中立者達の日常   作:パンプキン

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剥がれる仮面

ナイトレイドはアカメとチェルシーの帰還、イェーガーズはランの帰還により、その日の夜に何が起こっていたのかを双方は把握した。

イェーガーズはナイトレイドの存在が確認出来た事により、より警戒を強め、ナイトレイドは重傷を負ったチェルシーの戦線離脱、及び多数の情報員、偵察員が羅刹四鬼に殺された事により、動きが鈍る。

 

こうして何も状況が動かない膠着状態が生まれ、2週間が経過する事となった。

 

 

 

 

 

 

「はーぁ…なんでアタシがこんな手の込んだ変装をしなきゃならないのよ」

「深刻な密偵不足なんだ、俺達で情報収集しないと情報が不足するだろ。それとも地下でトンネル掘ってる姐さん(レオーネ)スーさん(スサノオ)と代わるか?」

「だったらこっち(偵察)選ぶわ」

 

ナイトレイドのマイン、タツミは即席の偵察員としてキュロクの情報収集を終え、キュロク外れの遺跡群にて変装を解き、帰還準備を行なっている。

タツミはフードとサングラスを外し、マインは服の上に来ていた外套を外し、メイクを落としてボサボサにしていた髪の毛をいつも通りの髪型に整える。割と簡単な変装と言えばそうであるが、第一印象を変えるだけでも、他人は案外認識出来ないというものだ。

 

「…まだ顔がヨゴれてる気がするわね…ちゃんとメイク落ちてる?」

 

此処で、マインはメイクが落ちきったかどうかを確認する為に立ち、向き合って座っていたタツミに顔を近付ける。その為にタツミは必然的にマインの顔に注意が集中する。

 

「ん、あ……ああ。し、しっかりと落ちて」

 

 

 

────ズガァン!!

 

 

 

刹那、一発の銃声が響いた。

 

その数秒後、動きを止めていたタツミの身体が動き出し、右手を左胸に押し当ててその視線を下げた。

故に彼は己の右手から、正確には左胸から大量に流れ出る血液を、血液で汚れていく己の服と身体を見ることになった。そして口からも血が流れ出始める。

 

「マ………イ……ン?」

 

それが、タツミの発した最期の言葉となった。

身体の力が抜け、ゆっくりと前傾姿勢へと移行。それは止まる事なく、その身を地に横たえた。その数秒後、身体から流出していた血液が周囲の地面を汚し始める。

 

「おやすみなさい。そこで良い夢を見続けてるといいわ、永遠にね」

 

そして、マインは左手に握られていたリボルバーの銃口をタツミの頭部に合わせ、もう一度引き金を引く。再度銃声が響き、タツミの頭部に新しい穴が一つ開く。そして銃口から吹き出る硝煙を振って払った。

 

S&W M500。それがリボルバーに名付けられた名称であり、それを開発した本人の愛銃の一つである。拳銃としては恐らく世界最強の実弾を取り扱う回転式拳銃であり、その強力さ故に信頼性が重視され、通常6発の装弾数は5発となっている。しかしその装弾数減少をしても尚有り余る火力を保持しており、距離4mから2cmの木板を複数用いたテストに於いて、1発で木材17枚を貫通するという結果を得ている。これは他の実弾拳銃の約2倍に相当する結果であり、如何にこの拳銃が強力であるかという資料の一つとなっている。当然、その威力に相当する反動は大きく、常人が其れを扱うのは困難である。が、困難であれば彼女はこれを愛銃としてはいない。

 

カチャリとシリンダーがスイングアウトし、発射した2発の薬莢を廃棄。新たな弾薬を装填し、スイングイン。M500を仕込み場所にしまい、一瞬タツミの死体を見るが、すぐに興味を失う。そしてタツミが座っていた横に置いてあった、帝具 パンプキンを格納してあるアタッシュケースを手に取り、開封してパンプキンを組み立てる。数分掛けて全ての調整が完了し、その場を離れようと一歩踏み出す。

 

その時、先に使用したM500とは異なる火薬の匂いを感じ取る。即座に警戒レベルを最大に引き上げた彼女は、戦闘態勢を取って振り返り。

 

 

 

────ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

 

 

眼前に、目を覆わんばかりの砲撃が飛来してきた。

 

「!!」

 

即座に迎撃を捨て、回避行動。全速力で右後方へと退避。退避行動を開始して3秒後、砲撃が着弾し始める。無論退避を続けるマインの周辺にも着弾し、爆風、破片、石片、崩れ落ちる岩、爆ぜた土。それらがたった一人に向け、あらゆる方向で連続的に襲いかかる。

 

(滅茶苦茶に、撃ってくるわね…!!)

