史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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BATTLE.30 守りたい人

 綾辻が一輝に剣術を習い始めて、数日が経ったある日の事・・・。いつもの鍛練場所にて、剣術を稽古をしていた。綾辻はステラと稽古に励み、真琴は大木に向かって技の修行をしていたのだった。

 

 

 

 

「すぅ―――❰近衛流・浸透水鏡双纒掌❱!」

 

 

 

 

 この技は双纒手と浸透水鏡双掌の合わせ技。この二つの技はそれぞれ違う必殺技である。“双纒手”は敵の防御をこじ開け、足から送り出された力を背中の筋肉で増幅させて放つ双掌打の決め技であり、“浸透水鏡双掌”は内面と内部を同時に破壊する技なのだ。

 真琴はこの二つを合わせる事で、浸透水鏡双掌の勁力をより確実に相手に当てようと修行していたのだった。

 

 

「ふぅ・・・一応技として成立しそうではあるか・・・馬先生に教授してもらえばもっと早くモノに出来そうだが・・・そんな無茶は言えないな」

「凄まじい掌打の衝撃ですね・・・」

「ん?珠雫か・・・剣の稽古は良いのか?」

「ええ、お兄様にお願いしようと思いましたが、綾辻さんの監督に忙しそうでしたし・・・」

「そっか」

「その技は何なんです?威力が高いのはさっきので分かりましたが・・・」

「これか、この技はな、浸透勁の技だ」

「真琴さんが鋼鉄人«メタルマン»戦で使用した?空手の技じゃあ、ないですよね?」

「ああ、この技はな中国拳法の八極拳に伝わる一手で、相手の防御を崩しながら内部に攻撃する寸勁の技の一つ“双纒手”っていう技と、内部と外部を同時に破壊する技、“浸透水鏡双掌”っていうやつを合わせた、俺オリジナルの融合技さ」

「真琴さん、融合技を創り出すとか器用ですね」

「基礎を着実にやって来たからこそ、発展が可能なんだよ」

「へぇー真琴さんって、本当に中国拳法も身に付けてるんですね、空手だけかと思ってました」

「ま、殆どの仕合で空手の技と気当たりしか見せてないし、そう思うのも仕方ねぇけど、俺の基本武術が空手なのさ。この前プールで話したろ?母さんに空手を仕込まれたって」

「そういえば言ってましたね、差し支えなければ名前を教えてくれませんか?」

「いいぜ、母さんの名前は“近衛美琴”旧姓『佐藤美琴』で知られる空手家さ」

 

 珠雫はその名前に聞き覚えがあった。というのも、この『佐藤美琴』と呼ばれる女性は❰空手界で女性が挑める全ての階級を制覇❱した、初めての女性で知られているからだ。

 

「それってあの“佐藤美琴”ですか!?」

「ああ、空手階級を全て制覇した世界チャンピオン、佐藤美琴だ。俺はその人の息子さ」

「・・・成る程、真琴さんの身体能力の高さにも納得です。美琴さんから武術の才能を受け継いだんですね」

「そうだ、母さんから貰ったかけがえない、俺の宝物さ」

 

「真琴さん、本当に両親がお好きなんでですね」

「そりゃそうさ、父さんからは伐刀者と夢を貰って、母さんからは武術の才能を、もう二人には会えないからな・・・これが俺の中にある両親の大切な形見なのさ・・・」

 

 と真琴は答えた。

 珠雫が真琴の表情を見ると、その顔はどこか寂しくもあり、どこか嬉しそうにも見えた。それを見た珠雫は、少しでも真琴の気持ちが和らげばいいと思ったのだった。

 

 

「(この人は私の愛を理解してくれた人・・・、何か私に出来ることがあれば手伝ってあげなければ)そろそろ、お兄様達の所へ行きませんか?」

「そうだな、そうするか。丁度腹も減ったしな」

「はい」

 

 

