アリアのアトリエ~ザールブルグの小さな錬金工房~ 作:テン!
これは没になった方のエリー側EDです。
没になったけど私個人は結構気に入ってました。なので書きたいな~、と思いながら没にしちゃったしなー、と悶々としていましたが、その時テン! に天啓がはしった!
「逆に考えるんだ。書きたいのなら書いてしまえばいい。本編じゃなくIFにしちゃえばいいんだ」と。
そのままノリと勢いで書きました。
反省はしていますが、後悔はない。
すっごく楽しかった。
長くて短い四年間が過ぎ去った。
本当に濃い四年間だったわ、とイングリドは穏やかな表情で自らが担当した生徒たちの顔を思い出す。
そう、「恩人に会いに行きます!」と置き手紙だけを残し、二ヶ月もの間行方不明になった生徒もいれば、どんな失敗をしたのかゲヌーク壺を暴走させ、自分のアトリエだけでなく周りの家々まで水没させかけた生徒もいた。
アカデミーに無許可で死にまねのお香を国王陛下に渡し、国王陛下の訃報と同時に死んだはずの当人から感謝状がアカデミーに届くという前代未聞の大珍事を引き起こした生徒もいれば、今度は半年間ふらりと何処かに行っていたと思ったら、カスターニェの洋上にいたフラウ・シュトライトを討伐しケントニスから火の玉娘・マリーを連れて凱旋を果たした生徒もいた。
「………………全部一人の生徒がやらかしたことのはずよね?」
「……………………お願い、私にも少しくらい現実逃避をさせて頂戴」
先ほどまでの表情を一転させ、宿敵と呼んでも差し支えのないヘルミーナ相手に懇願するイングリド。
乾ききった笑い声と濁りきった瞳が実に痛々しい。
「…………」
ライバルのあまりの惨状にヘルミーナはそれ以上何も言うことはなく、無言でミスティカティーのカップを傾けた。
その顔には、本当に、本当に珍しいことに哀れみの情が浮かんでいた。
アカデミーの双璧、この二人がいるからこそ今のアカデミーがある、と謳われし女傑達。
その二人が苦悩する、苦悩せざるを得ないとんでもない生徒がアカデミーにはいた。
その生徒の名はエルフィール・トウラム。
最下位の成績から四年間で学年トップに上り詰め、さらにはアカデミーだけではなく錬金術の本場であるケントニスでも数少ない賢者の石調合成功者となった。
それだけなら良かった。それだけならイングリドは純粋に彼女のような教え子を持てたことを誇りにできただろう。
たとえその行動がどんなに破天荒であっても、「まあ、マルローネに比べれば……」と自分を納得させることができた。たとえそれが爆弾と発火油――どちらもとんでもない危険物――のどちらが安全か、を比べるような不毛な行為であろうと、自分を慰めることができた。
それなのに――。
「なんで、なんであの子は最後の最後でやらかすのよ……っ!?」
ドンッと、イングリドの叩いた机が悲鳴をあげる。
イングリド、魂の叫びである。
「………………」
もはや何も言うことができず、ヘルミーナは同情を含んだ眼差しで机の上に突っ伏してしまったイングリドの背を眺めていた。だが、とうとうその背中が小刻みに震え始めたので、丁重に視線を外した。とてもではないが、見ていられない。
時折聞こえる、嗚咽に近い音を聞いた端から削除しながら、ヘルミーナはカップの横に置いてあったケーキを手に取る。
蠱惑的なほどに白く美しいそのケーキの名は…………。
ケーキの端をフォークで切り取り、落とさないように気をつけて口の中に入れる。
まず感じるのは特有の酸味と優しい甘味。
舌先で潰れるほど柔らかなそれが、口の中でほどけ確かな余韻を残して消えていく。
シャリオチーズの味がしっかりと味蕾を刺激するそれは、普通のケーキとは違うコクを感じさせるというのに、意外とあっさりしていていくらでも食べられそうだ。
下部分のタルト生地は甘さ控えめで、さくさくと歯ごたえが面白い。
上等の小麦粉と雪のように白くなるまで丁寧に精錬された砂糖を贅沢に使い作り上げたビスケット。それを一度砕き、最上級のシャリオミルクとバターでつないだそれは、主役たるケーキの味をひきたてる脇役として、完璧な働きぶりを見せている。
まるで黙々と自分の仕事をこなす一流の職人のような奥ゆかしさだ。
白い白いケーキの儚さをひきたてるは、情熱の赤に輝く野苺の砂糖漬け。
甘酸っぱいその味が、ケーキの甘みを更に強く感じさせる。
その相乗効果は、空へと駆け上る無限の螺旋。
これこそが、食べたものを天なる楽園へと導く
今ここに、神の国が顕現した!
