中立者達の日常 作:パンプキン
だが何ヶ月も共に旅をしてりゃ、それなりに彼奴の性格やらも分かってくる。
彼奴は誰よりも強く、誰よりも孤高で、誰よりも孤独で、誰よりも臆病だ。
一体どんな環境で育ってきたのか、俺には全く見当もつかねぇな。
一つ言えるのは、確実に「誰よりも舞台を大暴れ」してくれる。こんな面白い奴は二人もいねぇ。
だからこそ、俺は彼奴を誘う事にした。俺の仲間になってくれる事も願って。
『悪いけど、それを受け入れる訳にはいかないわね』
…まぁ、受け入れる訳が無いってのは分かりきってたが。
彼奴は、何処までも頑固な奴だからな。
Dr.スタイリッシュを粉砕した数日後の、帝都の郊外。
そこに広がる自然とは全く懐かない、物騒な銃声が響き渡る。
「22」
両手に持つカスール&リドリーの全弾を発射し終え、再装填。生き残った一匹が殴りかかるが、逆に回し蹴りで迎撃。拳を破壊して怯んだ所を、再装填を終えたリドリーの50口径対危険種銃弾で頭部を破壊。
「23」
頭部を撃ち抜かれた最後の一匹が倒れると同時に、カスールの再装填も完了し、この戦闘は終結する。
「…これで周囲の掃討は完了ね」
今回、ジャッカルが
一つ。最近までは密林や鉱山に出現する程度だった新型危険種だが、先日村へ侵入。住民数名が犠牲となった。
一つ。依頼目標の新型危険種の特徴は、姿形が人間に近く、群れで行動。個々の身体能力も高い。
一つ。新型危険種の殲滅の為、既に帝国軍部隊及びイェーガーズが出動している。接触した場合は協働し、確実に駆逐せよ。帝国軍部隊及びイェーガーズへの協働の通達は此方で行う。
ジャッカルはこれを受け、森林地域にて新型危険種の駆逐を行なっている。既に23体の討伐を完了し、各装備の残弾を確認。
ハルコンネンの残弾は3発、カスールの残弾はマガジン4つの28発、リドリーの残弾はマガジン4つの27発、全残弾58発。
かなりの頭数の危険種を相手に取る為、弾薬は多めに持ってきているとはいえ、既に28発を消費している。どうやら相当数の数が未だに残っているらしく、そう考えるとややこの弾数では心許ない。
さて、どうする。
ある程度狩った後に弾薬補充に一度戻るのも選択肢には入るが、個人的ではあるがそれは不愉快だ。しかし弾薬が切れれば、それはそれで少々都合が悪い。
「…」
気配。
右手9m先の木に向けて、ハルコンネンを照準。
「5秒以内に姿を現しなさい。これは一度のみの警告よ」
安全装置を解除、引き金に指を掛ける。彼女の警告が無視されれば、一瞬後にそれは肉塊の一つとなるだろう。
故に、身を隠していたその者はあっさりとその姿を現した。ジャッカルと同じく、フードを被った男が一人。
「やれやれ…相変わらず獣、いや、それ以上の嗅覚を持ってやがるな」
「…成る程、あんただったのね。シュラ」
「ああ、俺だ。 …だからよ、その物騒なモンを下ろしてくれねぇか?こっちはヒヤヒヤしてしょうがねぇ」
「敵か、味方か。はっきりと言いなさい。それで変わるわ」
「俺の思ってる事が当たっているなら、その何方でもない。これで満足か?」
「…OK。理解したわ」
これが、帝国に於ける二人の「悪友」の邂逅となる。
◇
シュラと名乗った男とジャッカルは、横並びに森林を歩いていく。第三者からその素顔を見られないよう、二人共外套に身を包んだまま。
「まさか此処に腰を据えてたとはな。
「私がどうしようと、それは私の自由よ。それと、私のテリトリー外ではジャッカルと呼んで頂戴。本名で呼ばれると始末が面倒だわ」
「ヘイヘイ。しかし、ここらにいる危険種は一体何なんだ?野生にしちゃ器用な事をしやがって…」
