ソードアート・オンライン 仮面の将軍   作:七十円玉

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ミーシャとナオの補足となるお話は出来上がり次第、纏めて短編として投稿します。
何分本編とは雰囲気が違うコミカルで前向きな話になっています。
アルゴ、シンカー、クライン、そして現実のラックのお話も同様に短編として投稿すると思います。 各々文章量に偏りが出るとは思いますが、ついでのような書き方にならない様に気をつけます。


第五話 そして姉妹は荷物となった

 人の好意を無下にする。

 という訳ではないはず。 第一私たちが勝手についてきて、挙句の果てに守って貰っている。 そのことに感謝はしても、恨むことなど絶対に筋違いだ。

 だから、私はこのゲーム世界に来て初めて落ち込んでいた。

 もしかしたら、私と仮想とは言え間接キスすることを嫌がったのかもしれない――なんて、根拠も何もない能天気な発想が浮かんで消える。

 そんな低い次元ではない。 あれは嫌悪というよりも強い拒絶の意思が感じられた。

 事実、最初に会ってから一言も彼(もしかしたら身長の大きな彼女かもしれない)は喋らないし、何かを伝えるようなサインもない。

 彼がするのはある一定の距離を保って歩き、私達が止まれば止まり、速度を緩めればそれに合わせる。

 

 多分、間違いなく私達の何倍も強くて、初めから一人で<ホルンカ>まで向かえば既に到着していると思う。 彼の水筒が空になることも無かった筈。

 今は明るくなってきたから火を消しているが、この松明だってボロボロの森小屋から彼が持ってきた物だ。 入り口で二人して入るのを躊躇っていた私達の目の前に、二人分落として、あまつさえ初心者である私達に見えるように松明を着火させたのだ。

 それを真似して同じように火が付き始めたらまたゆっくりと歩き出す。

 その大きな背中に安心感を覚えながら二人して付いていく。 寡黙な彼にいつの間にか警戒心も殆ど無くなっていた私達は5mから4m、そして3m、ついには2mまで近づいていたのだ。

 彼の顔はフードで隠れていて表情も何も見えないけど、いい加減諦めたという風に彼は先導していった。

 そして、暗い獣道をようやく抜けて、花畑を見たときは思わず彼のことなど考えずに向かってしまった。

 彼からすればこの森を抜けることが最も安全で、重要な筈なのに。

 だから、私は彼が休憩をした時、彼の水筒が空になっているのに気付き、心の底では喜んでいた。

 

 (これで少し恩返しができる)

 

 思った時には体が動いていて、間接キスなんか気にする暇もなく彼に差し出していた。

 最低に配慮の欠けた発言とともに。

 

 『よ、よかったら飲んでよね』

 

 顔が熱くなる。 私の我儘で勝手に<ホルンカ>を目指しているようなものなのに一言に感謝がこめられているとは自分でも思わなかった。

 目頭が熱くなって、恥ずかしさに穴があったら入りたかった。

 不意に柔らかい、よく知っている感触が私を包み込み、慣れ親しんだ香りが鼻腔をくすぐった。

 

 「大丈夫だよ、お姉ちゃん。 お姉ちゃんの所為なんかじゃないよ。 私が追いかけようって言わなかったら良かったんだから。」 

 

 違う――ナオちゃんは悪くない。 全部私が悪い。

 このゲームの中にいるのも、彼がここから離れてしまったのも。

 

 「ね? 帰ってきたら二人で謝ろう? 許してくれなくても謝ろう?」

 

 うんうん、違うんだよナオちゃん。 私達が謝らなきゃいけないのは自分たちの弱さなんだ。 

 でも、その言葉は嗚咽に紛れて妹の耳に届くことはなかった。

 

 もし、このまま彼がこの花畑に帰ってこなかったら私たちはどうなるのだろう。

 この幻想的な花畑にいてもうすぐ10分経つけれども、いまだにモンスターが出てくる気配も、その予兆も無い。

 だからこそ彼はここで休憩したのかもしれないけど、ここから<ホルンカ>まで向かうのなら話は別だ。 いつかはこの花畑から抜け出して薄暗い森の中を抜けなければいけない。

 幸い<はじまりの街>で配っていたガイドブックとシステムコンパスのおかげで大体の道はわかるけど、そこが安全な道かどうかは分からない。 今まで強いモンスターに全く遭遇しなかったのは多分、彼のルート選択のおかげなのだと思う。

 

 でも、ひとたび安全なルートから外れれば?