「……ふう」
最後に、ミスティカティーで舌を休める。
ランクSの品とはいえ、この
至高のチーズケーキを最後の一片まで堪能し、その余韻で頬を緩ませながら、アリアはゆっくりとティーカップをソーサーの上に置いた。
「見事だ」
「ふふん。当然でしょ」
艶然と微笑むアイゼル。そこには自分のこと以上にケーキを褒められて喜ぶ少女がいた。
「けど、あの子にも困ったものだわ。チーズケーキが好きだからって、わざわざこ~んな店まで開いちゃって……」
やれやれ、と肩をすくめるアイゼル。
字面だけをとれば出来の悪い子供に対する物言いそのものだが、ゆったりと目を細めこの店の店主を暖かく見守るその眼差しはまったく正反対のものである。
子供が精一杯頑張る姿を見守る母親の目そのものだ。
「確かに、あの人の実力を考えますと少々もったいないですわね。やろうと思えばいくらでも上を目指せましたのに……」
「まったくもってその通りよね。ま、あの子らしいと言えばそれまでだけど」
憂いを湛えた顔で、ユリアーネが溜息をつけば、アイゼルが首を縦に振り同意の意を示す。
ツンとすました顔でチーズケーキを頬張るその姿は、まったくアイゼルらしいものだった。
「たしかにそのとおりだね。僕も初めて聞いた時は驚いたけど、意外とすんなり納得しちゃったし」
追随するようにノルディスが自分の意見を述べる。
いつもと変わらない優しげな好青年といった笑みを浮かべて、店内に目を向ける。
その目線につられて、他の三人も思い思いに店内を見回した。
温かい秋の陽光が差し込む店内は、季節に合わせてか少し落ち着いた色合いでまとめている。
だが、ところどころに置いてある小さな花かごや小物には、明るい色合いのものが使われており、店長の人柄を感じさせる。
落ち着いてのんびりすることも、明るく賑やかにおしゃべりを楽しむこともできる、そんなお店。
けれど、その程度のことこのお店にとっては何の価値もないこと。
「……みんな笑っているな」
「ええ、そうですわね」
一口食べれば皆笑顔になり、二口食べれば皆顔を蕩かせる。
一瞬で魔法のように笑顔と幸せを振りまくチーズケーキのお店。
「ま、どんくさいあの子にしては上出来じゃない?」
「最後まで一番反対していたのは、アイゼルではなかったか?」
「うるっさいわね! それは当然でしょ! あの子が錬金術士を辞めるなんて、才能をドブに捨てるようなものじゃない」
けど……。とアイゼルはティーカップを片手に、働く親友の姿を翡翠の目に映した。
キラキラと宝石のように輝くその瞳には、明るい笑顔を周囲に振りまく親友――エリーの姿があった。その笑顔につられて、お客様たちはさらに笑みを濃くする。
誰もが簡単に笑顔になれるお店。誰もが手軽に幸せになれるお店。
それこそが彼女の作り上げた「エリーのチーズケーキ屋さん」
「けど、あの子は今でも錬金術士よ。反対する理由なんてその時点で無くなっているわ」
「さしずめ、笑顔と幸福の錬金術士、といったところかね?」
「恥ずかしい台詞ね、それ。……けど、概ね同意してあげるわ」
片手にチーズケーキを持ったエリーがアイゼル達に気づいたのか、軽い足取りでこちらに近づいてくる。
その顔には満面の笑みが咲き誇っていた。会えて嬉しいと、来てくれて嬉しいと、その全身で訴えてくる。
「みんな、来てくれてありがとう!」
「せっかくの新店なのにお客様が少なかったら可哀想、と思っただけよ。まあ、思ったより盛況な様子だし、あなたにしては頑張ってるんじゃない?」
「えへへ、そうかな? アイゼルが褒めてくれるなんて嬉しいな」
「あらそう。それは良かったわね。――私に勝ったあなたが選んだ道だもの、もう文句はないわ」
「アイゼル……」
「けど――」
キッと目を怒らせて、アイゼルはエリーの顔を睨みつける。
「中途半端でやめたら容赦しないわよ」
「……大丈夫、絶対にしない」
にへらと笑顔を崩してエリー。
「私の取り得は諦めが悪いことだもん。始まったばかりの私の夢、こんなところで止まってなんかいられないよ」
「そう、なら精々精進しなさい」
「うん!」
アイゼルの言葉に頷いて、エリーは笑った。
野に咲く花のように、大輪の花のように。
どこまでも純朴に、どこまでも素直に咲き誇る。そんな笑顔だった。
その笑顔につられて、皆で笑う。
「みんな、私の『エリーのチーズケーキ屋さん』にようこそ!」
店の看板が太陽の光を反射する。
その看板にはこう書かれていた。
『エリーのチーズケーキ屋さん』
あるところに一人の女の子がいました。その女の子の名はエルフィール・トウラム。親しい人にはエリーと呼ばれています。
エリーは、自分の病を治してくれた錬金術師に憧れ、一人ザールブルグに上京することにしました。錬金術の学校に通うために。
錬金術について何も知らなかった女の子。しかしその努力の成果か、はたまた運が良かったのか最下位ではありますが、錬金術の学校に無事合格します。
けれどもそれからが大変!
