中立者達の日常   作:パンプキン

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※注意※
本話は前最新話の「凱旋」を削除、今後の展開を大きく変更して再投稿したものです。
脚本や設定を見直した結果、このままではコンセプトを考えると大きな「蛇足」になると判断し、「凱旋」の削除及び再投稿を行う事にしました。
今後も亀ペースでの投稿になりますが、よろしくお願いします。


逆鱗

(…結局、エスデスのあの行動の理由は不明のまま。宮廷内までの情報は流石に浮き上がらない)

 

(あの後、イェーガーズは二度出動。一つは山賊の砦を壊滅、一つはフェイクマウンテンへ。二回目の出動の際に、タツミはイェーガーズからの離脱に成功。その後ナイトレイドに回収され、アジトへと戻る…)

 

(…此処で、(ジャッカル)はどうするべきか。ナイトレイドか、イェーガーズか、それとも一時離脱…)

 

(イェーガーズはどっちにしろ宮廷内を拠点としている上、依頼目標ではない。結論からして優先度は低い。となると、実質的に私が取れるアクションは二択。どっちを選んでも殆ど差異は無いだろうけど…)

 

(………)

 

 

(……………………)

 

 

 

(…………………………………ふむ)

 

 

 

 

(決まりね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満月の夜、月夜に照らされる、ナイトレイドのアジト。

普段は風と虫のさえずりが周囲に響くだけの静寂な空間だが、今日は違った。

 

地を蹴り、駆ける音。一つや二つではない。数十の数が、ナイトレイドのアジトへと駆けて行く。

 

その姿は奇妙な風貌で、仮面を被った人間達。そして明らかに常人離れした身体能力。その者達の後方、その姿を見守る数人の男達。その中心にいたのは、眼鏡を掛けた一人の研究者。

そう。今行われ始めたナイトレイドの急襲の首謀者は、Dr.スタイリッシュ。イェーガーズのメンバーの一人である。

 

「戦闘員がアジト内に突入しました」

「さぁ、ショーの始まりね…ゾクゾクするわ」

 

Dr.スタイリッシュの右手に構える男が、Dr.スタイリッシュの手駒である強化兵達の状況を知らせる。それを受け取った彼は、静かに笑みを浮かべていた。

だが、彼は誤算をしてしまっていた。それは、ある意味ではどうしようも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、早いが此処でナイトレイド…マインの視点に移そう。彼女は今如何してるかと言うと、自室のベッドにて安眠による癒しを身体全体で味わっていた。

そこに、唐突に割り込んできた不協和音(襲撃音)

 

「…」

 

その音を聞いて目が覚めない筈が無く。ムクリと、マインは無表情でゆっくりと身体を起こした。

 

 

まず結論から言おう、彼女は半端なく「ブチギレて」いた。

 

 

原因は大きく分けて三つ。

まず、長い潜入生活による多大なストレス。彼女からして「二流」であるナイトレイドに合わせて生活するだけでも、彼女にとっては猛烈なストレスとなっていた。何よりも(ジャッカル)に滅多に会えない事によるストレスが内7割以上を占めている。潜入自体は姉による頼みだからこそある程度は割り切っている。だがシスコンでもある彼女にとって、姉に会えない事自体が拷問に等しいのだ。

そして、そんなシスコンな彼女にとって赦しがたい事態が発生した。ジャッカルとアカメの戦闘である。戦闘になった経緯の根本は、ジャッカルがアカメに興味を持ったからであって、先にアカメがジャッカルに斬りかかったという訳ではない。だがそんな事は彼女にとってどうでもいい。重要なのは、アカメがジャッカルの命を狙ったという「事実」のみだ。それを知った瞬間、彼女は潜入がどうとか関係なくアカメをブチ殺したい衝動に駆られていた。幸いその境界線から0.01mmで押し留めたが、その時にもう少しストレスが重なっていたら暴走は間違いなかっただろう。

一つ、今回の襲撃。

今まで語った通り、胃薬が幾つあっても足りなさそうなストレスを抱えてる彼女だが、そんなストレスを吹き飛ばす時間があった。お風呂、睡眠、姉との接触である。勿論姉に会えればもうその時点で彼女が溜めに溜め込んだストレスは銀河の彼方まで吹っ飛ぶだろう。しかしそんな事の為にちょくちょく会いに行ける筈もなく。なのでお風呂で十二分に力を抜き、睡眠でリラックスして身体をスッキリさせている。

…が、今回の襲撃でそんな天国の時間は終わりを告げた。しかも自分から切り上げたのではなく、向こう側がら無理矢理と。

この時点で、今までギリギリ耐えていた堪忍袋の尾が切れた。いや、「切れる」のではなく「木っ端微塵」になったというのが正しいかもしれない。

 

 

…ドアを蹴破って来たDr.スタイリッシュの強化兵の攻撃に対して、顔面に強力なカウンターパンチを完璧に決めれたのも、確実にそのせいだろう。

 

 

カウンターを決められた強化兵は場面を巻き戻るかのように吹っ飛び、頭を壁に叩きつけられて絶命。そんな強化兵を一切気にする事なく、彼女は置かれていた大型ケースからアサルトモジュールを付けたパンプキンを取り出し、組み立てた。