 二人が戻ると丁度、綾辻の鍛練も終了していた。すると綾辻が一輝と真琴にこれまでのお礼がしたいと、お食事に誘った。それに一輝と真琴がそれを了承し、ステラが「一人だけ女性なのはいただけないわ!私もついていく!」と言い出し、付いてくることになったのだった。

 学生という事もあり近くのファミレスに決定し、夕飯をとる事になった。無事ファミレスに到着し、団体席に案内された。綾辻がお礼したいということで、飯代は奢る事になっているのだが・・・・。

 

 

「おい、ステラ」

「何よマコト」

「お前は遠慮って事を知らねぇのか・・・」

 

 何故真琴がそんな事を言っているのかというと、ステラが一人でステーキを何皿も平らげているからだった。

 

「仕方ないじゃない、だってこれくらい食べないと動けないのよ!」

「んなこと言ったってな、払うのは綾辻先輩なんだぞ?」

「別にいいよ、ただステーキを三枚、ミックスグリルを二枚食べて、そのウェストっていうのが納得出来ないけどね・・・」

「そう?」

「アハハ・・・・」

「言われてるぞ」

「太らないから仕方ないじゃない」

「(だからステラは巨乳なのか・・・栄養が頭や身体じゃなく胸にだけ吸収されたんだな・・・・)」

「・・・何よ」

「いんや何でもねぇよ、俺は少し用を足してくる」

「行ってらっしゃい」

 

 

「(それにしても、綾辻先輩が強くなっていくのはいいが、“心の危うさ”は直ってねぇな・・・。こればっかりは、そうなっちまった原因を断たなきゃ直らんな)」

 

 

 真琴が小便を済ませ、手を洗いながらそんな事を考えているとバリーンという瓶が割れた音らしき物が聞こえた。真琴がホールに足早で向かうと一輝達が不良グループに、囲まれていた。そして、そこには見覚えの“ある男”が一人、固有霊装を顕現させて一輝に喧嘩を吹っ掛けていたのだった。

 

「おいおい、蔵人!俺の親友に手ぇ出してんじゃねぇよ!」

「そ、その声はまさか、真琴か!?」

 

 倉敷がその声に驚きながら、声がした方に目線を向けた。

 すると、真琴が取り巻きの不良を掻き分けながら一輝達のテーブルへ歩を進めたのだった。

 

「ああ!?何だてめぇは!?」「倉敷さんを呼び捨てだと!?」「誰よアイツ!」「蔵人と知り合い?」

 

 取り巻きの一人が真琴に手を出そうと瞬間!

 

「おい、お前ら!その男には手を出すな」

 

 と言いながらその不良を止めた。

 

「く、蔵人!?な、何を言ってるんだよ!?」

「俺の言う事がきけねぇのか!?」

「うぐっ・・・わ、分かったよ」

「真琴、この人と知り合い?」

「ああ、昔にちょっとな・・・。こいつは貪狼学園のエース、倉敷蔵人だ。昨年度の七星剣武祭ベスト8、剣士殺し«ソードイーター»の二つ名を持ってるCランク騎士だ」

「そんな人が何故ここに・・・」

 

 すると、今まで怯えていた綾辻が真琴に向かって怒号を放った。

 

「近衛君はこんな奴と友人関係なの!?呼び捨てで呼びあってるって事は親しいって事だよね!?」

 

 綾辻は血相を変えて真琴にいい迫った。それはいつもの綾辻では無い、その表情から倉敷との間に、ただならぬ因縁の様なモノを真琴は感じた。

 

「(ん?・・・綾辻先輩のこの表情、そうか“そういう事”か!合点がいったぜ・・・先輩の心が綻んでる原因はこれか!ならこの人の道場は、もしかして蔵人に・・・んじゃラストサムライが仕合中の事故で入院してるっていうのは、蔵人との戦いの怪我が原因か!!成る程ねぇ)・・・そうですけど、それが何か?」

