ソードアート・オンライン 仮面の将軍   作:七十円玉

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口調がいまいち、其れっぽくないので後々変えるかも。



第八話 ようこそ<エディロート> ――教会の地下墓地に大抵モンスターがいるという風潮

 <浮遊城アインクラッド>第一層、東部の小高い山の上に作られた町<エディロート>の霧がかったように灰色の建物群を視界に入れ、街道をゆっくりと登りながら考える。

 

 あの灰色の町のどこかにこの手紙を渡す人がいる。

 

 思わず手の中の手紙を強く握りしめてしまい、すぐ離す。 慌てて、手紙に視線を移すと、クエストアイテムであるためか、紙であることを示す皺も付かず、耐久力も減らなかった。 そのことが、どうにも物悲しく感じてしまう。 所詮データ――仮初の現実である。

 NPCが行えるのは設定されたアルゴリズムに従った行動のみ。 外見は人間と変わらないというのにそこにあるのは膨大なデータで構築された、心と呼べないプログラム。 彼らに許されたのは思考でも知性でもなく、機械的な人間の模倣なのだ。

 

 四日間のフルダイブにより、βテスト以上に身近に感じられるNPCが、入り口に入った途端にこやかに到着を歓迎し、<エディロート>への旅の疲れを労った。

 表情はにこやかに、他のNPCと同じく人間とは程遠い冷たい感情が感じられた。 そこに昨日感じたような温かみは感じられなかった。

 

 では、昨日守れなかった二人のNPCは温かみがあったのか。

 

 答えは否。 二人のNPCも感情も温かみも無いのだ。

 

 自分の知人と重ね、名前のない自分の何かと重ねて、ありもしない温かみを感じているだけなのだ。

 既にこの世界にはいない<Jack>の母親に手紙を渡す途中、とりとめのない事が頭を渦巻いていた。

 

 心を無駄に沈ませる無意味な思考を振り払うように頭を振り、NPCの説明も弦楽器による美しいBGMも耳に入れずに大通りを歩いて行った。

 

 

 今日は生憎の曇り空――とはいっても空には天井が見えるため、視界の彼方に浮かぶ灰色の外界でそう判断しただけだが、それはフードの下の陰鬱とした表情に更に陰りを与えていた。

 <エディロート>の大通りを歩きながら、武器屋の看板を見つけ重厚な扉を開くと、金槌に金床を打ちつける音が響き、リズムを奏でていた。

 扉に備え付けられた歪な形のベルが、来客の到来を知らせ一心不乱に金床に向かう筋骨隆々の鍛冶師は訝しげな目で自分を見る。

 一定のリズムを刻んでいた職人の音楽は途切れることなく、身体も顔も金床に向けたままで口を開く。

 

 「欲しい物は?」

 

 一言奏でる音に負けないような低く重い声で問いかける。 これがプレイヤーの営む鍛冶屋であれば愛嬌の無さに踵を返して店を出るのだろうけど、古めかしい堅物な鍛冶屋というのはファンタジーのお約束の様なものだ。

 それに自分の命を預ける以上、半端な仕事をするような風体の鍛冶師に武器を渡したくはなかった――そんな事を考える人間はβテストから大勢いて、意外と繁盛しているのだ。

 だが、今日は誰一人店にはいない。 黙々と金槌を振るう男がいるだけだ。

 

 壁に立てかけられ、磨き上げられた穂先を輝かせる2m程の長さの槍、二本を掴み差し出す。

 表示された名前は<スチール・スピア>。 なんとも普通な名前だが、市販品である為仕方ない。 それに後から心揺さぶる名前の槍なんて幾らでも出てくるのだ。

 さらに鋼鉄で作られた頑丈なラウンド・シールドを購入する。 その表面にはいつの時代の何所の誰だか解らない家の紋章が書かれていた。

 メインメニューを開き、チャット欄に言葉を打ちこんでいく。

 

 【ラウンドシールドの紋章を消して、材質の色をそのまま出してください】

 「いいのか?」

 【はい。 構いません】

 

 一言二言の短いやり取りをして、さっそく寡黙な鍛冶師は作業に取り掛かる。 作業とはいってもゲームである以上、二三度表面を削るような動きをして、すぐに青い光と共に盾が完成するので作業になんの感動もないのだけど。

 差し出された盾の名前は<アイアン・ポプロン>。 古代ギリシャのポプリタイが主に使用していた盾である。 

 

 鈍く輝く鉄色の盾と槍を受け取り、お金を渡して店を出る。

 次は一ブロック先にある防具屋を目指さなければいけない。

 

 