 その時は私達も、倒してきたイモ虫型モンスターと同じように青い欠片となって人生を終える――それだけは絶対に嫌だった。 私が犠牲になってでも妹は、ナオちゃんだけは守り抜きたい。

 少しでも先に生まれた出来そこないの姉の使命として。

 

 願わくは彼に帰ってきてほしいと思う。 非常に利己的で最低な考えに胸が痛くなる。

 でも、自分だけではナオちゃんを守れるかわからないのだ。

 

 そして願いは最悪の形で叶えられる。

 

 その音が聞こえてからでは遅かった。

 本能的に恐怖をもたらすオレンジと黒色の体色、現実のそれよりも何倍も大きく羽音は周囲の木々を揺らすほどに大きい。

 黒いアゴをカチカチと鳴らし、尻の先に見える太い毒針は刺されれば相当な苦痛をもたらすことは想像に難くない。

 現実の日本で最も人を殺している虫。 スズメバチが私達を睨んでいた。

 とっさに出たのは悲鳴だった。

 赤色のアイコンが煌めき、こちらに体を揺らして突進してくるのを私たちは呆然と避けることもできず、不快な感覚が私を貫いた。

 

 「あ、ぁぁ……」

 

 声にもならない呻きを出しながら、逃げてと傍らの妹に言おうとしても、体が、口がうまく動かない。

 黄色くなった体力バーの横にマヒを現すアイコンが点滅していた。

 

 「お姉ちゃん!」

 

 ゆさゆさと私の体を揺らし、何度も何度も叫び続ける。

 そして妹の後ろに蜂の巨体がぬっと顔を出し、私と同じように毒針を刺した。

 

 「ぁっ……!」

 

 小さく唸って、妹の体が私の体と重なるように崩れ落ち、半ば抱きしめた形になる。

 次の攻撃を食らえば二人一緒に死ぬことができる。

 まるで定められているかのように、最後の攻撃が加えられる瞬間。

 私達はお互いにマヒでひきつる顔を必死に口角を上げながら微笑んだ。

 

 

 

 敏捷値を上げていなかったことを今ほど後悔したことはない。

 重さというバッドステータスになる盾を放り投げ、なけなしの敏捷値の許す限り全力で欠けていた。

 『油断した』

 最悪に背筋を凍らせるその感覚が今は足を少しでも早く進ませていた。

 この<アインクラッド>がベータテストと同じだなんて誰が決めた!

 さっきから森に響くこの羽音はおそらくレベル3昆虫型モンスター「パラライズ・ワスプ」――出現する森じゃないと思って油断した。

 このゲームはモンスターが普段の生息域を越えて“流れてくる”こともあり得るのに!

 

 「っっ!!」

 

 一心不乱に来た道を駆けもどり、大きな太い幹を乗り越えるように跳躍すると花畑の絨毯に倒れこんだ二人が見えた。

 今にも<パラライズ・ワスプ>は腹の毒針を突き刺そうとしている。

 だが、今の自分には<投擲>スキルも無ければ投げる石さえ無い。

 手詰まりの絶望感が目の前を暗く染めようとし、ふと違和感が脳裏を横切る。

 今までサーシャさんやナオさんの近くに敵が寄ってきたのは何故だ?

 視覚的に大きい獲物を狙うのは当然――なのに何故イモ虫は小さな獲物である二人の近くに多く出現した?

 草原では<フレンジー・ボア>や<ダイアー・ウルフ>は何故自分を狙っていた?

 

 「――っ!!!」

 

 間に合えっ!

