中立者達の日常   作:パンプキン

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彼女は金を愛し、義姉を誰よりも愛している。


弱者(暗殺者)から強者(傭兵)

「…ふん、話は終わりか?」

 

銃口を向けられているにも関わらず、セリューは余裕のある表情で返す。その背後に、自己修復を終えて再度巨大化したヘカケントイルが起き上がる。

 

「コロ、5番。そして腕!」

 

ヘカケントイルはセリューの右腕のアンカー部分を口に含み、腕がさらに巨大化。ヘカケントイルがセリューの右腕を解放した時、アンカーであったそれは閻魔槍(ドリル)へと換装されている。

 

「悪は愚かだな、コロ(ヘカケントイル)に修復の時間を与えるなんて…行くぞコロ!!」

「…フン」

 

その咆哮を合図とし、セリューとヘカケントイルはマインへ突撃を開始。同時にマインはパンプキンによる弾幕を展開。全弾をセリューの盾となっているヘカケントイルの胸部へ集中し、打撃。その火力にヘカケントイルの突撃は止まり、苦しい悲鳴を上げ、地面を抉りながら後退して行く。

そうなれば当然、修復能力など持たないセリューの突撃も止まり、射程的優位に立つマインの独壇場に入る。

 

「なんだ、この威力…!?」

「愚か、ね…これは「ハンデ」よ。コイツ(パンプキン)の本来の性能の6割も引き出せないとはいえ、本気のアタシの力を舐めんじゃないわよ」

 

その僅かな会話の間にも、パンプキンの弾幕はヘカケントイルの左胸部に収束。肉体を抉り、急速に蓄積されて行くダメージに左肘と左手が地面に突く。

 

「堪えろ、コロ!!こんな射撃、長い間出来る筈…っ!?」

 

その瞬間、セリューは一つの事実を思い出す。ヘカケントイルの力の源であり弱点でもある「核」の位置。

「左胸部の中心部」。つまりは人間に於ける心臓の部分だ。そして、マインは正確に左胸部を集中砲火している。

つまり、それは。

 

(まさか、バレている!?)

 

思わず、マインがいる前方を見やる。ヘカケントイルが体勢を崩しているせいで僅かに見えるその顔は、余裕の表情のソレ。焦りも何も無く、確かに確信を得ているソレであった。

セリューの顔に、焦燥が浮かんだその瞬間、遂にヘカケントイルの分厚い肉体に隠された核が体外への露出を開始。即座にマインは反応し、照準を核に向けた。

 

狂化(奥の手)ァ!!」

 

一切の躊躇無く放たれたセリューの叫び。ヘカケントイルの聴覚は正確に主人(セリュー)の叫びを認識し、実行する。

核より過剰なエネルギーが放出され、限界以上の全能力を解放。それまでのダメージが高速で修復され、過剰エネルギーによって一部皮膚が変形。より戦いに適し、より攻撃に適し、より防御に適し、より主人を守護する為に適した兵器と化す。

大きく見開かれた両目が、マインを捉えた。

 

(チッ…)

 

パンプキンによる弾幕射撃を中止。耳栓で両耳を塞ぎ、狂化直後に放たれるであろう咆哮に備える。

直後。

 

 

 

 

「ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

 

耳を耳栓で塞ぎ、更に両手で覆っても尚鼓膜を突き破れそうだと錯覚しそうな程の大咆哮。かつて、帝都で戦った際にはこの大咆哮をマトモに受けて隙が生まれ、結果的にマインは両腕を折られ、標的(シェーレ)が死亡する失態を犯した。

だが、二度目は最早通用しない。対策を充分に取ったマインに隙は生まれなかった。

 

大咆哮が止まぬ間に、大咆哮によって音を搔き消しながらセリューが再突撃。大咆哮を続けるヘカケントイルを踏み台とし、上から閻魔槍で串刺しにせんとする。が、直ぐにマインはパンプキンを構え、照準。引き金を引いた瞬間。

 

────(閻魔槍射出)!!」

 

セリューは閻魔槍に仕込まれた射出機能を起動。仕込まれた僅かな発射火薬を点火し、右腕から高速で射出された閻魔槍は、パンプキンによる弾を受けながらも真っ直ぐマインへと向かって行く。

 

「ッ!」

 

思わず驚愕の表情を浮かべたマインは、右にダイヴ。着地体勢を一切考慮せずに行ったお陰で、閻魔槍は地面に突き刺さる。が、これだけでは終わらない。

突き刺さった直後、射出機能発動と同時に安全装置が外れた信管が作動。発射火薬とは別に、内部に仕込まれた爆薬に点火。大爆発を起こした。その威力と爆風によってアタッシュケースとパンプキンを手放してしまったマインは大きく吹き飛び、崖下へと転落して行く。

 

「くぅっ…!」

(マズ、よりによって一番の火力(パンプキン)も吹き飛んだ…!けど取り敢えずは!!)

