中立者達の日常   作:パンプキン

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23日21時頃、2度目のタイトル名及びあらすじを変更しました。



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ジャッカルにも、かつて家族や友人と呼べる者達は存在した。


事実は小説よりも奇なり

「よぉ、マイン」

「良かった、完治したか」

「…何やってるの?」

「鍛錬の手伝いをな。いつまでもやってるし」

 

両腕の骨折が完治し、鈍った身体を戻す為に訓練所に着いた私の視界に入ってきたのは、背中に大飯食らいと獣を乗せて腕立て伏せをしているド変態とタツミ。 …この距離からでも汗臭さが伝わってくるんだけど、よく大飯食らいと獣は平気で居られるね。いや、最初から居るのなら慣れてるか。

 

「…インクルシオは凄え勢いで体力が削れる。兄貴(ブラート)のように使いこなすようにするにも身体を作らない、と…!! 今のままじゃ、透明化も一瞬しか使えない」

 

…ふーん、中々良い顔してるわね。少し前までは全然青かったのに、今じゃ一端の目をしてる。 …もしかしたら予想より早くインクルシオを使いこなされるかも知れない、か。

 

「…にしても、ラバの汗まみれは珍しいわね」

「男の子が二人だけになっちまったからな。流石に頑張らなくちゃと思ったわけよ」

「そう言っても、腕立て回数はタツミの半分以下だからな」

「それは仕方ない」

 

 

「私とレオーネでは、体重に大きな差がある」

 

 

…………こ、の大飯食らいは…………女のタブーを簡単をいとも簡単に踏み抜くわね。 あー、獣に思いっきり頭ブン殴られてる。 …って、自分で殴られた原因分かってないの…?

 

「揃ってるな」

 

…夢想家?

 

 

 

 

 

 

「革命軍本部まで遠出?」

「ああ、三獣士から奪取した帝具を届けるんだ」

 

…これは姉さんに報告ね。帝具使いの存在はかなり厄介だし。運ばれる帝具は二挺大斧 ベルヴァーク、軍楽夢想 スクリーム、水龍憑依 ブラックマリン。どれも癖が強いけど、スクリームの戦闘価値は間違いなく戦略級。直接の攻撃能力はほぼ無いけど、敵の士気を削ぐことも出来れば、味方の士気を高揚させる事も出来る。少数対少数の「戦術」ならスクリームは有効的じゃないけど、多数対多数が基本の「戦略」なら、スクリームは間違いなく最強クラスの帝具。つまり「革命軍」と「帝国」のパワーバランスに「直接」関わり得る、他の帝具には無い特徴を持ってる。

可能ならスクリームだけでも破壊したかったんだけど…もう無理ね。今度の機会に回しましょう。

 

「本部へ行く目的は、メンバーの補充も兼ねている。即戦力で此方に回せる人材となると、期待は薄いがな」

 

………折角二人死んでくれたのに、また増えるかも知れないの?まぁどっちにしろ、最大戦力だったホモには劣るだろうけど…ここ(ナイトレイド)の特色を考えると、増えるとしたら十中八九帝具使いよねぇ…

あ、一瞬だけ胃がキリッて痛みが走り始めた。これで何度目かしらねー、胃がストレス反応起こしてるの。しかもいつもより痛い…

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

(…あの情報は本物だった訳ね)

 

ジャッカルは帝都のとある場所にて腰を下ろしていた。その手には二枚の紙が握られており、そこには依頼主(オネスト)が書き記したある情報が書かれていた。

 

(エスデスは対ナイトレイドの特殊警察「イェーガーズ」を結成。複数の帝具使いによる帝具戦を前提としており、その戦力は私設部隊としては間違いなく最強…ま、詳細まで教えてくれる訳無いわね。で、本題は………イェーガーズとの協力路線?クライアント(依頼主)も無茶言ってくれるわね…幸い方法に関する明記はされてないし、利用出来る所は利用させて貰いましょう)

(そして…)

 

もう一枚の紙に目線を移す。その紙には「エスデス主催 都民武芸試合」と大きく書かれていた。

 

(確か、ナイトレイドから帝具が流れてた筈。となると…これの目的は帝具の適合者が居ないかを見切る場って所かしら。存外のんびりとしてるわね)

 

目線を上げると、それなりの大きさの闘技場とほぼ満員の観客席が映る。闘技場には、斧を持った男と刀を持った侍が武芸試合を繰り広げている。しかしジャッカルはそれに一切目を向けず、その先、ジャッカルから見て反対側にある観客席の最上部を見る。