 

 全力で腹の底からこの仮想世界で初めて叫んでいた。

 

 

 

「ウオオォォォ!!」

 

 森を、大気を揺らすかのような咆哮が響き渡った。

 私たちの目と鼻の先に迫っている毒針が、その動きを止めていた。

 体をびくりとも揺らすことができない――この状況で微笑みは二人して涙に変わっていた。

 声にならない声で『ありがとう』と唇が動いた。

 重量感のある音とともに衝撃が地面を伝わり、彼が来てくれたのだと確信した。

 

 タンクの派生スキル<咆哮>。 モンスターのヘイトを増大させターゲットの目標を自分に移すスキルを、ソロでは使用することのないと考えていたスキルが今何よりもありがたかった。

 <パラライズ・ホーネット>黄色と黒の危険色に包まれたその巨体をこちらに向け、顎を鳴らしていた。

来るっ!

 そう感じた瞬間、右手の槍を両手に持ち変えて装備した。 これで盾を放棄したとみなされ、<盾>スキルは使用すること出来ず、所有権も無くなる。

 敏捷値の低い自分では避けることよりも受けるほうが効率はいい――だが、肝心の受けるための盾がない以上、僅かな槍の柄で受けるしかない。

 当然<防御>スキルの補助が最大限に受けられない以上、<パラライズ・ワスプ>の強力な噛みつき攻撃を受け、少しづつHPバーが減っていく。

 蜂型モンスター特有の素早い動きに翻弄されない様、槍を攻撃に使うもたいした反撃の出来ないままダメージが蓄積していくが、不思議と焦りはなかった。

 

 噛みつきを柄で叩くように回避し、何度も扇形を描くようにすり足で動いていく。

 

 幻想的な風景を作り出していた花畑は既に踏み潰され、土と混ざり合い美しい様相は破壊されていた。

 素早い回避が難しい今、最も必要なのは相手の隙を見極めることである。

 焦ったら終わりである以上、慎重に二人から遠ざけるように後退していき巨木に囲まれていく。

 一発、二発と噛みつき攻撃を受けていくたびに視界の端で減っていくHPが危険域の赤に染まった瞬間、ついに変化が起きた。

 

 鋭い毒針をぶんぶんと振り回し、緊急回避をするように一度離れ、空中で反転。

 今までの顎を主体にした噛みつき攻撃から、鋭い毒針をむき出しにしての突き刺し攻撃に切り替える。

 本能的に閉じようとする目を抑え込み、一瞬に賭ける。

 空中でのホバリングから背中の羽を十分に使用し推力を得た巨体はまっすぐに突き進み、刺さった。

 ザシュッ! という音が鼓膜を揺らし、成功したことを告げていた。

 既に幹の奥深くまで刺さり、抜くことのできない行動不能状態の<パラライズ・ワスプ>に向け、両手に握られた槍の流れに逆らわず突きのモーションを起こす。

 槍全体が青く光り、ソードスキルの開始を示していた。

 システムの加速に同調するように左足を軸に右足を踏み出し、さらに加速をブーストさせて<シングル・スラスト>を放った。

 <パラライズ・ワスプ>の外殻を巨木ごと抉るように突き入れた槍の穂先は緑色のHPバーを赤く染め、0にした。

 瞬間、青いガラス片となった<パラライズ・ワスプ>と経験値の加算表示が浮かび上がり戦闘の終了を知らせていた。

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 肩で息をし、泥のような疲労感に槍を置き、小袋からポーションを取り出し一気に飲み干す。 安物のまずい味とゆっくりと赤から黄色に変わっていくHPバーが仮想世界で生きていることを証明してくれた。

 いまだにマヒのバッドステータスが残っているのか倒れたままの二人に駆けより、同じように取り出した二本のポーションの栓を開け、二人の口に無理やり突っ込む。 

 二人とも目を見開いて驚いていたが気にしない。

 デリカシーもなにもない配慮に賭けた行動だと思うが今は許してほしい。 状況が状況だ。

 もしかしたらさっきの<咆哮>を聞いたモンスターがいるかもしれない以上、ここでゆっくりしている時間はないのだ。

 だが、既にマヒは抜けているであろうに二人は動かない。 ――いや、動けない。

 瞳にも顔にも生気が宿っているというのに腰が抜けて立てないのだろう。

 動けるか動けないの問題ではない。 動いてもらうしかないのだ。

 もしくは動かすしかないのだ。

 