 

「…ナイトレイドへようこそ。盛大に歓迎してあげるわ」

 

両手にパンプキンを持ち、ドアが壊れた入り口から廊下へ出る。当然と言うべきか、数十人の強化兵が両側がら接近して来ていた。

それに対して彼女は、一方法へゆっくりとパンプキンを構え、反動に備える。

強化兵が駆ける。

 

「だから死ね」

 

ガチンという音と共に引き金が引かれたその瞬間、マインを中心に破滅的な弾幕が投射される。

 

その投射量は「秒間240発」。例を出すと、最近帝国で試作されている多砲身機関砲(ガトリングガン)投射量(秒間50発)の約5倍に当たる。

 

いくら威力が低いアサルトモジュールであろうと、そんなレベルの弾幕を廊下という閉所で投射されるなど、強化兵からしたら堪ったものではない。更にその反動は両手持ちでも到底制御出来るものである筈でも無く、狙いはメチャクチャ。だからこそ余計に回避が困難となり、強化兵は次々と蜂の巣にされて行く。いや、蜂の巣ならばまだマシだ。中にはあまりにも被弾し過ぎて「肉片」にさえなってしまう者もいる。

僅か数秒で右手を殲滅し、一瞬だけ投射を停止。その一瞬で半歩分身体をズラしてパンプキンを後方に照準。そして再び投射。

秒間240発もの弾幕によってこれまた蜂の巣、もしく肉片にされて行く強化兵。

 

戦闘開始(虐殺開始)から7秒。数十人いた強化兵は、全員蜂の巣(肉片)へとその姿を変えていた。更にアジトの廊下も、秒間240発の弾幕に曝された影響で、広範囲に渡って銃痕が走っている。

 

「…」

 

パンプキンに目を落とすと、異常な投射量の弾幕を放ったモジュール(銃身)から超高温の煙が排出されており、異常な負荷が掛かった事を物語っている。

 

「…少し感情的になり過ぎたわね。これじゃ、アサルトはもう使えないか…」

(にしても、此奴等は一体?帝国所属にしては色々と可笑しい。異民族でもこんな大勢が、今の帝都付近で活動出来る訳が無い。残る可能性としては、帝国の私兵部隊…少なくとも暗殺部隊のそれじゃない)

(…ま、いいか。誰であろうと此処までしてくれたんじゃ、ナイトレイドは黙ってない。殲滅するだけね)

 

 

 

 

 

 

Dr.スタイリッシュと、彼に造り出された強化兵によるナイトレイド急襲。最初こそは虚をついた為に優勢だったが、現状況は加速度的に悪化している。

アジトから約1.5km離れた場所にて、スタイリッシュの改造偵察兵「耳」からの報告をDr.スタイリッシュは受ける。

 

「…カクサンがやられました。歩兵も4割以上やられています」

「あらやだ…誤算ね。こうなったら、仕方な──」

「…!?空から何かが近づいて来ます!!」

「空から…?それはどういう」

 

刹那、空に鈍く響く風切り音。

 

「…あれは、特級危険種のエアマンタ…!?」

「人が乗ってます…元将軍のナジェンダです!!他にも2名程乗ってます!!」

「特級危険種を飼い慣らして乗り物にするなんて…なんてスタイリッシュなの!!」

「いやそんな事言ってる場合じゃありませんよ!?」

 

場違いな発言に偵察改造兵「鼻」がつっこむが、次の瞬間。Dr.スタイリッシュは笑みを浮かべる。

 

「…確かに、ナイトレイドの戦力は更に増えたわね。此方側の戦力は削れてるけど…何ら問題は無いわ、寧ろ好都合。纏めて実験材料にしてあげる。私の切り札でね!!」

 

そう言って、ポケットから取り出したスイッチを押し込む。

 

「耳、状況はどうなってるかしら?」

「少々お待ちを………………新たにトビーがやられ、歩兵はあと1割です。ナイトレイドは空を除いて一箇所に固まりました。 …たった今、トローマもやられました」

「より好都合ね。さっき散布した切り札その1、超強力な麻痺毒にやられるといいわ」

「………………麻痺毒の効果を確認。インクルシオ以外てきめんに聞いています」

「当然ね。特級危険種の毒使い「スコーピオン」の素材をふんだんに使った貴重品、これで効かなかったら困るわ。インクルシオの鎧は、如何やら毒もかなりカットしてるみたいだけど…まぁでも、身体に浸透するのも時間の問題よ」

「…!?エアマンタから一人降りてきます!!」

 

Dr.スタイリッシュは、自身の切り札の一つの効果を受けて余裕たっぷりの表情を浮かべていたが、偵察改造兵「目」の報告にその表情を一変させる事となる。

 

「あの高度から…?それに空からなら、下の状況もある程度解ってる筈。何かある所に態々飛び込むなんて…」

「なっ…!?新しく来た奴が、歩兵達を薙ぎ払っています!!」

「馬鹿な、生物である以上毒が効かない筈が無い!!」

「…未知の帝具かも知れないわ」

(帝具の種類が分からない以上、下手な戦闘は危険過ぎる。とはいえ、今ここで撤退するのも勿体無いわね…)