 

(…こうして直で見るのは初めてか。帝国最強を見るのは)

 

其処には、帝国最強の二つ名を持つ最強の将軍「エスデス」が居た。彼女は一人用のソファーに座り、やや眠たそうな表情をしながら武芸試合を静観している。隣にいる青年の返事も適当にしている辺り、既に現在行われている試合の評価は済ませているようだ。

 

(可能性を考えると、隣の青年と司会者はイェーガーズの構成員。此処の警備はほぼ無いように見えるけど…恐らく観客席の中に紛れてるわね)

『東方、肉屋カルビ!西方、鍛冶屋タツミ!』

「…タツミ?」

 

司会者から思わぬ単語が出て来た事に反応し、闘技場へと目線を移す。そこには筋肉質な大男と、静かに佇む少年がいた。

 

(…顔と名前の両方が一致、間違いなくナイトレイド。如何してこんな所に…いえ、私と同じ(敵情偵察)って所か。となると…)

 

第三者に気付かれない程度に、軽く周囲を数度見渡す。そして、ジャッカルの第六感が一ヶ所を指した。

 

(見つけた。 …レオーネ…と、ラバックだったかしら。 …妙ね、敵情偵察ならばこれに参加する必要は無い。寧ろ参加する事によって手札がバレる事は、暗殺者として避けるべき事。何かそこまでする目的が…?)

 

ナイトレイドの配置に、ジャッカルは傭兵(暗殺者)としての違和感を感じ取る。すぐさまナイトレイドの意図を考えるが、どれもこれもメリットは殆ど無い愚策ばかり。とても実行できるような物では無かった。

 

(…)

『そこまで!!勝者、タツミ!!』

 

観客の大声援が立ち上がる。ジャッカルはそれに合わせ、笑顔(偽り)を浮かべながら幾ばくかの拍手を送る。すると、不自然に声援が留まり、視線が1箇所に集まり始めた。

その視線の先には、闘技場へと降りるエスデスの姿。

 

(…?)

 

エスデスとタツミは2、3程度の会話をし、ふとエスデスは右の胸ポケットを探り始める。褒美を直接渡すのか、と考えたものの、褒美を入れておくに胸ポケットはかなり不自然だ。

そこまで考えていたジャッカルだったが、次の瞬間には強制的に思考を中断される。

 

 

…胸ポケットから取り出した「首輪」を、タツミの首に掛けたからだ。

 

 

「…………は?」

 

全くの想定外な展開に、思わずジャッカルは声を出す。それはこの場を見ている全員に共通している事だった。そんな状態の観客達(第三者)の事を全く気にせず、エスデスはタツミを引きずり始める。同然タツミは抵抗するが、次の瞬間には気絶させられて抵抗を失い、そのまま連れていかれた。

残されたのは、出来事に全くついて行けてない者達。

 

(…一体、どういう事…?まさかアレだけでナイトレイドだと判別した?それこそあり得ない。確かに一般人とは言い難い格闘術を見せたけど、それだけで暗殺者と判別する事は絶対に出来ない。他に何か理由が?勧誘するにしても、強引に連れて行く理由も無いし…そもそもナイトレイドの目的は何だったの?向こう側も、まさかこんな事になるとは絶対に思っていない。逆に言えば、ナイトレイドは目的を達成出来ていない可能性がある…けど、三人共特に不審な動きを見せる事は無かった…)

(………………)

 

ジャッカルはジャッカルで、脳裏でこの一連の推測を整理し、並べ立てていく。しかしその全てが繋がる事は無く、それどころか支柱となる「点」さえ朧げ。

この場では全くこの一連の真相を掴むことは出来ない。そう結論付けたジャッカルは、無言でこの場から去っていった。

 

 

…完全に余談だが、ジャッカルが立てた推測は悉く外れていた。というのも、その推測の前提は「暗殺者」と「兵士」としての推測ばかりで、真実はそこまで深く考えてなかった(単に賞金が欲しかっただけだった)り、全く考え付かなかった事(タツミに一目惚れした衝動)という、何とも阿保らしい真実だっただけである。




しかしジャッカルからすれば、家族や友人の在り方は「異常」だった。
そしてジャッカルの家族や友人からも、◻︎◻︎◻︎◻︎(ジャッカル)の在り方は「狂気そのもの」だった。

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