 2時間後、昼を知らせる鐘の音が小さな<エディロート>に響き渡った。

 防具屋、道具屋で買い物を済まし、インベントリを圧迫していたアイテムを売り払い、残ったコルで昼食を済ます。

 

 裏通りのテラス席のみの小さな食堂で、運ばれてきた料理を見て目を丸くした。

 トカゲの姿焼に濃厚な赤いソースがかけられていたからだ。

 現代人としては食べ物の見た目は食事をするうえで重要な要素である。 この町にあまり詳しくない為、適当に入った食堂で出てきた食べ物がこれでは、食べるのを躊躇してしまう。 行儀が悪いとは思いながらもなかなかに香ばしい香りを放つトカゲの腹をフォークで突くと感触はブヨブヨしていた。

 ファンタジー世界においてゲテモノ食いは普通ではあるが、どうせなら見た目に配慮して欲しかった。

 ステーキ状になっているブヨブヨした肉にソースが一際多くかかっているところを選んで口に運ぶ。

 

 「…………悪くは……ない」

 

 少々驚きながら、見た目に反して味は悪くないので頭と足以外を一緒に運ばれてきた白パンに挟み、頬張りつく。 すると白パンの間から肉汁と濃厚なソースがあふれ出て口の中いっぱいに広がる。 現実世界のジャンクフードよりもよっぽど美味しい。

 そう思いながら、赤い豆のスープを啜るとトマトに限りなく近い何かの味と、やわらかい肉の絶妙なハーモニーが冷えた身体を温めて、しばしの休息を取らせた。

 

「……これを食べたら教会に向かおうか」

 

 誰に言う訳でもない呟きは、温かなスープの湯気に消えていった。

 

 

 

「では、旅人さん。 申し訳ありませんが頼みましたよ」

 

 修道服に身を包んだ老年の男性に見送られ、<エディロート>の地下墓地へ続く扉を開ける。 この町の教会の地下には古代から受け継がれてきた墓地がある――そこに住み着いている死霊を退治してきてほしいとの事だった。

 討伐クエストらしい神父の困った表情が印象的なこのクエスト。 成功報酬は教会に捧げられている短槍である。 教会からの贈り物の為、この武器には微弱ながらも対アンデット効果があるので北部の遺跡群に向かうには必須の装備である。

 

 今にも崩れそうな螺旋階段を松明で照らしながら下りていくと<索敵>スキルに反応があった。

 目を凝らすように気配の感じるところに視線を送ると緑のカーソルが見える。 片手直剣を携えたプレイヤーであった。

 

 一番最初に<エディロート>に到着したものだと思っていたため、正直驚いた。

 

 <索敵>スキルを全開にすると更にもう一人の反応。 パーティなのかと思ったが距離が離れすぎている。 おそらくはソロプレイヤー。 この墓地のモンスターは強くはないが相当な数を誇るため、囲まれれば死亡の可能性もあるこの場所で、ソロで戦っている見知らぬ誰かは相当な実力者なのだろう。

 彼らの狩場のテリトリーに近づかない様に奥へ進むと、二人の剣戟の音とモンスターを倒した破砕音がこの閉鎖空間に響いていた。

 

 「ギャシャシャ!」

 

 喉も舌も無い、声を発する筈が無い存在の声を聞きながら状況を整理していた。

 剣も弓も装備していない死者を相手にしてから約20分。 <フレイル・スケルトン>はケタケタと骨を鳴らし、威嚇していた。  その数は4匹であり、自分の周りを囲むように足を動かす。

 目の前の一人、ぼろぼろになった腰布を付けた<フレイル・スケルトン>が突進してきたので、足の関節を壊すように横から叩く。 

 ガクッ!と膝から下の骨が吹き飛び墓地の壁に当たり乾いた音を鳴らす。 足が吹き飛ぶと同時に左から同じように突進してきたので盾で身体ごとパリィすると、体勢を崩し、転倒の行動遅延が発生する。 とどめを刺す間もなく、後ろから手を振りかぶり襲い来る2匹のスケルトンに振り向きながら<ヘリカル・トワイス>を発動。 二匹纏めて肋骨の位置から両断され青い光を散らした。

 最初に足を吹き飛ばしたスケルトンに行動不能が終了する前に喉を貫くように止めをさす。 体勢を崩した行動遅延のスケルトンにも同じように止めを刺すと、後ろからパチパチと乾いた音が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

飛び跳ねる様に後ろを向いて槍を構える。

するとそこには緑色のアイコンと共に茶色く日焼けした肌の大柄な男が屹立していた。

 

「すまない。 驚かせてしまったな」

 