 

不意に砲撃が止み、砲撃によって生まれた土煙から脱出。

幸い、直撃弾は無し。五体満足で済んだ為にそのまま全速力で退避を続ける。しかし砲撃が止んでいたのは僅かな時間のみ。すぐに砲撃が再開された。

迫り来る砲弾と多数のミサイル。速度を落とさず、回避運動とパンプキンによる迎撃を行う。しかし如何せん数が多い。直撃しそうな攻撃のみを迎撃しているが、回避行動を主にしている。絶えず周囲に着弾する砲撃によって、マインの服や身体に傷と汚れが付着していく。

そして逃走方向に岩壁が立ち塞がり、袋の鼠と化す。が、マインは此処で速度を落とさず、全力で跳躍。十何メートルもの高さまで飛び上がり、岩壁を更に蹴り上げて壁を垂直に登る。そして登り切った所で身体を前転し、僅かに前進。岩の頂上へと着地する。

 

(…OK、撃ってこなくなった。射程外ね)

 

すぐさまアタッシュケースを開き、スカウター型スコープを取り出して装着。周囲を探る。

 

(…居た、けど…アレを仕留めるのは厳しいか。速い上に距離もあり過ぎる。羅刹四鬼のラス1を此処で仕留められない上に、増援を呼ばれるのは確実)

(で、あの無茶苦茶な砲撃を撃ち込んできた奴は…セリュー・ユビキタスか。他に敵は……居ない)

(さて、敵の戦力も把握した所で…どうしましょうかね。セオリー通りに考えるなら、増援が呼ばれる以上素直に逃げるのが正解なんだけど…)

(………借りを返せないまま二度も無様に逃げるのも癪ね。決めた、此処で殺る)

 

考えをまとめ、パンプキンの安全装置を解除。下方に見える敵に視線を向ける。

其処には、見たことも無いような重装備を身体に装着したイェーガーズ、セリュー・ユビキタスと魔獣変化 ヘカトンケイルがいた。

不意に、ヘカケントイルが巨大化。何を思ったのか、主人であるセリューの上半身に噛み付く。その光景に思わず驚くマインだが、それ以上の驚愕を数秒後に行うこととなる。

 

セリューの上半身に噛み付いたように見えたヘカケントイルだったが、すぐに吐き出し始めた。しかしそれはセリューの上半身だけに留まらず、超巨大な物体をも吐き出した。

 

「…何アレ、アレも武器の一つっていうの?」

 

その名を、「十王の裁き」の一つ、変成弾道弾。

Dr.スタイリッシュがセリュー専用武器として開発した兵器であり、一部にはオーバーテクノロジーをも混ざりこんでいる。変成弾道弾もその一つであるが、変成弾道弾に関しては本来の使用意図から考えて、間違っても一個人に向ける武器のそれではない。

しかしセリューはそんな事も構わず飛び上がり、マインに向けて発射。ロケットブースター4基による膨大な推進力で以って、その兵器はマインに向けて突進して行く。

 

「デカイ的でしかないわね」

 

マインはパンプキンによる迎撃を実行。彼女の精神エネルギーによって生まれたエネルギー弾は、変成弾道弾の中枢まで貫通、破壊するに至るには十分過ぎる威力を誇った。

結果、変成弾道弾は空中爆発。巨大な爆発によって双方の姿が搔き消える。

すると、マインの立つ岩壁にウインチが突き刺さり、爆煙を突き破ってセリューと、犬型になってセリューの左肩にしがみ付いているヘカケントイルが突撃してくる。

再度迎撃を開始。単発で発射されたエネルギー弾はセリューに向けて飛来して行くが、着弾前にヘカケントイルが突出。刹那で巨大化し、文字通りのセリュー(主人)を護る肉壁となり、パンプキンの弾丸を防いだ。

 

「チッ…」

 

迎撃の失敗を悟り、すぐに後退。距離を取った直後、ウインチで突撃していたセリューが飛び上がり、岩壁の頂点に着地。被弾のダメージで犬型に戻ったヘカケントイルもセリューより少し離れた場所に落ちる。

 

「直接断罪しにやってきたぞ、ナイトレイド!」

「久しぶりね、セリュー・ユビキタス」

 

壮絶な笑顔を浮かべるセリューに対し、マインには表情らしい表情は無い。

 

「お前も仲間のように捕食してやる。お前も所詮コロ(ヘカケントイル)のおやつにしかならない、あの眼鏡の女でもそうだった。お前もそうなれ」

「そうなる気は無いし…何でアンタが勝つ前提で話を進めてるのかしらね?気に食わないし、ムカつくし、何より「あんな奴と仲間だなんて思われてる」事に滅茶苦茶イラつくわね」

「…?」

「今から死ぬアンタには特別に教えてあげるけど、私は革命軍なんてのになった事なんて唯の一度も無いわよ?あんた達(帝国軍)あの連中(革命軍)に付いていく気は一片たりともありゃしないわ。私が付き従うのは、あの人だけ。「正義」やら「悪」やら、「権力」やら「プライド」やら、そんな下らない話を延々とやってる奴等なんて知ったこっちゃ無いっての」

 

面倒くさそうに吐き捨てるマインの表情は、徐々に鋭くなっていく。

 

「で、なんだけど。アンタは私を殺したがってるし、私もアンタに両腕折られた借りを返せてない。そんでもってアンタは絶対にあの人の邪魔になる」

 

 

「だからまぁ、簡潔に言って此処で死ね。私の全力でアンタを潰す」

 

 

そう言って、マインはパンプキンの銃口をセリューに向けた。


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