ソードアート・オンライン 仮面の将軍   作:七十円玉

6 / 8
原作よりも少しづつ明るくなっていっている雰囲気が書けたらいいんだけどなぁ

あと、お気に入り登録ありがとうございます。
一人ひとり感謝の意を上げたいところなのですが、何処にお気に入りをしてくれた人の名前が書かれているのかが解らないのでご了承ください。


前向きな逃避行
第六話 ようこそ<ホルンカ>へ――フレンド紛争開幕から終結


第六話 ようこそ<ホルンカ>へ――フレンド紛争開幕から終結まで。

 

「――えちゃんー! ――買ってきたよー!」

「――ちゃんありがとー!」

 

 背中をがっしりとガードする感覚が最初に感じた感触だった。

 騒がしい喋り声が近くと遠くから聞こえる。 どこか生活感のある音を聞きながら、瞼をゆっくりと開いていく。

 眼に入ったのは木の温もりが感じられる天井だった。

 ――ああ、今寝ているんだ。

 そう思って右に顔を向けるとひらひらとした布切れが宙に舞っていて、思わず覚醒したてのだるい腕を動かして掴んでしまう。 外れることなく目標を捕らえると、ぱさっという布が落ちる音ともに視界の端に肌色の何かが映った。

 

 「――へ?」

 「――は?」

 

 間抜けな声が重なり、顔を上げると肌色の物体は人型で、短い黒髪をゆらしたミーシャさんと眼があった。

 

 「は?」

 

 二度目の間抜け語を口から漏らして2秒ほど時間が止まる。

 

 「す、すいませんでしたぁ!」

 

 下着姿のミーシャさんに謝られるという理解不能な展開が脳内をフリーズさせた。

 

 

 11月にして温かな陽光が村全体を包み、一人、また一人と増えていく旅人をNPCは歓迎していた。 だが、歓迎された旅人の多くは表情が暗く、また村を歩く旅人も同じように影があった。

そんな中、満点の笑顔で小さな道に並べられた遅めの朝市に突撃する少女がいた。

 

「おっちゃん! この赤いのいっこっ! ああ~~!? あ、あとこっちの長いのもー!」

 

 本物の人間に話しかけるようにNPCの中年男性に話しかけては世間話をする。

 製作者の徹底したこだわりか、NPCは淀みなく少女の世間話に付き合い、喜怒哀楽を表現させていた。

 いつの間にかその会話と笑顔に引き込まれたのか、露店の周りには少しづつプレイヤーが集まり談笑を微笑ましく見ていたり、NPCの返答の数多さと機転の良さに驚きの声を上げたりしていた。

 そこには彼女がいる前の淀んだ空気のホルンカは無く、多くのプレイヤーが手近な人と会話を始め、先に<はじまりの町>を脱出したβテストプレイヤー、そしてようやく辿り着いた新米プレイヤーも関係なく和気藹藹とした雰囲気が牧歌的な雰囲気を加速させていた。

 輪の中心で未だに買い物を続けている茶髪の少女――ナオさんを眺めながら露店のロゲンブロートに似たライ麦パンにチーズを載せたものを齧る。

 香ばしいライ麦の香りと甘みすら感じさせる濃厚な香りを口いっぱいに広げるチーズがなんとも相性がよく、舌を躍らせる。

 

 「私の妹は凄いよね! さすがナオちゃん!」

 

 ドヤッ!と胸を張り既に村のマスコットと化しているナオを自慢するミーシャ。 その手には紙袋があり、中からはポーションが見えていた。

 割と大きなベンチに腰掛けてくる。 当然このベンチには自分しか座っていない以上、ミーシャの隣に座ることになる。 彼女がベンチの真ん中に座ったので端っこに移動する。

端っこに移動すると距離を詰めてきたので移動しようとすると、すでにベンチの端でありしぶしぶ立つ。

 

 「なんで逃げるのよ!」

 

 なんでもなにも、近づいたら逃げるでしょ。 他人ならなおさら。 と言いたくなるのを堪え、メインメニューを開きチャットウインドウを開き、会話対象<Misha>を選択。

チャット欄にアナログチックに文字を打ち込んで送信。

 

 【普通女の子が近付いてきたら逃げると思いますけど】

 「逃げないよっ! どれだけ苦手なの!?」

 

 目の前にいるのに自分がこうしてめんどくさい行為をしているのは一重に自分の声を聞かれたくないという自分勝手な理由だった。

このことを伝えるのに――納得してもらえるのに一時間程度かかった苦労を思い出す。

 

 なんでもホルンカの村に入ってすぐ、自分は倒れたらしい。 その後、二人して引きづりながら手近な宿に入り、宿泊料金は一人分しか無かったため、取りあえず自分の分だけ払いわざわざ寝かしてくれたのだとか。