 ここで二人を見捨てて逃げるのは簡単だし、これがベータテストであれば間違いなく見捨てているだろう。

 だが、既に仮想の死が現実の死と同期してしまったこの世界で、目の前の女の子を見捨てられるほど腐った精神はしていなかった。

 なにより、二人を助けるために小川の畔に犠牲になった木盾が浮かばれなかった。

 

 インベントリに槍と動きを阻害する装備品を詰め込んだ時には日常服と<ハイディングフード>一枚という姿だった。

 地面で呆然と涙を流していた二人が<ハラスメントコード>に一切触れないことを祈りながら、豊富な筋力値で二人を担ぎあげ<ホルンカ>までの僅かな道のりを疾駆した。

 

 

 

 耳にガラスの割れるような音が響き、戦闘が終わったことが分かった。

 だというのに私の体は動かない。 視界の端で点滅していたマヒのアイコンは既に消え去り、四肢を自由に動かせる筈なのに言うことを聞いてくれなかった。

 言うことを聞いてくれたのは唯一、眼のみ。

 生き残った喜びと役に立たなかった悔しさ、後もう少しで大事な妹を失うところだった悲しみ、そして、また迷惑をかけたという申し訳なさが入り混じり、感情の濁流を放出するように涙を流させた。

 滲む視界の中、私の唇をこじ開けるような異物感が入り、口の中を苦い何かが支配した。

 

 呻くこともできずその何かを飲み込むとHPバーがゆっくりと回復していることに気づき、目の前の妹にも同じように口からガラス瓶が見えた。

 

 (……ポーション? これってこんなに不味いの!?)

 

 現実世界のコンビニで一時期売られていたポーションの何倍も不味い液体を舌で味わうことなく嚥下していく。

 何か操作しているのか涼やかな機械音が流れ続け、フードマント?の間から薄い鎧が消え去ったのが見えた。

 槍も同じように地面に置かれていた槍も同じように青い光を放ち、消えていく。

 その光景をどこか別の世界のように見入ってしまい、身体を動かす努力も忘れていると、身体が宙に浮いた。

 いや、持ち上げられた。お腹に手を回すようにゆっくりと持ち上げ肩に担ぎあげられた、一瞬、フードマントの間から顔が見えた。

 

 「……っ!」

 

 息を飲んだ。

 そして彼がどうして人を拒絶するのか、少しわかった気がした。 

 

 

 

 今日は人生で一番多く走っている気がする――多分、それは間違ってない。

 壁戦士として生きてきた自分が、肩に二人の荷物を載せて走っているなんて誰が想像できただろうか。 無事に<ホルンカ>まで辿り 着けたら敏捷値に幾らか数値を上げることも考えよう。

 湿り気を帯びた滑りやすい地面を転ばない様に駆けていく。

 非攻撃的モンスターも攻撃的モンスターもすべて無視し、脳内に<ホルンカ>までの道筋を展開していく。

 道から2匹の<ウッド・ワーム>が這いずりだしてきたので気にせず踏みつぶし、最短距離を駆けていく。

 だが、木々の間から<ホルンカ>の入り口がチラチラと見えた時、それは起きた。

 

「フシュウウウ!」

 

特徴的な咆哮とともに藪からツタが付きこまれた。

 

――ッ!

 

突然の攻撃に先に地に着いた右足を軸に半回転するように避けると、偶然にも最悪のタイミングでそれは発生した。

 

――転倒ッ!

 

 地面に激突する一瞬、行動遅延が発生する前に肩の二人を<ホルンカ>の方向に放り投げた。

 視界の中央に陣取っていた<ハラスメント警告>ウインドウが消滅し、同時に行動遅延アイコンが左端に点滅した。

 そして、攻撃を加えた標的がその姿を現す。

 今日は本当についていない――西の森を主生息区域としている植物型モンスター<リトル・ネペント>が左右に蠢くツルを唸らせ、瞳のない顔に当たる部分(おそらく口)から粘液を滴らせ、獲物である三人に捕食体勢をとっていた。

 