「近衛君!見損なったよ、こんな“外道”と友人なんて!!」

「先輩!?いきなりどうしたのよ!?」

「(もしかして綾辻さんはこの倉敷って人と何かあったのか?)」

 

「綾辻先輩、今は貴女と口論してる場合じゃないんで、蔵人、そいつら連れてここを去りな」

「だかなぁ・・・お前の親友は“剣客”だろぉ?目を見たら戦りたくなっちまってな」

「一輝の実力は期待していい、だがなそれは“あとで”だ。大人しく『その場所で待ってろ』」

 

 真琴は倉敷の目を見つつ、念を押しながら言った。真琴の意図を理解したのか、蔵人は素直に従った。

 

「・・・ふん、それじゃ俺は『待たせてもらう』ぜ?連れて来るのを忘れるんじゃねぇぞ?おい、帰るぞお前ら」

「え!?良いのか!?このままで!?」

「ああ」

「何でアイツの言うことなんか聞くんだよ、無視すればいいじゃねぇか!」

「うるせぇ、行くぞ」

 

 倉敷はそのまま、取り巻きを連れて店を出ていった。店内はやっと脅威が去ったからか落ち着きを取り戻していく。しかし、真琴と倉敷の友人関係に府に落ちず、綾辻は真琴に軽蔑の目線を向けた。

 

「何で近衛君はアイツなんかと・・・」

 

 ボソっと綾辻は一言漏らした。

 

「ふぅ・・・帰ったか」

「何で真琴は倉敷君と知り合いなんだい?」

「あーそれは後で話すわ・・・」

「今じゃダメなの?」

「ああ、話す時じゃない」

「・・・分かった、今は真琴を信じるよ」

「さんきゅな、一輝。さてと俺は帰る」

「え?」

「何で帰るのよ」

「俺は居ない方がいいだろ?」

 

 真琴は綾辻に目線を向けつつ、一輝に自分の意図を汲むように促した。

 

「・・・多分、そうだね」

「?」

 

 ステラはその様子を見ていたが、理解出来ずにいた。

 

「綾辻先輩、俺の代金は奢らなくていいんで、ここに置いておきます」

「・・・・・・」

 

 綾辻は無視している。

 

「・・・んじゃ、また明日な」

「ええ、明日ね」「気を付けてね」

 

 真琴はテーブルに食べた分の金額を置いて、店の出口へ足を向けた。そして、帰り際に小声でこんな事を溢した。

 

 

「・・・蔵人の野郎も可哀想だな・・・・」

「・・・え?」

 

 その真琴の言葉は微かに綾辻の耳に届いた。真琴が何故そんな言葉を残したのか、綾辻にはさっぱり分からない。ただこれだけは理解した。『近衛真琴は敵だ。あんな奴と友達関係の人間は僕の友達じゃない』そう心に刻み付けた。

 

 

 真琴はそのままファミレスを出ていくと、蔵人が店の入り口で待機していた。真琴が出てくるのを待っていたようだ。

 

「何だよ、帰れって言ったろ?」

「別にいいじゃねぇか、取り巻きの奴等は先に帰した。久し振りにダチに会ったんだ、話でもしようぜ?」

「・・・別にいいけどよー、近くの公園で良いよな?」

「ああ、それでいい」

 

 二人は公園に移動しベンチに座った。そこは夜という事もあってか公園には、誰も居なかった。

 何故この二人が知り合いかというと、時は真琴が中学校時代まで遡る。ある日真琴が学校から帰宅し、梁山泊の道場に行くと見知らぬ男子が一人、師匠達に囲まれ何やら話していたのだった。

 この倉敷蔵人という男は中学の頃から道場破りを繰り返し、多くの剣客を倒して来た。そしてその足は、梁山泊にも運んでいたのだ。倉敷は道場主との決闘を望んだが長老がそれを拒否し、紆余曲折あって弟子である真琴が倉敷と戦う事になったのだった。梁山泊は伐刀者専門の道場ではない、その為固有霊装を顕現させ戦うのではなく、木刀で戦う事になった。勿論、真琴は素手だ。こうして梁山泊の存亡が弟子である真琴に預けられたのだ。その戦いの結果は真琴が無事勝利し、梁山泊は守られた。