ご苦労なことだけど、【<圏内>である村なら別にどこでもいいから放置していて貰って良かったのに】と伝えたら烈火のごとく怒られた。

 冒頭の光景は起きてすぐであり、ミーシャの下着謝罪は思い出すのも嫌なので割愛。

 

 騒がしい一幕が終われば何故自分が人を避けるのか、顔ぐらい見せろ、せめて何か答えて等、矢継ぎ早に質問されたので全部無視して部屋から出ていこうとしたら、ミーシャとナオが終いには泣き出すという洒落にならない事態になり、胃をキリキリと痛んだので、根負けといった風にメインメニューを開いてチャットで二人と会話したのである。

 

 

 ちなみに二人との初めての会話となる一文は【あああああああああ】である。

 呆然としている二人の隙をついて部屋から逃げようとしたら殴られた。

 

 ポップな機械音と共に目の前にウインドウが表示される。

 

 【<Misha>さんからフレンド申請です。 承認しますか?】

 

 迷わず(×)を押す。

 

 ティロン!という効果音と共に再び表示される同じウインドウ。

 

 これも(×)を押す。

 

 このようなことが先ほどから30回以上あり、顔を合わせれば<フレンド申請>である。

 当然全ての戦いで勝利していた。

 

 未だに怖がらずに自分の近くにいるということは、少なくともフードを捲って顔を覗き込んだことはしなかったのだろう。

 

 運ぶ時、寝ている時でも疑問の一つを解決するチャンスであったのに律儀な二人だと素直に感心していた。

 

 「うぅう……はぁ。 これ、あげるよ!」

 

 唸り声と恨みがましい視線の後、反転して笑顔で言った。

 

 【<Misha>さんから贈り物です受け取りますか?】

 

 ニア(×)。

 

 「えぇ!? ただのポーションだよ!」

 

 連打して読まずに押してしまう。 

 おそらく森での一件のポーションを買ってきてくれたのだろう――素直に表示された(○)ボタンを押した。

 

 「っ!?」

 【<Misha>さんとフレンドになりました】

 「やったあぁ!! ようやく登録できたー!」

 

 この日一番の大声でミーシャは叫び直立した。

 騙された――そう気づいた時には時すでに遅く4人目のフレンド登録を知らせる効果音と表示が存在を誇示していた。

 だから、速攻でメインメニューのフレンド登録欄に表示された名前を選択。

 

 【<Misha>さんとのフレンドを解消しますか?】

 (○)ボタンを力強く押した。

 

 「どうしてぇぇぇー!?」

 

 本日二番目に大きな声で彼女は叫んだ。

 

 

 

 「おーい」

 

 腹ごなしとクエスト受注をすませ、<ホルンカ>の入り口に向かっていると既に今日何度も聞いた声に呼び止められる。

 

 「おーいってば!」

 

 徐々に強くなっていく語気を気にせず無視していく――ことはできなかった。

 目の前に立ちはだかる二人を見ながら溜息をつく。

 「また二人に絡まれた」――まるでエンカウント率の高いモンスターでも追い払うようにシッシッ!と手を振り宿屋にゴーホームさせると、さすがに我慢の限界だったのか怒りだした。

 

 「話ぐらい聞いてよ!」

 

 もはや慣れてしまったチャットメニューを開き、タイプしていく。

 

 【嫌ですよ。 どうせまた付いてくるつもりでしょう? 自分はこれから金策のためにクエストをこなしにいくんです】

 「て、手伝ってあげるよ!」

 【冗談抜きに次は死にますよ? 足手まといなのでやめてください】

 『足手まとい』その言葉に何も言えなくなったのか顔を俯かせる。

 

 ソードスキルの一つでも満足に使えない人間がここから先にいけば死にますよ――そう、口に出そうとしてやめる。 そんなことを軽々しく言えば何処までも前向きな姉妹だ。

 『ソードスキルが出来ればついていってもいいよね』なんて事を言うだろう。

 短い期間ではあるけど二人が底抜けに前向きなことは少し理解していたため、口を噤む。

 第一彼女たちは何か理由があって<ホルンカ>を目指していたのならそちらを優先させるべきだ。 少なくとも命を危険にさらしてまで勝手についてきたのだ、大層な理由がある筈なのだ。

 

 それ以上は何も言わずに前に立ちはだかる二人の脇を通り抜け、西部の森へ向かった。

 

 

 

 <アニール・ブレード>――序盤の片手直剣として優秀な性能で多くのプレイヤーを助けてきた剣だ。 その優秀な片手直剣をなぜ、槍使いである自分が取得しようとこのクエストを受けたのか、3匹目の<リトル・ネペント>を消し飛ばしながら改めて考える。

 端的に結論を言えばクエストはついでである。

 

