真琴は刀華を抱え、アトランティス内を駆け巡る。
出口を求めて・・・。
アトランティス内は何処の道かも分からない造りになっており、もはや迷路と化していた。進めど、進めど、分かれ道、行き止まりばかり・・・。
タッタッタッタと、孤独な走音がアトランティス内に広がるだけだった。
何分、何時間たったかは分からない。だが、真琴は走り続けた。
走って、走って、走って、走って。
一人の女性と共にここから抜け出すため・・・。懸命に走り続けた。
すると、迷路を抜けた真琴達の目の前に一つの部屋が姿を見せた。
相も変わらず、その周りは不気味な装飾と松明の僅かな明かりだけだ。
その扉の上には蛸の化物が飾られ、まるで、真琴達を誘っているかのようだった。
「よくぞ、諦めず辿り着いた、人の子よ・・・。我の余興に付き合ってくれた礼と、そなた等の勇気に敬意を評し、現すへ帰そうではないか・・・」
神のようなアナウンスがなり響き、煙がモクモクと充満する。暫くするとその煙は自然と消え去り、先程と変わらない風景が姿を現す・・・。
「こ、これは一体・・・?なんともないですか?刀華さん?」
刀華の反応はない・・・。それどころか気配も感じなかった。
「あれ?刀華さん?!何処ですか!?」
なんと、手に持っていた筈の刀華(刀)が消えていた。
「まこ君、後ろだよ」
「え?」
スッとその清楚な声に思わず振り向く。真琴が探し求めていた人物がそこに居た。
いつもとは違う、女性らしい格好をした憧れの人がそこに立っていた・・・。
「刀華、さん?」
「うん。東堂刀華です。私、元に戻ったみたい」
「突然、手から消えるんで焦りましたよ」
「フフッ、私も焦ったよ。急に元に戻るんだもの」
「何はともあれ、元に戻って良かったですね。これで梁山泊に戻らずにすみそうです」
「なんか残念な顔してる?」
「そ、そんな事はないです。さぁ先を急ぎましょう」
「あ、誤魔化した」
真琴は導かれるようにドアノブへ手をかける。
ガチャリ・・・、キィィィ・・・という扉の歯軋り音が耳へまとわりつき、二人はその光の奥へと進んでいく。
神のようなアナウンスと共に。
「今はただ前へ進め、若人よ」
――――――
「いやぁ、凄かったですね」
「うん、まさか刀になっちゃうなんてね」
二人は『くとぅるーのアトランティス』をクリアし、サービスエリアにて暫しの休憩をとっていた。
そこは真琴達が昼食を取った場所と目と鼻の先に位置する場所だ。
昼頃は人が賑わい、何処を見ても人で溢れかえっていた。それが今では要所要所に人が居るだけである。
それもその筈、現在の時刻は午後五時。もう、帰り支度を済ませ各々の自宅へ帰らなければならないからだ。
もし、遊楽園をまわれるとすれば後一ヶ所だけだろう。
「そろそろ、俺達も帰りますか?」
真琴が帰り支度を促すと・・・。刀華はこう続けた。
「でも、あと一ヶ所だけ行きたい所があるの、いい?」
真琴から目を離さず真っ直ぐと見つめながら・・・。真琴の鼓動は自然と高鳴ってしまう。
普段ならば女性に見つめられたとて、然程問題ではない。が・・・。
綺麗な女性と二人っきり、遊園地でデートなのだ、このシチュエーションであればドキドキしない男は居ないだろう。居るのであればそれはただのタラシ男に違いない。
「・・・い、良いですよ。刀華さんが行きたいというのなら、俺は付き合います」
「本当!?」
「はい、何処に行くんですか?」
「それはね、ついてからのお楽しみ!」
刀華が立ち上がり手をつかんでその場所へと走り出した。
振り向いた時にフフッと刀華が笑顔を見せた。真琴はその不意の笑顔にまた、ドキッとしてしまった。
曇り一つ無い、真っ白な笑顔。
その笑顔が脳裏に焼き付き、離れようとしなかった。
真琴はずっと、刀華を見つめていたのだった。
刀華に導かれながら連れられた場所は、観覧車のようだった。
装飾は珊瑚のイメージなのだろうか?一室一室にそのような装飾が施されていた。
それだけでも見る価値はありそうなものだが・・・。
メインはあくまで乗って景色を味わうことだろう。その為にここに来たのだから・・・。
「ここですか?刀華さんが来たかった場所って・・・」
「うん、観覧車。遊園地と行ったら観覧車には乗っておこうと思って・・・」
「それも、そうですね」
「それじゃ、い、行こう!」
何やら刀華の足取りは少しじれったいような感じがした・・・。
受付を済ませ、いざ乗り込む。
ガシャン!と観覧車の扉が締まり、向き合う形で座席につく。ゴトン!ゴトン、ゴトンという音と共に、上へと昇っていく。
二人は今までとは違い、何もない密室の部屋で男女二人っきり、そのせいなのかお互いに沈黙してしまった。
ゆっくり、ゆっくり、観覧車は上に進む。二人の時間もゆっくり、ゆっくり、進んでいるかのようだ。