 力強くも聞き取りやすい張りのある声を耳に入れながら一歩下がる。

 槍を下げ、目の前の青年を訝しげに見てしまう。 この墓地は町の下にはあるが当然<圏内>では無い。 そしてこのゲームがPK可能なゲームである以上プレイヤーですらも警戒の対象となるのだ。 

 自分の気を許さない雰囲気を悟ったのか、黒の長髪と引き締まった肉体が特徴的な青年は名前を名乗った。

 

 「俺はユーリック。 ……この時期にここにいるから解るとは思うが、アンタと同じβテストプレイヤーだ。」

 

 その言葉に反射的に槍を握りしめる力を強める。 βテスターである以上は一つの狩場で得られる経験値の量というのは一定であることを知っている筈だ。 それゆえに一つの狩場で経験値を多く稼ぐためには自分以外のプレイヤーを排除しなければならない。

 それが、対話によるものか実力によるものかは別として。

 

 目の前の片手用直剣を腰に携えた剣士をフードの下から睨みながら、続く言葉を待つと出てきたのは意外な言葉だった。

 

 「……そんなに警戒しなくても大丈夫だ。 俺の言い方が悪かったな、すまない。 別にアンタに何かするわけじゃないから安心してくれ。 実はその実力を見込んで頼みごとをしに来た」

 

 目の前で話しかけられて沈黙……という訳にもいかないのでメインメニューを開いて相手のアイコンを選択。 チャットを打ちこんでいく。

 

 【頼みごとですか?】

 「……また珍しい機能を使っているな。 あぁ、頼み事だ。 この墓地に出現する<スケルトン・エルダー>を一緒に倒してほしいんだ。」

 【<スケルトン・エルダー>? 初めて聞きましたけど】

 「俺のクエストMobだ。 おそらく正式サービスから登場したMobだろうな。 名前からしてもスケルトンの親玉のようなやつだろうから安全策としてアンタに協力を頼みたいんだが……いいか?」

 【報酬はありますか?】

 「ああ。 見たところアンタは槍使い。 <銀の短槍>狙いだな。 それがここに一本ある。 そして協力してくれたらアンタの クエストに協力する――それでどうだ?」

 

 

 そう言うと彼は目の前に<銀の短槍>を出現させた。

 別に悪い話でもない。 彼自身この墓地で100匹以上のスケルトンを狩らなければ<銀の短槍>は手に入らない。 <スケルトン・エルダー>とやらを倒せば獲得している報酬をくれると言っているのだ。 

 さらに自分のクエストの手伝いまでしてくれるのだ――二本も短槍があれば北部遺跡でも困らないだろう。

 それに、もし騙されていたとしてもその罠を抜ける自信があった。

 

 【解りました。】

 「助かる。 この報酬は必ず渡すと約束しよう」

 

 そうして送られてきたパーティ申請を、躊躇いながらも許可した。

 

 

 

 

 後に“ビーター”、“黒の剣士”と恐れられアインクラッドでも有名となる少年――キリトは疑問に感じていた。

 

 <ホルンカ>に到着するプレイヤーの数が多すぎる、と。 

 

 それ自体は本来悪いことではない。 むしろこのゲームが普通のゲームであれば、喜ばしいことだろう。 だが、今のこのゲームはデスゲームであり、大多数の人間が救助を待つか<はじまりの街>で攻略の準備をしているだろう。

 そして一部の少数が既にゲームの攻略のために、もしくは生き残るために強くなろうと先へ進んでいる筈だ。

 俺自身、<はじまりの街>で利己的に自分を守る手段としてクラインと別れ、全力疾走でこの<ホルンカ>に一番乗りしたのだ。 その後、<アニール・ソード>獲得クエでコペルと会い、永遠の別れとなった時はコペルがホルンカに辿り着いた二番目のプレイヤーだと思っていた。

 そして、同時に考えていた。 現時点で<はじまりの街>から脱出したプレイヤーはどのくらい存在するのか、と。 最初に<ホルンカ>に辿り着いた時、明らかにプレイヤーは俺以外にいなかった。 <ネペントの胚珠>を親子に届けたときも<ホルンカ>にいたのは5人かそこらだった。 それがどうして宿屋で昼まで睡眠をとったら広場に人が大勢いるのだろうか。

 広場にいるほとんどの人間の頭上には緑色のアイコンが光っており、生きたプレイヤーであることを示していた。

 この様子であれば、今日の夜には宿屋に人が泊まれないほどのプレイヤーが来るかもしれない。 

 

 (……今日の夜、またネペントを狩りに行って、明日、次の町へ出発しよう)

 

 獲得してすぐの<アニール・ブレード>鍛冶屋に持っていく途中、広場が歓声でどっと沸いた。 悲しいかなゲーマー根性が染みついているため、何かイベントが発生したのではないかと思ってしまい、踵を返して向かってしまう。