 レベル上げついでにせっかくだから一緒にクエストもクリアしようという一石二鳥な考えである。

 <ホルンカ>の西に位置するこの森はモンスター、特に苦汁を飲まされた<リトル・ネペント>が多く生息している。 それも、結構な数がだ。

 当然それだけ多くの敵をいるということはβテスターを含め、多くのプレイヤーにとって枯渇することが稀な優秀な狩場ということになる。 万全の状態であれば苦戦することなく<リトル・ネペント>は狩ることができ、さらに経験値もそこそこ良い。

 レベル3のモンスターであるため、集団に囲まれれば危ない場面があるかもしれない。

 だが、集団に囲まれない自信が自分にはあった。

 

 βテストのときと地形が変わっていないことに安堵しながら目的の袋小路に向かう。

 

 袋小路――とはいっても実は少し違う。

 俯瞰視点で覗けば確かにそうであるのかもしれないが、主観視点で見てみると背の高い藪に隠れて小さな抜け道が意外と多くある。 その中の一つを藪をかき分けながら確認し<ホルンカ>へ行ける抜け道であること確認し、来た道を戻って袋小路にまた入る。

 

 袋小路に再び湧いていた<リトル・ネペント>を危なげなく倒し、入り口から左の藪に飛び込むとそこにはもう一つ道があった。

 この袋小路には高さ約4m程の高台のようにもみえる台形の岩が鎮座している。 それもご丁寧に登れそうな木まで用意してくれている。 ただ、その木が見づらかったり登るのを躊躇わせる大きさなのだけど

 槍をインベントリに収納し、しっかりと弦の張られた太い幹に足をかけて登っていく。

 岩に飛び移れそうな程度の高さまで登り、太い枝を伝い直下に岩が見えるまで移動する。

 

 大体ここだなとアタリをつけて飛んだ――もとい落ちた。

 

 スタッ!と漫画のようには降りれなくれず、ドサッ!と尻から着地しインベントリから槍を出現させる。

 

 出現させたのはしているのは<アイアン・ランス>よりもさらに長い、所謂<サリッサ>と呼ばれる槍だ。 約4.5メートルの槍は本来密集して運用をすることが前提として作られている――代表的なのは古代マケドニアのファランクスが有名だろう。

 集団で使用をする事を前提に開発された武器――それは他者とのリソースの奪い合いであるネットゲームにおいてクソ武器以外の何物でもない。 なにより自分を含め協調性とは正反対の人間がプレイしているのだ。

 自分以外でこんなに使い辛い槍を使用している人間は見たこと無いし、これからも見ることはないだろう。

 

 なにしろモンスターに僅かな行動遅延を起こさせる長柄武器の特徴である、味方の攻撃の邪魔をせずに支援するという長所を圧倒的なリーチという長所で打ち消しているのだ。

 

 一般的なプレイヤーからすればこの槍を使用している人間は<地雷>であり、使用者がパーティにいたらフレンドに呼ばれてログアウトしても仕方のない事なのである。

 大体のプレイヤーは武器屋の外に立てかけられている幾つものこの槍を見て『製作者の自己満足武器』という烙印を押していたのだが、自分だけは違った。

 

 夢にまで見たファランクスを再現できる武器が<ホルンカ>で売っていたからだ。

 

 これは即購入といった感じで少ないコルをつぎ込み、街で悦に浸っていたところ思いついた。

 『この武器が売っているということはこのリーチの長さを最大限に使用できる場所がある筈だ』と。

 そこからは3層が解放されても上の階にはいかず、長い間、地形の把握と研究に努めた。

 そして見つけたのがこの大きな岩である。

 

 だが、ここでは通常のファランクスのような使用はできない。 ならどうすればいいのか――寝そべって下にいる<リトル・ネペント>に向けて槍で突けばいい。

 横から見た感じは『―⁰↘o <クギャアア』といった感じである。

そして自分の最高に安全なレベル上げが開始された。

 

 下でうねうねと動いている<リトル・ネペント>を槍で突くお仕事を開始してから4時間。 永遠と槍を突いている所為か、自分が機械になったのではないかという錯覚が頭のどこかで生まれ、消えていく。

 敵が袋小路から消えれば<咆哮>で呼び寄せ、<リトル・ペネント>が実付きであれば迷い無く実を割る。 普通の人間であれば飽きてくる作業でも、慣れというのは恐ろしい物で別に何も感じなくなっていた。

 

 さらに言えばこの岩の上は敵が来れない安全地帯である。 いくら下で腐食液を吐こうとも彼らの二倍の高さの岩の上には届かない。  そのため少しうるさいのを我慢すれば寝ることも可能である。

 うじゃうじゃと群れているネペントを地道に狩り続け、7度目のレベルアップを知らせるファンファーレが鳴り響くと作業を中断しメインメニューを開く。

 