「それを解き放った貴方が言う台詞?」
「…さて、なんのこった」
「帝国に作り上げた私の情報網で、貴方とDr.スタイリッシュに一定の関係があるのは掴んでる。そしてDr.スタイリッシュの死と貴方の帰国は、多分だけど偶然同時期。そしてもし、貴方がDr.スタイリッシュの実験場に入れるとしたら…刹那主義の貴方が、面白そうな玩具を使わない筈が無いわよ?」
「…相っ変わらず、そういう所は鋭いよなぁお前は。で、お前はどうするつもりだ?」
「別に何も。私が受けた依頼は「新型危険種の殲滅」。それを放った者に対しては契約外よ」
「そいつは良かった。 …じゃ本題に行こうか」
そう言ってシュラはジャッカルの前に回り込んで振り返り、彼女の前に立つ。彼女もまた、シュラの前に立ち止まった。
「単刀直入に聞くが、お前、この国を
目を細めながらそう紡がれた言葉。ジャッカルはそれに対し、シュラから見える表面上は何のリアクションも見せない。
「先に言っておくがだんまりはやめてくれよ。ある程度はお前の性格から考えりゃ分かってるが、ハッキリ言わねぇと俺も困るんだよ」
「…今は特にどうこうするつもりは無いわよ。かといって、此処も限界は目に見えてるけどね。圧力で無理やり蓋をしても、いつかは器そのものが崩壊する。今がその数歩手前」
「…」
「そうなるのなら、私もすべき事をするだけよ」
「お前一人でどうにかなるもんか?今までお前が潰してきた国とは、
「たかが帝具なんていう道具と、それを扱う一個人に依存するだけの違いよ。
「…あの時と変わってねぇか。全く、お前以上の
「多少定義は違うけれど、
「ハッ、あの時と全く変わりゃしてねぇって訳か…それなら数年程度で良い。俺に時間をくれよ」
突然の願いにジャッカルはその意図を理解出来ず、僅かに目を細める。
「…刹那主義とは思えない発言ね。何をするつもり?」
「細かい所はこれから考えるが、少なくともお前に不利益な事にはさせねぇよ」
「…まぁ、好きにしなさい。貴方が何をしようが貴方の勝手だし、その過程で私と敵対するなら、貴方を撃滅するだけよ」
話は終わりと言わんばかりに、ジャッカルはシュラの横を通り過ぎて森の深くへと歩き出す。
「あぁ、あともう一個聞きたいんだが。『インテリオル』、この言葉に聞き覚えはあるか?」
『どうする、このまま放っておいたら何をするか分からんぞ』
『そうなる前に首輪を付けるべきよ』
「…」
『どうやってだ? …いや、そういう事か。確かにそれなら、私達にも信頼を寄せてくれるかも知れないな』
『ええ。明日からやってみるわ』
「少し記憶を探ってみたけど、聞き覚えは無いわね」
「…そうか。妙な事を聞いたな」
今度こそ話は終わり、シュラもジャッカルとは反対側に歩き出す。
これが後にどのような影響を及ぼすのかは、まだ知られることでは無い。
ソレをもう一度聞くなんてね…どれだけ腐っても私の生まれ故郷、か…反吐が出る。
私が彼と出会ったのは、単なる偶然。偶然目的地が重なっただけの、旅仲間に過ぎなかった。
だけど何ヶ月も共に旅をしていれば、それなりに彼の事も分かってくる。
そして、私は堪らなく歓喜した。彼は『私』と同じという事実を、私は理解出来た。その事実が、堪らなく嬉しかった。
例え『私』がいなかったとしても、人類は終わっていないという
『俺と一緒に、俺の故郷へと来ねぇか?お前と俺なら、あの場所で退屈する事は絶対にないからよ』
だからこそ、私は彼と共に行くのは出来なかった。
私には、私が始めた事が未だに残っていたのだから。