 ターゲットとなっている人間の方向に、見た目とは裏腹の素早い速度で近づいていく。 その足取りはナオさんの方向へ向かっていた。

 行動遅延アイコンが消えるまでの5秒間が長く感じる。

 既に倒れながらも右手でメインメニュー装備フィギュアを選択しておく。

 これで行動遅延中は装備ができないが、遅延が終了すればすぐに槍を装備できる。

 後は二人の行動にかかっていた。

 

 恐怖で顔を歪ませたナオさんを容赦なくネペントが襲う。

 鋭く尖らせたツタを振り上げ、目の前で呆然と座り込んでいた少女に突き刺した。 本能的に体を動かしたのだろう、本来胸に刺さっているはずのツタはやや逸れ、左腕を貫く。

 痛みのない不快感が彼女の神経を犯し、苦痛で身を強ばらせる。 

 致命傷ではないものの、彼女のレベルはまだ2。 そのことを考えればレベル3である<リトルネペント>の攻撃は辛いはずだ。 そして更にその攻撃を辛くする要因が他にもあった。 

 彼女の装備は未だに初期装備――始まりの街でおそらく片手斧だけ購入したのだろう。 薄い皮で作られた服よりも少し硬い程度の鎧ではまともな防御力はない。

 当然、そのことを知っていた自分は初日に槍と盾を購入したとき、初期装備の<スモール・ソード>を売り払い、安物でも鉄製の胸甲がついた鎧を買っていた。

残り2秒。 2撃を加えたネペントは口にあたる部分からゴポゴポと液体を溢れさせながら、残り少ない体力で座り込む少女に吐き出した。

 

 思わず、目を瞑ってしまう。 目の前で、自分の所為で人が死んでしまう。

 自分の不甲斐なさで人が死んでしまう。 直視したくなかった。

 パリイインッ!と甲高いプレイヤーの死を告げる音が――聞こえなかった。

 代わりにびしゃぁぁ!といった液体が何かに降りかかる音が聞こえ、目を見開く。

 そこにはミーシャさんが盾となって腐食液を被っていた姿があった。

 

 そして、ネペントが目の前の盾ごと貫こうとツタを振りかぶり――行動遅延が消えた。

 だが、距離も時間も遠すぎた。

 槍を装備して前傾姿勢でダッシュする頃には既に彼女たちの目の前までツタは迫っていた。

 だが、二人のプレイヤーはツタにアバターを貫かれることはなかった。

 バシュッ!と何かが切り裂かれた音が響き、偶然、ミーシャさんが振るった手斧が僅かにツタの軌道を逸らし空を貫く。

 

 ネペントの一瞬の行動遅延。

  

 だが、その一瞬が何よりも充分に見える。 まるで世界がスローモーションのように動き、ウツボカズラの胴体に向け全速の<シングル・スラスト>を放った。

 HPバーは緑から、0になり存在を消去するはずだったペネントは僅かに赤を残し、『生きていた』

 ゆっくりとした動きの止まらない三撃目を見ながら、目を瞑ると、青色の光とともに<リトル・ペネント>は爆散した。

 ミーシャさんのソードスキル<ウインド・スラッシュ>が成功し、命中したのだ。

 彼女の奇跡のような幸運に、諦めかけていた心が光を取り戻した。

 

 息を吐き、緊張感が緩むのを感じながら光の残滓を残すペネントを見つめる。

 勝った。 

 もし、これがベータテストで今の自分じゃなかったら三人で喜んだだろうか――そんな考えが頭をよぎる。

 

 だが、嬉しさを口に出している暇なんてなかった。 ミーシャさんがナオさんを立たせ、お互いにポーションを飲んだのを確認してから視線の先、ようやくその全景を視界に入れることのできた<ホルンカ>へ逃げるように足を進めた。

 今度は二人共自分の足で歩いていたことに、どこか達成感を感じずにはいられなかった。

 

そして、<ホルンカ>の入口に入った後、自分の視線が地面に向いているのを気づいたときには既に意識は黒に染まっていた。

 




実は前書きの短編はこの話を書く前に約4000文字程書いたところで『これ分けないとアカンってなったためです』
なのでこれは本来六話の予定として本日の朝に書き上げました。
1話から5話までルビを使用していませんし、気に入らないところがあれば多分大幅に修正を行うと思います。

感想、評価、指摘等をよろしくお願いいたします。

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