 敏捷値の不足で痛い目を見たため、レベル5からは3ポイントの内1ポイントは敏捷値に振り分ける様にしていた。 流石に敏捷値に振り分けると身体が軽くなった気分がしてくる。

 

 あくまで気分であるため走らなければ違いは解らないのだけど。

 

 新しいスキルを習得することも可能となったため、ここは後々のために――逃げ続けるために<隠密>を取得する。

ふと、自分が会うことを拒絶した友人を思い出す。

 彼女が今何をやっているか等、気にならない訳ではなかったがあえて気にしない様にしていた。 少なくともフレンド欄の三名の名前は灰色に染まってはいない――それが自分と彼らの唯一の繋がりである。 三人が無事であるというだけで充分だった。

 

 装備フィギュアを出して、装備された<ショート・サリッサ>に眼をやると耐久力は既に限界であった。

 よくここまで頑張ってくれたものだと感謝しながら最後まで使ってやろうと思う。

 予備のサリッサはあるのだから。

 長い夜は始まったばかりなのだから。

 

 夜が白みを帯び、気温が低くなっている森の中で『<ショート・サリッサ>ということは他にも<ロング・サリッサ>やさらに長い物があった<パイク>等も上層にはあるのだろうか?』と、くだらない疑問を考えながら槍を振るっていた。

 

 一時間の仮眠を終えて、寝ぼけ眼で作業に戻ると索敵にプレイヤーの反応があると眼が覚める。

 

 既に2本目のサリッサも耐久地半ばまで減らしたところで8時間ぶりのプレイヤーの陰に眼を凝らしながら槍を突き入れることはやめない。

 

 見た目的には最奥にあたるこの袋小路にくるプレイヤーは相当な物好きか実力者ということになる。

 剣士――だろうか。 流石に距離が離れているため顔や装備ははっきりとは確認できないが黒いシルエットに浮かぶ長剣が彼ないし彼女が剣士であることを示していた。

 

 おそらくあちらもソロ――SAO開始からまだ3日しか経過していないことを考えれば当然ではあるけれども素直に凄いと思い、作業を中止し一度岩の上に立つ。

 遠くの剣士に向かって会釈するとあちらも見えていたのか、会釈を返した。

 

 「……っ!?」

 

 流石に見えているとは思っていなかったので驚いた。

 隠密スキルを上げてかつ<ハイディング・フード>を装備していた自分が見えるとは考えていなかったのである。

 闇に紛れる様にその場から離れていった剣士が相当高い<索敵>スキルを持っていることは確実だった。

 

 

 二本目のサリッサが砕け散るときにはすでに夜は完全に明け、耳には鈴の音のような鳥の声が聞こえていた。

 さすがに疲労感が頭を揺らし、8レベルに上がった時には空腹が唸りを上げていた。

 切り上げるにはいい時間だと思いネペントが袋小路から出ていった隙に<アイアン・ランス>を装備して飛び降りる。

 

 最初に確認していた獣道を10分ほど歩き、<ホルンカ>へ入り、全身の筋肉の硬直を解すように背伸びをした。

 

 これだけのレベルがあれば、第一層でモンスターに後れをとることはないだろう。

 だが、これでもまだ足りない――この第一層での<槍使い>必須クエストにはまだ一抹の不安が残っていた。

 疲れた体を引きづるようにクエストアイテム、<ネペントの胚珠>を待ちわびている親子の家に向かった。

 

 

 家のドアを開け、そこにいるであろうやつれた顔の母親に話そうとすると先客がいた。

 昨日で随分見慣れてしまった少女が二人、家のテーブルに突っ伏していた。

 姉の方は静かな寝息を立てて、妹の方は漫画でありがちな寝言を言いながら、家人の迷惑も考えずに爆睡している姿は女の子としては不味かったが、冒険者としては非常に様になっていた。

 それもそのはず、姉の方がクエスト報酬の<アニール・ブレード>を大事そうに抱いていたからである。 微笑ましい姿に気が抜けてしまい溜息をつく。

 そして、姉の緑色のアイコンを触り、フレンド申請を送った。

 これで彼女が表示が消える前に起きれば、彼女の勝ち。

 

 NPCに話しかけ、胚珠を渡すとぎこちない手つきで煮立つ鍋から、何とも苦そうな液体を木製のカップに入れると大事そうに持ち、奥の部屋へ歩いていく。

 それをどこかぼんやりとした意識で見ながら、ゆっくりと意識は白く溶けていった。

 

 フレンド申請が許可されたこと表示に気づく事も無く。

 




今回はすぐに書けてしまった。

<Shogun>の過去と容姿は少しづつですが明らかにしていきます。
いろいろとご不満はあるかと思いますが、感想、ご指摘お待ちしています。



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