「…だったら」

 

Dr.スタイリッシュは、新たにもう一つのスイッチをポケットから取り出す。

 

「これ以上研究材料は要らないって事で、こうして」

 

カチリとスイッチを押した瞬間、偵察改造兵以外の全ての改造兵が爆発。その威力はDr.スタイリッシュからはっきりと見える程。

 

「ふふふ…新作爆弾「C4」の人間爆弾verよ。これで一丁あがりね」

「……………あの助っ人…人間型の帝具、帝具人間です!!爆弾の効果ありません、再生されました!!」

「…!?」

「スタイリッシュ様、此処がバレました!!」

 

しかし、その威力であってもナイトレイドの新メンバーを打倒するには足りず、更にはナジェンダの慧眼によって居場所が判明される。この瞬間、状況は「最悪一歩手前」から「明確な最悪」へとシフトした。

 

「ッ…仕方ないわね!!此処は一旦逃げるわよ!!」

(生物型の帝具には毒は効かない…身体の何処かにある核を砕くか使い手を如何にかしない限りは)

 

瞬間、後方からの風圧によって吹き飛ばされる。

 

「…当然だけど、意地でも流す気は無い訳ね…」

 

急いで起き上がるが、既に逃走を図るには遅過ぎた。

視線の先、約20m先に立つ、ナイトレイドメンバーの帝具人間「電光石火 スサノオ」。

 

「っ…ご安心下さいスタイリッシュ様!!」

「我らは、将棋で言えば金と銀!!必ずお守りします!!」

 

そういって構える「目」と「耳」。しかしDr.スタイリッシュの考えは、本人達とは全くの真逆だった。

 

(…いやいや、無理でしょ。偵察用のアンタ等が勝てる相手じゃないわよ。何より相手は人間型帝具。私の得意な搦め手(毒系)が通用しない最悪の相手…ずるいわよそういうの!!)

(…こうなったら、腹をくくって…)

「危険種イッパツ、これしか無いわね!!」

 

覚悟を決め、Dr.スタイリッシュはポケットから一本の注射を取り出し、自身に躊躇無く打ち込む。その変化は、急速に進み始めた。

まず、背中を中心に肥大化。数瞬後には更に加速度的に肥大化しつつ身体を形成していき、足、股間、胴体、腕を形成。首元に当たる部分にDr.スタイリッシュの上半身が存在し、更にその下に巨大な口が形成。

 

「これは、一体」

 

瞬間、巨大な手が「目」と「鼻」を掴み、握り潰した。そしてその成れの果てを、何の躊躇も無く口へ放り込む。そして最後にへたり込んでいた「耳」も食い、それを栄養源としたのだろう。更にDr.スタイリッシュの変異が進む。

より巨大に、より人型に。僅か30秒程度で起こった出来事だが、明らかに状況は変わっている。

 

Dr.スタイリッシュは、全長50mにも及ぶ巨大な人型の人造危険種へと変貌していた。

 

(これが私の切り札(スタイリッシュ)!!私自身が危険種になる事で、お前達を蹂躙する…!!)

「さぁ、貴方達(ナイトレイド)も私の栄養源に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ゾクッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

し、て……………………?」

 

刹那、膨大な殺気がDr.スタイリッシュを貫く。

 

汗が吹き出る。

 

身体が動かない。

 

呼吸が止まる。

 

視点が定まらない。

 

冷静な判断が出来ない。

 

殺気の方向は、明確な程に分かる。左後方1、2km。

 

いや、正確に言えば殺気では無い。怒気があまりにも膨れ上がり過ぎて殺気へと昇華されているだけだ。

 

そして、その人物は。人造危険種(Dr.スタイリッシュ)のみを注視していた。

 

「Warum "magst du" ist "menschliche Figur"?」

 

今となってはナイトレイドも、アジトの存在も、全て「どうでもいい」。そんな些細な事など、彼女からしたら後でどうとでも出来る。

 

「Es ist nur für den Menschen, Formen, Gedankenschaltungen, Intelligenz, Instinkte, Psychologie, alle von ihnen zu haben.」

 

彼女の目の前に、彼女の逆鱗を蹴り上げた汚物が目の前にいる。

 

「Gefährliche Arten, die Menschlichkeit nicht nachzuahmen. Es ist äußerst unangenehm für Sie, minderwertig zu sein, dass Sie eine untergeordnete Art sind. Deshalb bin ich ...」

 

その始末に今は集中しよう。それは彼女を形成する根本の「最優先事項」。それが目の前にあるならば、以外の全ては有象無象へと成り下がる。

 

「Als "menschliche Spezies" und nicht als "Jackal", zerschlage ich dich ohne Gnade.」

 

そして、彼女は絶対の殺気と共に駆け出す。速く、疾く。その接近に、漸くDr.スタイリッシュも防衛本能のままに動き出す。スサノオに背中を向ける形となるが、殺気の存在と比べると天の地の差だ。

 

 

ナイトレイド急襲戦は、想定外の「三つ巴」となる。




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