 

空中で体勢を立て直し、着地に備える。数秒後、尋常ではない両脚の負荷と共に接地。地面を削りながら急減速し、止まる。

その着地衝撃によって両脚が痺れ、僅かな間行動不能に陥った。

 

(ユキビタスの方が厄介ね…対策を取りやすいヘカケントイルと違って、新しい武装くっ付けられたら初見で避けなきゃならない。後幾つのビックリ兵器があるのやら)

(…両脚が着地の衝撃で痺れて動けない、その上パンプキンも後方5、60m先。今来られると…)

 

 

────ガシャン!

 

 

「まぁ来ない訳が無いわよね!」

 

マインが上を見上げると、右腕をアンカーへと換装し、腰に外した義手を付けて崖を勢い良く滑り降るセリューを捉える。

すぐさまマインは唯一手元に残っているS&W M500を構え、セリューは口内に仕込まれた銃器を展開。

発砲は、同時。

 

 

ズガガァン!!
ドドォン!!

 

 

異なる二種類の銃声。交差する四発の銃弾。

マインの銃弾はセリューの左腹部に着弾し、大量の血が吹き出る。そしてセリューの銃弾はマインの腹部に命中。服を貫通し、相応の衝撃がマインの身体を貫く。

 

「グッ…!!」

「まだ、だァ!!」

 

しかしそのダメージでは双方を倒すには至らず。セリューは滑り降りる前にアンカーを切り離し、代わりに義手を再接続。負傷に構わず、着地と同時にマインへと突撃。マインは突撃するセリューを見て再度の発砲は間に合わないと判断。S&W M500を後方に投げ捨て、その勢いで拳を握りしめ、振りかぶる。

 

「撲殺刑だっ!!」

「うっさい死ね!!」

 

ノーガードの殴り合い。先手は大きく振りかぶったマインの右拳がセリューの頭部に炸裂。しかし反撃に、鼻血を吐き出しながらもセリューのアッパーがマインの腹部に着弾。防御など一切考えない、無謀な殴り合い。全ての攻撃が命中するダメージレース。

 

「ッラァ!!」

「ガハッ!?」

 

競り勝ったのは、マイン。たった数秒ながらも、大きなダメージを双方に与えた攻防は、マインが放った右ストレートで終了した。セリューの胸部へと命中し、その威力によってセリューは大きく吹き飛ばされる。

 

(感触的に、確実に胸骨は逝った…今頃肺に胸骨は突き刺さって苦しんでる筈)

「ッ…」

(こっちも、内臓が少しやられた?けどこの程度なら問題無いか。とっととトドメ刺した方が速い)

 

袖で口から流れた血を拭い、太腿に仕込んだ小型ホルスターから、細長い筒を取り出す。横に取り付けられたレバーを抑えるピンを抜き、代わりに右手でレバーを抑える。吹き飛ばしたセリューを見やった。

 

「キュアアアアアアアアアア!!」

 

完全修復を終え、狂化されたヘカケントイルが崖から飛び降り、マインに向かって拳を振り下ろす。

直前で気付いたマインは痺れが取れきれてない両脚を無理やり動かして回避。そして筒をヘカケントイルの口に向けて全力投擲。見事にそれは口内に入り、喉の先へと入り込んで行った。

しかしたかが筒。そんな事も気にせずにヘカケントイルは行動を継続。左手を伸ばし、満足に動けぬマインを捕らえる。

 

「…」

「キュアアアアアア!!」

 

ヘカケントイルは勝利の咆哮を上げ、マインを握り潰そうと力を込めた瞬間。ヘカケントイルは体内から異常な熱を感じ取る。

いや、違う。「体内が焼かれている」。

 

「ギュ……ガ……ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?」

 

ヘカケントイルは堪らずマインを手放し、胸部を掻きむしって苦しみ、もがき始める。その口からは白い煙が立ち上り始めた。

 

「コ…ロ…?」

 