毎日勉強に調合と最下位で入学したエリーにはやることがいっぱいあって寝る暇もありません。
けれどそれでも、彼女はへこたれませんでした。
持ち前の明るさと取柄の元気のよさで常に明るい笑い声が響くエリーのアトリエには、いつの間にかたくさんの人達が集まるようになりました。
そしてたくさんの努力と、沢山の人の協力を得て、彼女は自分の命を救ってくれた恩人と再会したのです。
一つの目標を達成したエリー。けれど、一つの目的が終わった程度で、彼女は歩くのを止めませんでした。
そして彼女は見つけます。彼女が一生をかけて打ち込むべきものを。
その名はチーズケーキ!
錬金術に打ち込んでる間に、彼女はチーズケーキの魅力に取りつかれ、全てを差し置いて至高のチーズケーキを作り上げることに全知全能を費やします。
たとえマイスタークラスに進学できると言われようと、例え賢者の石の作成に成功しようと彼女にとっては些細な事に過ぎません。精々、至高のチーズケーキを作り上げるための踏み台に過ぎませんでした。
そして彼女は作り上げます。
一口食べれば誰もが笑顔になり、二口食べれば誰もが笑顔を蕩かせるそんな究極にして至高のチーズケーキを。
そんな彼女は、周囲の引き止めも意に介さず、錬金術の学校を卒業したあとはチーズケーキのお店を開きます。
そんな彼女のことを一部の人は「錬金術の道を捨てた」と言いますが、彼女を知る人はみんなみんな笑って否定します。そして口をそろえてこういうのです。
「エリーは今でも錬金術師だ」と。
ザールブルグの片隅に、小さな可愛らしい家があります。
その家では毎日、とてもおいしいチーズケーキを何個も何個も焼き上げます。
誰もが一口食べるだけで幸せになる魔法のチーズケーキ。
そんなチーズケーキを作り上げる彼女のことを、みんなはこう言います。
笑顔と幸せの錬金術師、と。
今でも彼女はチーズケーキを片手に笑っています。
笑顔と幸せを町の人々に振りまきながら……。
「究極のチーズケーキ屋さんED」達成条件。
・ザールブルグの錬金術師ED条件を四年目までに達成。
・錬金術レベル及び冒険者レベル五十達成。
・賢者の石調合済み。
・四年目終了までにチーズケーキのランクをSにし、ストックを九十九個とする。
うそです!
これはひどいと思われるかもしれませんが、思いついちゃったもんは仕方がねぇ! と投稿してみました。
面白かった!という方はどうぞ「これはひでぇ!」と突っ込んでください。
面白くなかった!という方も「これはひでぇ!」と突っ込んでください。
ぶっちゃけアリアよりもアイゼルが目立ってますが、これは仕様です。
作者はエリーとアイゼルのイベント大好きです。ぶっちゃけツンデレ属性ってライバル系のキャラに付けたほうが美味しいよね! というタイプです。
ノルディスふっ飛ばしてアイゼルと仲良くなるのがデフォな人間です。
仲良くなりすぎて、栄養剤イベントぶっ飛ばしちゃったのも一度や二度ではありません。
エリーとアイゼルLOVE!! と全力で宣言できます。ですのでエリーとアイゼルは全力で贔屓します。
どうかご了承ください。
けど私は信じています。絶対同士は多いと!