 暇を見付けては倉敷が梁山泊へ遊びに来る様になり、真琴と倉敷は度々稽古をつけながらお互いに伐刀者という事もあってか、友人になったのだった。

 

 

 

「真琴は破軍に入ったんだな」

「ああ、父さんが破軍出身だったからな・・・」

「そこまで拘らなくても良いだろうに、貪狼でも良かったんだぜ?」

「良いんだよ、それに破軍じゃなきゃ一輝や刀華さんに会えなかったからな」

「一輝ってあの腑抜け野郎の事か?」

「ああ、そうだよ。共に鍛練に励み、共に暮らし、一緒に夢を語った伐刀者で、心の底から大切って思える親友さ」

「ほう、親友ねぇ・・・。腕は確かみてぇだが」

「一輝は弟子級最上位だぞ?」

「おい!真琴!それ、本当か!?」

「事実だ」

「そうなると、益々戦うのが楽しみだ・・・!」

 

 倉敷の顔はにやけ、一輝と戦うのを心待ちにしていた様だった。

 

「お前、«雷切»を名前呼びとは相当仲が良いんだな」

「・・・蔵人には関係ねぇよ」

「真琴、雷切の事が好きなのか?」

「・・・何でそれをお前に言わなくちゃいけないんだよ」

「言いたくないなら、いいけどよ」

「・・・・お前は口が固そうだから言ってやるよ。刀華さんは俺が、己の命を懸けて守りたい人ってだけだ」

「“命を懸けて守りたい”か」

「悪いか?」

「いいや、お前の好きにしたらいい。俺には関係の無いことだからな」 

 

 と言いながら倉敷はベンチから立ち上がった。

 

「そうかよ、ん?行くのか?」

「ああ、お前との決着は七星剣武祭でつけるぞ」

「分かってるよ、負けんなよ?」

「お前こそな」

 

 真琴と固い約束を結ぶと、倉敷は公園の出口へと足を進めた。

 

「んじゃ、またな」

 

 真琴が別れの挨拶をすると倉敷は振り向かずに手を振った。真琴も寮へ帰る為、倉敷とは反対方向に進んでいく。ただその様子を蔭からこっそり見つめている少女がいた。それは先程にも話題が上がった«雷切»東堂刀華だった。

 刀華は寮に帰る途中トイレのため、この公園に立ち寄っていた。用を済ませ帰ろうとしたのだが、その途中で真琴と倉敷を見付けしまい、思わず隠れてしまったのだ。そして、悪いとは思っていたのだが二人の会話を盗み聞きしていたのだ。

 

「ま、まこ君と剣士殺し«ソードイーター»の倉敷君と知り合いで・・・!しかも、まままままま、まこ君が私の事を“命を懸けて守りたい人”って思っていたなんて・・・!!まこ君がそういう風に思ってくれているのはう、嬉しいけど、は、恥ずかしい・・・。まこ君と会ったときにどんな顔をすればいいか分からないよぉ・・・、これからどうしたらいいか、うた君や生徒会の皆に相談してみようかなぁ・・・」

 

 そんな事を考えつつ、真琴が言った事を思い出してみては照れつつ刀華はその公園を後にした。

 一方その頃、一輝達は会計を済ませファミレスを出て寮に帰宅途中だった。突然生徒手帳が鳴り、次の対戦相手の通知を知らせるメールだった。そこには・・・『黒鉄一輝VS綾辻絢瀬』の対戦カードが記されていた。師弟であるこの二人が次の対戦相手なのだ・・・・。そして真琴が憶測が最悪の形で実を結ぶことになるとは、知るよしもなかったのだった。

 




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