肺と腹部を貫く苦しみに耐えながらも立ち上がり、その様子を見ていたセリューが、思わず名を呼んだ。しかしヘカケントイルはそれも構わずのたうち回り、遂には胸部に穴が空き、そこから炎が立ち上る。

 

「如何かしら、体内から身体が焼かれる痛みは?秘密兵器の「焼夷手榴弾」、存分に味わいなさい」

 

焼夷手榴弾とはマインが設計図を書き上げ、ジャッカルを経由してDr.スタイリッシュが開発した兵器である。通常対人用として扱う手榴弾(爆弾)とは異なり、これはあくまでも「対物用」。白リンと呼ばれる素材を燃焼する事によって生まれる膨大な熱量は、鉄でさえも溶かしきる威力となる。マインはこれを証拠隠滅用として一個だけ隠し持っていた。

しかし今、それは生物型帝具(ヘカケントイル)に牙を剥き、体内にて1000〜2000度もの大高熱で以て体内部を焼き、細胞を溶かし、全身に広がって行く。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアア、ア……ア………………」

 

そして遂に、その業火はヘカケントイルの核をも溶かし、二度と動かぬ骸へと変えた。

 

「……さ、ま、貴様ァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

その最期を見たセリューはその怒りに身を任せ、両腕の義手を外して体内に仕込まれていた銃器を展開。

刹那、マインの姿が消える。そして次の瞬間にはセリューの眼前に立ち、両腕から飛び出た銃器を掴んで上に振り上げ、握り潰す。そして膝蹴りをセリューの腹部に打ち込み、流れるように回し蹴りを背部に打ち込んで背骨を粉砕、身体を捻って地面に叩きつけた。

 

「あんたの負けよ、セリュー・ユキビタス」

 

それが、戦いの終わりだった。

 

「ゲホッ、ゲホ…ふ、はは、ハハハハハハッ!」

 

しかしセリューは絶望する訳でもなく、嗤った。

 

「「正義」に負けは無い!何がなんでも、「悪」は滅する!!」

 

「正義」の狂信者は、敗北を認めない。故に、彼女は禁断の一手を躊躇無く打った。

 

「五道転輪炉…!」

 

ガチリと、セリューの脳内から鈍い音が響いた。しかしその音は小さく、マインには届かない。疑問の表情で、しかし警戒の体勢でセリューを注視する。

 

「…?」

「…後30秒。ククク」

「…自爆」

 

セリューの意図を察して、マインの表情が歪む。それを見たセリューは、狂笑の表情を浮かべた。

 

「そうだ。これ(五道転輪炉)ドクター(スタイリッシュ)から授けて貰った対悪最終兵器。頭にコレがある限り、私に負けは無い!」

 

己の命と引き換えに、確実に目の前の(マイン)を滅する事が出来る確信があるが故に、セリューの自信は揺るがない。得意げに放たれたその言葉は、マインに絶望を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタの頭の中にあるのね、わざわざ教えてくれてありがと」

「…え?」

 

事は無く、逆にマインの発言と行動によってセリューの表情が凍りつく。

セリューの言葉を聞いたマインは、逃げるどころか逆にセリューに近付き、蹴り上げてセリューを仰向けにしたかと思うと、そのまま馬乗りになって右腕の服の袖を捲り始めた。

 

「何を、何をしようとしてるんだ…?」

「爆弾の解体作業だけど?」

 

セリューの疑問に呆気なく答えたマインは、袖を捲り終えた右腕を振り上げ、手刀を作って狙いを定める。

狙うは、セリューの頭部。

 

「ヒッ…や、やめ」

 

振り下ろす。

絶妙な力加減で放たれたその一撃は、瞬時にセリューの頭蓋骨を粉砕。鈍い音と共に、マインの右手がセリューの脳を破壊しながら頭部内に入り込んだ。

 

「さて、何処にあるかしら?」

 

右手を動かす度に、セリューの身体はビクビクと陸に打ち上げられた魚の様に暴れ、口からは言葉にならない声が漏れ出る。

そしてお目当ての探し物(五道転輪炉)が見つかり、しっかりと右手に持って引き抜いた。その瞬間、一際大きくセリューの身体が震え、二度と動かなくなった。

脳梁と血に塗れた右手に握られた五道転輪炉の形は球状。中心に細長いディスプレイ画面があり、その画面にはカウントダウンが映し出されている。

残り時間、20秒。

 

「さて…」

 