何秒何分だろう?沈黙の時間だけがどんどん長くなっていった。
夕陽が窓際から差し込み、部屋の真ん中を明るく照らしている、その時だった。
「「あの!」」
お互いの言葉が交じり合う。
「刀華さんからどうぞ」「まこ君からどうぞ」
また交じる。
「レディファーストです、刀華さんからどうぞ」
「それじゃ、その言葉に甘えて・・・」
咳払いを挟んで、刀華が続ける。
「私ね、今日ここに来られて良かった。凄く楽しかったよ」
「それは、俺も同じですよ」
「フフッ、二人っきりで遊ぶなんて今までなかったし。しかも初めてのデートだから緊張もしてたの。私、実はね不安だったの」
「不安ですか?」
「うん。あのお化け屋敷で私、刀になったでしょ?」
「はい、そうでしたね。一時はどうなるかと」
「固有霊装は伐刀者の魂から発現したモノ。もし、あのお化け屋敷で行われた術が伐刀者の異能で動いてて、私の負の感情を察知して動くように創られてるんだとしたら・・・。不安があったから私は刀になったのかなって・・・」
「それは、もしかしたらそうなのかも知れませんけど・・・俺らには裏側なんて分からないですから違うかも知れませんよ?」
「それはそうなんだけど」
「不安って、何が不安だったんですか?」
「それはね・・・」
このデートには一つの目的があった。それは、刀華の気持ちをハッキリさせるためだ。
男の人なんて今まで意識なんてしたことなかった。
ただの友達としか思っていなかった。
うた君や雷君、クラスメイトの皆もそうだった。
けど、まこ君だけは、少しだけ違うように感じてた。それが、恋というモノなのか、それはハッキリとしなかった。ただ、他の男の人とは違うというのだけは確信してた。それが私にとってのまこ君だった。
自分の気持ちを確かめる為の今回のデートだ。
このデートの最中、ずっとまこ君に対する気持ちを考えてた。
ジェットコースターに乗る時も。
まこ君との昼食の時も。
あの、お化け屋敷の中で刀で居た時も。
あの時から外に出るまで、ずぅっっっっと考えて、漸く私はその答えに辿り着いた。
「それはね・・・貴方の事でなの」
「・・・俺の事ですか?」
「うん、私ね・・・貴方が、まこ君の事が・・・好きなの」
その
ドクンドクンドクン!とお互いの心が高鳴っていく。それは際限なく、ずっと・・・。
「私ね、まこ君の料理上手な所が好き。まこ君の武術に対する姿勢が好き。まこ君の傷付いた顔が好き。まこ君の人をほっとけない優しい所が好き。まこ君の、真っ直ぐな正格が大好き!」
それは一世一代、愛の告白だった。
真琴の中から暖かい気持ちが溢れかえってくる。
火山のマグマのように、源泉の温泉のように、グツグツとグツグツと身体中へ駆け巡ってゆく・・・。
だが、刀華に対する、真琴の気持ちはもう決まっている。もう決めて来ている。
「・・・先に言われちゃいましたね。俺から言おうと思ってたんですけど・・・」
「え?まこ君も、もしかして・・・」
真琴の言葉に刀華の顔は紅潮していく。それは、真琴も同じ。
「はい、俺も刀華さんの事が好きですよ。俺は・・・うわっ」
好きという言葉を耳にした瞬間、刀華は真琴へ抱き付いた。
「刀華さん、急に抱き付いたら危ないですって!」
「あぁーごめん、まこ君」
「もう・・・」
刀華が我に返り、席へ着く。
「まこ君、私の事好きって言ったよね?私の聞き間違いじゃないよね?」
「聞き間違いじゃないです。この夕陽に誓って・・・」
「それじゃあ、私達両想いなんだ!」
「はい」
「ウフフッ、そうなんだ」
刀華の表情は今までにないほど、輝いている。曇り一つない、満ち溢れたモノだ。
「ねぇ、隣に行ってもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
お互いの表情は少し紅くなっている。
「私、貴方からの証が欲しいな」
「証ですか?」
「うん。恋人になったんだもん、なにか・・・」
刀華の言葉を待たず、真琴が動いた。すぅーと刀華の額に近付き、チュッと軽くキスをした。
「い、今はこれで・・・。俺自身結構、ドキドキで苦しいんで・・・」
「・・・」
「と、刀華さん?」
「エヘヘ、有難う、まこ君」
こうして、二人の甘いスイーツのような時間は過ぎていく。
夕陽が街を照らし、その景色を二人で味わいながら、ゆったりと空の旅を楽しんだのだった。
いかがでしたか?
楽しんで頂けましたか?
遂にここまで来ました。作り始めてから、思い描いていた事が一つ実現出来ました。
次回もオリジナル展開が続きます。本筋を楽しみにしてる方々はもう少しだけお待ちください。
次回の更新予定日は11月24日~25日の17:00~21:00の間とさせて頂きます!
御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております!