格好じゃなければかなり名シーンぽかったのに。

 

 ところで! この手ブラお姉さんはどうやって帰るのだろうか。僕が目の前にいる限り胸から手を離せないわけだし、ワープとかしようにも端末操作だって出来なさそうだよね。この部屋のドアすら開けられないはずさ。

 

『やっぱりまだ集合には早いし、部屋の電気つけてジャンプ読んでもいいかい?』

「お願いだから早く出発してくださぁい……」

 

 その泣きそうな声は、ちょっとだけ今のみくるちゃんを感じさせた。

 









めだかボックスの連載時期とデスノートの連載時期から、球磨川の小学生時代にデスノートを読んでいた設定にしてみました。【勇者パーティ現る】は、めだかボックス連載の3年前……ですか。うーん
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