此処からは全くの未知数、彼女の直感の赴くままに進められる。

まず、初手はディスプレイ画面の粉砕。左端だけを割ったディスプレイ画面を取り除き、内部の配線を露出させる。

配線の数は6本。内1本はディスプレイ画面に繋がっている。

此処でディスプレイ画面のカウントダウンを再確認。残り14秒。

 

「こういうのはね…一気にブチ抜けば良いのよ!!」

 

そして露出させた、ディスプレイ画面に繋がっていた配線を除いた5本の配線を鷲掴み、躊躇無しに思いっ切り引き抜いた。

ブチブチと引き抜いた後、直ぐにディスプレイ画面を三度見る。

カウントダウンは、映っていなかった。

そのまま数秒待ち、爆弾が起爆しない事で爆弾の解体成功を確信した。

 

「ふー…」

 

大きく息を吐き、緊張状態を解く。セリューの服を破って、汚れた右手を拭き取りつつ立ち上がり、武器とアタッシュケースの回収に歩き出した。

 

(やっぱり近接戦闘なんてするもんじゃないわね。私の腕前程度じゃ、ユキビタス程度でさえ無傷で立ち回れない。反省と改良の余地あり、か。にしても…)

「備えあれば憂いなし…ねぇ」

 

セリューの銃弾を受けた部分に手を触れ、感触を探る。すると、着弾した箇所には明らかに硬い感触が服を通して伝わってきた。服と素肌の間にあるソレは、衝撃こそ貫通したが、銃弾そのものはしっかりと受け止めていた。

 

「ホント、防弾繊維様々よ…滅茶苦茶痛かったけど、銃弾が入るよりは万倍もマシか」

 

こうしてマインとセリューのリベンジマッチは、マインの勝利で幕を閉じた。

 

「…そういえばタツミの死体と帝具、原型残ってるのかしら?こんな事したんだし、死体吹き飛んでて帝具だけが残ってれば嬉しいんだけど……」




故に己と姉の前に立ち塞がる者には、一片の慈悲も容赦も無い。

────────────────────────────
マインとセリューが戦った場所より、2km離れた地点。
其処に、羅刹四鬼最期の1人であるメグは居た。

「…………ぁ…………ぁ……」

瀕死の状態、だが。
身体は岩壁にめり込み、全身には激しい打撲痕が刻み込まれ、内臓の一部は破裂し、手足の骨は折れ、目は虚ろ。最早死の運命からは避けられないのは、誰の目から見ても明らかだ。
しかし、皇拳寺の修行によって鍛え上げられてしまった身体は、容易に死ぬ事を許されない。

「苦しいだろう?」

メグの虚ろな視界の中心には、1人の人間が立っている。しかしそれが誰であるのか、最早酸欠となった脳は数秒前の記憶でさえも認識出来ず、声色の特徴でさえも捉えられない。姿形も虚ろな視界では捉えることは出来ず、唯々惚けた表情と思考で見る事しか出来ない。

「痛いだろう、解放されたいだろう、死にたくないだろう、生きていたいだろう?それが、お前が残酷に殺してきた人達の苦しみだ。憎しみだ、呪いだ」
「お前がその自己満足の為に一体何人の人を殺してきたかどうかは、匂いで大体分かる。あの時から忘れられない、大っ嫌いなクソみてぇな匂い。彼奴程の匂いはお前からは匂わねぇが、それでもお前をそうさせる程には十分過ぎる」
「お前みたいなどうしようもねぇ、救いようがない連中が今を生きる人達を殺していく、未来を生きる為に頑張ってる人達から奪っていく。…なぁ、どうすればお前みたいなゴミ屑共に対して「気の毒」と思える?テメェが今までしてきたであろう事、テメェに殺された人達をの事を考えると、これくらいが妥当…いや、寧ろまだまだ足りねぇな。こんな程度じゃ」
「もし死後の世界があるってんなら、お前は確実に「弱者」に成り下がるだろうよ。其処でお前は…いや、お前みたいなゴミ屑共には殺されてきた人々の断罪が振り下ろされる。その苦しみで以て、漸く人々はゴミ屑共を赦す事を考え始めるだろうな」
「…フン、まだ生きてやがるのか。ホンット、手前らはゴキブリみてぇな生命力だよな。しぶとく生きようとして反吐が出る。めんどくせぇからトドメを刺してやるよ。続きは死後の世界で、存分に味わいな」

「それじゃあな、ゴミ屑。手前らに来世なんて甘っちょろいものがありませんように」


────ゴキリ。

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