 

 騒ぎの中心には一人の女の子がNPC相手に漫才を繰り広げていた。 驚いた……偏見――という訳でもないのだが、このSAOでの男女比率はひどく偏ったものである為、女の子がプレイしているという事も、最前線と言って構わない<ホルンカ>で陽気に笑っていることも俺に衝撃を与えた。

 そして、その周りで見ている多くのプレイヤーが陽気に笑っているのだ

 もしも、コペルが昨日死ななかったら――クラインやその仲間たちと<ホルンカ>に来ていたら、こうして笑っていただろうか。

 そのことが、どうにも気になって頭から離れず、宿屋へと足を進ませた。

 

 深夜、思いのほか西の森でレベリングをしているプレイヤーが多く、比較的安全な入り口近くは既にパーティ、ソロ問わず多くのプレイヤーが獲物を奪い合っていた。

 ただ、そこにはMMORPGの宿命ともいえるmobの取り合いによるギスギス感が無かった。 かわりにあるのは緊張感。 目に見えて解るほどに慎重に戦い、まだ拙いながらも多くのプレイヤーが連携をしていた。

 

 その中に自分も、とは思わない。 

森の奥に消える様に進める足を止めることは無かった。

 

 

 昨日散々切り倒したネペントを再び切り裂く。 腐食液を吐けば予備動作を見極め避け、ソードスキルを放つと青い欠片が飛び散る。 コルも経験値の表示も一瞥することなく、手近なネペントに切りかかり、戦闘を再開する。

 そんな戦闘を続けながら、森の奥へ進んでいくと突然「パンッ!」と聞こえた。

 

「……誰かが実を割ったのかっ!」

 

 不意に昨日のコペルを思い出してしまい周囲を見渡す。 だが、そこにはプレイヤーの姿も俺の方に向かってくるペネントもいない。 だが、<索敵>スキルだけは暗闇の中、蠢くように行進しているペネントの存在を教えていた。

触手を絶え間なく動かし、一心不乱にまだ見ぬ目標に向かってネペントには思わず生理的な嫌悪が浮かぶ。

 そして、その生理的に嫌悪する存在に身体を散らすプレイヤーの姿――コペルのようになってしまうのではないかという映像も同時に浮かんでいた。

 気づいた時には駆けだしていた。 流れていくペネントの背を追うように敏捷値の限りの速度で。

 

 ペネントが止まった。 そう気づいた時には視線の先で青いガラスが砕け散るのが垣間見える。 加勢しに行こうと一歩を踏み出した時、違和感が頭を過ぎる。

 戦っているプレイヤーのアイコンの高さがおかしい――最初に気づいたのは<索敵>によってプレイヤーアイコンが視認できた時だった。 

本来プレイヤーの頭部約20cm上に浮かぶアイコンはどんなに身長の高い人間でも2m50cm程度だ。 だが、暗闇に浮かぶそれは明らかに4m近い高さに浮かんでいる。

 

「……まさか、バグかな?」

 

 そんな疑問が口から出てすぐに霧散する。 βテストを通してSAOでは殆どバグは起っていない、起ったとしてもそれは発見されてから早くても1時間以内、遅くても半日以内には修正される。 こんな初歩的で単純なバグが今更起きないと結論を出し、一歩進むと気づく。

袋小路となっている広場に巨大な岩が鎮座していることに。

そして、その上にプレイヤーアイコンが見えることに。

 

「……へ?」

 

 思わず変な声が出てしまう。 岩がプレイヤーと認識されているのか? という疑問が浮かばなかった訳でもないが、当然バグ修正の前例で打ち消される。

 そして最終的な結論としては岩の上に人が乗っている――その結論に達した時、岩の上でアイコンと共に闇が動いた。

 

 「……でかっ!?」

 

 初めに出た感想は岩の上で屹立した人の大きさだった。 遠目から大体2mくらいの身長のプレイヤーが4m程の岩の上で立っていると相当に威圧感がある。左手には槍だろうか、細い影が揺れていた。 

 思わず怯んでいると岩の上の巨人はこちらに気づいているのか、岩の上で丁寧にも会釈してきた。 

 当然日本人の習慣的につい自然に会釈を返してしまう俺。

 

 「…………世の中にはいろんな人がいるんだな」

 

 やや、頭がパンクしそうになる頭を抑えつけながら踵を返してしまうのだった。

 

 

 そして、<ホルンカ>を出て<エディロート>に辿り着いた時、結局あれはバグだったのか? 見間違えだったのか? という疑問が浮かび上がってしまった。

 




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