家長カナと明鏡止水の彼 作:明鏡止水
夕暮れ時のバスの中、私の心は沈んでいた。
バスではいつも隣で話しかけてくれていたリクオ君がいない。周りにはクラスの友達が数人乗っているけど誰かと話そうとは思えない。
「はぁ.....」
どうしてこうなってしまったんだろう。
「明日リクオ君に会いづらいな....」
原因を作ってしまっただけに先程うつ向いてしまったリクオ君の姿が脳裏に焼き付いて離れてくれない。
夕陽も沈み辺りは暗くなっていく。
リクオ君、歩いて帰るだなんて無茶だよ....。
何時もの風景なのに暗く不気味に感じてしまう。
これは罪悪感から込み上げてきた感情のせいなのか。
「え?何今の...」
一瞬バスの窓におぞましい姿の何かが写った気がした。
見まちがい?と思っているとバスは急ブレーキをかけ辺りからは地響きと悲鳴が木霊した。
私は突然の急ブレーキで頭を打ち意識を手離した。
「....が...た.な.......」
「ど.....る......だ」
な、に?私はバスの外から微かに聞こえる声で目を覚ます。
状況の確認をするためにバスの窓から外を見ると真っ暗で何も見えなかった。暗くなっていたとしても真っ暗なのはおかしい。と思っていると運転手が叫び声をあげた。
「ひっ........」
私は慌てて前まで来るとバスの灯りで落石した石の中に自分達がいるのが分かったのと目の前に人では無い不気味な顔や体をしたものが数人いるのを見て驚き叫び声をあげて膝から崩れ落ちた。
怖い。嫌だ、これが妖怪?....こんなの怖い.....リクオ君。
何故かリクオ君を呼んでしまう、ここにはいないのに。
バスの中はバスに乗っていた人の悲鳴でパニックになり始めそれを見た妖怪は嬉しそうに笑っている。
その笑みを見るだけで寒気がして体に力が入らなくなる。
「にげ、なくちゃ....」
妖怪はバスの窓を叩き始めていつ割られて中に入ってくるのか分からない。
「な、なんだねこれは!?」
「き、清継君!よ、妖怪が!」
「なに!?妖怪だと!そんなのいるはずがないじゃないか!」
「でも、ほらそこに!うわっ!は、入ってこようとしてますよ!」
「島くん、落ち着きたまえ.....おや、そこにいるのは確か....家長君じゃないか?」
「え、あ、うん。そうだけど.....」
「どうやらバスの中にいても危険のようだね....仕方がない、外に逃げよう」
「で、でも清継君!外は落石で塞がってるんだよ!」
「ええい、なんとかなるだろう。ここにいるよりはましさ」
私もその意見には賛成だったためバスの扉を開き全力で逃げようと足に力をこめた。
「ひいっ...」
逃げようとした瞬間、真後ろにいきなり妖怪が現れた。
その妖怪はまるで死神のような風貌で鎌を私に向けて振り上げている。
「リクオ様の友達か?ちょうどいい....」
リクオ様?......。
「死ねぇええ!!」
振り上げていた鎌を勢いよく私の頭めがけて降り下ろしてきた。
--------------------私死ぬんだ。
そう感じて目を閉じたが何時までたっても痛みは襲ってこなかった。
閉じていた目を開けると私と同じくらいの男の子が私と妖怪の間に入って鎌を刀で受け止めていてくれた。
「誰......?」
「“カナ“ちゃん。危ないから下がってな」
私の問いにカナちゃんと男の子は返してきた。
私の事をカナちゃんと呼ぶのはリクオ君だけのはずなのにどうして....。
もう恐怖はなくただただその男の子を見つめていた。
「くっ....何故!何故!百鬼夜行が動いている!?百鬼夜行は主がいないと動かないはず!」
私は周りを見渡すとそこら中に妖怪がいることに気づいた。
「主ならいるじゃねえか?お前の目の前に」
大きな人?にも見える体格の良い人がそう答えると妖怪は男の子の方を向いて全身を震わしている。
「ま、まさか....リクオ様なのか?」
「......」
男の子は答えない。
「くそっ!!ガゴゼ会の妖怪達!本家のぬるま湯に浸かった奴等なんて叩きのめしてやれ!」
その声と同時に妖怪達は殴りあい、切りあっている。
誰から見ても優劣はハッキリするほどに力の差が分かる。どちらが味方なのか分からないけど妖怪の焦りかたからして優勢なのは男の子の方なんだと理解する。
「な、何故だ.....何故、ぬるま湯に浸かってるやつらなんかに....一番畏れを集めているのはこのガゴゼ会だと言うのに!」
「なあガゴゼよ。確かに子供を襲う妖怪は怖えーよ。でもな弱いやつ相手にして天狗になってる奴が真の畏れを持ってるわけねえ。教えてやるよ」
男の子は刀を構える。
辺りは静かになっており妖怪も鎌を構えた。
一瞬だった。
妖怪が鎌を男の子に向かって降り下げたが、男の子は鎌を紙一重でかわして刀を翻して袈裟斬りをした。
「なぜ.....何故こんな中途半端なやつなんかに....」
そう言って妖怪は消えていった。
満月の月明かりが暗闇に差し込み男の子の姿が鮮明に写り出す。
「リクオ、君?」
私は呟いていた。
男の子は此方を振り向くと笑顔で何かを喋りその場に倒れた。
妖怪が直ぐに群がり男の子の元に行けた時は既に男の子はいなかった。